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第八十一話 勇気ある者に――

今回の話に時間使いすぎて――全然書き溜めできなかった……orz

ともかく、今年もよろしくお願いしますっ!

 突然声をかけてきた、金髪のイケメン。彼はどうやら、この国の貴族の一人らしい。

 とは言っても、その年齢は俺と同じ十六。自分はまだ政治や統治の方には関わっていないのだと、その貴族の青年――シリウスは語った。だから、自分と話す時はいつものような口調で良い――とも。


「じゃあ、いつもの口調で」


「えぇ、そうしてください。ユート殿は英雄の一人なのですからね」


 ちなみに、シリウス自身はこのような丁寧語がデフォルトらしい。貴族社会に身を置くと、シリウスのように丁寧語がデフォルトになる人は多いのだそうだ。何か窮屈そうで俺には向いて無さそうだな。

 そんな風に心の中で貴族社会の難しさに呆れつつ、


「――で、シリウスは俺に会いたかったって言ってたけど……それは何で?」


 と、シリウスに俺に声をかけてきた理由を尋ねる。

 すると、シリウスはどこか苦笑を浮かべた。


「あれだけミヤ殿が自慢げにユート殿――ユウト殿の事を話していたのです。あなたに興味を持たないという方が難しいと思いますよ」


「みーちゃんが自慢げに……」


 何故だろう。なんだか嫌な予感しかしない。

 みーちゃんって時々突拍子もない事を言うからな……俺に関してのある事ない事を色々周りに吹聴して、俺に対する皆のイメージ変な事になってそうだ。口からビーム出すとか。


 まぁ、それも今更なんだけどさ。


「とりあえず、その興味を持ってるっていうのはシリウスも一緒……ってことか?」


「否定はしません……おっと。模擬戦の準備も整ったようですね」


 シリウスの言葉に、俺は彼の視線の先へと目を向ける。

 そこには四方百メートル程のスペースが出来ており、そこを囲むようにして幾つかの椅子が並べられていた。どうやら、あそこで模擬戦を行うらしい。


 そんな中、丁度俺の向かい側に当たる位置から一人の男が進み出てきた。

 上下真っ黒な服。時々ジャラジャラと聞こえるのはチェーンか何かだろうか。

 それは間違いようもなく、今日の対戦相手を務めるコウタその人だった。

 その顔に張り付いているのは、ニヤリとした笑み。師匠と同じような表情であるはずのそれは歪で、不気味で、気持ち悪い。ワイルドな方向で端整なはずのその顔も、どこか歪んで見えた。


 ――そう思えてしまうのは、俺がコウタに良からぬ感情を抱いているからだろうか。


(まぁどっちでも構わない……か)


 どんなに聖人君主な人だとしても、一人や二人嫌悪感を抱く対象は存在する。口では何とでもいえるし表面上を偽ることは出来なくはない。が、心の機微や好き嫌いまでをも完全に管理する事なんてのは出来るわけがないのだ。

 勿論、それは師匠も同じ。師匠から言わせれば、そんな相手は一発殴ってスッキリするのがベストなのだとか。無論、俺は無条件でムカつく相手を殴るなんてことはしないが……こちらに対して明確に害意や敵意を抱いている相手に対して、『殴らない』なんて言うつもりも無い。その機会があるのなら、そしてそれでお互いが納得するのであれば――全力で殴らせていただく所存である。


 ちなみにだが、師匠からは、今の俺ならコウタ相手になら『一方的に』ケチョンケチョンにされる事は無いっていうお墨付きは貰っている。それに、彼が俺と模擬戦をした時の師匠よりも強いなんてことは無いだろう。


 多少甘い認識かもしれないが、俺にも勝機はある――と思う。


 そのように俺が考えていると、シリウスが、


「自分は、あのコウタという男が嫌いです」


 と、自身の心の内を吐露した。


『何故、初対面の俺相手に?』とも思わないでも無かったが、彼の言い分には同意できたので、余計な口は挟まないよう黙っていることにする。必然、シリウスが言葉を続けることになる。


「何故、あのような者がこの世に存在するのかも疑問に思うほどです」


「いや、それはあまりにもコウタが可哀想過ぎるだろ」


 決意は一瞬で崩れた。

 いくら個人的に嫌悪感を抱いているからと言って、存在自体を疑問視されるのはあまりにも可哀想だ。およそ十年、人の陰口の集中砲火を浴びてきた俺でも、多分グラッとくる。


 いやまぁ……俺も少なからずそう思った事は否定しないけど。


 それでも、それをあっさりと口にするってのはどうかと思う。少しは自重しろよ。イケメン面と相まって、苦手だったスクールカースト上位の奴らを思い出しちゃうじゃんか。悪意をこちらに向けられてないからどうって事は無いけど。


