第四話 調合は奥が深イイ
俺は今、エイルの宿の自室に引きこもっている。
現在時刻は20時半。すでに晩飯は食べ終え、今日魔法道具店で買ってきた調合セットを使って今から色々と調合してみるところだ。
ちなみに、魔法道具店では腕時計も売っており、一番安いものを購入。
余談ではあるが、この世界の一日は25時間。地球のそれよりも一時間長い。そして一か月は25日。一年は12か月。地球の時間で換算すれば、一年は312日と十二時間という中途半端な事になる。
閑話休題。
「んじゃあ、まずは『MPローポーション』から調合してみるか。
調合セットの中に入っていた基本的な調合に関しての組み合わせの本と、神様から貰った魔法の本を目の前に広げる。
MPローポーションはもっとも基本的なMP回復薬だ。原料は霊草、水。
なぜ、体力や自然回復力を高める「ローポーション」ではなく、MPを回復させる「MPローポーション」を先に作るのかと言うと、当たり前だが、調合魔法を使う時にMPを消費してしまうからだ。だが、ここでMPポーションを作っておけば、即座に減ったMPを回復させることが出来る。
ちなみに、厳密に言うとMPローポーションを調合するのに「調合魔法」を取得している必要は無い。
調合魔法。
それはその名の通り、調合をする際に用いられる魔法だ。
だがしかし、調合をするときに絶対にこの魔法が使える必要は無い。何故なら、この調合魔法はどちらかというと補助的な意味合いが強い魔法だからだ。よって、「ローポーション」や「MPローポーション」といった、比較的簡単な調合なら調合魔法無しでも調合はできたりする。
だが、俺は調合魔法を使う。
それは何故か?
確かに、MPローポーションは調合魔法無しでも調合できる。だが、調合魔法を使用して調合したMPローポーションの方が調合時間が短く済み、同じ原料からでもより多くの量を調合でき、更にはポーションの効果がよりいいものとなるからだ。
つまり、調合魔法の使用の有無で調合したアイテムに絶対的な差が生まれるのだ。
「って、そう考えると調合魔法って地味にチートだよな」
俺はそんな事を呟きながらも、MPローポーションの調合の準備を進める。
ミツバシ魔法道具店で購入した初心者用の調合セットからビーカー状の壺他、色々な器具を取り出して一つ一つ確認していく。全て確認し終えたら、今度は魔法の本へと視線を移す。そして、調合魔法のページを開けた。
『「調合魔法」
調合の際に用いられる魔法。
調合の際に詠唱すると効果を発揮する。
また、魔法を発動するタイミングによって、生成品の効果に差が出る。
詠唱「我は創造する者なり」』
「なるほどな………魔法発動のタイミングの違いでも効果に差が出るのか。確か、調合の仕方によっても効果に差が出るらしいから、何度か調合を繰り返して、一番効果がでかい調合の仕方を確認する必要がありそうだな」
方針も決まった所で、俺は本格的に調合に取り掛かる。
まず、材料となる薬草をすり鉢で潰して、ペースト状にしていく。ちなみに、このつぶし加減でも生成品の効果は変わるらしいので、つぶし加減を変えた物を何種類か作った。
そして、次はいよいよ調合の作業だ。
さっき潰した霊草と水魔法で作った水を調合セットの花瓶くらいのサイズの壺に入れる。
この壺は付与魔法が使える陶器職人が作った物で、材料を中に入れた状態で火にかけると、材料が特定の変化を起こすという魔法が付与されているらしい。ちなみに、この調合セットは初心者用で付与されている魔法はそこまで強力では無いんだとか。
材料を流しいれた所で、壺の中に調合魔法をかける。
「『我は創造する者なり』」
俺が一言詠唱すると、壺の中身が光り出した。俺はそれを見て、調合セットに付属されているコンロのような魔法道具に火をつけ、その上に壺を置いた。後は、調合が終わるまで待つだけだ。
「グツグツグツ………」
部屋の中に、液体が沸騰する音が響く。魔法の本を読んで時間を潰しつつ、適度に時間を開けて壺の中身を確認していると、10分ほどで壺の中には赤色の液体が生成された。調合セットに付いていた説明書によると、これがMPローポーションらしい。また、このMPローポーションは薄い赤色だが、これがMPポーションやMPハイポーションになると、赤色が濃くなるのだとか。
「よしっ!ついにMPローポーションの試作一号完成!」
達成感に身を包まれると共に、俺は鑑定を使って、今、生成したばかりのMPローポーションの効果を確認する。
