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第三十八話 意外過ぎるお誘い

今回で、今章の土台となる部分の説明は終わりとなります。

人によってはつまらないと感じる方もおられるでしょうが、ご了承ください。

 俺の質問を聞いたニーナは、何かを考えるようにして黙り込んでしまった。

 俺が「ニーナに答えられる範囲で」と言ったので、自分が話せる範囲を考えているのだろう。

 できれば、全ての事を包み隠さず話してほしいが、ニーナにもニーナなりの事情があるだろう。無理強いはしたくない。


「――分かりました」


 しばらく沈黙が続き、真紅の瞳に決意の光りを灯したニーナがその真っ赤な視線をこちらに向けてきた。


「ユートさんには、できるだけ私の状況を知ってもらいたいので、全てお話しします」


 お? また噛むかと思ったら、噛まなかったな。まぁ、どうでもいいけど。


「まず、ここはダンジョンの最深階層……つまり、ダンジョンマスターの部屋です」


 あー、なるほどな。どうりで見たことない場所なわけだ。

 という事は、結構深い所まで来てしまったというわけか。何階層なんだろ。ここ。

 まぁ、多分、多くて百とか、そんな感じ――


「ちなみに、ここは五百階層にあたります」


「階層、多すぎだろっ⁈」


 いやいや、五百とかどんなだよ。一階層ごとだけ見ても他のダンジョンの四倍はあるっていうのに、階層も訳わからんレベルで多いとかヤバすぎるだろ。攻略できる気がしないわ。


「しょうがないんです……魔王の一族は代々ダンジョンを作成する能力が高くて、どんなに力をセーブしてダンジョンを作っても、どうしても千階層とか、一万階層とか、中には一億階層とかでダンジョンが出来上がってしまうんです。ですから……私は結構頑張った方だと思うのです」


「もう、魔王一族、無茶苦茶だなっ‼」


 何、そのムリゲー。絶対、攻略させる気皆無だろ。


「他の魔族の貴族の一族の方たちなら、百階層とかのダンジョンも作れるんですけどね」


「……ま、まぁ。今、俺がどこにいるのかというのは、よく分かった。今までの事を加味すると、ここは俺がついさっきまで潜っていたダンジョンの最深階層である五百階層のダンジョンマスターの部屋で、このダンジョンは魔王の娘であるニーナが作ったと?」


「はい、その通りです。世間一般的には知られていませんが、私たち魔族の中でも、私のような王族や貴族の一部には、ダンジョンを作成するスキル「ダンジョン作成」が備わっています」


「えっと……待てよ。……それじゃあ、今まで見つかっていたダンジョンって――」


 俺が思い至った事を読み取ったのか、ニーナが重々しくうなずいた。


「はい。全て、私たち、魔族がスキルによって作成した物です」


「マジか……」


 いきなり告げられた事実に、俺は思わずため息を吐く。


 だが、これで、俺が今までこの世界のダンジョンに対して持っていた「()()()」が晴れたような気がする。

 無駄に安全で、そして、リスクとリターンが取れているこのダンジョンのシステムは、ちゃんとした管理者がいて、その存在が常にダンジョンのバランスを保っていたからこそなのだろう。俺は一人、心の中で納得した。


 ――と、それと同時に、一つの疑問が俺の中で浮かび上がる。


「なぁ、ニーナ」


「はい?」


「ダンジョンが魔族たちによって作成されたってことなんだけど、君たち魔族はダンジョンを作って何をしているんだ?」


 俺がそう質問を投げかけると、ニーナは「待っていた」とばかりに、一度部屋を出ていった。すぐに戻ってくるから、そこで待っていてほしいとのこと。

 それに従い、およそ三分ぐらい座ってい待っていただろうか。

 部屋の扉が開き、ニーナが戻ってきた。その手には、何やら透明で、水晶のような球体が鎮座している。


「ユートさん、お待たせしました」


「あぁ、それは別にいいんだけど……その手に持ってるのは……何?」


「あ、これですか? これはですね、ダンジョンの「核」となる物――通称「ダンジョンコア」です。私たち魔族は、ダンジョンを作成するときに発生するこれをダンジョンを管理することによって肥大化させ、巨大なエネルギー源として活用するんです」


