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第四十一話 調合してたら、いつの間にか事情聴取になってた

*タグを一部変更しました。

 次の日、俺はいつもと変わらず、朝の五時には目が覚めた。


「ふぁあ……もう、朝か」


 あくびを一つつき、伸びをして目を覚ますと、俺は部屋のクローゼットを開ける。


「……あれ、コートが一つ足んないな……いや、そういえば、昨日ニーナに貸したまんまになってたんだっけ」


 あの時、ニーナはコートを着たまんま部屋を出ていったからな。

 その後に返しに来ようと思ったのかもしれないが、流石に、泣き顔を見られた相手の部屋にとんぼ返りできるほど、彼女の神経は図太くなかったんだろう。

 ……まぁ、俺もそんな事になったら恥ずかしさのあまりに憤死する自信があるんだけどな。寧ろ、爆死しないだけ褒めてほしいぐらいだ。お年頃の思春期男子のピュアさを舐めんな。


 ――っと、そんなどうでもいい事を考えている場合じゃなかった。


 手早くクローゼットから服を見繕って着替え、他の部屋で熟睡しているであろうみーちゃんやニーナを起こさないように注意を払いながら、一階の工房へと降りる。

 そこには、昨日、一昨日の内に俺の店へと持ち込まれた、ダンジョンで採取された色々な素材が並べられていた。


 本来、薬草や鉱石といった素材はギルドの買取り窓口で鑑定してもらって換金するのが普通なのだが、ギルドから許可を得ている店に限っていえば、ギルドを経由せずに、直接冒険者から素材の買取りを行うことが出来る。その分、月に幾らかギルドにお金を収めないといけないのだが、市場価格よりも安価で素材を入手できるというだけあって、この制度を利用する者は多い。

 無論、冒険者としても、ギルドで売るよりも高値で買い取ってくれるので、店で売る方がお得な場合も多いのだが、ここで忘れてはいけないのが、ギルドでの買い取り価格は定価なのに対して、店で買い取る場合は多少上下してしまうという事だ。


 つまり、いくらで買い取るのかはその店によって違うし、中にはその都度、交渉によって決めるという場合さえ存在する。これらの事から、店での買い取りに挑む際は、いくらか諍い事や口論が起こると覚悟しろ、とまで言われていた。


 ちなみに、俺の店で買い取っているのは、主に薬草類や、その他の調合に使える素材のみ。だが、他に比べて、調合の際に使う材料を少なくすることが出来るので、買取り値はギルドよりもかなり高めにしている。

 まぁ、それだけでは市場に流れる調合用の素材が少なくなってしまう恐れがあるので、一日ごとに買い取る量に制限を設けたり、買い取った中からもいくらかをそれなりに格安で市場に流したりなど、色々な経済対策は取っているのだが。


「とりあえず、こいつから調合(実験)してみるか」


 俺は多種多様な素材の中でも、一際、青々と葉を茂らせている野草をつかみ取る。

 そして、「鑑定」を発動させた。


=======

「癒草」:薬草よりも更に自然回復能力を高める野草。ただし、単体ではそれほど効果を成さない。その分布は比較的狭く、入手はそれなりに難しい。「ポーション」を調合する際の材料になる。

=======


「なるほど。これが癒草か……」


 俺は、今まで見たことが無かった素材を前にして唸る。


 「ローポ」の上位互換である「ポーション」を調合する際に必要とされる「癒草」。


 しかし、この野草はこの付近には生えておらず、そもそも自然界に生えている個体が特定の場所に偏っている為、このグリモアの街付近に流通することは殆どないのだという。

 そうすると、必然的に「ポーション」がこの町では製造されず、それが、上位冒険者を別の街へと流出させる大きな原因となっていた。……俺は「回復特化調合魔法」で「薬草」からでも「ポーション」を調合できるんだけど、まぁ、それは例外だ。


 とりあえず、この癒草からポーションを調合することに決め、下準備を始めた。


 まず、薬草からローポを作るのと同じように、癒草をすり鉢と乳棒で粗くすり潰す。

 大体すり潰して癒草が半分ほどペースト状になった所で、水魔法で創りだした純水と共に、調合用の大鍋へと投入。そして、鍋を火にかける。

 じっくりコトコトと火にかけながら、中身を混ぜること二分半。ここで「調合魔法」を無詠唱で発動し、更に中身を二分半程かき混ぜた。

 すると、火にかけ始めて丁度五分たった所で、鍋の中身の液体が強く発光し始める。それは三十秒ほど続き、光が消えた後に残ったのは、「ローポ」よりも明らかに濃い緑色の液体だ。


