第三十七話 ダンジョンで出会いがあったのは間違っているだろうか
……何か、初期の話のタイトルにもこんなタイトルがあったような気がする。
そして、これが運営的にはどうなのか。何となくビクビクしてます。
という事で、一週間ぶりの更新となりました。
今回、次回とかけて今章の目的となるところの紹介をしていきます。なので、今回と次回は説明回っぽくなると思います。
ご了承ください。(;´・ω・)
ピンク色の絨毯が目を引く、コードが散乱した部屋の中。
そんな現代社会にありそうな――逆に言えば、ファンタジー異世界には到底似合わない部屋の中で、俺はテーブルを挟んで一人の少女と床の上に腰を落ち着けていた。
ちなみに、俺の目の前に腰を落ち着けている少女と言うのは、勿論だが、先ほど部屋へと入ってきた超絶美少女である。
向かい合って座る俺たち。
無論、俺自身、最低限の警戒はしている。行っているのは、風魔法の『サーチ』で周りや部屋の外に他に誰かいないか、何か怪しい物は無いかなどを調べたり、目の前の金髪美少女に「鑑定」を使ってステータスを覗こうとしてみたり等だ。
だが、どちらの行為も無駄となっている。
魔法は発動しても周りに怪しい反応は無いし、鑑定も目の前の少女に使うと。
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?
?
Lv?
MP:?/?
STR:?
DEF:?
AGI:?
INT:?
スキル
?
===========
俺の視界に映ったのは、項目すべてが「?」になって一切の情報が秘匿となっているステータス。
俺が使ったスキル「鑑定」は、対象が「隠蔽」を使ってステータスを隠していても、それに関係なく対象の本来のステータスを覗けるという上位スキルだ。
なので、本来はステータスを覗いたら全て「?」で何もわからないなど、普通はあり得ない。
……いや、絶対ではないか。
俺はこの異世界に来てまだ日が浅い。よって、この世界に存在しているスキルの中には、まだ俺が知らないものも多い。その中に「鑑定」の効果をも打ち消せるようなステータス隠蔽系のスキルがあっても、何ら不思議では無いか。
(うーん、そうなると……俺個人だけじゃ、情報を得るのは限りなく難しいか。この少女を振り切って逃げるでもいいけど、魔法が使えなきゃ俺の戦闘力は半分以下になるし、この少女がどれくらいの強さなのかも分からないと。……うん。無理矢理逃げるは下策だな)
俺はそう結論付ける。
もう、こうなれば流れに身を任せるしかない。最悪の場合になった場合は抵抗するだろうが、これからは、基本的に目の前の少女から情報を得ることを優先させることにした。
そして、そんな状況の中、先に口を開いたのはさっきと同じように少女の方だった。
「先ほどは失礼いたしましゅた――しました」
あ、噛んだ。
「―――うぅ……………………」
台詞を噛んでしまった少女は、少し顔を赤くして小さくなるように俯いてしまった。
(やだ。何、この生き物。とてつもなく可愛い。抱き枕にしたい……おっと、何考えてんだ俺)
こんな、純粋で幼気な美少女を抱き枕にしたいなんて。こんな事を考えてしまうから、地球にいた時にボッチ街道まっしぐらだったんじゃないか。
そう、自分の思考に喝を入れ、俺は未だに恥ずかしそうにしている少女のフォローへと回る。
――もう、この時の俺には、目の前の顔を真っ赤にしている少女に対しての警戒心は全くと言ってもいいほど残っちゃいなかった。
いや、しょうがないだろ? この少女の仕草が可愛すぎるのがいけないんだ。
俺は悪くない。ファンタジーが悪い。
無駄に可愛い女の子を量産するファンタジーが悪い。
……まぁ、そんな俺の心の声は横に置いておくとして。
「オホン」
まず、俺の方に意識を集めるために咳を一つ。
「えーっと、とりあえず自己紹介から始めないか?」
「は、はい! よろしくお願いしましゅ!」
また噛んでるし。
……まぁ、本人は気が付いていないみたいだから今回はスル―しておくか。
「よし。んじゃあ、俺から自己紹介な。俺の名前はユート。調合師として店の経営をやってる」
「あ、はい! 私はニーナ・エスラドと申します」
「へぇ……ニーナって呼んでいい?」
「はい! お構いなく!」
へぇ……この子はニーナって言うのか……ん?
――ちょっと待て。
ニーナ・エスラド?
