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第八十三話 俺と彼女の間には溝が横たわっている

再び二千文字と短いです。

もしかしたら、今後は一部一部が短くなるかもしれません。ご了承ください。

 俺は……勝ったんだ。

 その事を理解した途端、体が重くなる。思ったよりも疲れが溜まっていたらしい。

 倒れそうになるほどの疲れでは無いというのが救いと言えば救いだけど。

 そんな事を考えつつ、辺りを見回す。


 伝えたかった。みーちゃんに、この勝利を。


 みーちゃんも今の勝負を見ていたとか、そういうのはどうでもよかった。ただ溢れ出す達成感や何やらのたくさんの感情が俺の体を突き動かしていた。


 そして――見つけた。

 最前列、先ほどと変わらない位置にみーちゃんは立っていた。隣には国王様や騎士団長であるリカルドさんや魔法師大隊長のエレーナさん、将軍のハリエルちゃ――ハリエルさんもいる。

 国のVIPたちに囲まれたみーちゃんもまた、俺の方を見ていた。


 今回のも、きっと気のせいじゃない。


 その証拠に俺の視線の先でみーちゃんは親指を立てた。

 それが意味するところを理解した俺は頷き、みーちゃんに向かって親指を立てる。グッジョブサインの交換。これは昔、よくやっていた俺達のコミュニケーションの一つだ。


 他の誰にも分からない、俺達二人だけのサイン。これを使うと、俺達だけの世界に入れるような気がして――それがどことなく心地よかった。

 それも、今となっては少しばかり遠い記憶になってしまったけど……この心の中にはしっかりと残っている。


 みーちゃんの唇が動く。


『ユウ君、お疲れ様』


 幼馴染の労いの言葉に、


「ありがとう」


 と、俺は返した。


 ――ありがとう。信じてくれて。


 ――ありがとう。見ててくれて。


 そんな思いを込めた俺の言葉は……彼女に伝わっただろうか。

 彼女を見ていると湧き上がってくるこの胸の熱い想いを。止まらない鼓動を。

 みーちゃんは受け取ってくれただろうか。


(現実的に考えると……そんな都合のいい話なんて無いんだけどさ)


 そうと分かっていても信じていたくなるのは……俺の我儘なのかもしれない。

 ……って、こんなしんみりするのは俺の柄じゃないよな。思い直し、苦笑を漏らす。


「……どうしたの、ユウ君?」


「おわっ?! みーちゃん?!」


 一瞬の内に目の前に移動していたみーちゃんに声をかけられてビックリ仰天。


「……ユウ君?」


「い、いや。何でもない」


 俺は人の気配には敏感な方で、その点に関しては師匠にもお墨付きを貰ってたはずなんだけど……全く分からなかった。いつの間にか、みーちゃんの透き通った瞳が俺の顔を映し出していた。


「……ユウ君は、ちょっと変わった」


「……俺が変わった?」


「……ん。本当にちょっとだけ」


 どこが?

 自覚のない問いに俺の脳裏にはクエスチョンマークが量産される。


「……私を見なくなった」


「え――――?」


「……ユウ君、時々、私を見ているはずなのに別の『誰か』を見ているような表情をしてる」


「そんな顔……してる?」


 俺の問いかけに――みーちゃんはこくりと頷いた。


「……ユウ君は誰を見てるの? 何を見てるの?」


 突き刺さる、透明な視線。

 みーちゃんは俺を見ている――いや、俺を見透かしている。

 その目は……俺が知らないみーちゃんの姿だった。


 ――誰を見ているの?


 ――何を見ているの?


「それは――――――――」


「……それは?」


「…………………………」


 何故か、俺はその問いにスムーズに答えられない。

 答えは決まっているはずだ。

 なのに。それなのに。――まるで、俺が今見ているものは全部『嘘』だと分かっているかのような、俺の内側を見通しているかのような黒い瞳。そんなみーちゃんの視線が、俺に問うてくるのだ。


 ――ユウ君は『本当は』誰を見ているの?


 と。


 その質問に、俺は答えることが出来ないでいる。


 胸が途轍もなく苦しい。頭がこんがらがってくる。

 目の前にいるはずの確かな存在である少女が、突然、自分とは違う所にいる住人のような錯覚が頭の中に浮かんできた。


 そうやって、俺とみーちゃんの間には僅かな沈黙の時間が流れる。

 その間の空気はとても不味かった。


「……ゴメン。変な事聞いた」


 結局、先に話に区切りを付けたのはみーちゃんの方だった。


 彼女の表情は沈痛な面持ちに染まっている。

 まるで何かを悲しむかのように――それでいて、どこか納得したように。


 その表情に隠された彼女の本心を俺は読み取ることが出来ない。

 いや、その領域に踏み込むことを許されない。そんな気がした。


「え、でも―――」


「……もう、この話はお終い。ね?」


 そう言ったみーちゃんから感じられたのは明確な拒絶。ただ話を終わらせるだけでは無く、ここからは踏み込んでこないでという、確かな線引きが成された様な気がした。

 そして本人からそう言われてしまえば、俺もそれを受け入れざる負えない。不承不承ながらも俺はみーちゃんの言葉に従った。


「……とりあえずおめでとう。ユウ君」


「あ、あぁ。ありがとう……?」


「……さっきのユウ君、ちょっとだけ格好良かった」


「そ、そうかな」


 「……ん」と頷くみーちゃんの表情には既にさっきまでの陰りは無い。いつもの無表情に戻っている。


 でも――どうしてだろうか。

 その無表情はいつもの様な『素の表情』では無く、何かの感情を押し殺した結果に見えた。


(みーちゃん、君は一体……)


 分からない。分からないのがもどかしい。それこそ、気が狂いそうなほどに。


「……じゃあ、そろそろ私は行くね」


「どこに?」


「……ユウ君も一緒に来て」


「――分かった」


 六年前は無かったはず。


 でも、今は明確に『あった』。


 俺とみーちゃんの間に横たわる深くて『近い』溝が、確かに存在している。


(それでも……俺は――)


 みーちゃんが国王様の元へと戻っていく。俺は彼女の後ろに付いて行った。

















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