第六十七話 ダンジョンの罠が必要以上に厄介な理由
修正報告。
・登場人物「トウヤ」が今後の物語の進行上、不必要であるため、トウヤの記述があった箇所を全て変更しました。物語の展開に大きな変更はありません。
・ステータス値に少しずつ修正を入れています。
では、今回の話をどうぞm(__)m
俺の視線の先には、六人一組の男だけのパーティーが映っているモニターがあった。
そんな彼らはバッグから取り出した固焼きパン、そして俺の店で売っている「薬水」での食事中。時刻は――午後の十五時。時間的に見て、おやつに近い昼食みたいな感じだろうか。
まぁ、他人の食事事情はどうでもいい。
俺の店の品を愛用してくれているのは嬉しいが……ここは糧となってもらいましょう。
という訳で、俺はポチッと手元のモニターのボタンを押す。
すると。
『―――――っ!』
モニターの画面の向こう側で、一人弓を持った男が倒れた。
その事に気が付き、咄嗟に警戒態勢を取る残りの五人。弓持ちの男に一番近かった暗殺者タイプの装備をした小柄な男が弓持ちの安否を確かめようとし、彼に近付く。しかし、その弓持ちは彼らの目の前で光の粒子となり、霧散した。
これが、このダンジョンの中での死――まぁ、所謂死に戻りだ。今頃、弓持ちの彼はダンジョンの入り口で光に包まれながら復活していることだろう。南無。
尊い犠牲(主に金銭的な面での)としてダンジョンコアにMPを供給してくれた弓持ちの男性に心の中で手を合わせつつ、モニターの観察を続ける。
六人パーティー(弓持ちは死に戻ってしまったので現在は五人パーティー)の彼らがいる階層は、現在、冒険者達が立ち入っている所としては比較的深い26階層。
出てくる魔物は魔獣系が多く、通路も比較的幅が広いため、混戦になることが多い階層だ。魔獣はその鋭い爪などで壁を走って移動することも可能なので、結構立体的な動きをするのである。それを知らない冒険者パーティーが、真っ先に後衛を潰されて、後は嬲り殺し的な感じで全滅――死に戻りさせられている様子を、何度も見てきている。
俺的にはMPが大量ゲットで来てホクホクだったけど。
だが、今目の前のモニターに映っている彼らは中々の経験者のようで、先ほど死に戻った弓使いを除けば唯一の後衛である魔法使いの背の低いおっさんを中心に、円陣を組むような形で周囲を警戒し始めていた。
これでは、魔獣たちがここに襲撃をかけても、パーティーを分断するのは難しく、結果呆気なく返り討ちに合う事は容易に想像できた。
ちなみに、先ほど弓使いを葬った罠は、壁から飛び出す猛毒の吹き矢だが……それもこの陣形を崩すのは難しい。弓使いの時はある程度相手が油断していたから通用したのであって、このように警戒態勢に入っている実力者を出し抜けるような罠では無いからだ。
それらを考えれば、彼らが取っているのは、セオリー通り、それ以上に経験に基づいた隙の無い陣形。――ではある。
但し、その評価は「普通なら」という前提が付くものだが。
「それだけじゃ、この俺が仕掛ける罠を全部掻い潜ることは出来ないぜ?」
何かおかしなテンションに陥りながら、俺は再び手元のモニターのボタンを押す。
その直後。
ガゴンッ! と、大きな音と共に彼らが密集している付近の地面が大きな穴を空け、その闇の中へと彼らは落ちていく。ありていに言えば、落とし穴の罠を作動させたのだ。
『わぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ………………―――』
という、哀愁誘う男たちの悲鳴が響き渡りながら、その穴は口を閉じた。
相手を一点に集め、少ない範囲で落とし穴を顕現させて、一網打尽。ここまでが俺が今回立てた作戦だった訳だ。
あのおっさん達には悪いことをしたと思っているが、今回は一国の運命が掛かっている大事なのだ。ここは心を鬼にさせてもらう事にしよう。
