第五十五話 調合師としての力量
「そして、みーちゃんの……勇者・篠咲美弥の幼馴染です」
その一言から始まった、「自己紹介」。それは実に数十分にも及んだ。
当たり前である。
彼ら異世界人にとって、俺のような転生者は勇者程ではないにしろ、それなりに珍しい存在だからだ。だからこそ、そう易々と俺が転生者であると「確信」が持てない。
何十もの質問に答えた。秘匿しておきたい情報――特に俺独自の能力である可能性が高い「魔法複合」について――は国王様から許可を貰ったうえでノーコメントにしてもらったが、それ以外の物には大体は答えたように思う。
特に、おっぱい星人のお姉さんからの質問は正に怒涛と呼ぶに相応しかった。
何せ、まるでマシンガンのように質問が飛んでくるのだ。
その質問を一部切り取ってみると――
「どうやって転生したのかしら?」
「ねぇ、解体しても良い?」
「あの魔法は一体何?」
「解体しても良い?」
「他にはどんな魔法が使えるのかしら?」
「解体しても――」
「もしかして、他にも未知の魔法を使えたりするのかしら?!」
「解体――」
といった具合に、二回に一回は解体してもいいかという質問をしてくるのだ。
軽く、巨乳恐怖症になるところだったわ。本当に。
だが、それ以上に俺が驚愕したのが、彼女が以前みーちゃん達が言っていた「大魔導士」……改め、「大外道士」様であるという事だ。道理で人を解体しまくろうとしている訳である。
なんでも、彼女の行っている研究の中に「人体を徹底的に理解し、魔法を発動させる際のメリットデメリット――MPの~~」というものがあるらしく、その一環で魔物や死体の解体を行っているとかいないとか。
とりあえず、そこら辺は彼女自身が国にも秘匿していることらしいので詳しい事は聞けなかったのだが。まぁ、おっぱい星人――もとい、「大魔導士エレーナ・アルシュタイン」のやっている研究が途轍もない物であるという事は理解できた。
出来る事ならば、今後はあまり関わりたくない。……たとえ、その彼女がどんなに巨乳だったとしてもだ。
――うん。やっぱりちょっとだけなら、関わっても良い……かな?
「……ユウ君?」
グサッ!
「――痛っ?!」
……みーちゃんに心の奥底を見透かされたようなので、一旦おっぱいを思考から排除。
意識を目の前へと向ける。
「では、ユートさんに質問なのですが――」
そこでは、未だに俺に対する質疑応答が続いていた。
時計を確認すると、かれこれ時間は一時間は経っている。
そして、次に俺に質問してきたのは件の幼女だ。相変わらず、どこか恥ずかしそうにしている。
「ユートさんは先ほど調合されたハイポーションと同じ品質のハイポーションを一時間辺り何本調合可能なのでしょうか?」
鋭い質問だ。
元々、俺がここに呼ばれているのは「戦争の時に必要になるポーション類を短時間で補給するため」である。
それにこう言っては何だが、俺自身、先ほど調合したハイポーションの品質にはそれなりに自信がある。
みーちゃんも、
「……これだけ回復レベルが高かったら、軍事用としては十分以上」
と太鼓判を押してくれたことから、戦争時に使っても十分に効果を発揮してくれると思う。
となると、問題は「生産効率」の一点に集中する。
当たり前だ。
いくら、高い品質の製品を生産出来た所で、その数量が少なければ一か月後の行軍に間に合わないのだから。
戦争を始めとした大規模な戦闘中は兵士の質や量もさることながら、それらを十分に潤す物資や回復手段も大きく戦局を左右することになる。
そんな回復手段の中で最も大きな割合を占めているのがポーションの服用なのだ。
勿論回復魔法という手もあるが、そもそも回復魔法を使える人材というのは少ない。魔法を使える人の内、百人に一人いれば御の字というレベルだ。そして、何よりも回復魔法には「MP量」や「INT値」という絶対的な枷が存在している。前者は使用回数、後者は魔法の効力を決めており、これらを高いレベルで備えている回復魔法使いとなれば、更に人材が少なくなってしまう。
