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第八十六話 君に話しかけられない俺がいる

約二週間……お待たせしてすみませんでした(土下座

今回の話、意外と描写が難しくて……特に移動しながらの心情描写ってこんな難しいんですね。かなり難儀しました。


まぁ、ともかく、今回も楽しんでいただけたら幸いです。

 


 テントを出た。


 一気に視界に飛び込んでくる日光の眩しさに目を細めつつ、歩き出す。


「呼び出しってのは……なんなんだ?」


 駿から突然の呼び出しを受けていた。理由は特に聞いていない。


 腕時計を確認すれば、時刻は8時。朝飯を食った直後の呼び出しなので腹が少し重く感じる。まぁ、特に問題では無いけど。


 しばらく兵士達が泊まっていたであろうテント群の間を縫うようにして歩いていると、他の物よりも多少豪華な大きめのテントが見えてきた。温度調節の効果を持つ『風属性魔法』が対物エンチャントされていて、中はかなり快適な気温に保たれている特別製らしい。

 そんな便利機能が搭載されたテントの前には一人の兵士が立っていた。見張りか何かだろうか。


「お待ちしておりました、ユート殿」


「どうも」


「皆さまは既に中でお待ちです」


「分かりました」


 兵士と言葉を交わし、中へと入る。

 内部は明るく照らされていて、比較的広めに作られている。どれぐらい広いかと言えば、直径五メートルの円卓を真ん中に置いてもまだ余裕があるぐらい。ちなみに、これほど大掛かりな荷物を持ってこられたのは空間魔法の『ストレージ』によるものだ。これならば、『アイテムボックス』程では無いが大きな荷物を持っていくことが出来る。空間魔法の中では『転移』と双璧を成す程の代表的な魔法だ。


「やぁ、待っていたよ」


 そう言ってテントに入った俺を出迎えたのは、出入り口から一番遠い所に座った――つまり、俺から見て真正面に座った駿だ。椅子に深く座り、机に肘をついて両手を顎の下で組んだ状態で微笑んでいる。

 そして、その両隣。俺から見て右側には雅、左にはみーちゃんが着席している。みーちゃんの更に左にはコウタが、雅の右にはここ最近知り合った青年。その容姿は、どちらかと言えば中性的な顔立ちで髪は黒い。


 そう、彼は六人の英雄の最後の一人。(ちまた)を騒がしている義賊団『フリーナイツ』の頭領であり、勇者・雅の恋人でもある転生者――ツバサだ。

 そんなツバサは若干気弱そうな表情でこっちを見ていた。どうも彼には人見知りの嫌いがあるようだ。性格もどこか大人しい。だからこそ、少しいたずらっ子な所がある雅とも上手くやれてるんだろうな。


 ちなみに、彼ら以外にもエレーナさんやハリエル将軍、サスケ隊長と言った、遠征組の中でも主だったメンバーが円卓を囲んでいる。どこか場違いな雰囲気を感じないでもないが、それもここ数日で慣れてしまった。この辺りはある意味順調と言っていいのかも。


 けど――


「………」


「………」


 チラリとみーちゃんの方を伺ってみる。その表情からは何も感じ取れない。いつも以上にポーカーフェイスを貫いていた。それどころか視線が合うとすぐに向こうから逸らされてしまう。


