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第四十九話 四年前の出来事

お久しぶりです。

二章を全て書けたわけではありませんが、ある程度書きためられたので更新を再開したいと思います。

今回は、ニーナ過去編(?)です。


 今から十六年前。魔王国エスラドに一人の姫が産まれた。

 その名を「ニーナ・アストラル・エル・エスラド」。


 魔王国を治めている魔王族の一人娘――魔王族は寿命が500年を超える長命種であるため、子供ができにくい傾向にある――として誕生したその姫は、両親や家臣達のお蔭ですくすくと成長していく。


 そして、彼女が六歳となったある日。彼女にとって運命とも言える出会いが訪れる。


「姫様、お目にかかれて光栄に思います。僕は『タクヤ』と申します。本日より、姫様のお相手を務めさせていただきます。よろしくお願いします」


 そう言って、ニーナの目の前で膝を突き、魔王国では最上位の存在――魔王族へと捧げる礼を行う、幼い人族(ヒューマン)の少年。その外見はとても幼く、ニーナよりも少しだけ年上の――それこそ、七、八歳くらいのようにも思える。


「そういうわけだ。これから、お前の遊び相手はこのタクヤが務めるからな、仲良くするのだぞ」


 礼を継続しているタクヤと名乗った少年の横で微笑みを浮かべていた魔王――一国の王である「セルバンティス・マスカレイド・ウル・エスラド」が、そうニーナへと語り掛ける。

 だが、その時、ニーナの意識は少年の方へと吸い寄せられていた。より正確には、その少年の髪の毛へと。


 その髪の色は、黒。


 ――今まで何度か行われた勇者召喚。

 その全ては大昔の出来事だが、当時の文献によると。勇者召喚によって召喚された異世界の少年少女は、「この世界」の住人とは一線を交す存在であり、その天災的とも言える成長効率、戦闘能力でその当時世界を我が物にしようとした魔神を倒し、この世界を救ったのだという。


 ――そして、この世界に稀に見る、「転生者」と呼ばれる存在。

 「公的」に認められている彼らの数はほんの僅かだが、そのほぼ全てが、この世界における絶対強者であるSランクに迫るほどの戦闘力を秘めている。

 その正体は、勇者召喚によって召喚された勇者達と同じ「異世界」からやってきた者達とされており、彼ら自身から得られた情報によると、彼らは「神」によってこの世界に転生させられたのだという。その為、彼ら転生者の事を「神の使い」と崇める集団も存在する。


 そんな、ユグドラシルとは別の世界からやって来た召喚者と転生者。


 彼らには、ある特徴がある。

それが、黒い髪。


 ユグドラシルで生まれる子供は、とても多彩な色を持っている。

 赤髪、白髪、青髪、茶髪。街中を歩けば、色々な髪色を見ることが出来るだろう。だが、何故だか「黒髪」と呼べるような、真っ黒い色をした者は非常に少ない。

 そんな中、転生者や召喚者といった、異世界からやって来たと言われている者達の殆どが黒髪の持ち主だ。

 異世界人→黒髪という式が成り立つくらいには、この事実が世の中に周知されている。

 勿論、黒髪を持つ全ての人々が、異世界人というわけでは無い。しかし、王族であるニーナの遊び相手――有事の際のボディーガードであるそれに、髪の毛の色が黒いだけの一般人が選ばれることはあり得なかった。


「お父様、彼は……」

「ニーナは察しが良いな。……そうだ。タクヤは『転生者』だ」


 ニーナの質問に、魔王セルバンティスは大きく頷く。

 そして、ようやくニーナは、何故この少年が自分の遊び相手兼ボディーガードとして抜擢されたのかに納得の表情を浮かべた。

 一般的に巨大な力を持っているとされる転生者なら、魔王の娘の近くで警護していても他国や国内の権力者から甘んじられることも無い。寧ろ、一定のステータスとなるだろう。それほどに、この魔物が跋扈し、人の命が軽んじられる世界では「巨大な力」というのは重要視されるのだから。


 勿論、「護衛」をするのはタクヤだけでは無いのだろうし、見た所、今はそれほど大きな力は持っていないようなので、様子を見ながら訓練を施していくことにはなるのであろうが。


「そうでしたの……分かりましたわ。お父様。そして、タクヤ。これからよろしくお願いしますね」

「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」


 タクヤは深々とニーナに頭を下げる。その様はまるで、姫に忠誠を誓う騎士の様でもあった。




 結論から言うと、タクヤはとても有能な「遊び相手兼ボディーガード」だった。

 彼は決して、明るく口数の多いような少年では無い。さらに、その幼い年齢で「転生」してしまった故に、初めの頃は誰とも打ち解けようとはしなかった――たった一人の例外を除いては。


