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第五十六話 信用と自己紹介

少し遅れましたが、何とか投稿。

 会議室の中は異様な空気に包まれた。

 そしてそんな雰囲気の中、「認めない」宣言をしたヤンキー勇者が言葉を続ける。


「そんな奴のいう事を信じるってのか?! 精々、ハイポーションを少し特殊な魔法で調合したってだけだぞ?!」


「はぁ……コウタは何も分かってないわねぇ」


「何だとっ!」


 ヤンキー勇者――本名はコウタというらしい――がエレーナさんのため息に噛みつく。

 しかし、エレーナさんはそんなコウタの反応を受け流し、淡々と語った。


「そもそも、彼が使ったのは全ての魔法を知っているはずの私でさえ知らないような、正真正銘の新出魔法。つまり、誰も彼の言っていることが本当なのかなんて判断することができないのよ。となれば、これは最早、「信じるか信じないか」という問題じゃないわ。「利用するか利用しないか」という問題なの」


 「信じるか」では無く、「利用するか」。

 そんな、実だけを取ろうとする考えは、俺よりもストレア王国という存在が上にいるからこそ出来る事だ。いざという時は――俺がもしこの国に牙をむいた時は、容易く葬ることが出来る。そう確信しているからこそ出来る余裕。

 それは、徹底的に国にプラスになることを追求する人の考えでもあった。


 彼らとて、浅い考えで俺をここに呼んだ訳では無いのだ。


「まぁそれに、彼はミヤさんが常日頃から語っていた幼馴染らしいじゃないですか。彼女が言うからにはそれは事実なのでしょうし、そういう面では信用しても良いと自分は思いますけどね」


「と、いう事だ。勇者・コウタ。おぬしの言いたいことも分からないでもないが、今はなりふり構ってられない状況なのじゃよ。その点、現時点でユート殿ほど腕が立ち、同時に信用を寄せるに足る人物がいないのが現実なんじゃ」


 エレーナさんの言葉に上乗せする形で騎士風の青年が自分の考えを述べ、最後に国王様が結論付ける。


 だが、


「本当にそうなのかよ、国王さんよ?! 本当にそいつは信用に足る奴なのか?」


 それでも、コウタは俺に対する追及を止めようとしない。それは最早、何か全く別のところに執着しているように俺には見えた。勿論、俺自身にどこかコウタに対しての忌避感があった事も否定できなんだけど。


「……逆に、ユウ君が信用に足らない人物だとでも?」


「あぁ、信用できねぇな。そもそも、そいつが本当にお前の幼馴染なのかよ? 六年前に生き別れになった幼馴染が転生して来たなんて、どんだけ低い確率なのか理解してんのか」


「……確かに、確率は低いかもしれない。けど、もしここにいるユウ君が偽物だったとしたら、私が地球にいた時に起こった出来事を知っていることに説明がつかなくなる」


「そんなの、上級の闇魔法でお前の記憶を読み取っちまえば実現可能だろうが!」


 あぁ言えばこう言う。

 こう言えばそう言う。

 そう言えばあぁ言う。


 みーちゃんとコウタの二人の勇者による言い争いは、まるで追いかけっこの様だ。

 どちらも、感情面を無視すれば言っていることは至極正しいし、それを論破していくお互いの指摘もまた適切。どこまでも平行線を辿っていた。


 そんな中、一人が立ち上がる。

 金色の髪を伸ばし、真紅の瞳に強い意志を滾らせた魔王の娘。ニーナだ。


「ユートさんの身の潔癖なら、私が証人となりましょう」


 彼女が立ち上がるなり、そう会場の人々に向かって言い放つ。


「それとも……私が彼を援護するだけでは、あなたの心配を払しょくするのには不十分でしょうか?」


「チッ……」


 ニーナの追撃に、コウタがその強面の顔を不快に歪ませる。


 魔王の娘であるニーナは、所謂「人の本質を見分ける」スキル持ちだ。彼女が嘘をつかない限り、彼女が俺の証人になることは揺るがないまでのアドバンテージになる。少なくとも、俺が「悪い人間」では無い事は証明されるからだ。

 ちなみに、彼女のスキルの事は先ほどの自己紹介の時に既に周知の事実となっている。

 そして、彼女の現在陥っている状況上、彼女が今ここでうそを付くメリットはほぼ無いに等しい。というか無い。


 それらの事はガラの悪い勇者であるコウタも理解しているのだろう。

 盛大に舌打ちを漏らし、俺を睨みつけつつ、


「勝手にしろ。俺は作戦開始まで好きにさせてもらうぜ」


 そう会議室の面々に言い残し、会議室を出ていった。


 彼を引き止めようとするものは誰もいない。もしかすると、コウタがこんな行動に出るのは日常茶飯事なのだろうか。

 どこか狂気さえ孕んでいそうな彼の眼光を真に受け、少し背中に悪寒が走ったものの、それだけで済んだ。もし、今までの絶望的なまでの経験が無ければ、少しちびっていたかもしれない。


