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第五話 異世界の食事事情は色々と型破り

「パーララパラララー…パーパララララララララ♪」



「……ちょい待て、こら!」


 俺は8時にセットしておいた目覚ましの音で目が覚めた。


 うん、目が覚めただけだったら別に良かった。だが、これは明らかにおかしい。


「何で、異世界で買った時計の目覚ましの音が、世界ミステリー系番組の主題歌なんだよっ?!」


 あれか?!ここが異世界だから、ある意味『ふしぎ発見』という言葉遊び的な感じなのか?


「って、……何で朝からこんなに思いっきり突っ込まなくちゃいけないんだよ……」


 俺はすっかり明るくなった部屋の中、涙を一つこぼしながら、ベッドからモソモソとおりる。謎な事に、世界ふしぎ発見の音楽を流した腕時計の目覚ましを切り、腕に巻きつける。


「これから毎朝これを聞かされるのは、流石に調子が狂うな……流れる音楽、切り替えられないかな?」


 そう思って腕時計をいじったら、いくつか目覚まし用に設定できる音楽があることが分かった。試しに一つ一つ聞いてみる。



「パラララララパラララララパラララララパラララ♪パララパララパララパララパララパララパララパララララララララララ………ダンダン♪」



「おい、だから待てこらっ!何で、異世界の目覚まし時計から青いネコ型ロボットの主題歌が流れてくるんだよ!」


 最早、この目覚まし時計が四次元ポケット状態だな!


 俺はそんなツッコミをしながら、次の音楽を流す。結局、次の音楽は日本で聞いた事のあるようなものでは無く、すぐに目覚ましの音をそれに設定すると、ようやく一息つくことができた。朝から有酸素運動をした気分になるが、恐らく気のせいではないだろう。


「って、そんな事を考えてる暇はないよな。確か、朝飯の時間は6時~9時だったから、あと一時間か。早めに行かなくちゃな」


 俺は服を手早く着替える。そういえば、昨晩はぶっ通しで調合していたため、着替えをするのを忘れていた。この世界の服は今のところは二着しかないし、今日の内に服屋なりに行って、新しく服を何着か買っといた方がいいかもしれん。


 俺はそんな事を考えながら部屋に鍵をかけ、食堂がある一階へとおりた。すると、そこには既に幾人かの宿泊客らしき人々がたむろしており、食堂の食事に舌鼓を打っていた。


 昨日に出た食事もそうだが、今朝の朝食も中々おいしそうだ。

 臭いにつられるようにして、俺は食堂の空いている席に座る。

 すると、そこに、「笑顔がステキな受付さんその二」こと、エイルの宿の看板娘、ユリさんが注文を取るためにやってくる。今日も相変わらず、ブラウンの髪のポニーテールが似合っている。


「おはよー。ユート君」

「ユリさん、おはようございます」

「うんうん。昨日はよく眠れた?」

「えぇ、ベッドもふかふかでしたし」


 ユリさんの質問にそう答えるものの、これは嘘だ。昨晩は調合の実験のため、結局は三時間しか寝ていない。だが、日本にいた時の睡眠時間も似たり寄ったりな感じなので、特に眠気は感じない。悟りが開けるレベルだ。

 俺がユリさんの質問に嘘で答えると、突然、ユリさんが俺の顔色を伺うかのように見てきた。


「嘘でしょ?」

「はい?」

「ユート君、昨晩はあまり寝ていないんじゃないの?」

「………。い、いやだなぁ。昨晩はもう、ぐっすりと寝ましたよ?」

「………まぁいいか。そういうことにしておいてあげる」


 そう言うと、ユリさんはクスリと笑った。


 ばれてるな、こりゃ。ユリさんは何かと俺の事を心配してくれているのだろう。今日からは、できるだけ早く寝ることを心掛けるか。

 ………べ、別に美人の笑顔にあてられたわけじゃないんだからなっ!


「それじゃあ、今朝のメニューは何にする?夜とは違って、朝はいくつかのメニューから選べるからね。…ほら、これが今日のメニューだよ」

「ありがとうございます」


 俺はユリさんからメニュー表を受け取る。


 メニュー表を見てみると、どうやら今日は三つのメニューから選ぶことが出来るらしい。


 一つが「オークの角煮定食」。これは、手を付けるには少し勇気がいりそうだ。この世界のオークがどんな姿をしているのかは知らないが、少なくとも、俺の読んできたファンタジー小説の中では、オークとは醜悪な姿をしており不潔な印象をしていた。という事で、今回はこれはパス。まぁ、いつかは食べてみたい気がしないでもないので、次に出た時はチャレンジしてみよう。


 そして、二つ目のメニューは「シルバーウルフの炭火焼定食」。

 このシルバーウルフは、俺がこの世界に来てから初めて会った魔物であり、その肉は淡白な鳥のような物だった。つまりは味の保証はされており、現時点では一番信頼できる食料だろう。だが、このシルバーウルフは未だにアイテムボックスの中に昨日食べた物の残りが入っており、おそらくこれが今日の昼食となる。という事で、これもできればパス。


 そう言うわけで、最後に残った選択肢が「ヘッドラビッドの丸焼き定食」。

 ヘッドラビッド………名前を見ただけではどんな生物かは分からないが、ようは兎の丸焼きだろう。それなら話は早い。もし俺が動物好きなら、兎の丸焼きを食べることに抵抗を覚えたかもしれないが、俺はそんな事で忌避感を覚えることは無い。それに、兎の肉は種類にもよるがおいしいと聞いた事がある。