 やっぱダメか……。


 三日前のエレーナさんの言っていた意味は未だによく分かってないし……何もかもが上手くいってない感じがして、無性に気持ち悪い。


「とりあえず、座ってよ」


「分かった」


 駿に席を勧められた。一言返し、空いている席に適当に腰かける。


「早速、本題に入ろうか」


 駿の切り出しに頷いた。特に否定する必要も無い。寧ろ、みーちゃんとの気まずい空気を考えれば幾分か有難いとさえ思ってしまう。


 ……せこい事考えてるみたいで自己嫌悪に陥りそうだけど。












『この近辺で幾つかの盗賊団が活動しているという情報が近隣住民からもたらされた。僕たちは王国軍としての義務を果たすため、盗賊団を一掃する』


 そう告げたのは他でもない。駿だ。

 朝飯前、朝飯後に本部のテントへと来てくれと言われた俺や遠征組の主要メンバー達が集まり、その即席の緊急会議の中で駿はそう宣言したのだった。


 で、今、俺は――


「……ユウ君、早く」


「ご、ごめん」


 みーちゃんと二人きりで森の中を進んでいる。これは、複数ある盗賊団を確実に殲滅する為、幾つかに班を分けたからだった。


 盗賊にとって、情報は宝。だからこそ彼らは情報収集についてはかなりの腕を持っていて、もし、一つの盗賊団が壊滅させられたとなれば、その情報は五分も経たないうちに近辺の盗賊団へと拡散される。物騒な情報が伝われば、盗賊たちは迷わずに逃げ出すだろう。

 ならば、付近の盗賊団を一斉に襲撃するしかない。駿はそう結論付けたらしい。


 襲撃をかける人員も、かなり精査された。

 この作戦は相手に勘付かれないようにするのが第一で、そうならないようにする為には少人数で行動するのが一番手っ取り早い。つまり、少人数で自分たちよりも数が多い盗賊団を滅することが出来る人員がより望ましい。


 この時点で、一般兵の作戦参加は不可だ。彼らも確かにかなりの武力を持っているだろうけど、多数に囲まれれば劣勢にならざる負えない。そこで、作戦は勇者を始めとした首脳陣たちが実行することにしたとのこと。

 確かに、駿、雅、みーちゃんの三人はドラゴンを瞬殺できるぐらいの技量を持っているし、魔法師大隊隊長であるエレーナさんや、弓の名手のハリエル将軍なら、そこいらの盗賊ならば鼻歌交じりに抹殺できる力があるはず。そう考えるなら、これが一番『手っ取り早い』解なのかもしれない。


 対象の盗賊団は五つ。

 作戦に参加するのは、駿、雅、みーちゃん、コウタの勇者四人。俺、ツバサの転生組。エレーナさん、ハリエル将軍、サスケ隊長のストレア王国幹部組。合計九人だ。よって、人数分けは二人組が四班。ぼっちが一班ということになる。で、そのぼっちとなったのは、九人の中で一番戦闘能力が高い駿だ。


『あれぐらいなら、僕一人で殺れるから。――一人残さず……ね』


 自分一人で行くと宣言した時、駿が放ったその言葉は……背筋を凍らせるには十分過ぎるほどの殺気が込められていた。少なくとも、俺にはそう感じられた。

 そして――何故か討伐隊に編成されていた俺はみーちゃんとタッグを組むことになっていたのである。ちなみに他の面子では、雅とツバサ、コウタとサスケ、エレーナさんとハリエル将軍がそれぞれ組んだ。


(そういえば――)


 あの会議が終わった後。テントの外でみーちゃんがコウタと話していたのを見た。

 少し距離があったから話の内容は聞こえなかったけど……あの時、みーちゃんはコウタと何の話をしてたんだろう。そんな疑問が俺の胸の中を満たした。同時に、みーちゃんが俺以外の男と話をしているという事が小さな針で突かれるようなピリッとした痛みを感じさせた。


「……どうしたの」


 そんなみーちゃんの呼びかけで意識を引き戻される。


「あ……何でもない」


「……そう」


 話を打ち切ったみーちゃんが先へ先へと進んでいく。唯々、俺は彼女の背中を追いかけることしか出来ない。


 ダメだな……ほんと。


 少し言葉を交わしただけで、状況はここ数日と変わってない。

 その事を理解しているから、俺は彼女に質問一つさえする事ができない。

 無視されるのが怖いから。この関係がより悪くなるのがとても辛いから。


 だから――


『あの時、コウタとどんな話をしてたの?』


 その一言が口から出て行かないんだ。


(ダメだな……ほんと)


