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第六十四話 強くなるためには

*武術及び五感に関連するスキルを無くしました(2017/3/28)

 戦闘訓練を終え、俺はその場に大の字になって倒れた。


 息が苦しい。

「ぜぇぜぇ」と荒い息が喉の奥から漏れ出た。

 体中は傷だらけだし、服は砂にまみれ、所々がほつれ、最早ボロボロ。

 額からは滝のような汗が流れ落ち、砂の地面を転々と濡らした。

 時間帯はまだ三時ほどという事もあって、直射日光が肌を焼く。


「ま、お疲れさん」


 そんな中、あれだけ剣を振ったにもかかわらず、涼しい表情をした師匠が俺の顔を覗き込むようにして声をかけてきた。その額には汗を一切掻いていない。


「お、お疲れ様です」


「ユート、少し話がある」


「あ、はい」


 流石に寝転がったまま話を聞くのは気が引ける。その場に立ち上がった。


「で、話っていうのは……?」


「まぁ、簡単に言えば、お前さんの今後の訓練についてって感じだな。後は今回の訓練で把握した細かい長所と短所を伝えるっていう事ぐらいか」


「分かりました」


 俺の返事を受け、師匠は語りだす。


「今後しばらくは、今日みたいに剣術や体術のみでの組み手を中心にやっていこうと思う。ただ、お前は一日に戦闘訓練に取れる時間が二時間ほどしかないって話だから、休憩は無しで一時間ぶっ通しだ。もし、俺の攻撃を食らって気絶したとしても叩き起こして続行。怪我も、よほどの重症じゃ無けりゃ治療して続行。それを続けて、俺が次の段階に進んでも良いって感じたら、組手のルールを色々と変化させていくからな」


「りょ、了解です」


 うん。中々ハードですね。まぁ、一日二時間っていう制限があればある意味当然ではある。寧ろ、そんな制限の中、精一杯鍛えようとしてくれている師匠に感謝しなければなるまい。例え、本人が少し楽しんでいる節があるとしてもだ。ですから、そんな事を考えてる俺を不安にさせない為にも、その凶悪な笑みはオブラートに包んでいただけないでしょうか、師匠。


「ま、とりあえずそういう事だ。んじゃ、次の話だが――」


 そう師匠が言った瞬間。


「―――っ?!」


 俺の体が勝手に後ろへと跳んだ。正確には、後ろへと()()()のだ。まるで、俺の体が「何か」に反応しているかのように。

 そして、そんな俺の反応を見て、師匠は


「やっぱりな。お前は、あれだ。人の害意や悪意を第六感かなんかで感じ取れるっぽいな」


 と呟いた。


 そこで、俺は師匠がいつの間にか僅かながら剣呑な雰囲気になっていることに

気が付く。まぁ、その次の瞬間にはその雰囲気も霧散していたのだが。


「し、師匠、いきなり何なんですか?!」


「そう怒るな。少し確かめただけだっつうの」


「確かめたって……さっき言った俺が害意や悪意を感じ取れるっていうあれですか?」


「ま、そうだな。これで全部つながった」


「つながった……?」


 俺の呟きに師匠は『そうだ』と返し、


「俺は手加減してたとは言え、本来なら、お前の今の性能(ステータス)じゃ、逆立ちしても俺の一撃を致命傷無しで切り抜けられるはずが無かったんだよ」


「――って、それは俺が死にかけるのを承知でやってたって事ですか!?」


「……それ、本当なら許さない」


 師匠の適当とも取れる台詞に、いつの間にか傍にやって来ていたみーちゃんも剣呑な視線を向ける。何か、みーちゃんの周りに青い竜が見える。きっとこれは幻想だろう。じゃなきゃ、俺が灰にされそうだ。


「まぁ、ミヤもそうカッカするな。ちゃんと、ユートなら致命傷になる事無く、捌けると確信してやってたんだぜ?」


「でも、師匠はさっき、俺のステータスじゃあの攻撃は切り抜けられるはずが無かったって――」


「まぁな。だが、それはあくまでも『普通なら』って事だ。だがな、さっきも言ったがお前は人から向けられる害意や悪意に敏感なんだ。だから、俺がお前を斬りつけようと少しでも殺意を見せれば、例えお前が俺の事を視界にいれていなくても、体が勝手に反応して俺の動きに無理やりついていく。だからこそ、お前は俺の攻撃を躱したり防御したりすることが出来た」


