第六十二話 修行開始
ここで訂正のお知らせです。
第四十八話の初めに、駿とユートが戦ってるシーンがありましたが、師匠とユートが戦ってるシーンに変更しました。特に話に影響はありません。
また、勇者の総数を6人→4人に変更。こちらは、今後の話の展開や外伝のストーリーを考えて変更しました。これまでの話の展開には影響しません。
では、今回の話をどうぞ。
「み、ミリアが勇者?」
「……ん。その通り」
茫然と呟くレティアに美弥は自身にかけていた幻影の魔法を解き、その黒髪を見せる。
艶やかで手入れの行き届いたその髪は、戦場では無類の強さを誇る魔法師だという美弥をより現実離れさせるほどの美しさを辺りに振りまく。
その迫力に圧倒されたか、レティアはその瞳を大きく見開いた。
「ほ、本当に……黒い髪」
「……これが証拠。王都の王城に行けばもっと詳しい証拠を用意できるけど」
そう言った美弥に、レティアは首を横に振った。
「ううん。納得した」
「……む。思ったよりも早く納得した」
「今更、疑うような理由も無いしね……それに、ユート君の表情を見てれば分かるよ。ユート君は嘘をつくのが下手だから」
「下手で悪かったな」
レティアの指摘に、拗ねるような態度を見せるユート。確かに、ユート自身、自分がうそを付くのが下手だというのは自覚している。美弥に嘘の事如くを見破られているのが良い証拠だ。
「……そう言えば、レティアに一つ、訂正したい事がある」
「ん? 何?」
「……私の名前は『ミリア』じゃなくて『美弥』。今までは偽名を使ってたけど、今度から、他に人がいないときはそう呼んで」
「ふーん、分かった。ミヤね。……これで、本当に同じ土俵の上に立ったって事かな?」
「……ん。そういう事。でも、状況が変わっても結果は同じ。アドバンテージは崩れない」
「うん……そうかもしれないね。でも、私だって女として最後まで諦めるつもりは無いから!」
「……望むところ。かかってくるが良い」
「その余裕面、絶対に崩して見せる」
「……フフフフフフフフフ」
「アハハハハハハハハ……」
裏路地にこっそり響くような笑い声を上げる二人は――無性に怖かった。
====一人称視点=====
結局その後、レティアは他に済ませていなかった用事があるとのことでクランホームへと戻ることに。心配だったので、俺とみーちゃんの二人は彼女に安全が確保できる大通りまで付き添った。
「レティア、本当にこんな所まででいいのか?」
「うん!」
「まぁ、本人がそう言うのなら別にいいんだけど……」
なんせ、さっきまで色々無計画に裏路地を走りたくなるぐらいには情緒不安定だったのだ。……まぁそりゃ、隣人が突然転生者でしたとか判明したら気が動転するのも仕方ないんだろうけどな。
とりあえず、まだ情緒不安定ならばホームまで送ろうかと思っていたけど、見た所そんな事は無さそうだし、このまま一人で帰らせても大丈夫か。
裏路地は少し治安が悪いが、大通りはそこまで治安が悪いという訳でもないし。
それに時刻はおよそ2時半といった所。人通りも多いし、これならトラブルに巻き込まれる心配も無いだろう。
「それじゃあ、気をつけて帰れよ」
「うん! ミリアもユート君も、気をつけてね!」
「……ん」
「あぁ」
俺はレティアに挨拶を返し、みーちゃんと共にアリセルの邸宅へと向かった。
そしてその道中。唐突に抱いた疑問をみーちゃんにぶつけてみる。
「そういえば、みーちゃんは何でこっちに来たんだ?」
「……ユウ君の魔法関係の訓練の指導のため。ゴドバルトは体術関係は凄いし、魔法の腕も良いんだけど、扱える魔法の種類が多くない。だから、『魔法才能全』を持っている私が魔法関係での担当になった」
「へぇ。まぁ、みーちゃんが訓練を付けてくれるならある意味で安心だな」
ゴドバルトはある一種の「威圧感」が半端じゃないのだ。あれに晒されている中でイメージが肝になる魔法の練習に集中できるとは思えなかった。途中で魔法が誤爆発する姿さえ幻想できる。
「……あと、エレーナが覚えられるなら、ユートが使った新しい魔法を覚えて来いって」
「なるほどね。まぁ、それぐらいなら別に手間じゃないからいいけどさ」
今までに見たことも無い魔法だ。魔法師団隊長を務めているエレーナさんなら気になって当たり前なんだろう。
「……あと、エレーナが出来るなら解体して来いって――」
「それは却下で!」
相変わらずぶれねぇな、エレーナさんは!
どんだけ解体が好きなんだよ!
物騒すぎるわ!