「ひ、姫様、朝食の時間ですよ……?」

「ちょっと待って! もう少しだけ待って! 今、ハートの6がどこにあったか思い出せそうなのっ!」

「は、はい……」


 基本的には誰とも必要以上には話さないタクヤだが、ニーナとは比較的積極的に口を開いていた。それはまるで、気になる娘に頑張って話しかけようとする、幼い少年のようにも見える。


 そして朝早い時間帯。

 ニーナとタクヤの二人は、タクヤが教えたカードのゲーム――「トランプ」で遊ぶのが日課となっていた。

 ちなみに、最近のニーナのお気に入りの遊び方は「しんけいすいじゃく」と「ババ抜き」の二つである。だが、それで一緒に遊ぶのは、もっと小さなころからこのゲームに慣れ親しんでいるタクヤ。彼とガチンコで勝負しようとしても、中々勝てないのは当然の結果た。


 更に厄介なのが、この頃のニーナはプライドが高く、お転婆少女であったという事である。

 つまり、不正をしたりタクヤが手加減をするという事を良しとせず、その上、負けたままゲームを終わらせるのを非常に嫌がったのだ。

 結局その日も、メイドが直接呼びに来るまでしんけいすいじゃくは続いた。

 途中で止めさせられた為か、ニーナの顔は少し不機嫌そうである。そしてそんなニーナの後ろを着いていくタクヤは、少し困ったような、それでいて、どこか微笑ましい表情をしていた。




 ニーナの遊び相手としては、転生前の記憶を活用して十分以上に役割を果たしていたタクヤだが、その十歳にも満たない少年は「転生者」らしく、強大な力をも秘めていた。


 タクヤは、ニーナが「公務」というなの「座学」を行う際、彼女とは一緒にはいない。無論、彼自身も座学をするのだが、それでもニーナが行うそれよりは圧倒的にこなす量が少なかった。

 そのため、彼は一日の内に、およそ二、三時間ほど、昼間に暇な時間ができる。

 タクヤは、その暇な時間を、城の中庭で訓練している騎士たちの訓練を一緒に受けることで潰していた。

 彼自身、後々「護衛」としての訓練を受けることになるのだが、訓練を始めるのは早い方がいいんじゃないかという考えもあったためである。


 無論、タクヤが訓練に参加することは騎士たち――ひいてはニーナや魔王、その他の城に出入りしている者達にも止められた。

 例え、ニーナのボディーガードとして傍に使えていて、大きな才能を秘めている「転生者」であるとは言っても、タクヤは幼い子供であることには変わりはない。せめて年齢が二ケタになってからではないと、躰にかかる負担が大きすぎるのだ。

 だが、そこでタクヤは自分よりも大きな大人達へと向かってこう言い放ったのだという。


「僕は、姫様を守りたいです。もう、あんな事にはなりたくはないから。今度こそ、大切だと思える人を失いたくはないです!」


 タクヤの目は、これ以上ないほどに本気だった。必死だった。鬼気迫ると言ってもいい。

 何か、使命感に憑りつかれたような彼の眼は、その場にいた大人たちの背筋を震わせた。

 そのタクヤの迫力に当てられてか、城の大人たちは渋々、タクヤの訓練への参加を認めた。


 ちなみに、その時魔王は娘を「大切な人」と言われたせいか、タクヤへとどこかニヤニヤした笑顔を向けていたのだという。


 閑話休題。


 訓練に参加することを許されたタクヤは翌日から、城の騎士たちに交じって訓練を始めた。

 勿論、幼い彼が騎士と全く同じメニューをするわけでは無い。――いや、周りの大人がそうさせるつもりは無かった、というべきなのだろうか。

 結論から言えば、彼はあっという間に騎士たちよりもはるかに強くなった。


 ――転生者の特徴として、その異常までに速い「成長速度」がある。

 例えば、レベルを1上げるのに、一般人なら十回の戦闘が必要な場合、転生者は半分である五回の戦闘でレベルが上がる。


 無論、成長速度にある程度は個人差がある。1レベル上がった所で、上昇する能力値も一般人よりも少しだけ多いというレベルだ。召喚された勇者達の「成長効率」には到底及ばない。