「とりあえずユート殿。初対面である自分がいう事ではないかもしれません。ですが、あえて言わせてもらいます」


 シリウスがこちらへと視線を向けてきた。その瞳は真剣そのもので、俺はそんな視線を真正面から受け止めつつ頷く。はぐらかす気にも、茶々を入れる気にもなれなかった。


「負けないでください。彼女の為にも……ね」


 そう言って、シリウスの視線が横へと向けられる。俺もその視線を追った。

 その先にいたのは――みーちゃん。つぶらな瞳でこちらを見つめているのが伺えた。


 彼女の為――つまり、みーちゃんの為にも負けるな……か。


「元々負けるつもりは無いさ」


「それを聞いて安心しましたよ」


 シリウスはみーちゃんの方へと目を向けたまま。その様子はどこか眩しい物を見つめているようで――そんなシリウスを見て気が付いたことがある。


 しかし、それを俺が確認する前に俺の名が呼ばれた。


『ユート殿は場へ出られよ!』


 どうやら、模擬戦が始まるみたいだ。

 既に模擬戦会場の周りには幾人もの人々が集まっていて、どこか厳粛な空気が漂っている。そして、その中心でコウタが仁王立ちしていた。


「ではユート殿、自分はこれで」


 そう言い残し、シリウスはその場を後にする。

 俺はそれを見送り、視線をコウタへと戻した。


 シリウスには聞きたいことがあったけど、それはまた後でもいい。

 色々と気になるのは確かだが、『それ』から意識を引き剥がす。今は目の前の模擬戦に注力すべきだ。他のあれこれに意識を割きながら模擬戦に合格できるほど、俺は強くない。


 最後に、再びみーちゃんの顔を見る。みーちゃんもまたこちらへと視線を向けていた。


 絡み合う二つの視線。きっと、気のせいじゃない。

 胸の鼓動が高まり、心に暖かい気持ちが広がっていく。


 そして――みーちゃんの口が開いた。

 声は聞こえない。だけど、いつもよりも大きく開けられた彼女の唇の動きが、明確に彼女の言葉を伝える。


『信じて待ってる』


 それが、彼女の言葉。彼女の願い。――世界で誰よりも大切な幼馴染の思い。


 『一人の少女の祈りが勇者に力を与えた』っていうのは、よくある物語だ。だが、俺は勇者じゃないし、少女の方が勇者だったりと、物語はあくまでも『空想』だと――俺の手で届くほどに身近なものではないのだと実感させられる。


 ――けど。


 例え俺が勇者じゃないちっぽけな存在なのだとしても。

 今だけは、少女(みーちゃん)の思いが俺に力を与えてくれる。そんな気がする。


 こういう時、物語の勇者はどう返すんだったっけ。

 完全無欠の勇者。誰もが憧れる英雄。俺も何度も憧れた。何度も読み返した勇者の物語。


 その中の勇者達はこういう時、どう少女(ヒロイン)に言葉をかけたんだっけ。


 それは、確か――


「君が信じてくれるなら、俺は勝つ」


 言葉は、自然と口から出ていた。

 誰にも聞かれないぐらいの細い声。多分、みーちゃんには聞こえてないはず。だけど、みーちゃんは頷いた。胸の前でギュッと両手で握り拳を作っている。


 彼女の唇が再び動いた。


『頑張って』


 俺は頷きを返し、模擬戦の会場を見据えた。

 ぽっかりと空いた四方百メートルのスペース。その中心へと俺は歩き出す。


 不思議な感覚だ。


 思考はどこまでも冷静なのに、感情は際限なく高まり続けている。今すぐ暴れたいという欲求が湧き上がってきた。心臓の鼓動が激しいビートを刻んでいる。

 手を。足を。目を。耳を。体の隅々まで。俺という意識が侵食して、融合して、一体化していく。多分、今の俺は好調だ。


 そんな確信と共に、俺は立つ。コウタを正面に見据えて対峙する。


「俺はこの日を楽しみにしてたぜ。てめぇをボコボコに出来ると思ったら高揚感が止まらねぇ」


「……………」


 コウタの挑発。嗜虐的な笑みを浮かべている。しかし、次の瞬間にはその笑みが崩れた。眉間にしわを寄せ、『チッ』とめんどくさそうに舌打ちを一つ。


「無様な姿を晒したくなけりゃ、今すぐ帰れよ」


 そして、今度は降伏勧告を提示してくる。


 その真意は分からない。


 けど、俺に逃げる気が無いことは確かだった。


 ――俺は勇者じゃない。


 でも、誰だって『勇気ある者』にはなれるはずだから。


 ――勇気を振り絞れ。


 何も恐れるものは無い。弱気な自分には飽き飽きした。

 何より、もう、無様な姿をあの少女(みーちゃん)の前で見せたくはないから――

 俺は明確に自身の真意を露わにした。


 即ち、ナイフを鞘から抜き、両手に装備した。


 もう、引かない。もう、逃げない。もう――負けたくない。

 その意思を前面に押し出し、コウタを視界に収める。

 上体を沈め、両足に力を蓄える。


 そんな俺を見て、降伏勧告を蹴った事を理解したのだろう。コウタもまた、両拳を握り込み、ファイティングポーズを取った。その拳の先端には金属が装着されていて、銀色の光を反射している。


 超近距離での徒手格闘。それがコウタの戦闘スタイルなのだと理解する。


 ――そして。


『始めっ!』


 という審判の声で模擬戦は幕を開けた。















ちなみにですが、シリウスは外伝一頻出のキャラとなる予定です。



P.S.

近々、マジックライフ!のIFストーリーを短編として投稿予定です。

その時は活動報告なりで告知しますので、読んでいただければ幸いです。

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