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第五十一話 国王との謁見と勇者の婚約者

 国王の名乗りに対し、エスラドの姫君であるニーナが返す。


「お初お目にかかります、ストレア国王。私は魔王国エスラド国王セルバンティス・マスカレイド・ウル・エスラドの娘、ニーナ・アストラル・エル・エスラドにございます」


 そう堂々と告げるニーナは、正しく一国のお姫様である。

 そんなニーナを見て、ストレア国王は微笑ましそうに、


「いや、お主とは一回顔合わせしておるぞ? 最も、それは十六年前、お主が生まれた時の誕生祭にわしが出席した時だがな……そうか、あの時の赤ん坊がこんなに大きくなったのだな」


「はい、これも、ストレア王国と我が国、及び他国の同盟による団結のおかげです。改めて、お礼を申し上げます、ストレア国王陛下」


「なに、礼など言われるには及ばんよ。我が国としても、滅んでしまった我が妻の国にしても、近辺諸国にしても、特定の種族だけを優遇しようとする事は避けたいのだからの。その点、常に戦いの最前線に立ち連合軍をけん引しているエスラドにはこちらから感謝したいぐらいじゃ」


 って、ニーナの国ってそんな重要な役割をしてたのかよ。……でもこれで、何故エスラドがここ(ストレア)よりも先にミコイルに攻め込まれたのか、理由が分かったような気がする。


「――して、そちらの少年が最近グリモアの街に現れた転生者のユート殿か?」


「……えっ?! あ、はい! た、多分そうだと思います」


「うむ。よくぞ顔を見せてくれたな。お主のことは美弥から聞いておるぞ」


「は、はい!」


 やべぇ、何か王様と話すのって無性に緊張するな。神様の時はそうでもなかったんだが……まぁ、あの時は現実味ってのがいまいち無かったからか。

 にしても、みーちゃんは一体どんな事を国王に喋ったのだろうか、国王のこちらを見る目が、心なしかおもちゃを見つけた子供のような目をしている。


 とりあえず、俺の少し雑な言葉使いに機嫌を悪くした様子はない。その事に関しては一安心……か。


「では、ここで話すのもなんじゃから、場所を移動するかの」


 大体自己紹介を終えた所で、国王が席を立つ。

 そして、謁見の間に集っている人々を見渡した。


「わしはこれから、客人達と重要な案件を話さなくてはならぬ。皆の者は自分の持ち場に戻れ」


『はっ!』


 国王の命令に騎士やメイド等、全ての物が肯定の意を返し、


「では、わしに付いて来てほしい」


 それを聞いた国王は数人のメイドを連れて、謁見の間を出ていく。

 俺たち五人もそれに続いた。






 大きく取られた窓から差し込む光を浴びつつ歩き続ける事、約五分。

 あり得ない程の広さを持つ王城の中でも、謁見の間にほど近い場所に国王の目的の部屋はあった。


「皆の物、遠慮せずに入ってくれ……とはいっても、駿たちには必要のない言葉じゃろうがな」


 冗談を交えつつ、国王がその部屋の真っ白な扉を開く。

 本来、戸を開けるとかそういう作業は召使に任せるような印象があるのだけど、この世界では違うんだろうか。

 そんな事を考えつつ、国王に促されて部屋の中に入る。

部屋の中は所謂会議室のような所らしく、大きく丸い机が部屋の中央に置かれ、その周りを質素な椅子が二十ほど囲んでいた。


 そんな中、


 部屋の中では一人の少女と、一人の二十代くらいに見える女性が並んで座り談笑していた。


「やぁ、アナ。君もここにいたんだ」


 駿のその言葉に、少女がこちらへと視線を向ける。


「シュン! 王都に戻って来ていたのですね!」


 そして、駿の姿を見つけるなり、花が咲いたような笑顔で少女が駿に駆け寄る。


 その時の少女の笑顔は、男女問わずに引きつけられてしまいそうな魅力があった。かくいう俺も、みーちゃんといる時とは違う意味で「ドキッ」とさせられてその笑顔に見入ってしまう。――そうなると、自然に俺の視界には、その少女が持つ、レティアをも超えるかもしれない大きな二つの膨らみが映るわけで……