「……そういう事。でも、ユウ君がそこで防御しきれずに致命傷を受けていた可能性はあった」


「それはしょうがねぇだろ。これは甘々な『鍛錬』とか『トレーニング』じゃねぇんだ。『実戦訓練』なんだぞ?」


「……むぅ」


 師匠の言葉に、ぐうの音も出ない様子のみーちゃん。

 そして師匠はそんなみーちゃんに追い打ちをかけた。


「それによ、ユートが俺の攻撃を食らった場合、お前は――」


 最後の方はみーちゃんの耳元で小声で話していたため、俺は師匠がみーちゃんに何を吹き込んだのかは分からなかった。


「……うむ、それならよし」


 まぁ、みーちゃんの反応からして、ロクでもないのだという事は予測できる。


「まぁ、そんな事は横に置いておくとしてだな。ユート、お前にも、今までの中で心当たりがあるんじゃないか?」


「あ、はい」


 そう言えば、アルバスにダンジョンマスターの部屋で強襲された時も、最初の攻撃は何か嫌な予感を覚えたから躱すことが出来た。それ以降も、目に追えないアルバスの攻撃を即死だけは回避していたが、あれも攻撃を食らう直前に体が勝手に動いていた感覚ってのがあった。あれらが人の害意に反応するって事なんだろうか。

 そう考えると、この第六感と呼べるものが無ければ、俺はあの時に首ちょんぱされて死んでいたかもしれない。


「……ユウ君、顔色悪い。どうかした?」


「あ……あぁ、少し危ない橋を渡ってたんだなぁって思ったら、冷や汗が止まらなくってさ。体の調子が悪いって訳じゃないから、心配しないで」


「……???」


 俺の言葉に、訳が分からないといった様子でみーちゃんが首を傾げているが、まぁ今はスルーって事で。


「とりあえず、ユート。お前がアルバスに『近接戦闘の才能がある』って言われたらしいが、その理由は多分これだ。ハッキリ言って、お前のその能力は近距離、遠距離問わず、かなり大きなアドバンテージになる。スキル『未来予知』には劣るが、それでも不意打ちをかなり受けにくいだろうからな」


「はい」


 アルバスの時がそれを証明してるしな。

 でも、何で俺はそんなに人の害意に敏感なんだろうか?

 ……あー、あれかも。地球にいた頃、みーちゃん関連で、結構、嫉妬や嫌悪といった悪意をぶつけられてたからかもしれない。当時は人から視線を向けられるたびに、内心でビクビクしてたくらいだからな。六年前のあの日からもそれは変わらなかったし。

 ……まぁ、その真偽は分からないんだけど。


「だがな、お前のその能力は長所であると同時に短所でもある。お前、さっき、俺がぶつけた殺気に反応して飛び退ってただろ?」


「そうですね」


「さて、ミヤ。何が不味いか分かるか?」


「……一々殺気に反応して、その行動を誘導される危険性がある?」


 みーちゃんの回答に、師匠が頷く。


「まぁ、そういう事だ。俺がユートにぶつけた殺気は言ってみれば、『偽物』だ。本当に殺す気はない張りぼてって奴だな。だが、お前はそれに反応して、それが本物だと判断しちまってる。これじゃあ、相手にいいように翻弄されるだけだ」


 つまりあれか。わざと俺に殺気をぶつけて、俺の行動を鈍らせるとか、そんな事も可能って訳だな。確かに、それは問題だし、致命的な欠陥だろう。

 俺がそんな感じで少し憂鬱に成りかけていると、師匠が再び口を開いた。


「だが、そこまで諦観する必要もねぇ。こういうのはある意味経験だからな。ある程度、殺気をぶつけられ続ければ、その内にその殺気が『本物』なのか『偽物』なのかっていう区別が付くようになるだろ」


 それに、と師匠は続ける。


「元々害意に敏感ってだけで、かなりお前は恵まれてる。その感覚は後からでも身に着けられる可能性はあるが、人に寄っちゃ、一生かかっても身に付かないなんてことはザラだからな。寧ろ、そっちの人間の方が多いくれぇだしよ」


「はい」


「ま、とりあえずお前の感覚に対しての話はこれぐらいでいいだろ」


 と、師匠が話題を一旦区切る。そして、そのまま師匠が話を続けた。


「で、次なんだが、お前、自分のステータスを最大限生かしきることが出来てねぇんだよな。そこが何よりも痛いし、戦力低下に繋がってる」


「それ、さっきも言ってましたよね?」


 確か、コウタの話題になった時も、『コウタはレベルは上げてるけど、ステータスの有効活用』がどうたらこうたらってみーちゃんが言ってたような気がする。それがどういう意味かは何となくしか分からなかったんだけど。