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「MPローポーション」:MPを少量回復させる。
回復レベル:1
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「うーん、回復レベルってのが、このMPローポーションの効果なんだろうが、「1」ってのは………おそらく最低レベルなんだろうな」
気になった俺は、調合セット付属の説明書を取り出して調べてみる。すると、以下の事が分かった。
「1、調合されたアイテムの効果は材料の配合の割合、材料の下処理の仕方、調合キットの性能、調合魔法のレベル、調合魔法を発動させるタイミングによって左右される。
2、調合された物には「効果レベル」、または「回復レベル」というのが存在する物がある。効果レベル、及び回復レベルとは、その調合されたアイテムの、同一種の中での効果の大きさを表すものであり、これの値が大きいほど、そのアイテムは優れた性能を持っているという事になる。レベルは1~15まであり、レベルの大きさによっては上位種のアイテムよりも効果が大きくなったりする。
例えば「回復レベル10のローポーション」は「回復レベル1のポーション」よりも回復効果が大きい。
3、調合されたアイテムの回復レベルや効果レベルは、この調合セットにも付属されている『調合鑑定プレート』で判別することが出来る。」
なるほど、やはり今回調合したMPローポーションは効果が低いやつだったのか。
「まぁ、初めてだし、これは当たり前か………それより、MPはどれだけ消費したんだ?」
調合魔法も補助的なものとはいえ、MPを消費する魔法に間違いない。俺は自分のステータスを可視化した。
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ユート
ヒューマン
Lv3
MP:62/68
STR:15
DEF:12
AGI:30
INT:19
スキル
「魔法才能全」「無詠唱」「アイテムボックス」「隠蔽」「鑑定」「魔力効率上昇(大)」「全状態異常耐性:Lv1」「魔法複合」「火属性魔法:Lv1」「水属性魔法:Lv1」「闇属性魔法:Lv1」「調合魔法:Lv1」
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いつのまにかレベルが上がっていたが、それは無視するとして。
この町に入るまでに使ったMPは3。レベルが上がった時、消費されていたMPはそのままで、増えたMP分はMPが回復するので、この調合で消費されたMPは3だろう。水を出す時に使った水魔法の消費MPは1だと仮定すると、調合魔法で消費されたMPは2か。
「って、結構MP消費するんだな………俺はスキルでMPの消費効率が上がってるからこれだけで済んでいるけど、他の奴らがするとなると結構な量を使いそうだな………よし、これで大体の感覚は掴んだ。次は霊草と水の配合割合はそのままで、調合魔法をかけるタイミングをもう少し遅くしてみるか」
すぐさま、次の調合に取り掛かる。
材料の配合割合はそのままにして、魔法をかけるタイミングを、壺を火にかけてから五分後へと変更した。
「『我は創造する者なり』」
火にかけられた壺の中で、沸騰しかけている液体へと調合魔法をかける。すると、一度目と同じように壺の中が光り出した。
「グツグツグツ……」
発光が治まった壺の中から、再び液体が沸騰する音が聞こえる。
そういえば、日本にいた頃は、よくこの音を聞いていたな。俺の主食、カップ麺だったし。ちなみに、よく食べてたカップ麺は「行列のできるラーメン店」シリーズ。あれの味は本当に忘れられない。値段が高いのがネックだが、あれはマジでオススメ。一度ご賞味あれ。
さて、個人的な宣伝も終わった所で、どうやら試作二号の調合が終わったようなので中の液体を確認する。
「………お?何となく、赤みが濃い気が?」
気になった俺は、すぐに中のMPローポーションに鑑定を使う。
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「MPローポーション」:MPを少量回復させる。
回復レベル:3
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おぉ!回復レベルが3に上がってる!