 再び胸中に浮かび上がってくる自虐的な言葉は、虚しさだけを生んだ。















 森に入ってから二十分は経ったように思う。辺りは相変わらず鬱蒼とした木々が生い茂っている。けど、その密度は徐々にだが小さくなっていっているように感じられた。よく注意すれば、足元にこぶし大の岩石が散乱し始めてもいる。

 わずかな変化。それに気が付き始めた時、少し前を歩いていたみーちゃんが立ち止まった。そして、こちらを振り向いて前方のある一点を指差した。

 そこを見ろ。そう捉えた俺はみーちゃんの後ろから身を乗り出すようにして彼女が指し示す場所を視界に収めた。


 その先にあったのは、薄暗く大きな口を開けた洞穴。今、俺がいる場所からは多分百メートルは離れていると思う。木々が邪魔をして見えにくいが、こっちの世界に来てから大幅に伸びたステータスに引っ張られるように視力もある程度発達していたらしい。その存在は木々の隙間からはっきりと見えた。


「……あれがターゲットが根城にしている洞穴」


「そうなの?」


「……ん。渡された情報とも丁度合致する」


「それじゃあ――」


「……さっさと殲滅する」


 そう言い、みーちゃんは洞穴の方へと、身を茂みに潜ませつつ近づき始める。俺もそんな彼女の後を追うように移動。

 徐々に洞穴との距離は詰まっていき、それと反比例するように俺の心臓の鼓動は加速していく。それこそ、ドクンッという鼓動一つ一つの区切れが感じられない程だ。


 多分、いつも通り――だと思う。師匠との試験の時も、模擬戦の時もこんな感じだったはずだし。


 ……でも、何でだろうか。


 あの時は気分が幾分か高揚していたように思う。けど、今はそんな感覚が湧き上がってこない。

 唯々、心臓の音がうるさい。

 かと言って、胸が苦しいとかそんな感じはしない。

 他人のバクバクした心臓の音を他人の胸に耳を当てて聞いているっていう方が今の感覚に合ってると思う。


 あと多分だけど――俺はこの感覚をどっかで体験している。


 どこでだっけ。思い出せない。

 いや、そもそも今こんな事を考えている方がおかしいんだ。心臓がバクバクなって緊張を明確に表しているはずなのに、その事をまるで傍観者の様に考察していること自体が。

 今から重要な作戦が始まるっていうのに、何を考察してんだ俺は。んな事後回しにしろ。


 そうやって、関係ない方向へと脱線しかけていた思考を目の前の問題へと戻した。そうしなければ、行きつくとこまで、それこそ体験した時の事を思いだすまで永遠に考え続けそうだった。理由はよく分からないけど、そうなってしまうのが怖かったんだと思う。


「……今から一分後、一緒に突入。そこからは固まって移動して、基本的に私の指示に従って」


「了解」


 みーちゃんの言葉に短く一言だけ返して、更に洞穴に近づく。


 相変わらず胸の動悸は収まらない。寧ろ、より強く暴れだしている。

 今更ながらに、おかしいと感じてきた。少なくとも師匠との試験の時や模擬戦の時は、爆発するんじゃないかって錯覚するぐらいの心拍数には達していなかった。


 ヤバい。


 何か……訳わからないけど……理由は分からないけど……足が震える。

 体が、心の奥底が――何かを怖がってる。


 逃げろ。取り返しのつかない事になる前に逃げろ。そう、心が叫んでるのが分かった。

 けど、それを俺の頭が許さない。ここで逃げても何にもならないんだって事を理解しているから。何より、これ以上、隣にいる少女の前で恥を晒したくないから。

 だから、留まれ。逃げんな。てか、取り返しのつかないことってなんだ。ただ単にビビってるだけだろうが。情けない。そうやって自分の心を叱咤する。


 腰のナイフに手をかけ、深く深呼吸。過呼吸になりそうなのを無理矢理落ち着ける。ナイフの独特の冷たさが……僅かながらに心に静寂をもたらす。


 ふざけんな――って思う。今更、なに怖がってんだ――って自分を蹴飛ばしたくなる。

 やらなくちゃ。後には引けないから。

 んなの、分かり切ってる事だろうが。


「……一分経った」


「――うん」


 既に、洞穴は目と鼻の先。大体二十メートルぐらいの所まで近づいている。

 そして、その出入り口には歩哨の役割を担っているのか、無精ひげを顎に生やした二人の男が立っていた。とは言っても、二人ともあくびをしていたり互いに喋っていたりと、見張りの役割を果たしているとは思えない。近距離まで近づいている俺たちの存在に気が付いていないことがその証左だ。


