表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/107

第七十一話 私は友達を殺したの

前回からの続きです。

今回、切りのいいところで区切ったため、短いですが、ご了承ください。


  師匠が去った後、数分もしないうちにみーちゃんがやって来た。


「……待った?」


「ううん。師匠との訓練もさっき終わったとこだし」


 元々、みーちゃんが今日は忙しいという事は前もって聞いていた話だ。その中で時間を作ってわざわざやって来てくれたことを感謝こそすれ、文句を言うことなど出来るわけがないのである。

 なので、俺はみーちゃんのこちらを伺うような質問に首を横に振ってこたえる。


 すると、みーちゃんは怪訝な表情を浮かべて、俺の顔を覗き込んできた。


「……それにしては、浮かない表情をしてる」


 と、みーちゃん。


 的確に心の起伏を突かれ、俺の心はドキッとなる。

 確かに、俺の心の中には師匠の弟子に関しての疑問が引っかかり続けている。


 本来なら、取るに足らない事なのかもしれない。無駄で、俺が知った所で何の価値も無い事なのかもしれない。

 だけど、師匠が訓練中に一瞬だけ見せた憐みの表情。

 そして、俺の知らないもう一人の弟子。

 それらがどうも、俺の気を引いて離さないのだ。


「……何があったの?」


「――実はさ」


 一瞬、誤魔化そうかと思った。

 元々、この問題は俺には直接関係ない。だから、一々俺が首をツッコむ必要は無いんだと、そう自分に言い聞かせようとした。


 けど、最終的には自分の好奇心に負けた。

 一部に幼馴染に嘘をつきたくないって気持ちがあったのも否定は出来ないが。


 まぁそんな訳で。


 俺は先ほど師匠と交わした会話、そして俺の抱いた疑問についてみーちゃんに語った。

 その間、みーちゃんは言葉は喋らずに、ただ俺の話に耳を傾けてくれていた。


 こうしていると、本当に清楚で大人しそうな美少女なんだけどなぁ……と話ながら思っていたのは内緒。もし、そう思っていたのがばれたら、多分踵で踏みつけられる。――って、痛っ!


「……ユウ君。思考がバレバレ。あと、乙女に失礼」


「はい、すいません」


 ここ最近、レベルが上がったことによってDEFのステータス値も上昇し、この前踏みつけられた時よりかはダメージは小さく済んだように思う。ま、痛いのに変わりはないんですけどね!

 なので、俺は潔くみーちゃんに謝り、踏みつけられた足を解放してもらう。


 みーちゃんは庭の隅に置かれたベンチに座った。俺もその隣に座る。


「……そんな事よりも、ゴドバルトの事、知りたいんでしょ?」


「そりゃ、勿論。……で、そう言うって事は、みーちゃんは何か知ってることがあるの?」


「……ん」


 俺の質問に、みーちゃんは首を縦に振った。

 そして、みーちゃんは言葉を続ける。


「……シュレーゼ・アイゼンフィッカー」


 とび出たのは、一人の人物の名前。名前の感じからして、女性だろうか。


「それが、師匠のもう一人の弟子の名前?」


「……ん」


「その人は今はどこにいるの?」


 みーちゃんは上――空を指差した。その意味が咄嗟に理解できず、俺は小首を傾げる。


「……シュレーゼ・アイゼンフィッカーは二十年程前に死んでる。彼女はエルフで、ミコイルに捕まって処刑された」


「……………」


 人が殺された。

 何があったのか。そういう事は一切分からない。

 でも、みーちゃんの語った事実に、俺は口を紡がざるおえない。

 この世界の現実だけが、俺の心に重く圧し掛かる。


「……シュレーゼはゴドバルトの弟子であると同時に、将来を誓い合った仲。でも、その当時ゴドバルトはミコイルとの戦闘に参加して、相手に多大な被害を与えていた」


「だから、そんな目障りだった師匠の大事な人であるシュレーゼさんを狙ったと」


 俺の呟きに、みーちゃんは頷き、肯定を返した。


「……シュレーゼが攫われた時、師匠はミコイルとの戦場にいた。シュレーゼが攫われた事を知った師匠は、単身敵地に乗り込んだんだけど……」


「それは間に合わず、結局シュレーゼさんは殺された」


「……ん」


 話を聞くうちに、俺の拳は怒りに震える。


 大切な人を失う事がどれほど辛いのか。俺はそれを知っている。だからこそ、その苦痛を平然とほかの人に与えるミコイルのやり口に、今までにない程の怒りを感じていた。


 勿論、ミコイル側の人間がそういう「最悪」な部類の人間ばかりだとは思わない。


 それに、見方を変えれば俺だってストレアが行った勇者召喚で大切な人と引き離されている。でも、この国には――国王様にはそれに対する反省の色はあったし、何よりも他人に対する誠意があった。


 しかし、このやり口は人として超えてはいけない最低限のラインを越えてしまっている。

 戦争に清いも汚いも無いというが、俺はそうだとは思わない。例え、俺のこの主張が未だに現実を知らないからこその物だと笑われたとしても、一向に構わない。


 何故なら、最低限のラインを守るという事は、人間で居続ける為に必要な事だと思うから。

 もし、そのラインさえも超えてしまえば、「それ」は最早人間じゃない。そこいらにいる無差別に人を襲う理性の無い魔物達とそう変わらない。


「……ユウ君」


 そこで、みーちゃんの手が俺の手の上に重ねられる。


「みーちゃん」


 怒りを抑えきれず、小刻みに震える拳を、みーちゃんの柔らかい手が優しく包み込む。いつしか、俺の激情はいくらか沈静化していた。


 唯、俺達の間に流れる時間はどこか重い。


「……ユウ君だけじゃない。私も、ミコイルの事は許せない」


 そう淡々と語るみーちゃん。だが、その声色は明らかな怒りの感情を伴っていた。

 いつもは眠たげなみーちゃんの瞳に、明確な感情が浮上している。


「みーちゃんがそこまで怒るのは――」


「……珍しいかな?」


 みーちゃんに、言おうとしていたことを先取られ、心の中を見透かされ。

 そんな些細な以心伝心に、少しだけ俺の心は熱くなる。


 俺が押し黙り、それを見たみーちゃんが、一瞬こちらを向いてクスリと笑う。

 しかし、みーちゃんはその次の瞬間には顔を正面に向け、冷え切った表情を露わにする。

 いつもの、眠たげとか、そういうぼんやりとした表情じゃない。爆発しそうな感情を押さえつけた結果、面に何も出していないというように俺には見えた。


「……私はこの世界に出来た友達を――この手で殺したの」


「えっ……」


 唐突に語られた事実に、俺は絶句した。











あと二十話ぐらいで二章終わるかな……多分。


本来、二章は長くても四十話で終わらせる予定だったんですけどね……なぜこんなに長くなったのか。解せぬ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました!

次回は今週中にあげれると思います。次回もよろしくお願いします(*´ω`*)


では(・ω・)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