第五十四話 調合チートと覚悟
少し遅れてしまいました……申し訳ありませんm(__)m
結局、治草が入ったタンスの引き出しは厳重な結界がかけられているらしく、治草を手に入れることは出来なかった。
まぁ、それはしょうがない事だ。この後、国王様にあの結界を解いてくれるようお願いするのも気が引けるし、面倒だったので癒草だけを持って調合器具の前に立つ。
「あら? それは癒草ですよね? それじゃあ、ハイポーションは調合できないんじゃないんですか?」
俺の持つ癒草に気がつき、アナ姫殿下がそう聞いてくる。
ちなみに、俺の姫殿下に対する呼び方は本人の希望もあり、「アナ姫殿下」で統一させられた。微妙にみーちゃんの機嫌が悪くなったのが少し怖かった。
「まぁ、そこはちょちょいと……って言う感じでなんとかするんで」
「その強がりがいつまで持つか……だがな」
「……あなたは黙ってて」
ヤンキー勇者が呟いた皮肉に、みーちゃんが噛みつく。
いや、リアルに噛みつこうとしなくていいから。ドウドウ。
まぁ、そんないざこざがありつつ、機材の準備を進める。
悪口、陰口、愚痴、暴言は気にしててもしょうがないのでスルーである。
「よし、それではユート殿。調合を始めてくれ。出来るだけレベルの高い物を頼むぞ」
「はい、分かりました」
国王様のご命令を受け、調合を始めた。
まず、癒草を手に取り、乳棒ですり潰すところから始める。
最早、この作業は何度も繰り返してきた。大体の感覚で一番適切な具合まですり潰されたかどうかを確認しつつ、一つの鍋に水を張り、コンロの上で沸騰させておく。
ちなみに、水を張って沸騰させた鍋は調合キットでは無い。どこにでもあるような一般的な鍋だ。
で、そんな鍋の中で沸騰したお湯に、先ほどまですり潰していた癒草を投入。三分ほど一煮立ちさせる。
「……ユート殿、これは一体何をされているのですかな?」
俺の行っている調合の作業を見て、おっさんがそう質問して来た。
まぁ、それも仕方ない。これは、俺独自に編み出した調合方法なのだから。
「癒草の煮汁を取ってるんですよ」
「ほう、それはなぜですかな?」
何か、おっさんの目がキラキラしだしたぞおい。まるで少女漫画の主人公みたいだな。
きっと、このおっさんも、人生に潤いが少ないに違いない。
「こうした方が、調合品の品質が高くなるんですよ」
これは最近、偶々発見した事だ。
いや、作業の単純さを考えれば、何故、今まで発見されなかったのかが不思議でならない。
まぁ、魔法で作るような品に手作業で一工夫加えるという発想自体、俺が元日本人で無ければ浮かび上がらなかった可能性も高い。それに、調合師を始めとした職人って結構秘密主義者が多いらしいからな。そう言う意味でも、この方法が広まらなかったのかもしれない。
「なるほど……それはそれは……」
そう言うと、おっさんは懐から電卓を取り出して何やら計算をし始めた。
そんなおっさんの様子を見て、他のメンツは「またか」と苦笑を漏らしている。
――と、そんな会話を繰り広げている間に三分が経っていたので、火を消した。
鍋の中身を確認すると、そこにはローポのような薄緑色の液体が存在している。
また、鍋底には癒草の残りかすが沈殿しているのを確認。それを大きめのざるを通すことで取り除き、これで材料の下準備が完全に完了する。
「では今から調合を始めます」
緑色の液体を調合キットである大鍋に入れ、火にかける。
「それにしても、ユート殿は本当に珍しい調合の仕方をされるのですね」
「そうよね。是非、解体してみたいわ」
俺の様子を見て、騎士青年とおっぱい星人が感想を言いあう。
っておい、「解体してみたいわ」とか怖すぎんだろ。どういう事だよ、一体!
で、そして騎士青年!
おっぱい星人の言葉に適当に「そうだね」とかって返さないで!
生命の危機だから!