 少しヘタレ気味な事を頭の片隅で考えつつ、何とも言えないような嫌な予感って奴が心の中を覆っていくのを感じた。



「さて、少し場が白けてしまったが、ユート殿にはしばらく調合師として協力してもらうという方向で異論はないか?」


 コウタが出ていった後の部屋で、国王様が微妙な空気になってしまった場をリセットするかのように、話の議題修正を測った。

 再度の国王からの問いかけに、今度は満場一致で肯定の意が返った。


 無論、俺にも今度の件に協力するのは吝かではない。

 ニーナの置かれた状況を考えればというのもあるし、何よりも自分が関係していない所でみーちゃんが危険晒されるというのは嫌だった。


 とにかく、こうして、俺が魔王国ストレア王都奪還作戦に携わる事が決まったのである。


「ふぅ、ではこれからどうするかのぉ……」


 今日の本題が終わり、弛緩した様子の国王様がそう呟く。

 公務はしないのかよという思いが無いでも無いが、それを指摘するのは野暮という物だ。誰だって、安らぎのひと時はほしいだろうし。


「そういえば、国王様」


 そこで、騎士風の青年が手を上げた。


「ニーナ姫殿下やユート殿には自己紹介をしてもらいましたが、こちら側の紹介はまだだったのでは?」


「おぉ! そうじゃったそうじゃった」


 そういえば、確かにそうだな。エレーナさんは質問攻めの時に軽く紹介されて、ヤンキー勇者は名前だけは把握したけど、そのほかの人達については一切合切の説明が無かった。

 ここいらで向こう側の自己紹介をしてもらった方が、こちらとしても都合が良いに違いない。


「そうですね、お世話になる皆さまのお名前と役職は把握しておきたいですし」


 騎士風の青年の提案に、隣国の姫であるニーナも同意した。

 隣国の幹部の事をお姫様が知らないことに少し驚きを覚えるが、今まで政治に関してはあまり関わることが無かったという。それに、ストレアの人達もニーナの顔を知らなかったみたいだし、しょうがないのかもしれない。


「では、自分から紹介させてもらいます」


「うむ」


 騎士風の青年が立ち上がって、一礼する。何か貴族っぽい感じの礼の仕方だ。ホモじゃないけど思わず見とれてしまう。


「自分はストレア王国騎士団長を務めさせていただいています、リカルド・ヘッセリンクです。以後、お見知りおきを」


「リカルドはヘッセリンク公爵家の次期当主候補でもある。槍の腕は我が国でも随一じゃ。歳は二十三と若いが、常に冷静な判断を下せる上に実戦経験も多い」


 へぇ、何となくそんな気はしていたけど、騎士風の青年が騎士団長だったなんてな。

 そして、彼が貴族であるという事は予測は付いていたが、貴族は貴族でも王族を除けば一番上の立場である公爵家の次期当主であるという事だ。公爵家は、王族と血縁関係があって、低いながらも王位継承権も持っていると聞いたことがある。

 国王様程じゃないけど、この人もかなりの大物だったんだな。


 次に立ち上がったのはリカルド騎士団長の隣に座っていたエレーナさんだ。

 既に彼女の名前は知っているが、改めて自己紹介って事なんだろう。


「ストレア王国魔法師大隊長エレーナ・アルシュタインよ。趣味は人体解剖。好きなのは厄介な事。研究内容は『人体をより深く理解することにより、魔法をより効率的にMP消費を抑えて運用する』という奴ね。魔法の威力や多彩さではミヤに負けるけど、運用方法では私の方が上のつもりよ」


 爆乳と言って差し支えないおっぱいを揺らしつつ、エレーナ魔法大隊長が自己紹介をし、


「エレーナの実家はアルシュタイン伯爵家じゃ。アルシュタイン家は代々優秀な魔法師を輩出している家柄での。そこの次女に生まれた彼女自身も「魔法才能全」を持った極めて優秀な魔法師じゃ。……少し研究に没頭しすぎるきらいはあるがの」


 と、最後の方をエレーナさんに聞かれない程度の声量でボソッと呟く国王様。

 まぁ、俺も高頻度で「解体しても良い?」と質問されているので、気持ちが分からないわけでもない。


 っていうか、趣味が物凄く悪趣味すぎる。厄介な事が好きとか、一国の幹部としてどうなの、と問い詰めたい気分だ。







今回も読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)

少し区切れが悪いですが、今回はここまでです。

次回分はできるだけ早く投稿しようと思ってます。


現在、全体的な改稿を行っています。

特に、第十七部は丸ごと書き換える予定です。終了次第、活動報告にて報告させていただきます。

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