=======

「ポーション」:体の傷の治療速度を速め、更に体力も回復させる。

回復レベル:2

=======


 鑑定を発動させ、表示された結果に俺は思わず安堵のため息を漏らす。


 内心、初めての材料での調合で失敗しないか、不安で一杯一杯だった。


 回復レベルは「2」と、以前、薬草から「回復特化調合魔法」で調合したポーションよりも低いが、これは調合の仕方や調合魔法のレベル次第で、改善することも可能だろう。

 俺は、ポーションの改善はまた別の機会に行う事にして、再び、素材の中からとある薬草類を取り出した。


=======

「聖草」:霊草よりも多くのMPを回復させる効能を持つ野草。ただし、単体ではそれほど効果を成さない。その分布は比較的狭く、入手はそれなりに難しい。「MPポーション」を調合する際の材料になる。

=======


 「鑑定」の結果を確認し、先ほどの癒草を調合した時と同じ手順で聖草も調合していく。

 聖草をすり潰し、純水と共に大鍋へと流し入れ、火にかけて「調合魔法」を行使する。

 そして、しばらくそれをかき混ぜながら待っていると、それは出来上がった。

 鍋の中に残った、「MPローポ」よりも赤みが濃い液体に、「鑑定」を使う。


=======

「MPポーション」:MPを回復させる。また、多少心の安静にも効果を発揮する。

回復レベル:2

=======


 満足の行く出来ではないが、とりあえず、目的の物は完成したようだ。

 それを確認した俺は、鍋の中身を小瓶へと移し替え、濃い赤色や、濃い緑色の液体がそそがれた二十の小瓶を急いで『アイテムボックス』へと収納していく。黙々と作業を続けていると、一分ほどで小瓶は全てアイテムボックスに収まった。


「っと……とりあえず、今回の目的は達成したな」


 比較的、満足の行く結果に満足げになりながらも、俺は再び癒草を取り出し、再びポーションを調合していく。

 今までに「薬草」と「回復特化調合魔法」にて調合したポーションの中で最も出来が良かったものが「回復レベル5」だったので、せめて癒草でも回復レベル5の物は作っておきたい。

 俺は上の階の二人が起きてくるまで、ポーションやMPポーションを作り続けた。


 ――その過程で調子に乗って、癒草や聖草に「回復特化調合魔法」をかけて調合してしまい、「ハイポーション」や「MPハイポーション」が出来てしまったのだが……うん。しばらくは勇者三人に相談するだけに留めておこう。ハイポとかの原材料って、超高級素材らしいし、この事がばれたら、色々と面倒な事になりそうだ。

 その点、勇者三人なら、安心して秘密を打ち明けられる。人間観察が趣味の俺が言うんだから、間違いない。

 そんな事を考えつつ、ハイポ等をアイテムボックスの中に収納しようとし――


「……ユウ君。おはよう。そして、ハイポの調合成功おめでとう」

「うわっ⁈ ……って、みーちゃん⁈」

「……ん」


 いつの間にか、俺のすぐ真後ろにまでみーちゃんが接近してきていた。


「……みーちゃんは、いつからそこに?」

「……始めから」

「その、始めからっていうのは、具体的にいうと……」

「……ん。ユウ君が、調合を始める為に、器具を取り出したりしている所からばっちりと見てた」

「えっと、それはつまり――」

「……ん。一部始終とも言う」

「それなら、もっと早く声をかけてくれれば良かったのに」

「……ユウ君をビックリさせてしまったのなら、ごめんなさい。でも、私の『ユウ君センサー』が、ユウ君が何かに真剣に取り組んでいるっていう反応が出ていたから、それを邪魔するのもどうかと思って」

「前から思ってたんだけど、その『ユウ君センサー』って何?! 怖いほどに精度が良すぎるだろ!」


 とは言っても、恐らくは、みーちゃんの冗談か何かなんだろうけど。……いや、この世界はファンタジーだから、いつの間にか、そんな能力がみーちゃんに備わっていてもおかしくは――冗談……だよな?


