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第六十話 ユートが去った部屋にて

今回は閑話的な話。当初は挿入する(決して卑猥な意味ではありません)つもりはなかったのですが、いざ書いてみるとすらすらと執筆が進んで――まぁ、後はご察しください。

歯止めが止まらなくなったのです……(ノД`)・゜・。


とりあえず、「あぁ、こんな設定もあるのか」的な感じで読み流していただければと思います。

 ユートが一人の少女を探すため、慌ただしく出ていった後。

 ギルドマスターの部屋にはこの部屋の主であるアリセルとゴドバルトだけが残っていた。


 ユートが出ていったドアを見つめつつ、ゴドバルトはアリセルに声をかける。


「ユートを行かせても良かったのか?」


「どういう意味だ」


「いや、お前は奴に気があったみたいだからな」


「―――――っ! ……あくまでも、『あった』というだけだ」


「ほう、じゃあ、今は?」


「今は唯々、彼らの若さに眩しさを感じるだけだよ……歳だけは本当に取りたくないものだ」


「まだ二十五のくせによく言う」


 お互い目を合わせ、クスクスと笑った。それはまるで、長年付き添ってきた家族の様にも見える。

 ――だが、その雰囲気も次の瞬間には消え去った。

 二人――特にアリセルは真剣な表情を浮かべている。

 そんな中、ゴドバルトが口を開いた。


「で、そろそろ本題に入るか? その為に扉の向こう側で盗み聞ぎしている嬢ちゃんを見逃して、その逃げた嬢ちゃんをユートに追わせたんだろ?」


「この話をするのには、少しばかりユートは出来るだけ自然な形で席を外してもらいたかったからな」


「ま、それはどうでもいい。で、本題はなんだ?」


「――この前、この近辺に出現したドラゴンについての追加情報だ」


「あぁ、そう言えばあれはお前のギルドでの管轄になったんだっけか?」


 そう。およそ二か月前にグリモアの街の近辺に出没したドラゴン。だが、本来はこの近辺にドラゴンを始めとしたランクの高いモンスターの生息域は存在しない。

 その為、当初はこのグリモアの街の近辺の魔物に何か異変が起こったのではないかと予測されていた。そして、その調査を国から受け持ったのがグリモアの街の冒険者ギルドという訳である。基本的に冒険者の者は自分が拠点にしている場所近辺に生息している魔物について、ありとあらゆる情報を覚えている。その事を考慮すれば、この仕事が冒険者ギルドに回ってくるのも頷ける。


「その調査結果だが……どうもドラゴンの取っていた行動を辿ってみると、何かを探していたようだったらしい」


「ドラゴンが人里に降りてきてまで探し物ねぇ……ま、どう考えても普段ドラゴンの取る行動から考えれば普通じゃない。まるで、八年前のエルフの国を壊滅させたドラゴンみたいに……な」


「それに、現在エスラド王都を占拠しているミコイル軍がどうやってかドラゴンを使役しているという情報も入っている」


「となりゃ、今回の件、黒はミコイルって事でほぼ間違いは無さそうだな……で、そのミコイルがドラゴンに何を探させていたのかが問題な訳だが――」


「それは恐らく、ニーナ姫だろう」


 ゴドバルトの言葉に被せるようにしてアリセルがそう断言する。

 それを聞いてゴドバルトはニヤリと笑い、


「だな。それが一番辻褄が合う」


 そうアリセルの言葉に同意した。


「――とりあえず、ここまでが現在判明して、そこから推測できる情報の全てだ。今日の内にでも国王様に報告しておいてくれ」


「おいおい、最後は人任せかよ。それに、国王にも偶には顔を見せてやれ」


「面倒だ」


「ったく、そう言う所は昔から変わってねえな、おい」


 真面目な話が終わったからか、二人の間に弛緩した空気が漂う。

 やはり、テーブルを置いて対峙する二人の間に広がる雰囲気は長年の付き合いを感じさせた。

 そして、そんな空気を肯定するかのように二人は会話を続ける。


「そう言えば、こうやってお前と二人きりで過ごすのも何年ぶりだろうな」


 と、ゴドバルトが話を振れば、


「さぁ。私があなたの元を離れてからだから……八年ぶりくらいじゃないか?」


 と、アリセルは答える。

 その言葉遣いは先ほどと比べて僅かだがお堅い印象が取れているようにも思える。


「そうか、もう八年になっちまったのか……どうだ、お前もそろそろホームシックに――」


「なるか、このバカ。というか、そもそもあなたに決まった家なんて、今も昔も存在しないだろう」


「おっと、ばれてたか」


 アリセルの罵倒――というか悪口に、ゴドバルトはとぼけた様子で応じる。

 それは人によってはバカにされているとも取れる反応だが、アリセルの表情は一切変わらない。

 それどころか、淹れてから時間が経ち、すっかり冷え切ったコーヒーを飲む余裕まで見せる。まるでそれは、すっかり習慣化したような動作。長い時間、このようなやり取りを交わしたことがあるかのようだ。


