第七十五話 ――まぁ、それでも……やるしかないんだけどな
一部、登場人物のステータス値を修正しました。
頭の中で魔法複合を発動させつつ、俺は師匠と切り結んでいく。
『どの魔法を複合させますか』
頭の中に響いた問いに、
(『風属性魔法』『付与魔法』)
と指定。そこから頭の中に鮮明なイメージを描き、その状態をおよそ一分ほどキープしなければいけないのだが……
「おらぁ!」
「ぐぅっ?!」
師匠の強烈な一撃をナイフで受け流し、慌てて距離を取った。
同時に、頭の中で出来上がりつつあった「ナニカ」がボロボロと崩れていく感覚。
『魔法複合に失敗しました』
そして、既に十回は聞いたそのアナウンスが頭の中に流れる。
「くそっ……また失敗か」
中々上手くいかない状況に、忌々し気に呟く。
しかし、元々この方法はぶっつけ本番で失敗して当たり前という方法だ。
というのも、俺が発動させているスキル『魔法複合』はその名の通り、複数の魔法スキルを組み合わせて既存以外の魔法スキルを創造するという物だが、このスキルはおおよそ『非実戦的』なスキルなのだ。
その大きな理由として挙げられるのが、
このスキルを使用する際、組み合わせる魔法スキルの数に応じた大量のMPが必要な事。
創造される魔法スキルの詳細な効果等が実際に使ってみるまでは不明だという事。
そして何より、魔法を創造する際、スキル使用者は自分が思い描いている魔法の効果をおよそ一分間鮮明にイメージしておかなくてはいけないという事。
特に最後のそれは、戦闘中に別の精密作業を行うという、ある意味で自殺行為をしなくてはいけないという事であり、この『魔法複合』というスキルを戦闘中に使うという事をほぼ不可能にしている要因となっていた。
そんなスキルをSランク冒険者である師匠との戦闘中に使おうというのだから、その難易度は推して図るべきだ。
改めて考えれば、相当無茶な事をしているという自覚はある。
そもそも『魔法複合』が成功しても、それによって取得した魔法が師匠に傷を付ける為の打開策になる確証がない。
正直、この方法は徹底的に追い詰められた状況で浮かび上がった『これしか出来ない』という苦肉の策でしかないのだ。
(――まぁ、それでも……やるしかないんだけどな)
下がりそうなテンションを無理矢理にでも上げ、再び『魔法複合』を発動させる。
『どの魔法を複合させますか』
幾度となく繰り返されてきたこの問いに、先ほどと同じく『風属性魔法』と『付与魔法』を指定する。
今回、俺が創造しようとしている魔法は、所謂『簡易対物エンチャント魔法』だ。
『対物エンチャント』とは、対象の『物』に対して自分の持っている魔法スキルの一部の効果を付与する事を指し、付与魔法のスキルレベルを20まで上げることによって実行可能になる。
武器屋などで売られている『魔剣』や『魔装』と呼ばれる類の武具や、魔法道具店で売られている『魔法道具』等で使われている技術だ。
俺がこっちの世界に来たばかりの頃に使っていた初心者用の調合キットの壺や今使っている高性能の調合用の鍋なんかも『魔法道具』の一種で、あれには『調合魔法』が付与されている。
また、『魔剣』には属性系の魔法が付与されていることが多い。例えば『火属性魔法』が付与されていれば、剣の刃から火が噴き出す、所持者のSTR値を僅かながら底上げするといった効果が現れるのだ。
――とまぁ、この様にいろいろと便利な『対物エンチャント』だが、勿論それなりの代償は必要だ。
まず第一に、『対物エンチャント』を行う際は『魔法陣』なるものが必要となる。これは良くアニメで見る『あれ』を想像してもらうと分かりやすい。
そして第二に、『対物エンチャント』を行うには『触媒』が必要であるという事。この『触媒』のランクによって、エンチャント後の性能に差が出る。