「これが、エネルギー源? ダンジョンを管理させて肥大化?」


 ダメだ。まったく訳が分からん。


「今は分からなくても良いです。私がこれから説明しますから」


「あぁ、そうしてくれると物凄く助かる」


「はい、それでは説明しますね?」


 そう言ったニーナは「オホン」と先ほどの俺のように一つ咳をした。


 それにしても、顔を合わせた直後は「しゅっ⁈」とか「りゅっ‼」とか、言葉を噛みまくってたのに、今は大分落ち着いてるなぁ……あれかな? 初めて顔を合わせた人を前にすると、緊張して色々とやらかしちゃうけど、慣れればそうでもない。みたいな、所謂「人見知り」的な感じなのかな?


 ――俺がそんな事を考えている間に、ニーナはダンジョンコアについての説明をし始めた。


「ダンジョンコアというのは、先ほども説明した通り、私たち魔族がダンジョンを作成した時に発生する、ダンジョンの核です。この核は、『絶対に壊れたり欠けたりしない』、『MPを貯蓄できる』という、二つの大きな特徴を持っています。

私たち魔族は、この『MPを貯蓄できる』というダンジョンコアの特性を利用し、これを一種のエネルギー源として利用しているんです」


「ってことは……まさか、ダンジョン内で死亡して、入り口付近に転送されるときにMPが()になってる理由って……」


「はい。このダンジョンコアが、転送者のMPを残さずに吸い取っているからですね」


「そういう事だったのか……。そういえば、このダンジョンを作り上げたって事は、ニーナの目的も、そのダンジョンコアなのか?」


「はい、その通りです、ユートさん。勿論、追手から身を隠すためという意味もありますが、何より私は、ダンジョンコアを入手して、自分の国を取り戻すためにこのダンジョンを作ったんです」


「お、おう。そうだったのか」


 な、何か、いきなり、話がむっちゃ大きくなったぞ⁈

 いや、亡国のお姫様って時点で、何か大きなことに巻き込まれそうな予感はしてたんだけど、流石にここまで大きなものだったと誰が予想できただろうか?

 俺自身、大きくても「この国の国王に会わせてくれ」っていうのが精々だと思ってただけに、意表を突かれた感が半端ない。


 ニーナの説明は続く。


「このダンジョンコアは、中に溜め込んだMPがいっぱいになると、そのMPが空になるまでMPを変換させたエネルギーを放出させ続けます。ちなみに、このエネルギーは『エクセリア』と呼ばれていて、このエネルギーは、魔石からも取り出すことができるんですよ。

ただ、ダンジョンコアと魔石にも違う所はあって、魔石が使い捨てなのに対し、ダンジョンコアは何度でもMPを貯めて使うことが出来ます。あとは、そのMPを貯蓄できる量にも大きな差があり、ダンジョンコアなら、一個で大きな町全体のエネルギーを十年単位で放出させ続けます」


 なるほど。


 魔石が使い捨ての電池だとしたら、ダンジョンコアは大容量の充電池ってところか。まぁ、いくら大容量と言っても、大都市十年分のエネルギーを貯め込める充電池なんて存在しないんだろうけど。


「エスラドでは百年ほど前に、ダンジョンコアから発生するエネルギーの利用法が確立されて以来、ほぼ極秘でこのエネルギーを利用してきました。とは言っても、友好国であるストレア王国の王家にはある程度の情報を開示して、国内にダンジョンを作る許可を貰ったりなどをしていたみたいなんですけどね」


 いくら友好国とは言え、他国の領地内に「ダンジョン」とかいう、ある意味異物を勝手に「建造」してしまって、それが相手国にばれた時には、両国間の信頼問題にも繋がるだろうしな。相手国の許可を取るのは、ある意味で適切な処置だと言える。


