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第五十話 王都へ

久々の連日投稿(約半年ぶりくらい)あと二~三日くらいは連日投稿できると思います。

「これが、私が皆さんに話さなければいけなかった事の全てです」

「そんな事が……」


 ニーナの話が終わり、開いた口がふさがらない気分になる。


「そして、先ほど襲撃して来たミジェランという人物。彼は行方不明となっていたタクヤです」

「……マジか?」


 漏れ出る、驚愕の声。


 他に話を聞いていた勇者三人は、どこか納得したような表情を浮かべている。……いや、みーちゃんは俺が焼いたクッキーを食って恍惚とした表情を浮かべているんだけど。


 念のため、ニーナの勘違いではないかと質問するが、それは無いと即答で返され、黙り込む俺。

よく考えれば、ニーナはタクヤっていう護衛騎士と六年間は一緒にいた上、彼女自身が人間の本質を見極める魔眼持ちでもある。彼女の言っている事に間違いはないのだろう。


だが、はっきり言って、この怒涛の展開に上手くついていけない。


 ミジェランという名のミコイル側の駒の輩は、本当はニーナの恋人で護衛騎士である「タクヤ」だった。そして、本来はニーナを守る立場であるはずのタクヤは、何故かミコイル側に与し、ニーナを襲っている。

 タクヤ側に心変わりでもあったのか。それとも何か別の理由があったのか。今の俺に判別のつけようはない。


 唯、一つ言えることといえば、その襲ってきたミジェラン――タクヤは今現在、何か問題を抱えているのだろうということぐらいだ。

 俺とニーナをアルバスとタクヤが襲ってきたあの時。俺がアルバスによって一方的にいたぶられていたにも拘らず、タクヤはニーナには一切手を触れようとしなかった。その気になれば、俺が倒れているすぐ傍でニーナをいかようにも出来たというのにだ。

 流石に、アルバスから釘を刺されていたからというだけの理由ではないはず。


 あるいは、元々ニーナが「目的」では無かったのかもしれないが、彼ら二人が交わした会話から考えると、その確率は殆どないようにも思う。

 矛盾している。何もかもが。まるで、タクヤの思っていることと、実際の行動が全く別々の物になっているみたいだ。二重人格になってると言われた方が納得できるまである。


「分からねぇ……一体、何がどうなって、そのタクヤは俺たちに敵対行動を取ってるんだ?」


 頭の中だけでは抑えきれず、溜まったモヤモヤとした感覚が口を突いて出る。

 そんな俺の言葉に反応したみーちゃんが、キョトンとした表情でこちらを見つめてきた。


「……ユウ君、気が付かなかったの?」

「えっと……それは、何に?」


 何故、みーちゃんに唖然とされたのかが分からない俺は、素直にみーちゃんに問い返す。


「……あのタクヤって人、奴隷にされていたんだよ?」

「……は? ドレイって……あの「奴隷」?」

「……ん。よく、自分の主人にエロい命令をされて、ハァハァとイッちゃった表情で喘ぐ、あの奴隷」


 俺の質問に対し、実に淡々と答えるみーちゃん。

 でも、その認識は色々と間違ってると思う。誰だよ、みーちゃんにこういう教育を施した奴は! ……今後、みーちゃんの教育指導にあたっている人物に遭遇したら、一発かましてやろう。


 俺がそんな決意を密かに固めていると、テーブルの向かい側に座った雅が、少し冷めた紅茶を飲みながら、


「あと、タクヤ以外にも、アルバスも奴隷化してたわよね。ま、ミコイルの特殊部隊って、八割が奴隷なのは比較的有名な話なんだけどね」

「えっ、俺は初耳なんだけど」

「ユートは僕達やこの世界の住人とは違って、この世界にいた時間はあまり長くはないからしょうがないんじゃないかな。元々、この話はあくまでも情報通や国の上層部の中では有名みたいな感じだし」


 だから、ユートがこの話を知らなくても不思議じゃないし、それが普通だよ。と、駿がフォローを入れる。


「って事は、タクヤが行方不明になったのは、ミコイルの奴隷にさせられて連れ去られたからってのが理由なのか?」

「まぁ、ミジェランの正体が行方不明だったタクヤだって事を知ったのはついさっき、うちの情報係が掴んできた情報を教えてもらったからだし、絶対とは言い切れないけど、その可能性はかなり高いんじゃないかな」


 駿はそう言うが、はっきり言って、それ以外の理由であることは殆どないだろう。まぁ、その駿も、内心ではそう考えていることが薄々と感じられるんだけど。


 しかし、今までの事を考えると。


「アルバスも、タクヤと同じで奴隷化させられることによって無理矢理戦わされているって事なのか?」

「いや、それはあり得ないよ」


 俺の言葉は即座に駿に否定される。そして、そのまま駿が言葉を続ける。


「アルバス……彼は所謂戦闘狂(バトルジャンキー)なんだよ。だから、彼は自分が戦う事さえできれば他のことはどうでもいいと思ってる。それは、他人の命も、他人の心も。そして、自分の命さえも……ね」