「……ユウ君」


「――いてっ!」


 いつの間にか近くへと忍び寄っていたみーちゃんに、足の甲を踵で踏みつけられた。しかも、みーちゃんは今現在ハイヒール状の靴を履いているので地味に痛い。


「……一体、どこを見ているの?」


 その言葉と共に、俺の足を踏みつけているヒールをグリグリと捻るみーちゃん。地味な痛さが、結構はっきりとした痛さに変わる。

 ……あと、俺を睨みつけてくるみーちゃんの視線が物凄く怖い。


「い、いや……何と言いますか。これはあくまでも男としての当然の反応でして……だから、その――」


「……ギルティ――だよ?」


「はい」


 ――このまま少女に見とれていたらもっと踏みつけられそうだったので、即座に視線を少女から外した。

 そうする事で、ようやくみーちゃんが俺の足から自身の足を退かしてくれる。


 ていうか、多分、あのまま少女を見つめていたら、火属性魔法で火あぶりにされていたかもしれない。それぐらいの殺気がみーちゃんの視線に込められていた。


 結局、男というのは重要な所では女にはかなわないのである。

 俺は心の中で男の立場の低さを嘆き、溜め息を付いた。







「はぁ?! 駿の婚約者ぁ!?」


 王城の会議室に、俺の渾身の叫びが響く。無礼なんて気にしてられるかといわんばかりの勢いである。


だけど、考えてみてほしい。

例えば、自分の男友達が誰か特定のかわいい女子と仲良くしていたとして。二人の間に流れる雰囲気がとてもよさげなものだったとしよう。だが、その男友達は別の女子と付き合っていた。

しかも、その女子が――正真正銘のお姫様だったら。

……うん。俺なら殺意が沸くね。


「はい」


「まぁ、そういう事になるのかな」


 俺の叫びに対し、俺の相対する席の隣同士座ってにこやかに答える二人。

 一人は駿で、もう一人がこの国の王の娘――つまるところ、王である女様アナリュエル・ファトラーダ・ストレア姫殿下。略称はアナ。親しい者は彼女の事をそう呼ぶらしい。

 ちなみに、お姫様だけあってとてつもない美少女である。


 そして、彼女が駿の婚約者であり、そんなお姫様をお嫁に貰う駿は未来の国王候補なんだとか。


「シュン! そういう曖昧な言い方をするから、あなたは次々と他の女性を引っ掛けてきてしまうのですよ。分かっているのですか?」


 どうやら駿の発言が気に入らなかったらしく、駿への説教を始めるアナリュエル姫殿下。


 つーか、駿。お前、一体どこのラノベ主人公なんだよ。婚約者がいる状態で多数の女の子を引っ掛けてくるとか羨ま――いや、許されることじゃないぞ、こら。


「まぁまぁ落ち着きなさい、アナ。客人の前で失礼ですよ」


 そう言ってアナリュエル姫殿下を宥めるこのきれいで二十代にしか見えない女性が、エーヴリル・フォーランド・ストレア王妃様。つまり、ストレア国王の奥様にあたる人物だ。


「それに、今はそんな事を言っている場合じゃないでしょう」


「そ、そうでしたわね……ですが、シュン、この事は後でちゃんとお話しましょうね?」


「ア、アハハ……」


 自身の母親から注意を受けたお姫様に念を押され、タジタジになる駿。


「すげぇな、あのお姫様。ドラゴンを瞬殺した駿がタジタジじゃねぇか……」


「まぁ、アナちゃんもお母さんがエルフの王族ってだけあって、魔法の才能に関してはSランク冒険者にも負けないって言われてるからね」


 俺の呟きに対し、雅が初耳な情報を教えてくれる。


「え……王妃様ってエルフなのか?」


「……そうだよ?」


 知らなかったの? と、如何にも不思議そうにみーちゃんが聞いてくるが、俺がこっちの世界に来てからまだ二か月ほどしかたっていない。しかも、その間は冒険者活動をしたり、調合したり、店を経営していたりと、殆どグリモアの街から離れることが無かった。