『エスラド』って、どっかで聞いた事のあるような、無いような……。
俺は聞き覚えのあるその単語を必死に記憶の中から引き出そうとするが、その作業が完了する前にニーナが再び口を開いた。
「わ、私、ここでダンジョンマスターをさせていただいていましゅっ⁉」
「ふーん――」
ニーナが放ったその言葉は、初め、「エスラド」という単語をどこで聞いたのかを思い出そうとしていた俺にとって、どうでもいい情報に思えた。
「――……………?――」
だが、ニーナの発言から何拍か置いて、俺の意識が何か途轍もない事を聞いてしまったような、大きな違和感を与えてくる。
「――………………………………⁈――」
その違和感とは何か。
ニーナが語尾を「しゅっ⁈」と三度噛んでしまった事によるものだろうか。
「――…‼――」
いや、違う。全ッ然違う。
野生か漢かは知らんが、取りあえず、俺の勘がそう叫んでいる。
俺が違和感を感じたのはもっと前――ニーナが自分の事を「ダンジョンマスター」だと言った時ぐらいに感じて――
………は?
「――ダ……――」
そして、俺の意識はようやく己の違和感の正体へと行き着いた。
次の瞬間、その「違和感」は巨大な「衝撃」へと成り替わる。
更に、「衝撃」は俺の思考の「混乱」を引き起こし、それは「動揺」へと変化する。
刹那。
「――ダンジョンマスターーーーーー⁈」
程よい広さのその部屋には、俺の「驚愕」100%の声が響き渡った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この異世界――「ユグドラシル」はたった一つの大陸と、その大陸の周りに点々と存在している島々で地形を構成されている。
その中で、たった一つだけある大陸は「グロード大陸」と呼ばれ、この大陸には三つの巨大国家と、その他の中小国家が存在する。
三つの巨大国家は、それぞれ「ストレア王国」「魔王国エスラド」「聖国ミコイル」と言う。
この中で、ストレア王国と魔王国エスラドは仲がいいが、聖国ミコイルとは仲が悪いらしい。その大きな理由が、聖国ミコイルが徹底的なまでの「ヒューマン純血主義」の国だからだ。
聖国ミコイルに古くから浸透している宗教思想である「ヒューマン純血主義」は、「ヒューマン」こそが全種族を統べる頂点の存在であるとし、その他の種族――魔族や獣人、エルフやドワーフなどの妖精族――はヒューマンよりも劣っている種族だというのが主な内容。
そのため、聖国ミコイルではヒューマン以外の種族は「奴隷」または「低級国民」として不当な扱いを受けているのだとか。……って、その制度のどこが「聖国」なんだよ。陰湿な部分丸出しじゃねぇか。
まぁ、そんな聖国ミコイルに対して、ストレア王国は全種族が平等に扱われる良心的な国だし、「魔王国エスラド」も「魔王国」とは名が付いているが、それは国を治めている王が魔族であるというだけであり、ちゃんと全種族が平等に扱われている。
そんな国の思想が背景にあるためか、この関係性は随分前から続いているようだ。
そして、つい先日。
前述のように中々に複雑な関係性を保っていた三国だが、ついにこの均衡が破れることとなる。
聖国ミコイルが魔王国エスラドを突如強襲したのだ。
突然の開戦に、魔王国エスラド側は対応が追い付かず、友好国であるストレア王国の支援を待つことなく王都が落とされてしまった……らしい。
なんでも、聖国ミコイルはドラゴンを操り、他にも多数の魔物を引きつれて圧倒的兵力で魔王国内を片っ端から蹂躙していったという。
本来、魔物を従わせることは「普通」の手段では不可能だ。
方法があるとすれば「契約魔法」を使うか、魔物を小さいころから育てるか、あるいは元々気性の穏やかな魔物を飼育するぐらいしかない。
そして、そのどの方法でも上級――それこそ、Aランク以上の魔物を手なずけるのはほぼ不可能だ。Bランクの魔物なら過去に幾度か成功例があるらしいが、Aランク以上、ましてやドラゴンを従えられることのできた例は存在しないのだという。
だが、ミコイルはそれを成功させたのだ。
王都を落とされた魔王国エスラドは崩壊――とはいかないまでも、かなりの大打撃を受け、今では、地方で有力者が所々で抵抗しているだけという状況。
この事からも分かるように、現在のエスラド国内は相当パナイ事になっているらしい。
――そして更に、この状況をより悪くしている出来事が一つ。
どうやら、制圧された王都に魔王――つまり、王様が「隔離」されているようなのだ。