「ふむ、なるほど……これが『秘伝』というやつか。お前、中々やりおるな?」
いや、別に秘伝とかじゃないから。
覆面の人物の言葉に心の中でツッコミを入れつつ、今度は沸騰して来た液体に調合魔法をかける。
「『我は癒しを増幅する者なり』」
流石に俺のイメージ力では「回復特化調合魔法」を無詠唱で発動させることは叶わなかったので、詠唱を入れて魔法を発動させる。
「今の詠唱は聞いたことが無いわね……」
おっぱい星人が詠唱の奇妙さに気が付いたようで不思議そうに声を漏らしているが、そこはスルーである。
それにしても、ここの調合器具は思っていた以上に高性能な様だ。調合魔法をかけた後の反応が異常なほどに早い。
一体、どんな製法で作られ、そもそも誰がこんな高性能な調合器具を作ったのだろうか。
そんな素朴な疑問が湧いてくる中、調合魔法の効果によってしばらく発光し続けていた鍋の中身の変化が終わり、中身を「鑑定」を使って調べた。
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「ハイポーション」:傷の回復速度を大幅に速め、更に体力も大幅に回復させる。
回復レベル:8
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「よし、上手くできたな」
それにしても、回復レベル8か……今までの最高が確か回復レベル5だったはずなので、結構いい物が出来た気がする。
「えっと……ユート様。『出来た』とは?」
いや、出来たもなにも……。
「言葉通りの意味ですが……」
俺のその呟きに、その場にいた勇者三人と国王様や王妃様以外の人たちが反応し、鍋の中を覗き込み始めた。
「ほ……本当です?!」
「鑑定」か「看破」で鍋の中身の詳細を見たらしい幼女が驚愕の声を上げた。
「いやはや。まさか本当に癒草からハイポーションを作ってしまうとは……」
「えぇ、これは最早、革命よ、革命。是非、解体してみたいわね」
俺は解体されたくないです。
「おい、ゴラッ」
突然、ヤンキー勇者から途轍もない殺気が放たれる。
「てめぇ、一体何者だ?」
「いや、何者かと聞かれても……唯の一般人と答える以外には……」
「るっせぇ! 美弥を近くで侍らせて、あり得ない調合技術。どこが一般人なんだよ、あぁ?!」
すげぇ興奮してるな、ヤンキー勇者……。
俺はチラリ、と国王様に視線を向ける。
流石にこいつを落ち着かせるのは俺には荷が重すぎだ。今、ここで真実を語ってもいいんだけど、そのせいで余計にこのヤンキー勇者が興奮するのも面倒だしな。
無礼かもしれないが、ここはこの中で一番権限が強い(はず)の国王様に任せるのがベストだろう。
「まぁ、落ち着くのだ」
国王様がヤンキー勇者の肩に手をかけつつ、そう彼を宥めた。
「……チッ」
流石に国王様に何かを言うのは憚れたらしく、ヤンキー勇者は盛大に舌打ちをしつつ引き下がる。
そしてそれを見た国王様は、
「では、話の続きは会議室に戻ってからしようかの」
そう言い、一同を会議室へ戻るように促すのだった。
会議室に戻った後、国王様は俺に自己紹介の続きを促した。
「では、皆も気になっていると思うがユート殿に色々と話してもらうとするかの」
何故か、「色々と」というフレーズを強調する国王様。
……って、これ、多分国王様は俺が転生者だって事知ってるよな?
まぁ、駿達は立場的には国王様直属の部下的扱いらしいし、周りの反応を見るからに、どうもその事を知ってるのは国王様以外には、王妃様とアナ姫殿下ぐらいみたいだから特に大きな問題はないんだが。
上司への報告ってのはどこの世界でも大事だから、このぐらいは許容範囲内だろう。
とりあえず国王様からの催促もあることだし、話すとするか。
まず、手始めに、俺自身にかけていた闇魔法「幻影」を解き、髪の色を元の黒髪へと戻した。
これは、この世界では黒髪がやたらと少なく、とても目立つことから取っていた措置である。ちなみに、この魔法がかけられている間、俺の髪の色は一部の人間以外からは赤色に見えていたはずである。
そんな訳で、厳密に言えば「黒髪に戻った」のではなくて「黒髪に見えるようにした」というのが正解なのだが、まぁそれは些細な違いだろう。細かい事を気にしてたらしわが増えてしまう。
俺は立ち上がった。
周りを見てみれば、国王一家と勇者三人以外の面子は俺の髪を凝視して驚きを露わにしている。
――もう、ここまで来たら後戻りはできない。……いや、俺があの時、あの場所でみーちゃんと再会してから、こうなるのは必然だったのだ。
六年前の、俺の目の前からみーちゃんがいなくなったあの日。死ぬほど後悔した俺が、そんな大切に想っている幼馴染と無関係を通すことなんて出来っこなかったのだから。
ならば。
「見ての通り、俺は転生者です」
今、覚悟を決める。
「そして、みーちゃんの……勇者・篠咲美弥の幼馴染です」
どんな事が待ち受けていても、みーちゃんを助ける。と。