「じゃあ、この『ヘッドラビッドの丸焼き定食』をください」


 俺がメニューを指差しながら注文すると、「ザワザワザワ………」突然、周りに座っていた奴らがこちらを指差しながらざわつき始めた。


「……?」


 だが、俺は何故ざわついているのか分からなかったので極力無視する。


「はい、『ヘッドラビッドの丸焼き定食』ね」


 そんな間にも、ユリさんは注文を取り、そのまま厨房の方へと消えていった。その横顔が、どこか獲物を見つけた時の獣のように見えたのは気のせいだろう………いや、実際にそんな表情をした獣を見たことがあるわけじゃないから分からんのだが。でも、このフレーズは、個人的に一度は行ってみたいセリフの堂々三位だ。つい思ってしまったのは、しょうがないという物だろう。


 そして、待つこと五分。


「………」

「はい、これが注文した、『ヘッドラビッドの丸焼き定食』です」

「………」


 ……どうしてこうなった?


 今、俺の目の前には、ユリさんが言った通りに、注文したヘッドラビッドの丸焼き定食が運ばれてきていた。

 うん。ここまでは良い。何も問題は無い。


 だが。


「この、頭でっかちで、白目をむいてて、二頭身で、牙が生えてて、ついでに赤い、グロテスクの塊が………ヘッドラビッド?」

「うん」

「………」


 どうしよう。逃げたい。


 やっと、周りの客たちがざわついていた理由が分かった。

 ヘッドラビッドのその全貌があまりにもグロすぎるのだ。もう、モンハ○に出てくるモンスターとか、かわいく思えてくるレベルにグロイ。てか、何で、こんなムンクの叫びみたいな顔した兎が丸焼きで食されてるの? 世界七不思議も裸足で逃げ出すレベルだぞ?!


「ユート君?どうしたの?」

「い、いえ………何もありません!」


 言えるわけがない。「あまりにも見た目がグロイので、食べる気がうせましたー」なんて、言えるわけがない。

 横から俺を見ているユリさんが、無言でプレッシャーをかけてくる。「お残しは許しまへんでー!」と。なるほど。これなら忍○またちが残さず食べるわけだ。


 と、現実逃避している場合では無い。


 未だに続く、ユリさんからの圧力。そして、食べることを拒否する、俺の中の本能。俺はその二つを天秤にかけて、結果。


「………いただきますっ!」


 前者の方を選んだ。


 覚悟を決めたら、あとは早い。一緒に運ばれてきていたナイフとフォークで、それなりの大きさがあるヘッドラビッドを切り分け、一口サイズにしていく。

 こんがり焼いたおかげか、皮は簡単に剥がれ、その下のこんがり焼かれた肉とあふれ出る肉汁が姿を見せる。イメージは、モン○ンのこんがり肉だ。

 さらに、そのこんがり肉を一口サイズに切ると、今度は兎の内臓が顔を見せる。これはどうすればいいのかと思っていると、ユリさんが「その内臓もおいしいよ」と言ってくれたので内臓も一口サイズに切り分けた。


 そして、あらかた切り分け終えると、いよいよ実食である。


 サイコロ状に切り分けた肉。俺は、それにフォークを突き刺し、口に放り込んだ。口の中に入った肉の原型を思い出さないようにしながら、噛んでいく。


「………うまい」


 俺は呟きを漏らした。横では、「そうでしょー」と、ユリさんが自慢げにしている。


 やばい。手が止まらない!


 肉は至ってやわらか。クセも少なく、抵抗なく味わうことが出来る。そして、噛めば噛むほどに溢れだす肉汁。これらが絶妙に絡み合い、なんとも言えないうまさを醸し出している。


 そして、驚いたのが内臓だ。

 一見すると黒っぽく、どこか危なそうにも見えるのだが、これがまたうまい。

 鳥のレバーのようなものを想像していたのだが、全く違う。肉の部分よりも脂がのっており、舌の上に乗せた瞬間に溶けてなくなりそうな食感で、あっという間に、肉が、内臓が俺の腹の中に納まっていく。


 そして、二十分後。俺はヘッドラビッドを全て食い尽くした。


「……ふぅ、満足だ」

「ユート君、良い食べっぷりだったねー!」

「はい……思った以上においしかったので、思わずがっついちゃいました」

「あはは。喜んでもらえたなら、うれしいよ」


 そう言って、飛び切りの笑顔を見せてくれるユリさん。


 俺の心は、彼女に陥落されそうです。


「そ、それじゃあ、今日はギルドに行ってきますんで」

「あ、そうなの。うん。行ってらっしゃい!鍵は、カウンターに預けておいてね」

「はい。それじゃあ」


 そう、ユリさんに挨拶して、その場を離れる。


 ………危なかった。あのままあそこにい続けたら、心の城壁が跡形も無く崩れ去っている所だった。

 ――俺には、もう届かない人がいるっていうのに……。


 まぁ、そんな心の声は後回しにして。


 俺はカウンターにいた男の人に部屋の鍵を預けると、エイルの宿を後にした。


 とりあえず、今日は服屋に行って服を買った後、ギルドで試しにクエストを受けてみようと思う。初めての事なので心配はあるが「習うより慣れよ」だ。


 俺は、今日の予定を頭の中で組み終えると、メインストリートを歩き始めた。







今回出てきたヘッドラビッドは、所謂、雑魚魔物です。

グロテスクな見た目ですが、食用の肉としての水準は高く、安価な割には上手いという、まさに夢の肉ですね。


ただし、先述の通り、見た目がグロイので普通は丸焼きになんてしません。それをあえて丸焼きにするエイルの宿………あ、別にめんどくさがってるわけじゃないですよ!(多分)

一応、最低限のした処理はしてるらしいので…

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