第三十九話 勇者と魔王の娘を引き合わせた場合。
今回は少しコメディーっぽい回。
ダンジョンマスターの部屋で謎の要求を聞いた二時間後。
俺は、つい最近覚えた「空間魔法」の「転移」で「ユートのマジカルショップ」兼自宅へと戻ってきていた。
店の番をしてくれていたレティアから聞いた話では、どうやら俺が留守の間、途中ではぐれてしまったノエルとトウヤは一時的にこちらへと戻ってきていたようで、今は俺を探すために、ダンジョン近辺を捜索しているらしい。
ついさっき、ヨミを連絡役として二人の元へと向かわせたので、直に帰ってくるだろうとのこと。
そんな訳で、俺は知り合いにはかなりの心配をかけてしまっていたみたいだ。
まぁ確かに、突然ダンジョンで消えたら誰でも心配になるだろうな。……日本にいた時は、車にはねられた時でさえ、両親とみーちゃんの親以外は誰にも心配されて無かったですけどね!
とりあえず、そんなこんなで俺が無事に帰ってきたことを喜んでくれた皆だったのだが……。
――俺は今、何故か、みーちゃん、レティア、ユリさんの三人の前で土下座をさせられている。
――横に、一緒に付いて来てしまっていたニーナを引きつれた状態で……
(――ダラダラダラ………)
何故だ。何故だ何故だ何故だ……?
どうしてこうなった?
「……ユウ君? 隣にいるその娘は誰?」
「そうだよ。ノエルたちとダンジョンに向かって、突然行方不明になったかと思って心配してたら、ひょっこりと帰って来て、しかも可愛い子を連れてるし」
「あはは……また、ユート君は女の子をひっかけてきちゃったのかな?」
おい、待て。「また」とは何だ。またって。
俺なんか、今まで女性にモテた事は皆無なんだぞ。何かの嫌味なんでしょうかね?
それとユリさん。天真爛漫な雰囲気で、ドスドスと人の古傷を抉るのは止めてください。
「……とりあえず、ユウ君、答えて?」
俺がいつまでたっても質問に答えない事に業を煮やしたらしいみーちゃんが、若干周りの温度を(物理的に)下げて俺に返答を催促してきた。
というか、無意識に水魔法の魔力が漏れ出て、鳥肌が立ちそうなほどの冷気を出してる。
みーちゃんの機嫌の悪さが、今までに無いくらいに天元突破している何よりの証拠だ。
「あの……ユートさん? 何故、私たちはこの方たちに冷たい目を向けられているのでしょうか?」
俺の隣でちょこんと腰を下ろしているニーナが不安そうな眼差しで俺を見上げてくる。
うん。なんかグッとくるものがあるんだけど――
「それ、俺が聞きたいんだが……」
「……とりあえずユウ君、早く答える」
「……あのな、みーちゃん。これには色々と――」
「……答える」
「――………」
どうやら、みーちゃんには誤魔化しは通用しないらしい。
参ったな。どうしたものか。
俺は横目でニーナへと視線を向ける。向こうも、こちらを見てきた。
そして、アイコンタクトで「やっぱり、みーちゃんでも、話すのはダメ?」と聞くが、首は横に振られる。……うーむ。
こうなったら、どうにかして誤魔化すしかないか……。
「実はさ――」
俺は、三人を納得させるだけの「嘘」を頭からひねり出し、三人に語り始めた。
◆◇◆◇◆◇◆
「――と、言うわけなんだよ」
「なるほどねぇ……」
「もう、そうならそうだと、早めに言ってくれれば良かったのに」
丁寧に今まであった事を「嘘」の内容で説明した結果、皆分かってくれたようだ。
「……ん。結婚の申し込みなんだったら、もう少し早くにでも――」
「みーちゃん、一体何を言ってんの⁈」
若干一名、何やらボケている人物もいるが……まぁ大丈夫だろう。多分。
「……だって、さっきまで私に婚約を申し込むという話を――」
「一切してないからっ⁈」
……ダメだ。大丈夫じゃないかもしれない。
「……むぅ、ユウ君、私の言葉を遮ってばかり」
「それが普通の対応なんだよ! 俺がさっきまで話してたのは、婚約云々の話じゃくて、ニーナをダンジョンで保護して連れてきたっつう事だっただろうが!」
「……そういえば、そんな事を言っていたような気がしないことも無いような気がしないような気がする」
「どんだけ不確定な記憶なんだよ! たった数分前の出来事だろ⁈ しかも、最終的には否定してるだと⁈」
「あはは。ユート君とミリアちゃんの掛け合いって本当に面白いね」
「全く持って面白くねぇ!!」
ちなみに、「ミリア」とは、みーちゃんのここでの仮の名前だ。
勇者がこんな所に護衛も付けずにいることが知られればその反響は計り知れないものになるからな。勿論、みーちゃんの見た目は、俺以外には全くの別人に見えている。……いや、今更だが、護衛くらいはつけろよ。
そしてユリさん、あなたは何故、このカオスな状況を楽しめるんでしょうかね?