 俺のそんな疑問に、みーちゃんが答える。


「……ユウ君、レベルが上がったら、ステータス値が上昇するのは分かってる?」


「それくらいは常識だろ」


「……ん。じゃあ、この世界に来て初めての頃と比べて、どのステータス値がどれくらい上がった?」


「えーっと……ちょっと待てよ――」


 思い出してみよう。

 確か、俺がこの世界に来て直後に開いたステータスが


==============

ユート

ヒューマン


Lv1

MP:42/42

STR:4

DEF:3

AGI:12

INT:7


スキル

「魔法才能全」「無詠唱」「アイテムボックス」「隠蔽」「鑑定」「魔力効率上昇(大)」「全状態異常耐性:Lv1」「魔法複合」

==========


 こんな感じだったはず。

 で、現在のステータスは。


=========

ユート

ヒューマン


Lv28

MP:305/418

STR:130

DEF:127

AGI:304

INT:151


スキル

「アイテムボックス」「隠蔽」「鑑定」「全状態異常耐性:Lv5」


魔法スキル

「無詠唱」「魔法才能全」「魔法複合」「火属性魔法:Lv17」「水属性魔法:Lv40」「闇属性魔法:Lv23」「調合魔法:Lv51」「風属性魔法:Lv9」「地属性魔法:Lv6」「回復魔法:Lv17」「光属性魔法:Lv11」「蒸気魔法:Lv8」「地盤魔法:Lv6」「回復特化調合魔法:Lv18」「接続魔法:Lv3」「空間魔法:Lv20」

========


 っておいおい、ちょっと待て。アルバスとの戦い以来、ステータスを覗いてなかったとは言え、レベルが上がりすぎだろ! アルバスとの時は19だったんだぞ! 何でいきなり9もレベルが上がってんだよ?!


「何だ、ユート、そんな間抜けな顔しやがって」


「いや、いきなりレベルが上がってたので、少しビックリして」


「あー、そりゃあれだ。俺やアルバスと戦ったからだろうな」


「え? でも、どっちも俺はコテンパンにやられてるんですけど?」


「当たり前だろ。俺にしたって、アルバスにしたって、お前からすれば圧倒的に格上なんだ。だがな、魔物を相手にせずとも、そういった格上と矛を交えるだけで成長は促せる。レベルが上がるってのは、言ってみれば『体』っていう器の質が上がるって事と同じなんだよ」


「……つまり、実力的に格上と戦ったり、とりあえず『命がけで』経験になることを積んでいけば、レベルは上がっていくって事。そして、ユウ君みたいな転生者はその経験が早く溜まりやすい傾向にある。だから、早くレベルが上がってるんだと思う」


 つまり、これからも師匠との訓練を続けていけば、結構な速さでレベルアップできるって訳か。それは有難いな。


「……少し話が逸れちゃったから話を戻すよ」


「あぁ、頼む」


「……ユウ君のステータスは初めて見たときよりも成長していると思う。でも、ユウ君が実際にそのステータス値通りの能力を発揮できているかと言えば、そうじゃない」


「???」


「……そもそも、ステータス値というのは、その人が現時点で辿りつける『成長限界』を示してる。どれくらい力が強くなれるのか、どれくらい防御が硬くなるのか、どれくらい速くなれるのか、どれくらい魔法が強力になるのか、言ってみれば、その人の可能性を指し示したのが『ステータス』。だから、ステータス自体がその人の強さを現している訳じゃないの」


「そうだったのか……それは初耳だ」


 神様から貰った紙にもそんな事は書いてなかったしな。

 ちなみに、その後に続けて補足説明した師匠によれば、レベルアップした時にも、その限界値の上昇に引っ張られる形で多少は身体機能や魔力の扱いが向上するらしい。これがレベルアップ時に感じる『強くなった』という感覚の正体なんだろう。


「もっと言えば、レベルアップ直後はレベルアップによって変化した自分の体に脳が慣れてねぇ。だから、ステータス値通りの実力を発揮するまでに自分自身を成長させるには、まず、自分の体に慣れる必要がある。俺との模擬戦は急激なレベルアップと同時に、お前が自分自身の体に慣れるための場でもあるわけだ」


 レベルアップを図りつつ、その限界値まで出来るだけ早く体を慣れさせる。行ってみれば、一石二鳥的な感じなのか。


「まぁ、とりあえず話はこんなとこだな」


 そういい、師匠は話を締めくくった。


 師匠はしばらくはこの町に留まるという事で、アリセルの家に宿泊するらしい。そういえば、ギルドでは師匠とアリセルはどこかお互いを良く知っていたような雰囲気だった。まぁ、そういう事であれば特に心配はいらないだろう。


 俺とみーちゃんは師匠を見送った。


 さて、この後はみーちゃんとの魔法の訓練だ。








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