だが、ポーションは現物さえあれば誰でも自己的に治療することが可能であり、利便性が回復魔法のそれとは違い過ぎる。
だから、ポーションはあればあるほどいい。
それが、この世界での「常識」なのだ。
そしてそれを理解している俺は、
「えっと。家の調合キットをフルで使えば、一時間で600本は調合可能です。しかし、品質そのものは回復レベル5まで落ちてしまいますが……」
「ろ、600ですかぁ?!……で、では、ここの調合キットを使えるとすれば、どれだけ……?」
ここの調合キットを使えるとすれば……か。
家にある調合キットでは、一回につき三十本分のポーション類を調合可能だ。
一回の調合にかかる時間は5~6分。調合キットの鍋の数は二個。
だから、600本。
それに対して、ここの調合キットだと。
一回につき製造可能なポーションの量は目測で大体40~50本。
調合にかかる時間も、家にあるそれよりも短く、3分前後といった所か。
で、それと同様のスペックを誇っている調合キットの鍋は三個あったはず……。
「大体、2700本……ですね。勿論、その時によって多少は前後してしまうでしょうけど」
「―――に、2700っ?!」
「……ミヤさんが、何故、幼馴染であるあなたを世界一の調合師だと評したかを理解したような気がします」
そう言って、あきれ顔になる騎士風の青年。
ちなみに俺に質問をぶつけた本人である幼女は、何故か頭を回して「プシューッ」なんて音を頭頂部から上げていた。少し心配だけど、周りの人があまり気にしていないことから、多分大丈夫なんだろう。
『………………………』
……ってあれ? 会場、異様に静かくないか?
何か、国王様を含め、俺の事を事前に知っていたはずの人達も呆れ顔で俺の事を見つめてるし、俺の事を知らなかった人たちに至っては、騎士風の青年以外、俺の事を未確認生物でも見つけたかのようにして驚愕の視線を向けてくる。
「……ん。流石ユウ君。ほかの人の考えを容易に突き破ってくる。その勢いで、私の初めても――」
「あぁぁぁぁぁぁぁあああああ!? そんな事、女の子が言っちゃいけません!」
みーちゃん、君は俺の常識を容易に突き破ってくるよ。ほんと。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、みーちゃんにツッコミを入れる俺。
その叫びが届いたのかは分からないが、会議場のみんなの意識がようやく戻ってくる。
……駿と雅は相変わらず面白そうな笑みを浮かべていたのは、ノーカウントって事で。
「オホン」
国王様が場の空気を変えるかのようにして咳を一つ。
「では、皆の意見を聞かせてもらいたい。ユート殿の力量は今回の件を解決するのに相応しいかどうかだが――」
「自分は賛成です」
「私もです。……後で解体させていただけるなら、尚良しなのですけど」
「わ、私も同感ですっ!」
「寧ろ、このまま我が国お抱えの調合師として雇ってもいい――いや、そう頼み込みたいまでの人材でしょう」
「うむ。我の混沌とし、万人にも見通せない思考さえもそう結論を出している。勇者・ミヤの言った『世界一の調合師』に偽りの文字無しだな」
国王に次々と肯定的な意見を返していく、会議の出席メンバー達。
エレーナさん。解体は死んでもさせません。
あと、謎覆面。そんなに褒めないで。照れちゃうから。
――そんな感じで、この話題は満場一致で賛成の方へと意見が纏まりつつあった。
そんな時である。
「認めねぇ……」
「バンッ」というテーブルを思いっきり叩きつける音と共に立ち上がったのは、例のヤンキー勇者だ。テーブルに打ち付けた手はプルプルと震えており、物凄い形相で俺を睨みつけている。
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