「……とりあえず、ユウ君の事情は理解した」
「あぁ、そうですか。ようやくですか。……まぁ、理解してくれたのはありがたい。とりあえず――」
「こ、これから、しばらく、ユートしゃんのところでお世話になりましゅっ! よ、宜しくお願いしますっ⁈」
うぉい! いきなり横で大声を出すなよ。
……いや、つーか、俺の所でお世話になるって――
「……ユウ君……?」
「――っ⁈ み、みーちゃん⁈」
「あ、あうあうあうあうあう……」
やべぇ、なんだ、この殺気!
突然、みーちゃんの雰囲気が豹変した。
その、あまりの変貌さに、俺の横に座っているニーナが可哀想なくらいに怯えている。
「……お世話になります? ユウ君の家で?」
「はっ、はうううぅうう……」
「お、おい、ニーナ⁈」
ギュッ ムニッ
突如、右腕を包む柔らかい感触。
目を向けなくても、何となくわかる。
間違いない。
(こ、この感触は――!)
あまりの至福の感触、及び状況に、頭がオーバーヒートしそうなくらいに熱くなる。……頭というより、顔が熱いのかもしれないが。
とりあえず何が言いたいのかというと、今現在、俺の右腕には、ニーナの二つのそれなりに大きな膨らみが押し付けられているのだ。
うん。はっきり言って、かなりグラッとくるな、これ。
「……ユウ君から離れなさい。この、金髪ビッチがぁ……!」
って、そんな事を考えてる暇じゃない。
何故こうなっているのかはさっぱりだが、みーちゃんが不機嫌さを前面に押し出すあまりに、キャラが崩壊しかかっている。
「あ……あうぅっ……!」
そして、それを見て更に怯え、より強く俺の腕を抱くニーナ。
「……はやく……離れなさいっ……!」
そんなニーナの反応を見て、みーちゃんは更に機嫌を悪くする。
完全に悪循環だ。
「み、みーちゃん、落ち着けって! ニーナも、そんなにビビるな」
そんな二人を止めるため、無理やり間に割って入る。
それと同時に、やんわりとニーナに拘束されていいた右腕のロックを外しておくことも忘れない。
「そうよ、気持ちも……分からなくないけど、ミリア、止めておきなさい」
俺に続いて、レティアも二人の間に立つようにしてみーちゃんを止めた。
「……むぅ、ユウ君もレティアも、いけず」
「はいはい、文句は後ででもたっぷりと聞くから」
みーちゃんの機嫌は完全とはいかないまでもある程度は収まり、ニーナも未だに体の硬直は取れないが、少しは落ち着いたように見える。
ふぅ、何とか、みーちゃんとニーナの感情の起伏が正常に戻ったみたいだな。
「とりあえず、皆落ち着いたみたいだから、話を戻すぞ。――えっと、さっき、ニーナ自身が言っていた通り、彼女はしばらくこっちで預かることにしたから」
「あぁ、そこは本当だったんだねぇ」
「でも、ユート君は店があるからそれなりに忙しいんでしょ? 何なら、ニーナちゃんの事は、うちの孤児院で預かるけど?」
「それは有難い提案なんだけど、少し事情がある。……だから、どうしても……な?」
「ふぅん、そっか。それならしょうがないね。でも、何か手伝ってほしい事があったら、何でも言ってね? こっちも出来るだけ手助けするから」
「それは、私も同じ。私にも遠慮せずに言ってね。……まぁ、これからは宿の方が忙しくなるだろうから、こっちの店の手伝いにさえも中々来れないかもしれないんだけどねぇ」
「あぁ、ありがとうレティア、ユリ。そうしてくれると助かるよ……ユリは、無理のない範囲でいいからな?」
こっちの手伝いで無茶をして、体調を崩された日には、何だか悪い事をしたような気分になりそうだからな。
無理に働いて体を壊した際の色々な意味の苦痛は俺自身が良く知っている。……うん、昔はパシリとか色々やらされたんだよ。うん。