「戦いの中で死ぬことが本望なんて叫んでたくらいだしね」


 駿の言葉に雅が賛同する。

 二人の話を聞き、心の中で納得する俺。俺をけちょんけちょんにしていた時のアルバスの言動は、確かに戦闘狂(バトルジャンキー)のそれだったように思う。


 ちなみに、駿はアルバスの性格について語っている時、淡々とした口調とは裏腹に、表情はどこか苦虫を噛み潰しているかのようだった。もしかすると、過去にアルバスと戦った時のことでも思い出しているのかもしれない。


「あの、勇者の皆様に頼みたいことがあるのでよろしいでしょうか」


 今までしばらく口を閉じていたニーナが、手を上げる。

 そんなニーナの質問に、俺たち四人は肯定の意を返した。


「本来は、もう少し後に国の援助を受けるという流れで行きたかったのですが、既にミコイルの方に私の居場所はばれてしまいました。それに、行方不明だったタクヤが今、ミコイルに利用されていることも分かりました」


 そう語るニーナの目には、もう、かつての婚約者――タクヤを目の前にして怯えていた時のような弱々しい物はない。

 ましてや、あの夜の時のような、誰かに縋りついていないと壊れてしまいそうなもろさも存在していない。


 あるのは、唯、


「私は、彼を取り戻したいです。そして、国を取り戻したい。ですので、どうか、私をストレア国王の元へ連れて行ってはもらえないでしょうか」


 自分の愛する人、愛する物を取り戻そうとする強さだけである。


「分かりました、姫殿下。あなたを我が王の元へとご案内しましょう」


 自分の決意を言葉にするニーナに対し、駿と雅は王国式の王族に対する礼を以て返答するのだった。


 そして、ニーナの願いを聞き入れた駿はその顔をこちらへと向けて何故かにこりと微笑んで見せる。


「――というわけで、明日、ユートにも王宮に来てもらうから、そのつもりでいてね」

「どういう訳だよっ?!」


 そして、とてつもなく巨大な爆弾を投下しやがるのだった。



 ――なお、そのある意味緊張する場面でも、マイペースオブマイペースを地で行っているみーちゃんはクッキーを呑気に食べていた事を付け加えておこう。



◆◇◆◇◆



 王都エンジェリオン。

 大国ストレア王国の王都。


 面積は約90キロ平方メートル。王宮を中心に放射線状に広がったその広大な町には、およそ150万人が住んでいる。


 町は常に活気に満ちており、そこを行き交っている種族も様々。


 人種であり、俺自身の種族でもある人族。


 亜人種である森人族(エルフ)地人族(ドワーフ)


 獣人種の猫人族(キャットピープル)狼人族(ウルフピープル)


 そして、少数ながら魔人種の人々も町を混じっていたりする。


 普通、これだけの他種族がいたら問題の一つや二つは起こってもおかしくはない。実際、「人種のサラダボール」って言われているぐらい、色々な人種の人が住んでいるアメリカでは、差別などが問題として指摘されている。

 だが、ストレア王国自体が昔からあらゆる人種を受け入れていることもあって、この王都どころか、国全体で見ても、他種族間の問題というのは、価値観の相違によるもの以外には起こっていなかったりする。

 そんな、比較的平和で適度に騒がしい王都エンジェリオン。



 今、俺はそんな大都市の中心に建っている巨大な城――王城の廊下を歩いていた。


 先頭を進むのは、この王城のメイド長を務めているというマリーダさん。六十代に差し掛かっているといういい年したおばあちゃんメイドなのだが、その動きはまだまだ若々しい。駿によると、戦闘能力もDランク冒険者を軽くあしらえるくらいにはあるのだとか。

 勿論、仕事も完璧にこなし、城のメイドを完全に統括しているというスーパーウーマン筆頭である。

 ちなみに、城で雇われているメイドは百人ほど。それを彼女一人が管理しているというのだから、どれだけマリーダさんがハイスペックなのかがよく分かる。


 そんなスーパーメイド長マリーダさんのすぐ後ろを着いていくのは、城が用意したといういかにも高そうなドレスを身に纏ったニーナ。……いや、ニーナ姫殿下。

 彼女が身に纏っているそのドレスは所々に小さな宝石があしらわれており、ニーナの金髪との相乗効果によって色々と視線を集めるものとなっている。ニーナ自身、元々が美少女なので、そんなドレスを着ていても全く違和感を感じない。


 そしてそれは、俺の周りを歩いている勇者三人も同じ。


 駿はブラックドラゴンとやった時や、アルバス達と対峙した時と同じ金色のラインが映える軽鎧を着ていて、まさに勇者・英雄という雰囲気を辺りに醸し出している。


 みーちゃんは無地ながら、何やら一般品とは違う風格を感じる魔法使い用のローブを羽織っているし、雅は彼女の黒髪ロングに良く似合う着物を身に纏っていた。


 ――で、そんな色々と個性的な連中の中心を進んでいる(いつの間にかこんな並びになってた)俺の服装が問題だった。


「……なぁ、駿。俺、明らかに服に着られてる感がヤバくないか?」

「そんなことないって。元々ユートはそれなりに背が高いんだから、その貴族用の儀式服も良く似合ってるよ」


 そう。駿が言った通り、俺は貴族が何かしらの儀式のときに着る「儀式服」というのを着用しているのである。


 これは今朝、王城のメイドたちに(文字通り)着せ替え人形にされて一時間ほどかけて選んだ物であり、真っ白なズボン、そして真っ白なシャツに色々と装飾を施された紺色をベースにした上着を着せられていた。根っからの庶民的な感覚を持っている俺からすれば服に「着られている」感が物凄いするのだが、王城の人間やニーナから見ると中々様になっているらしい。