「……この『ユウ君センサー』は地球にいる時から備わってたよ?」

「お前は一体、何者なんだよっ⁈」

「……私は私。それ以上でも、それ以下でもないよ?」

「哲学的な返しで誤魔化そうとしないでくれます⁈」


 俺は、みーちゃんの親しい仲でなければ、天然かわざとかも見分けがつかないようなボケに盛大に突っ込んでいく。


 ちなみに、今のみーちゃんは雰囲気から察するに、八割方はわざとだ。途中でブランクがあるとはいえ、長年、幼馴染をやっていればこのくらいは容易に見分けがつく。

 その証拠に、俺の渾身のツッコミを聞いたみーちゃんは、「ふふふ」と、少し満足げな笑みを浮かべている。その表情が、どこか、アニメに出てくるSなキャラクターと被って見えたのは、気のせいに違いない。


「で、俺に何か用?」


 俺がその質問を口にした瞬間、周りの空気ががらりと変わった。

 これも昔から変わっていない、みーちゃんの一つの特徴だ。何かの特殊能力と言ってもいいかもしれない。

 みーちゃんは、昔から、何か真面目な話をする時だけは、いつもののほほんとした空気を殻を破るようにして捨て、相手の事を見透かすようにしてくるのだ。


「……昨日来た、ニーナって娘、あの子は魔王の娘なんでしょ?」

「――違う」

「……嘘。昨晩、ユウ君の部屋で密会してたの、聞こえてた」

「………………」

「……密会してたのは、また後で徹底的に追及することにする」

「(ダラダラダラ)」


 何か、みーちゃんから物凄いプレッシャーを感じる。冷や汗が止まらない。正直に言うと、今すぐに逃げ出したかった。だが、みーちゃんの、俺をこの場所に縫い付けるような視線がそれを許してはくれない。諦めて、その場に正座する。

 頭の片隅で、おふくろの尻に敷かれている、地球にいた頃の親父の様子がよぎった。


「……とりあえず、観念して、全部吐くんだ」


 そう言って、何故か光属性の最低級魔法の『ライト』を発動させ、みーちゃんは俺へと迫った。って、台詞的に、どっかの刑事ドラマの尋問みたいだな。これ。

 俺がそんな事を考えた、その時。


「ユートさん。その人になら大丈夫です」

「ニーナ?」


 二階へと続く階段から、ひょっこりとニーナが顔を出した。

 その顔はどこか赤いが、今はそんな事を気にしている暇は無い。


「いや、ニーナが喋っても良いって言うんだったら、俺は別にいいんだけど…でも、いきなり、何で心変わりしたんだ?」

「それは、このミヤさんからは、ユートさんに対する興味以外、殆ど強い感情を感じない…からでしょうか。それなら、ユートさんがこちらにいる限り、彼女が裏切る事は無いと判断致しました」

「……はぁ、分かった」


 結局、俺が折れた。どっちにしろ、この状態のみーちゃんには勝てる気がしない。負けるのが早いか遅いかの違いでしかなかった。

 俺は、みーちゃんにこれから話すことは他言無用でとお願いし、それにみーちゃんが同意したことを確認して話し出す。


「全ては、そう。昨日のダンジョン攻略から始まった――」

「……ユウ君、真面目に喋って」

「はい、すんません」


 みーちゃんの、冷たい視線がやたらと痛いです。



――その後、俺はみーちゃんにすべてを話し、みーちゃんはみーちゃんで、今後、この事について、()()から突っ込んでくるようなことは無かった。



 それにしても、みーちゃんに俺に対する興味以外、強い感情が無いって、どういう事なんだろうか?









という事で、今回は久々の調合回でした。

……え? 殆ど調合なんてしてない?

ヤダナ……キノセイニキマッテイルジャナイデスカ。


――まぁ、本格的な調合はまた今度という事で……。


次回はダンジョン経営を行います!(多分)


それにしても、ユート君は清々しいほどの鈍感野郎ですね。僕自身、執筆してて、「モゲロ!」とか思ってしまう事も多々あります。





そして話は変わりますが、活動報告にも書いてある、マジックライフの今後の予定について、このあとがきでも少し触れさせていただきます。


2016年……本編終了(大体、100話~120話ぐらいになる予定です)

       

本編終了後……「マジックライフ! 外伝壱 ~召喚勇者の六年間~」連載再開(大体、200話ぐらいになる予定。展開によって多少上下する可能性あり)


「召喚勇者の六年間」完結後……「マジックライフ! 外伝弐 ~転生義賊の救世譚~」連載開始(話数は未定。プロットはほぼ完成済み)


「転生盗賊の救世譚」完結後……「マジックライフ! 外伝参 ~呪いの少女の戦闘美学~」連載開始(話はそこまで長くならない予定)



ちなみに、外伝2の主人公は本編にはあまり出てきませんが、外伝1の方には準キーキャラとして頻出する予定です。

そして、外伝3の主人公は……あの幼女さんです。


とりあえず、こんな感じでマジックライフ!シリーズは進めていきたいと思います。

では、また(*´ω`*)


……シリーズが終わるの、いつになるんだろうか。

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