ちなみに、ユリさんに対しては本人の希望があったため、丁寧語じゃなくて、普段の言葉遣いになっている。
何でも、「私だけ皆と違って、何だか不公平じゃん」とのこと。
個性や皆と違う所って、結構大事なんだけどなぁ。「みんな違ってみんないい」という言葉を知らないのだろうか。……いや、それをこっちの人が知っていたら、それはそれで何か怖いんだけどな。
「……ユウ君、それ、本気なの?」
「あぁ」
「……私、この娘の事について、殆ど知らない。そんな輩をユウ君の傍に置いておくなんてこと、私には見逃すことはできない。だから、彼女の事について、もう少し詳しく教えて」
「……………」
みーちゃんの尤もな指摘に、俺は口を閉ざした。
確かに、俺はニーナについての情報を意図的に伏せている。それどころか、開示した情報でさえ、九割方は嘘で塗り固められている。みーちゃん達三人に開示した情報は穴だらけだし、納得できないことも理解できている。
勿論、俺だって、出来るならば大切な幼馴染であるみーちゃんに嘘なんてつきたくない。
やっと、この世界に来て再会できた幼馴染に、悲しい思いなんてさせたくない。
だが、人生を生きていく中で、時には必要な「嘘」が存在するのも、俺の想いと同様に事実なのだ。
「……ニーナはニーナだ。それ以上でも、それ以下でもない」
だからこそ、俺は「嘘」をつき通す。
「……嘘。ユウ君、絶対に何か知ってる」
「……………いや、だから――」
「……何を、知ってるの?」
「…………」
そう言えば、みーちゃんは昔から俺が嘘をつこうとすると、悉くそれを見破っていたっけ。
というか、それ以前に、俺自身、嘘をつくのがそこまで上手くない。
……って、この状況、普通にマジヤバいでしょ。
「……早く答えて」
「……今は答えられない」
「……何故?」
「それも、答えられない」
「ユート君、それは私たちに対しても、なのかな?」
「すまん。今は、この事を広めるわけにはいかないんだ」
たとえ、国とは直接関係ないレティアやユリさんでも、どこから情報が漏れるか分からない現状では、易々と説明はできない。俺は、口をつぐんだ。
俺たち五人の間に、なんとも言えない静寂が満ちる。
「……そっか」
そんな息苦しいまでの沈黙を破ったのは、みーちゃんだった。
「……それなら、しょうがない」
「みーちゃん……?」
どうやら、俺の言い分に納得してくれたらしい。俺は心の中で、「ほっ」と、安堵した。
――だが、何故だろうか。
何か嫌な予感がビンビンとしているのは。
「……でも、それだと余計に、その娘を無警戒でユウ君の傍に置いておくわけにはいかない」
「い、いや、だから――」
ヤバい。何がって、何かヤバい。説明できないけど、とりあえずヤバい。
俺の男やら野生やらの勘が、無意識の内に警鐘を鳴らすのを、俺は感じ取った。
それに触発された俺は、みーちゃんが今から言おうとしている事を遮るため、何とかみーちゃんの話に介入しようと試みる。
だが、それは少し、行動に移すのが遅かったらしい。
「……だから、私もユウ君の家でお世話になる事にする。異論は認めない」
みーちゃんは、絶対に捻じ曲げないだろうな。という目で俺を見つめながら、そう宣言するのだった。
……この日、急に同居人が二人増えた。
ユート君は爆発してしまえばいいと思った今日この頃。
今度、魔法複合で「自爆魔法」を作ってあげようかしら。
ちなみに、同居人が増えたからと言って、甘々なシーンはそこまで登場しません。……多分。
とりあえず、少しずつですが、話は着々と進んでいます。
完結まで頑張ります。
*今回は半分寝ぼけた状態で執筆したので、誤字が多数あることが予測されます。報告していただけるとありがたいです。