 俺の感覚がおかしいのかもとも思ったが、この王城にいるのは、所謂庶民とは一味も二味も感覚が違う人たちばかりなので、その面はあまり気にしないようにしている。


 ちなみに、本日も昨日に続き、お店の方はお休み。レティアやユリさん、アリセルにもその事は伝えてある。まぁ、休店に関する「本当の理由」を伝えてあるのはアリセルのみだが。


「ニーナ・エスラド姫殿下、ユート様、こちらが謁見の間となります」


 先頭を歩くマリーダさんが、とある大きな扉の前で立ち止まった。どうやら、王様が待つ部屋へとたどり着いたらしい。


 直後、「ゴゴーン」とかいう、結構大層な効果音と共にその扉が開かれる。

 その奥に広がるのは、謁見の間の奥の方へと続くレッドカーペット(セレブの特権)

 そして、その道の両側に等間隔に並ぶ鎧を着たストレアの騎士たち。


「では皆さま、お進みください」


 そう言って、俺たち五人の横へ移動するマリーダさん。どうやら、ここからは俺たちだけで進めという事の様だ。


「それじゃあ、行こうか」


 駿がニーナと俺に進むよう促す。


「だけど、俺、こういう時の作法なんて知らないぞ? 失礼な態度とか無意識に取ったら」

「……大丈夫、私たちの真似をすれば、無礼に当たることは無い」

「そもそも、あの王様は多少無礼を働いたところで『打ち首じゃー!』とか、『我のメイドになれ』とかは言わないから安心して」


 俺の心配事を払しょくするように、みーちゃんと雅が大丈夫だと俺の背中を押す。

 少しおかしい言葉が混じっていたのは、雅なりのユーモアなのだろう。


「まぁ、あまり緊張しなくてもいいと思う。そもそも、ユートの事をここに呼んだのって国王自身がそれを望んだって事もあるからね」

「そうなのか?」

「うん。だから、肩の力を抜いて、変な事さえしなければそれでいいよ」


 まぁ、駿がそう言うんだったらそうなんだろう。

 国王自ら呼んだんだったら、それなるに寛容に見てくれてもいいだろうし。


「魔王国エスラド第一王女、ニーナ・アストラル・エル・エスラド姫殿下。三勇者、駿様、雅様、美弥様。グリモアの街の特級調合師ユート殿の入場です」


 そんなアナウンスっぽいのが謁見の間に流れて、直後、部屋の中で待機していたらしいオーケストラによる演奏が始まる。

 ちなみに、演奏されている曲は何なのかは知らない。唯、どこかルネッサンスっぽかった。


 そんな演奏の中、先頭のニーナがレッドカーペットの上を歩き始める。俺は彼女の後ろを慌てて追いかける。勿論、走るなんてへまはしない。流石にその事くらいは弁えているつもりだ。


 それにしても、周りの騎士達から発せられる威圧感が半端では無い。

 そして、アルバスと対峙した時も威圧感は凄かったが、あれとはまたベクトルが違うような気がする。あれは純粋に「殺気」をぶつけられていたのに対して、今の騎士たちからはどこか俺を「見定めて」いるような、そんな気配が感じられた。

 まぁ、そんな駆け引きに関してド素人の俺が感じたことなので、気のせいという事も十分にあり得るんだけど。


 俺がそんな事を考えている内に、俺たち五人は何やら豪華に装飾された椅子に座る、いい年こいたおじさまの前へとたどり着く。頭にかぶっている王冠がやたらと印象的で、その全身からは「威厳」のような物がにじみ出ているようにも思う。


 いつの間にか、オーケストラによる演奏は止まっていた。


「……ユウ君、頭下げて」


 みーちゃんにそう言われ、ようやく周りの四人だけでなく、騎士や隅の方に集まっていた使用人たちが皆一様に頭を深々と下げ膝を突いているのに気が付く。俺もそれに慌てて続いた。


(やべぇ、不敬罪とかに問われないだろうな……?)


 先ほどのみーちゃんと雅の言葉が丸っきり嘘だとは思っていないが、同時に完全に本当だという確証も無い。心の中で冷や汗を垂らしながら、何か動きがあるまで現状を維持する事に。


 そして、数秒の後、目の前のおじさま(恐らく国王様なんだろう)が仰々しい口調で、


「面を上げよ」


 俺たち五人は顔を上げる。

 そしてそれを見たおじさまは、


「よく来たの、ニーナ姫殿下、そして特級調合師ユートよ。わしがストレア国王、ユリウス・マージェナル・ストレア十三世じゃ」


 そう、俺の予想通りの身分を告げた。

国王様との謁見である。





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