 だが、それを覆す程の成長速度。そして、彼自身が磨き上げた「空間魔法」他、多数のスキルを駆使し、タクヤは高みへと昇っていった。


 そんな彼はその力を頼られ、魔物や聖国ミコイルとの戦闘も経験した。


 公的には「王女付き護衛騎士」であるタクヤだが、彼自身への命令権は直属の上司でもある王女――ニーナが握っている。そして、そのニーナの命令があれば、タクヤは王都周辺の魔物を対峙したり、戦場へ出向いたりもしていたのだ。

 強大な力を持ったタクヤは、その力を以て魔物を殲滅した。戦場では多くの敵を葬った。


 彼の知名度と武勇伝は全世界の知るところとなり、タクヤの元には、多くの貴族や各国の令嬢からの婚約申し込み状が届くように。だが、タクヤはそれらを全て断った。

 それは、タクヤがニーナに明確に思いを寄せるようになったから。そして、その思いはニーナも同じだった。


 二人は近い未来結ばれる。

 タクヤの実力を正当に評価し、二人の仲に対して肯定的なエスラドの貴族達の間では、そのような噂が頻繁に語られるようになり、ニーナもそのような未来になるのだと信じて疑わなかった。


 ――しかし、平和で平穏な日々はあっさりと崩れ去る。



 事の発端は、タクヤがいつものようにニーナの勉学中に中庭で鍛錬を積んでいた時。


「……っ?! この気配……」


 タクヤは背筋が凍りつきそうなほどに禍々しい雰囲気を発している「何か」を感じた。

 Sランク冒険者にも匹敵するほどの戦闘能力を秘め、最近では、その「空間魔法」を最大限に活かした戦闘スタイルから「永遠の鬼ごっこ(エンドレス)」という二つ名までついているタクヤがとてつもない脅威を感じるほど敵。


 タクヤは慌てて辺りを見渡すが、その「何か」の気配に気が付いて、警戒態勢を取ろうとする騎士たちは見当たらない。

 それはまるで、その「何か」がわざとタクヤにだけ気が付かれようとしているようにも思える。


 何かの罠かもしれない。

 そんな予感が頭の片隅に産まれるが、タクヤにはそれらをゆっくり考えている余裕は無かった。


 何故なら、その「何か」は。

 彼の護衛対象であり、彼が誰よりも心を寄せている少女――ニーナのすぐ近くに存在し、今もなお彼女へと近づいているのだから。


(もう……迷ってる場合じゃない!)

「『同調転移』!」


 決断した後の行動は、迅速だった。

 空間魔法のスキルレベルを高位に成長させることによって使用可能となる、空間上級魔法『同調転移』。これは、あらかじめ「契約」を結んだ者の元へと「マーキング」無しで転移できる高等魔法である。一見、とても便利な魔法のようにも見えるが、通常の「転移」とは違い、転移できる距離が制限されていたり、他にも色々な規制がかけられる使い勝手の悪い魔法の一つだ。

 だが、この魔法は「護衛対象を守る」という事に限ってはこの上ない性能を発揮する。


 そして、そんな魔法を行使したタクヤが転移したのは、勿論、彼の護衛対象であり、現在進行形で巨大な力を持った「何か」が近づいてきているニーナの元である。


「姫殿下っ! 今すぐ、ここからお逃げください!」


 転移を終え、ニーナの目の前に姿を現したタクヤが真っ先にニーナにそう叫ぶ。


「――タクヤっ?! いきなり、どうしたというの?」

「何者か――自分よりも強力な気配を持った敵性勢力だと思われる輩がこちらへと近づいてきています! 自分は、敵と別の場所へと転移して押さえつけるので、姫様は自分が転移した後、ここから離れてください」


 暗に、別の勢力も近づいてきているかもしれない。そうニーナに伝え、彼女からの返事が返される前に部屋を飛び出していくタクヤ。


「『空間掌握』」


 自分の周りの状況を正確に把握する魔法を唱えるタクヤの声が聞こえ。

 直後、少し遠く離れた所から「カンッ ギンッ」という金属音が王城の廊下に反響した。

 その音を聞き、ようやく「侵入者」の存在に気が付く城の騎士たち。


 だが。


「『転移』!」


 彼らが動き出した時にはもう遅く、既にタクヤと侵入者の二人は、タクヤの空間魔法によってどこかへと消えてしまっていた。

 

 ――その後、いくら待ってもタクヤが返ってくることは無かったという。


 それは、タクヤがニーナ付の遊び相手兼ボディーガードとなって六年後の出来事。ニーナが十二歳の時であった。






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