 そんな俺が、王妃様がエルフだって事を知らないのも無理はないと思う。


 俺がそんな言い訳がましいことを考えていると、今までニーナと何やら話していた姫殿下の視線が俺の方へと飛んできた。


「あなたが、よくミヤが話していたユウト様ですね。お初お目にかかります。わたくしはストレ王国第一王女アナリュエル・ファトラーダ・ストレアと申します。気楽に『アナ』と呼んでくだされば嬉しいですわ」


 一礼する姫殿下。その様は彼女の種族である「ハーフエルフ」という特異性と相まって、どこか神々しささえ放っており、この少女が紛れもなく王族の一人なのだと改めて理解させられる。


「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします。それと、今の俺の名前は裕翔では無く、「ユート」です」


「あら、これは失礼しました」


 俺の自己紹介に、姫殿下はクスクスと笑う。

 その綺麗な笑顔に、思わず俺が目を奪われていると。


「――ドスッ」


「―――――ッ!? (つう)っ!」


 再び、足の甲に衝撃。みーちゃんによって、ヒールで穴を空けられるのではないかと錯覚するくらいの激痛がもたらされる。


「……ユウ君。アナは人妻。じろじろ見てたら失礼」


 いや、確かに姫殿下は駿の婚約者だけど、『人妻』っていう括りじゃないだろ。

 あと、じろじろ見てたりなんかしてないし……多分。決して、姫様の豊満な胸に気を取られたりなんかしてねぇし……多分。


「まぁまぁ美弥。とりあえず落ち着いて。これじゃあ、いつまでたっても話が進まないからさ」


「……ん。しょうがない」


 駿に宥められ、俺の足の甲からヒールの踵をどかすみーちゃん。

 そうして、ようやく場の雰囲気が真剣な物に変わる。

 それを感じ取った国王が皆に言い聞かせるようにして口を開く。


「皆、今日はよく集まってくれた」


 国王の言葉に、俺を含めた全員が頷く。


「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。先日、ミコイルの軍勢に強襲され、占拠されたエスラドの王都及び、エスラド国王の解放の為、我が国と近隣の同盟国が協力して軍を派遣することが決定したからじゃ――後は、他に呼んでいる者達が来てから話そう。今は楽にしてくれ」


 そう言い、国王は口を閉じた。


 皆、驚きはしなかった。それは、俺も同じ。


 俺自身、現在の世界情勢がどうなっているのかはよく分からないが、王都を占拠され、王族もニーナを除いて幽閉されている現在のエスラドの状態がストレア王国にとって都合が悪いという事。そして、この状況を好転させるには、こちらから攻めるしかいのだろうという事ぐらいは理解できる。


 つまり、これから起こるのは戦争だ。


 勿論、二か月前まで日本に住んでいた俺は未経験。

 「魔物」相手なら何度か戦ったが、「人間」相手に戦った事なんて、つい昨日のアルバスの時ぐらいしかない。つまり、対人戦童貞と言っても良いぐらい。


 怖いか、と聞かれれば「怖い」と答えざる負えない。


 なんつっても、初めての対人戦でボコボコにやられたのだ。ゲームでCPU戦ばっかやってて、調子に乗ってオンラインで対人戦してボロ負けした時の心理状況に似てる。


 まぁ、だからと言って、ここで引くつもりはない。


 俺は決めたのだ。


 もう、何かに悔いないように、何からも目を背けないようにして生きていこうって。


 ……とは言え、俺自身が最前線に立って戦う確率なんて、現時点ではかなり低いんだろうけど。


 そんな風に現状を結論付け、俺は他の人と話しながら、国王が呼んだという他の人物を待った。







少しあっさりとしてるような気もしますが、とりあえずここまで。

今回、セリフとセリフの間を一行開けてみたのですが、見やすさはどうだったでしょうか?

もしよければ、コメントで教えていただけるとありがたいです。

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