そんな風に比較的小さな葛藤を頭の中で解消させつつ、引き続きダンジョン内部を詳細に映したモニターで次の得物にする冒険者を定めていると、
「あの……ユートさん」
「ん? 何だ?」
声をかけてきたのは、俺と一緒にダンジョンマスターとしてこのダンジョンを管理している、隣国エスラド魔王国の第一王女、通称ニーナである。
いざという時は、その王女としての半端ないオーラを放つ彼女だが、現在は「オフ」の時という事で、そのオーラは感じ取れず、どこにでもいる気の弱い女の子に見える。
「先ほどの冒険者様達をやった所なのですが」
「何か気になることでもあったのか?」
「はい。今までもユートさんは、落とし穴や天井落下といった広範囲の罠を使う時は、色々と事前に策を施していましたが、それだと効率が悪いのではないかなと思いまして」
ニーナの言葉を聞き、なるほどと、彼女の疑問に納得する俺。
確かに、俺の罠を使っての仕留め方は色々と遠回りな事をしてからというのが多い。
勿論、それには理由がある訳なのだが、それを説明するには色々と解説しないといけないことがある。
「まず、罠を張る時にそれ相応のMPが必要なのは勿論理解してるよな?」
「それはもちろんです」
ダンジョンの大部分を好きにできる「ダンジョンマスター」であるが、そんな俺たちにもダンジョンで勝手に出来ない要素がいくつかあり。
・ダンジョンは世界から隔絶された亜空間に作られるため、ダンジョンマスターにのみ付与された権限以外での「転移」等でダンジョン外部と内部を移動することは不可。
・また、ダンジョンの各階層も、それぞれ違う扱いの亜空間に存在している為、階層間での「転移」での移動はおろか、階段を上り下りする以外の方法――地面をぶち抜いて下の階層へショートカットする等――で階層間を移動することは不可。
・但し、「ダンジョンマスターの部屋」は、そんなダンジョンと世界の狭間――「亜空間への入り口のような所」に位置している為、ダンジョンマスターの部屋を経由すれば、ダンジョン内部と外部。各階層間を行き来することは可能。
――というような感じで、ダンジョンにおける「転移」系魔法の制約についても、ダンジョンマスターが好きにできない部分がある。
そして、それはダンジョン内部に罠を仕掛けることに関しても同様で、
・ダンジョン内部に罠を仕掛ける際、仕掛ける罠の規模、種類に応じて相応のMPをダンジョンコアより消費する。
という、とてもケチな制約があったりする。
俺が毎回毎回、メンドクサイやり方で冒険者達をゲームオーバーにさせているのも、ひとえにこれが原因だ。
「いいか。まず、俺たちの目的は一か月後までに最低10万程のMPをダンジョンコアに溜めなくちゃいけない。ハッキリ言えば、これを達成させるのは結構きつい」
「これまで二週間ユートさんに手伝ってもらいましたが、溜まったMPは三万程……確かに、ペースでは間に合わないかもしれませんね」
俺の言葉に、ニーナが賛同を示す。
現在、みーちゃんや師匠に訓練を付けられ始めてから一週間。
つまり、国王様から一か月後に連合軍がミコイルが占拠したエスラドの王都に侵攻する旨を聞かされてから一週間が経っている。残された時間はおよそ三週間。他国の事情もあるので、この時期を遅らせるわけにもいかず、それまでの短い時間であと七万のMPをその間に溜めなくてはいけない状況だった。
ちなみに、そうやってMPを溜めたダンジョンコアは王都や王城の都市機能を回復させるために使うらしい。そうする事が出来れば、魔王様の眠りも解け、魔王様を解放することも出来るのだとか。つまり、今回の戦いにおいて、ダンジョンコアはとても大きな役割を果たすことになる。
だからこそ、期日までに確実にMPを溜める必要があった。
