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第七十四話 運命の神は本当にいる

第一部の一番初めのシーンを別の物に置き換えました。物語の進行に影響はありません。

 いつの間にか背後を取られていた形。

 無防備な俺の背中に一撃が迫っているのが分かる。


 だが――


「んな訳ないですよ!」


 この展開は予測の範囲内。


 俺は前方に跳躍。背後より襲い来る斬撃を交わす。


 師匠は空中に浮きながら戦闘を行っている。その為、地面に足を付いて踏ん張るということが出来ない。そして踏ん張ることが出来ないという事は剣を突き合わせての鍔迫り合いで不利になるという事。なので、今まで師匠は俺と長時間の力比べをする事を避けていたのだった。


 だとすれば、必然的に師匠の取れる攻撃手段は限られてくる。

 例えば、奇襲。これならば正面切って鍔迫り合いをする必要もなくなる。特に背後からのそれは効率がいいだろう。

 そう考えた俺は、『師匠が背後から攻撃してくる』という攻撃パターンに山を張っていた。それが見事的中したという訳である。


「『ライトニングボルト』!」


 前方に身を投げつつ、再び『雷魔法』。但し、今回は射出速度より、連射速度を重視した魔法だ。

 一気に五つの雷の矢が生成され、それが師匠の腹を食い破らんと殺到する。


「――ぬんっ!」


 だが、そこは流石の師匠。「電気」という途轍もない速度で迫る魔法を、俺の背中を抉るために振り下ろしていた剣の返す刃で、自分に直撃するであろう物だけを選別して叩ききる。その反応速度、動体視力たるや、圧倒的という言葉で片づけるのもおこがましい。

 三つの黄色い弾丸が霧散し、残りの二つはギリギリ師匠の横を通って庭を覆う結界に着弾。電撃を迸らせながら一瞬の内に消え失せる。


「よし、今のは悪くなかったな」


「その割には師匠には傷一つついてませんけどねっ!」


 師匠の言葉に皮肉で返しながら、素早く体制を整えて今度はこちらから師匠に接近。


付与(エンチャント)AGI(スピード)』!」


 一歩を踏み出すと同時に、付与魔法で自身のスピードを増幅。さっきの速度との緩急を付ける事によって、師匠の攻撃のタイミングをずらす事が目的だ。

 そして、目論見通りに急激に速度を増した俺の動きに虚を突かれたか、師匠の剣戟のタイミングが遅れる。既に、俺は師匠の懐に潜り込んでいる。


 もう、ここは俺の得物(ナイフ)の間合いだ。

 右手を閃かせ、師匠の腹に狙いを絞る。


(―――――獲った!)


 心の中で確信しつつ、俺は右手を振り払った。


 ――しかし、現実はそこまで甘くない。


 俺に返ってきた感触は右手のナイフが師匠に一撃を入れるものではなく、腹に何かが直撃する重い感触。


「ガフッ?!」


 今度こそ、完全に無防備だった鳩尾に何かが突き刺さり――そしていつもの様に吹っ飛ばされる。

 視界が二転三転し、受け身を取る暇もなく強く地面に打ち付けられた。

 鳩尾をやられたからか、吐き気もする。気持ち悪い。


 それでも尚、歯を食い縛って立ち上がる。


 俺の視界に映ったのは、空中に浮いた状態のまま、無事な方の足である右足の足裏を前に突き出した状態の師匠。どうやら俺は、その右足のヤクザキックによって思いっきり蹴り飛ばされたらしい。


 腹から何かこみあげてくる物がある。それを口から吐き出す。地面に赤い斑点模様ができる。久々の吐血だった。


 そんな俺を見て、師匠が剣を肩に担ぎながら、


「今のも途中までは良い。だがな、何度も言ってると思うが、いざ止めを刺す時に気を抜くのはお前の悪い癖だ。最後の一撃だからこそ、気を抜くな。そうしないとネズミに噛まれるかもしれねぇぞ?」