「……最後に」
「まだあんの?!」
「……ユウ君が心配だった。ようやく再会できたユウ君を……失いたくなかったから」
「みーちゃん……」
自分で言った言葉が恥ずかしかったのだろうか。少し頬を赤く染めたみーちゃんが俺を見上げてくる。
そんなみーちゃんを目の当たりにし、俺の心の奥底も火が灯ったように熱くなる。『ジューッ』と脳裏を焼くような。色々と思考を鈍らせそうな。そんな温かい、熱い想いがこみあげてくる。
今すぐ、この幼馴染を抱きしめたい。
そのように想うのは、俺の心が緩いからなのだろうか――
「……ユウ君?」
「――っ」
俺の思考が危うい所まで至った時、心配するかのように俺の顔を覗き込んできたみーちゃんの顔を目にし、正気に戻った。
「あ……いや、うん。何でもない何でもない」
「……本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫! 心配かけてゴメン」
「……ふふっ。女の子は皆、恋の魔法使いなんだよ?」
「――え? 何か言った?」
「……ううん。何でもない――ふふっ」
俺の質問を少し上機嫌っぽいみーちゃんは微笑を漏らしながら誤魔化した。
みーちゃんが何を言ったのかはかなり気になるところだが、みーちゃんの表情がとても魅力的だったから、そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
「男って本当に現金だよな……」
「……ユウ君、何か言った?」
「いいや、何でもないよ」
「……むぅ、気になる」
――ま、何か仕返しもできたし、おあいこさまって事で。
そんなやり取りを交わしつつ、俺とみーちゃんはアリセルの家に到着した。
「よぉ、遅い登場だったな」
「あ、師匠!」
「で、勇者の嬢ちゃんも一緒か」
「……ん。久しぶり」
アリセルの家の庭で俺たちを待っていたのは、師匠一人だけであった。
恐らく、家主のアリセルはギルドマスターとしての仕事があるんだろう。
荒くれ者が多いギルドマスターの仕事は結構大変そうだしな。……今度顔を見せに行くときは、何か手土産でも持って行くか。
「では師匠、ご指導、よろしくお願いします」
「おう、任せとけ。六年前に勇者三人を鍛えた時は一週間で終わっちまったから、満足に鍛え上げることは出来なかったが、今回は戦争までは一か月あるらしいからな。まぁ、勇者の中で最弱のコウタと戦って生き残れるぐらいには強くしてやるよ」
と、結構高い目にハードルを設定する師匠。
ちなみに、師匠が勇者達の指導役をしていた時期があることはここに来るまでのやり取りでみーちゃんから聞いていた。そして、「とある理由」によって、師匠が勇者の指導役から退いた事も。
だが、師匠の言葉の中で、引っかかることが一つ。
「あれ? 六年前に鍛えた勇者って三人だけだったんですか?」
「何だ、知らねぇのか? 六年前に召喚された勇者はシュン、ミヤビ、そしてそこのミヤの三人だけだ。コウタの野郎は二年前に召喚された、所謂追加組なんだよ」
「そ、そうなんですか……初耳でした」
道理でコウタっていう奴だけ、他の三人と雰囲気が違うと思ったらそういう事だったのか。コウタの纏う雰囲気は、確かに「威圧感」や「近寄りがたさ」はあったけど、「恐ろしさ」や「脅威感」はそこまででは無かった。あれは、他の勇者に比べてステータスが低いのが影響しているのかもしれない。……まぁ、コウタのステータスは覗いてないんだけど。
「ま、そういう事だ。それに奴は、俺の指導は受けてねぇしな。十分、お前でもさっき言った領域に行きつくことができる可能性はある」
「……ん。コウタ自身、レベルを上げてステータスを伸ばしてはいるけど、そのステータスを有効活用する訓練は受けてない。というか、そういうのを重要視してない」
師匠の言葉にみーちゃんが補足を入れる。
ステータスを有効活用? よく意味が分からないけど、とりあえず、コウタがサボり症だって事は理解できた。体のスペックに頼って、技を磨こうとしていないって事に近いのかもしれない。
だが、それでもコウタは「勇者」だ。その成長効率は俺のような転生者とはケタが違う。それに、みーちゃん達よりもこっちに来た時期は遅いとはいえ、俺よりはこっちにいた時間が長い。そんな奴に、たった一か月の訓練で対抗できるようになるんだろうか……。
「ま、時間は限られてんだ。さっさと始めんぞ」
そう言って、師匠は腰にぶら下げた片手剣を鞘から抜き放つ。そして、俺の方へと鋭い視線を向ける師匠。どうやら、いきなり実践方式で訓練をつけるらしい。
みーちゃんも、邪魔にならないように庭の端の方へと移動した。
(――とりあえず、今はごちゃごちゃと考えている時じゃないよな……)
促されるように、短剣を腰から抜き放つ。
そうだよな。今は、この師匠に任せるしかない。
ようやく、修行が始まりました……ここまで来るのに、どんだけ尺を使ってんだよぉおおお!
――と、自分に突っ込みを入れつつ。
次回は、ずっと師匠とユートの体での語り合い……というなの男の一騎打ちになるかと。BL臭がしないように頑張ります。←おい(;´・ω・)
今回も読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)