 そんな男たちを前に、みーちゃんが俺に質問する。


「……ユウ君。敵が何処にいるか分かる?」


「ちょっと待ってて……『狭範囲高性能探知(スモールレーダー)』」


 探査魔法を行使して、洞穴内部の様子を脳裏に映し出した。


 思ったよりも単純な構造の洞穴。そんな洞穴内部の脳内地図に映し出された光点は三十三。更に、俺達がいる場所から少し離れた所にもう一つ、洞穴の出入り口がある事が分かった。

 それらの結果をみーちゃんに伝える。

 報告を受け取ったみーちゃんは少し考える様子を見せるも、即座に決断を下した。


「……ユウ君」


「なに?」


「……ユウ君はもう一つの方の出入り口の方にまわって。私がこっち側から襲撃をかけるから、ユウ君がもう一つの出入り口から逃げようとした盗賊を叩いてほしい」













 もう一つの方の出入り口へと移動した。辺りにはその出入り口を見張っているらしき盗賊の男が二人。さっきの奴と変わらずに雑談してヘラヘラしている。見張りをやる気あんのかな、って疑問が浮かぶほどにその姿は無防備そのものだ。


 二人の声はそれなりに大きくて、十メートル程離れている場所で待機している俺にも会話の内容が聞き取れた。


『にしても、ここに構えてからもう一か月近くだな』


『んだよ、唐突に』


『いや、いつもなら一週間もたちゃ、冒険者や国の犬たちの討伐隊が編成されてただろ。今回は遅いなって思ってよ』


『そういやそうだな。ま、大方、俺達の偉業に恐れをなしたんだろ』


『ここに来た直後に村一つ壊滅させただけだろうが。にしても、あの時回した女共は中々だったな』


『んだ。ここら辺じゃ同業者とも被ってねぇからやりやすいしよ。ただ、付近に小さな村がもう無いってのがあれだな。そろそろ別の場所に移動するかもしれねぇ』


 男たちの話を聞いてると、殺意が沸いた。何でだろ。

 そんなの決まってる。奴らが、他人を弄んでヘラヘラしてるからだ。それが無性に腹が立つ。別に俺に被害が被った訳じゃないのに。


 安い正義感とも言えるかもしもない。けど、頭が沸騰していた俺にとって、そんな事はどうでも良かった。でも、今は耐えなくちゃいけない。みーちゃんが攻撃を仕掛けるまでは。それまでは敵に悟られてはいけない。

 ギリッと歯を食い縛る。悔しさを心に押しとどめる為に。そして、未だに震えそうになる体を抑える為に。もう少し。あと少し。……やがて、その時は来るはずだから。


 そして、


 ドバン――――――ッ!!


 ――洞穴の中から爆音が響いた。


『な、なんだぁ?!』


『中から聞こえたぞ!』


 見張りをしていた二人の男たちが慌て始める。


 みーちゃんが動き出したんだって事を悟った。


 熱風が洞穴から吐き出されて頬を撫でる。周りの木々の枝葉がザワザワと騒ぎ出す。


 それと同時だった。


 震えた。大地が。空間が。


 何より、俺の中の『何か』が。

 鼻を突いた、焼け焦げた生々しい臭いを吸い込むのと同時に、震えて――崩れた。











未だに続くシリアス路線。たぶん、次回がその山場(黒い笑み)

今後の展開にどうしても必要なものなんで、次回はできるだけ丁寧に書きたいと思います!

では、また次回にお会いしましょう(*´ω`*)

今回も読んでいただいてありがとうございました!

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