「ぐっ……がは……わ、分かりました」


 アドバイスに頷きながらも、休む間もなくナイフを構える。


「『ヒール』」


 腹の痛みは『回復魔法』で強制的にシャットアウト。


 今回の模擬戦には、相手がポーションを服用している時に襲ってはいけないというような類のルールは存在しない。よって、俺がポーションでけがを治療しようとしたり、MPを回復させようとした時に師匠が情け容赦なく攻撃をしかけてくることは想像に難くない。

 MPに不安は残るが、この場面では回復魔法で治療したほうが無難だろう。


「そう言えば師匠」


「なんだ? 今度は世間話で俺の気を反らそうって魂胆か?」


「違いますよ。試験の制限時間についてです」


「あぁ、そう言えば特に定めてなかったな」


「えぇ、まさか、一日中やるって訳じゃないでしょう?」


「当たり前ぇだ。そうだな……12時には昼飯が用意されるからそれまでってことで」


 師匠の言葉を聞き、時計を確認。針は十時を指している。


「あと二時間ですか」


「もしかして、それまでに合格できる自信がないのか? それならしっぽ振って家に帰ってもいいんだぞ?」


「まさか。絶対に合格をもぎ取って見せます」


「フッ……その意気だ。ただ、俺としちゃあ、弟子に負ける師匠なんて恰好が付かないからな。誠心誠意相手してやんよ」


 師匠も剣を再び構える。

 卒業試験の第二ラウンドが幕を開けた。










「はぁぁぁぁぁあああああああ!!」


 雄たけびを上げる。これまでにないぐらいに速くステップを踏む。両手が意思を持っているかのように駆動する。

 両手に携えたナイフが刃を光らせ、二刀流(ラッシュ)によって師匠を攻めたてていく。

 それでも、師匠には程遠い。

 こちらは途切れなく攻撃を続けているつもりでも、斬撃と斬撃の間の僅かな空白時間を見つけ出し、そこを的確に攻めてくる。


付与(エンチャント)STR(アタック)DEF(ディフェンス)』!」


 足りないステータス値を「付与魔法」で補い、少しでも師匠へと攻撃を加え続けていく。


 既に、試験を始めてから一時間が経過。残り時間は一時間のみ。


 その間、休みなしでナイフを操り続けていたためか、俺の心臓はかなりのハイペースで稼働していた。ドクンッドクンッ――という鼓動が煩わしいぐらいだ。

 その一方で師匠は基本的に受けに徹していて激しい動きを行っていない。その表情にはまだまだ余裕がある。


「ほらぁ! また防御がお留守になってんぞっ!」


「――――lッ!?」


 突き刺すような害意を感じ取り、咄嗟に顔を横にそらす。微妙に間に合わなかったのか、横髪が二センチ程持って行かれた。


(――何か、無いのか?)


 師匠に一発ぶちかませる『ナニカ』。それがなければ、こうして防御しても、或いは攻めたてても意味がない。我武者羅にやってみた所で師匠に通じないのは分かり切っていることだ。


 師匠との斬撃の攻防を交わしつつ、考える。


 だが、そんな都合のいいアイデアが咄嗟に浮かぶはずもなく、時間は無慈悲に過ぎていく。


 しかし、運命の神というのは本当にいるようで、大体、考え始めてから三十分はたった頃。とある事に思い至った。


(一撃を加えるだけなら、意表を付けばいい……のか?)


 それなら――師匠の意表を突くという一点に限って言えば、それほど難しくはない。

 俺には、他の人が知らないような魔法スキルを複数持っている。それらを使えば、あるいは――


(――いや、ダメだ。今のままじゃ)


 師匠の放つ、いつまで経っても勢いが衰えない斬撃を弾きつつ、自分の考えを否定する。


 俺が現在所持している魔法スキルは全て師匠との模擬戦で使用した経験があるので、師匠の意表を突くことにはならないだろう。少し使用方法を変えても、先ほどのように軽くあしらわれることは目に見えている。


 では、どうするか。

 ここまで考えれば、自然とその答えは出ていた。


(――『魔法複合』発動)


『どの魔法を複合させますか』


 念じると同時に、俺の頭の中に無機質なシステム音声みたいなのが流れる。


 ――そう。


 今までの手段が効かないのなら、新たな手段を作ってしまえばいい。そういう事だった。











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