その事をよく理解しているが故に、改めて現状の厳しさを確認したニーナの表情には不安がにじみ出ている。
ミジェラン――タクヤの居場所が判明した直後の堂々とした様子は無い。だけど、それはしょうがないのかも知れない。いくら王族とはいえ、彼女はまだ十六歳。俺とそれほど歳が変わらない少女であることに間違いはないのだから。
俺はそんなニーナに対して真剣な顔で話を続ける。
「俺が考えた中で、MPをより多く確保する方法は二つだ」
一つは、冒険者を狩るスピードを上げること。
そして、もう一つは、冒険者一人一人から得るMP効率を上げること。
前者は、単純に狙う冒険者パーティーの割合を多くするという事だが、突然死に戻りする冒険者パーティーの数が多くなれば、当然このダンジョンに挑む冒険者達は警戒するだろう。初心者に至っては、ダンジョンの難易度が上がったと判断して、ダンジョンに挑まなくなるかもしれない。そうなれば、結果的に後々に得られるMP量は少なくなってしまう。よって、この案は現実的ではないと考えている。
それに対して後者は、狙う冒険者パーティーの割合はそのままに、一人から得るMPの回収効率を高めるという物。
具体的に言えば、出来るだけ冒険者達にMPを使わせないようにして倒す。冒険者を倒すために使う消費MP量を出来るだけ少なくする。といった方法が挙げられる。
これならば、俺達のように詳しい事情を知らない者以外に変化を悟られる可能性は低いし、何よりもここに挑むであろう冒険者達を無駄に警戒させることも無い。
こちらの方が前者と比べればより効率的で現実的だろう。
「なるほど。確かにそうですね」
「まぁ、俺が考えてる以外にもいい方法があるのかもしれないんだけどな」
「いえ、ユートさんの考えた方法が現時点では最善でしょう。それ以外となると、総じて一定の期間を必要としますから」
俺の呟きに、少し強い口調で強調するようにニーナが言葉を返した。
「そう言ってくれると助かる……ま、という訳で、俺は冒険者一人から得られるMPの効率が一番良いパターン――まぁ、つまりはより早く冒険者を倒せて、尚且つMP消費が少なくて済む方法を考えたんだよ」
「それがさっきの方法ですか」
「そういう訳だな」
先ほど挙げたように、ダンジョン内部に罠を仕掛けるには相応のMPをダンジョンコアより消費してしまう。
そして、同じ規模で展開した場合に一番多くMPを食ってしまう罠が、「落とし穴」や「天井崩落」と言った、ダンジョン内部の構造を直接弄るような罠だ。
その理由としては、あくまでも推測となってしまうが、これらは比較的冒険者達の技量に左右される事なく、打倒することが可能だという事が考えられる。
勿論、落とし穴に落ちても、風魔法で強風を発生させて落とし穴から脱出したり、天井崩落に関しても、強固な盾魔法や強靭なSTR値やDEF値を備えていれば対応は可能だろうが。だが、そう言った事が出来る冒険者が少ないという事も事実だ。
――さて、話を戻そう。
設置するのに多くのMPを使ってしまう「落とし穴」や「天井崩落」の罠であるが、それは先ほども言ったように、容易に冒険者を倒せる絶対的な切り札であることに変わりはない。「吹き矢」や「壁から飛び出す剣」といった罠と違い、一度に大人数を巻き込んで発動させられるというのも大きな特徴だ。
つまり、「一人一人」に発動させるのでは無く「パーティー纏めて一度に」一つの罠に巻き込ませてしまえば、それだけでMPの消費の軽減にもつながる。
また、MP消費を避ける方法として、罠の発動回数を少なくする以外にも、罠の発動範囲を狭くさせるという事も挙げられる。
パーティー全てを巻き込む「落とし穴」を発動させようとすれば、それなりの規模となってしまい、その分MPは多く消費されてしまう。
――しかし、その発動規模を六人パーティーに対して、三人分ほどの広さに抑えることが出来れば?