 俺はニーナの説明に一つ相槌を打ちながら、ふと思った事を口にする。


「今思ったんだけど、ニーナの説明が事実なんだったら、ストレアの国王様はこのダンジョンが出来た理由を知っている訳だろ? それじゃあ、しばらくしたら、王国の兵士なり勇者達なりが来るんじゃないのか? やっぱり、俺に相談するんじゃなくて、そっちに相談した方がよかったんじゃ?」


 俺という「個人」を頼るより、「国」という庇護下に入る方が何倍も巨大な協力を得られるだろうし、何より身の安全が確保できると思うんだけどな。


 しかし、そんな俺の指摘に、ニーナは首を横に振った。


「……それはダメなんです。もし、王国の兵士なり、勇者なりの中に、ミコイル側に洗脳や買収された人がいたら? それだけでは大きな障害にはなりえないかもしれないですが、できるだけリスクは今の状況で負いたくはありません。勿論、後々は国に協力を要請するつもりですけど、それは「今」じゃないと私は思うんです」


「でもさ、さっきと同じ質問の繰り返しみたいになっちゃうけど、その「リスク」って、俺をここに呼んだり、色々と事情を話している事で既に背負ってないか? やっぱり、本末転倒だったんじゃないか?」


「だから、ユートさんはいい人だから大丈夫って言ってるじゃないですか。それに――」


「それに?」


「ユートさんって、何だか今まで見てきた人たちとは、本質が根本的に違うような気がするんですよ。何だか、この「世界」に染まっていないというんでしょうか……私自身でも、何と評すればいいのか迷う所なんですけど……」


「――っ‼」


 俺はニーナのスキルの万能性に内心で舌を巻いた。

 まさか、確信を持てるほどでは無いとはいえ、俺が「この世界」の人間では無い事を見抜いてくるとはな。流石、一国のお姫様のスキルと言ったところだろう。


 それにしても、どうしたものか。

 このまま隠していても、いずれは俺が転生者だってことがばれそうな気がする。

 転生直前の神様が言っていたことを考えれば、この世界には俺の他にも転生者がいて、そいつらの影響で転生者が一般的に知れ渡っていてもおかしくはないように思う。アリセルもどこか、俺の事情について勘付いているみたいだったしな。


 ……ここは、後々にばれるより、先に話しておいた方がいいかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆



 結局、俺は自分に関することを洗いざらい話した。

 自分が転生者である事から始まり、どうやってここに転生して来たのか、はたまた、ストレア王国の勇者が俺の前世での幼馴染だったことなどもだ。


 そして、そんな俺の説明を聞き終わったニーナはどこか納得顔で頷いた。


「そうでしたか。ユートさんが転生者だったとは……ですが、それならば、ユートさんが持っている他の人とは違う本質にも納得できますね」


 ……あれ? あんまり驚いてない?


「ニーナは俺の話を聞いても、驚かないんだな」


「えぇ、私自身、何度か転生者の方と会った事があります……そう考えると、ユートさんを初めて見たときに何となく安心できる気持ちになったのにも納得がいきますし……ね」


 なるほどな。やっぱり、この世界には、少なからず「転生者」という立場の人間は存在しているようだな。


「――っと、今はこんな話をしている暇は無いのでした」


 何か重要な事を思い出したらしいニーナが強引に話の流れを切った。


「さっきのユートさんの話を聞いていて、ユートさんを選んで正解だったという確信が固まりました」


 そう語るニーナの視線は真面目そのものだ。心なしか、体中から緊迫したオーラを放っているかのようである。


「今日、ここにユートさんを呼んだのは、ある事を引き受けてもらいたいからなんです」


 俺の背筋が無意識の内に伸びた。

 何故か、体中から力が抜けない。


 ――そして。


「私の代わりに、ここのダンジョンマスターをしていただけないでしょうかっ⁈」


 ………。


 ………………。


 ………………………。


「……はぃ?」


 あまりの不意打ちに、変な声が出た。





次回から、皆さんお待ちかね(?)のダンジョン経営へと、話は進んでいきます!


次回は来週の日曜、18:00に更新予定です。


では(*´ω`*)


……あ、勿論、少しずつですが調合師としての活動もしますよ!

……多分。

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