 その後も、二人の会話は和やかに交わされた。


「――お、そろそろユートの奴はお嬢ちゃんとの決着がついたところだな」


「少し早すぎるんじゃないか? まだ、二十分と少ししか経っていないぞ?」


「なぁに、俺が認めた俺の弟子だ。少女を宥めることぐらい、これぐらいの時間で出来なけりゃ話にならねぇ」


「あなたは一体、ユートに何を施そうとしているんだ……」


 ゴドバルトの言葉に、アリセルが眉間をつまみながら嘆息する。

 しかし、ゴドバルトが立ち上がって「じゃあな」と別れの挨拶を告げると、途端にいつものクールな表情に戻り、


「まぁ、ユートが死なない程度に鍛えてやってくれ」


「分ぁかってるよ。そもそもユートを殺しちゃ、奴の幼馴染であるミヤに俺が殺されちまう」


「――フッ、それもそうだな」


「それに、お前は自分の心配をした方が良いんじゃないのか?」


「……どういう意味だ」


 ゴドバルトから投げかけられた曖昧な言葉に、アリセルは眉間にしわを寄せる。


「ほら、お前も二十五だろ? そろそろ旦那を見つけないと、生きている間に結婚できな――」


「うるっさい! 余計なお世話だ! この()()()父 ()!」


「――おっと、いきなり物を投げるなって」


 そうアリセルに言葉を放ちつつ、アリセルのその強力な「STR値」を以て投げつけられる小物をヒョイヒョイと交わしていくゴドバルト。

 見た目は途轍もなく派手なのだが、その実態はどこにでもある、唯の「親子喧嘩」そのものだった。


「ほらほら、落ち着け。今度、()()()()が良い人を紹介してあげようか? んん?」


「だから! 余計なお世話だと! 言っているだろうが! このバカ親父!」


 ついに堪忍袋の緒が切れるどころか破裂した様子のアリセルが、自身の身体能力を強化してゴドバルトに殴り掛かる。

 ちなみに、そのアリセルは自身のゴドバルトに対する呼び方が「あなた」から「バカ親父」に変化していることに気が付いていない。


「おっと―――相変わらずお前は体も心も小せぇな。そこも昔から変わってない」


 いつの間にか、アリセルの突貫は止められていた。ゴドバルトが前に突き出した一本の腕に頭を掴まれることによって。

 無論、アリセルはそれでも攻撃を当てようと腕を振り回すのだが、いかんせん彼女の体格は小さすぎた。彼女の腕はゴドバルトの体に掠りもしていない。


 そして、ゴドバルトはそんなアリセルを見て、彼にしては珍しい一切の嫌な感じがしない笑顔を作った。


「ま、そんな所が可愛い娘なんだけどよ」


 直後。


 ボフンッ、と。

 そんな音がアリセルからした。その顔は真っ赤に染まっており、どこか余所余所しい。


「――――――っ!」


 羞恥で声が出せない。体を動かせない、


 そんなアリセルを見て、何故彼女が動かないのかを察せないゴドバルトは、とりあえずアリセルの頭を優しく撫でてやるのだった。


 ――その様子は傍目から見るとまるで、本当の「バカ親子」のようだった。




 ――アリセル・クレイヤ。

 親に捨てられ、五歳の時、ゴドバルト・エイシャンテッラに拾われた。それ以来、彼の旅に同伴したヒューマン。

 ゴドバルトを「親父」とし、彼ののキツイ指導のもと着々と実力を伸ばし、十五歳になるころには既にAランクの冒険者として活躍。特定の国に肩入れしないという事でSランクにこそならなかったが、実力はSランクにも届くと言われている。




 そして、何より―――重度のファザコンである。


 その為か、恋愛対象は「強い奴」または「強くなりそうな奴」



――やはり、ファザコンである。

 

















今回も読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)


次回で修行パートの挿入部分は完結。本格的な修行へと――入っていくと思います。たぶん。

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