これらの理由から、本来であれば『対物エンチャント』というのは、それなりの事前準備を行い、更にそれなりの量のMPを消費して行わなくてはいけない中規模魔法のような物なのだ。
(――けど、だからこそ、この魔法が使えるようになれば、師匠の意表を突けるはずだ)
師匠の斬撃をステップで回避しつつ、考える。
『意表を突く』というのは、つまり、相手が思いもしていなかったことを行う事。この世界では『対物エンチャント』というのは時間がかかり、戦闘中に行えるものではないという共通認識が根付いている。それは正真正銘の化け物である師匠とて同じはず。ならば、そこを突けばいい。
(く――ッ! それにしても、師匠の攻撃を躱しつつ、頭の中で別作業ってのは結構きついな。つうか、きつ過ぎるわ)
もし、師匠との修行の最中で『自分の内と外の意識を分ける』という事を学ばなければ、戦闘中に『魔法複合』を行うというのはまず無理だっただろう。それほどまでに、師匠の攻撃は苛烈を極めていた。
こちらは二刀流なのに対し、師匠は一刀流の片手剣。本来ならばこちらが手数で上回っているはずなのに、師匠は腕の振りの速さと正確さ、そして無駄のない剣技によってこちらを圧倒している。
「今度は足元がお留守番だなっ!」
「うわっ?!」
師匠の剣に意識を向けていれば、足払いで地面へと転がされる。
思わず、俺の口から情けない声が漏れ出た。
さらに、それによって俺の意識の中にある魔法に対してのイメージが揺らいだのか、
『魔法複合に失敗しました』
と無慈悲に響く声。
何度目かもしれない失敗に、思わず苦渋の表情を浮かべてしまう。
追い打ちはさらに続く。
俺が転んだ状態から立ち上がる間に、師匠が庭に設置された時計を確認した。
腕時計はアイテムボックスの中にしまった状態なので、俺も師匠の視線を辿る――その時計は十一時五十七分を指していた。
「……あと、三分」
「そうだな……やっぱ諦めるか?」
俺の呟きに、ニヤリと口角を上げた師匠が質問を投げてくる。
そんな師匠に対し、俺は、
「まさか。さっきも言った通り、絶対に合格をもぎ取って見せますよ」
「余裕ぶってる割には息荒いぞ。無理しない方が身のためなんじゃねぇのか」
「師匠、笑わせないで下さいよ。いつも師匠に吹っ飛ばされ続けてんのに、これぐらいで音を上げるわけないじゃないですか」
嘘だ。もうかなり体に限界が来ている。ケツは痛いし、足は疲労が溜まっててパンパンだし、体中から汗が噴き出している。
それでも――いや、だからこそ俺は強気に笑って見せる。
「……本当、いい面構えになったじゃねぇか。バカ野郎」
俺を見て師匠はニヤリとした笑いをより一層濃い物とする。
と同時、師匠からの殺気がより濃い物へと変化した。
それを見て、俺は本能的に悟る。
――師匠は本気で俺の合格を阻む気なのだと。
勿論それは、ズルをするとかそういう事じゃない。
自分の力で相手を完膚なきまでに叩き潰す。
強者が弱者に与えてやれる、暴力的な慈悲――格差の違いを見せつけることで、俺の試験合格を真正面から食い止めるつもりなのだ。
(――まぁ、それでも……やるしかないんだけどな)
そんな師匠を前に、俺は心の中で今日二度目の言葉を零す。
ここまで来れば、不可能の三文字は完全に頭の中から排除。
あとは『気合い』で何とかするのみだ。
俺は両手にナイフを携え、三度師匠と対峙する。
――残り時間あと三分。
卒業試験は今、最後の時を迎えようとしている。
次回で一応卒業試験は終了。……こんなに卒業試験を長くするつもりはなかったのに……解せぬ(;´・ω・)
あと、話の雰囲気が変な方向におかしくなっているのは、作者のテンションがおかしくなっているからです。あまり気にしないようにしてください(;´・ω・)
今回も読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)
次回もよろしくお願いします!