調合魔法をかけるタイミングを、たった5分ほど遅らせただけでかなりの違いが現れた。本当に調合は奥が深い。
この成功で波に乗った俺は、その後も黙々とMPローポーションを調合し続けた。
MPが枯渇したら、調合したMPローポーションを使って回復し、その回復量の違いをも調べる徹底ぶりだ。
そんな作業を、俺は夜が明けるまで続けた。
そして。
「よっしゃ!」
朝日が差しつつある部屋に、俺の心の声が響く。俺は最後の最後に、今までで一番効果が大きいMPローポーションを作ることに成功した。
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「MPローポーション」MPを少量回復させる。
回復レベル:6
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やべぇ、睡眠時間を削ってゲームしてたことはあるが、完全に一睡もせずに何かをぶっ通しでやったのは初めてかもしれん。しかも、それにしては全然眠気を感じない。調合の作業って、実はコーヒーのカフェインよりも目覚まし効果があるんじゃないかと思うほどだ。………まぁ、調合で目が覚めるのは、カフェインじゃなくて、どっちかと言うと覚せい剤とかに近いんだろうが。だって、一つの試作品を調合してデーターを取るたびに、「じゃあ、こうしたらどうなるんだ?」という風に、止められない止まらない状態になっちまうんだからな。
調合って中毒性がある。しかも、結構強烈な。
あれだな、調合しまくってたら、その内に幻覚とか見えだすんじゃないかな。…まぁ、見えないと思うけど。
とりあえず、これである程度の調合手順を試したと思う。
材料は「水:霊草=2:1」の割合にして、霊草は、少し塊が残っているかなぐらいまですり潰す。そして、調合魔法は、火にかけて五分くらいたったところでかける。
これが、俺が現時点で、一番効果が大きいMPポーションを調合した手順だ。
それにしても、よく霊草が底を尽きなかったと思う。アイテムボックスの中身を見てみると、霊草の残りは12本となっていた。このまま残していてもいいのだが、霊草単体で役に立つことは少ないので、残った霊草は全てMPローポーションに調合してしまう事にする。MPローポーションを一回分作るのに必要な霊草は4本なので、3回調合をすればいい計算だ。
考えるのもそこそこに、俺は調合の作業に取り掛かる。最早、慣れた手つきで霊草をすり潰し、下処理を終えたそれを水と共に壺の中へと流しいれる。そして、壺を火にかけると、五分待って調合魔法をかけた。
ちなみに、俺はすでに、魔法を発動する際に詠唱はしていない。
調合をしている最中、暇な時間が多かったので、スキルの無詠唱を試しに使ってみようと思ったのだ。このスキルには発動条件があり、それが「無詠唱で魔法を放つ場合、その魔法を一度以上詠唱して放ったことがある必要がある」という事だった。
また、このスキルを使いこなすためにはイメージが重要なのだという。例えば、火属性の初級魔法、「ファイヤーボール」を無詠唱で放つためには、頭の中で「火の玉が現れて目標に向かって放たれる」という工程を鮮明に思い浮かべる必要があるのだとか。これが、かなり難しいらしく、無詠唱のスキルは持っていても、このイメージのせいでスキルを扱いきれない人が多くいるらしい。
だが、俺の想像力と言う名の妄想力は生半可な物では無かった。
練習がてらに、調合魔法を無詠唱で使って見ると、一回で成功。呆気なく無詠唱を習得することが出来た。
まぁ、スキルは殆どが魔法に精通するものなので、これで魔法を扱う才能が無いとなっては目も当てられない状況になっていたのだが。
壺の中身に調合魔法をかけた俺は、そのまましばらく待ってから、赤色に染まった液体を調合セットに付属されていた小瓶に移し入れていく。そして、その小瓶にふたをすればMPローポーションの完成だ。
ちなみに、これ一本でMPを30回復してくれる。回復レベルが1の物だと10しかMPが回復しないので、かなりいい物に仕上がったと思う。これで、調合セットがさらにいいものになればより効果の高い物が作れるらしいので、当面の目標は、できるだけ良い調合セットを買うという事に決めた。
良いポーション類を作れるようになったら、露店みたいな感じで売りに出すこともできるだろう。
そんな事を考えていると、唐突に眠気が俺を襲った。夜中中起きて、調合をしまくっていたツケがここで来たようだ。
俺は部屋のベッドに寝転がると、腕時計を外して8時に目覚ましが鳴るようにセットし、強烈な眠気に身を委ねて、深い深い眠りについた。
今回の話でわからないところがあれば、ご指摘いただけると助かります