勿論、MP消費は二分の一にまで落とせる。
それを実現させるには、冒険者のパーティーを一か所に固めなければいけない。
そして、冒険者が周りを警戒し、お互いの視界をカバーするために円陣を組むときというのは一番その条件に合っている。
だからこそ、俺は、パーティーの一人を倒し、他のメンバーが周りを警戒せざる負えない状況を作り上げた。
本来ならば、一番初めに殺るのは、MPが一番多く、MPを真っ先に消費するであろう魔法師が良かったのだが、魔法師というのは前衛以上に敵にダメージを与える、最重要のダメージディーラーでもある。そんな一番大きな火力が消えたとあれば、他のメンバーは真っ先に撤退してしまうかもしれない。弓矢持ち狙いはその事を考慮しての、苦渋の選択でもあった。
そして、そんな思惑があるとも知らない冒険者パーティー達は、俺の想定通りに一か所に固まって警戒状態に入り、それを見た俺は、最小限の狭い範囲にすることで、極限まで消費MPを抑えた落とし穴を発動させて、より多くのMPをダンジョンコアへと供給したという訳である。
ちなみに、弓矢持ちを倒した吹き矢の罠も、猛毒付きというカスタム要素を入れても、一人分の範囲の落とし穴よりも消費MPが少なく済み、かなり低コストで押さえられている。吹き矢は省エネな罠の代表格なのだ。
「――と、俺が考えた手順はこんな感じだな。いかに少ない出資で大きな利益を得るか……まぁ、こう言っちゃ、商売の心得みたいな感じになっちゃうけど」
「ですが、この方法なら、もっと早く必要なMPを溜めることが出来そうですね!」
そう言うニーナの表情には僅かな笑顔があった。
希望が見えて、少し前向きになれたのかも知れない。
俺はそんなニーナを見ながら、六年前の自分を思い出す。みーちゃんが突然行方不明になった時の事を。
あの時の俺は、ニーナみたいに前向きでいられただろうか?
答えは否だ。
だからこそ、この少女の精神力には正直感服させられるし、そんなニーナの手助けをしたいと思う。
それに、彼女を愛していたという転生者――タクヤの本心も気になる。
幼いころに転生を経験し、にも拘らず、自分の好きな少女を守りたいと言い放った彼は、どのような経験をしてきたのだろうか。俺は、同じ転生者として、彼の半生に興味を抱きつつあった。……勿論、彼やアルバスに仮を返したいという気持ちもあることに間違いはないが。
「……そろそろ十六時か。しばらく、ダンジョンで狩りをしてくるよ」
「あ、はい!」
最近の日課として、一日の夕食を作る前の一~二時間くらいの時間はダンジョンで魔物と戦う事に使っている。
ダンジョンで魔物と戦ってもレベルを上げるための経験値こそ貰えないが、レベルが上がった自分の体に慣れたり、自分のステータス限界まで能力を引き出す訓練は出来る。
少しでも強くなるため、俺は自分よりもレベルが少し上の階層で、ダンジョンの魔物達と戦い続けていた。
さて、現在の俺のレベルは40目前までに上がっている。
一週間、師匠やみーちゃんに訓練でたっぷりと扱かれた結果、急激にレベルが上昇しているのだ。
「これぐらいなら、三十階層でもなんとかやっていけそうだな」
俺は自他の戦力を比較して、今日挑戦する階層を定める。
三十階層~五十階層は、それまでの階層の炭鉱跡のような様子とはがらりと変わり、まんま森の中の様な様子の階層だ。視界は常に明るく保たれているが、その一方で死角も多く、出現する魔物も強力な物は少ないが、奇襲に特化している物が多い。なので、常に周りを警戒する必要があり、その上に明確な「通路」というのが存在しない。ダンジョンマスターの視点から見れば、冒険者達に罠を仕掛けるのにはあまり向いていない区間でもある。
「それじゃあ、俺は行ってくる」
そう言って、いつものようにダンジョンマスター特権の、ダンジョン内でならどこへでも跳べる能力で三十階層へと跳ぼうとニーナに声をかけた。
しかし、そのニーナが、
「あの、ユートさん」
と俺を呼び止めた。
「何だ?」
何だろうと、突然の呼びかけを疑問に思いつつ、二―ナに向き直った。
そして、そんな俺にニーナは、
「突然のお願いになってしまうのですが……」
「それは今更だろ」
俺がここのダンジョンマスターをすることになったのだって、ニーナの突然のお願いがあったからこそだしな。
俺の返事を聞いたニーナは覚悟を決めたような顔つきになると。
バッ! と俺に頭を下げる。
ニーナの奇行に流石に俺が呆気に取られていると、彼女は自分の頼みごとを告げた――
今回も読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)
現在、二十字悠の小説家になろう登録一周年記念という事で、マジックライフ!のIFストーリーを近日中に書こうかなと思っています。
もし、こんなストーリーを見てみたいというようなご要望がありましたら、コメント等で提案していただけると幸いです。