しかも、魔王は現在、手酷い傷を負って昏睡状態に陥っているらしい。
聖国ミコイルが王都に攻め入った際、魔王自ら戦線に立ち、最後まで抵抗を続けたのだという。その時に受けた傷が思った以上に酷く、こん睡状態になってしまった。
魔王自体は治療のために自ら奥の部屋にこもり、ミコイルに手を出させない為にその部屋に内側から鍵をかけた。
そして、そんな魔王の一人娘は、王城を制圧される前にそこを脱出。
追手を背中に背負いながら逃避行を続け、隣国であるストレア王国に何とか入国し、身を隠したのだという。
◆◇◆◇◆◇◆
「えっと……んじゃあ、ニーナが……?」
ニーナが自分を「ダンジョンマスター」だと言い、俺がそれに驚愕した後、俺はニーナから、ニーナの事、今までに何があったのかを簡単に説明してもらっていた。
「はい、私は魔王の娘です。魔王国エスラド国王、フランク・ロワ・エスラドの娘。ニーナ・エスラドでしゅっ⁉」
「おぅ……マジか」
思った通りの答えに、俺は思わず頭を抱える。
目の前のニーナがお姫様。
この事は、ニーナ自身が発している、どこか高貴なオーラのおかげか、すんなりと俺の中に入ってきた。
よく見ると、今現在ニーナが着ている服も、ゴスロリのドレス姿で、どこかの王族だと見えなくもない。
……うん。また、何か面倒事に巻き込まれそうな予感がしてきたぞ。
逃げてきたお姫様とか、最早問題の種にしかならなくね? ほんと。
そして地味にまた噛んでるよ、このお姫様。そろそろ噛みすぎて、舌から血が出てないかとか気になってきそうだ。
……って、あれ? そういえば。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな? ――いいですか?」
「あ、はい。いいですよ。それと、そんなにかしこまらないでください。口調も、普段と同じようにしていただけると嬉しいです」
「そうか。それじゃあ、口調はいつもの通りにさせてもらうよ。――えっと、それじゃあ、聞きたいことなんだけど。ニーナのステータスを「鑑定」を使って覗いたら、何も見えなかったんだけど……何でだ?」
「あ、それはですね。私のスキルの影響だと思います……今、解除したので、もう一度見てみてください」
「分かった」
ニーナに促され、俺はもう一度「鑑定」を発動させた。
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ニーナ・エスラド
魔族(魔王種)
Lv23
MP:83/83
STR:77
DEF:75
AGI:89
INT:69
スキル
「ダンジョン作成」「空間魔法:Lv40」「徒手格闘術:Lv23」「超隠蔽」「身体強化」「転送」「直感」
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「どうでした? 私のステータス、見れました?」
「あぁ、見れたよ」
俺はニーナの質問に、肯定の返事を返す。
どうやら、今度は本当のステータスを見ることが出来たようだ。
それにしても、ニーナって、本当に魔族だったのか。そういえば、魔族を見るのはニーナが初めてだな。まぁ、魔族は大抵の人が魔王国から殆ど出ることが無いらしいし、それはしょうがないのかもしれない。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、再びニーナに話しかける。
「この『超隠蔽』ってスキルが、俺が『鑑定』でニーナのステータスを覗くことが出来なかった原因って事で合ってるか?」
「はい、この『超隠蔽』は『鑑定』を使っても破られることのない、ステータス隠蔽系のスキルなんです」
「なるほど。やっぱりそうだったのか。これで、俺がステータスを覗けなかった理由が分かったな。……あー、でも、俺みたいなどこぞの輩かも分からないような奴に、自分の事をそんなホイホイと教えても良かったのか? 今だって、聖国から追われてる身なんだろ?」
「はい、大丈夫です! だって、ユートさんですから!」
「――? 俺だから大丈夫って、一体どういう事だ?」
え、ナニソレ?
告白?
それとも、「ユートさんはどうでもいい人なので、私の事を知られてもどうでもいいんですよ」的な意味かな?
……後者だったら、首を吊りかねないな。俺。美少女にそんな事を面と向かって言われた日には、生きる気力が大幅に削られる事請け負いだ。
とまぁ、俺の思考がネガティブな方向に向かい始めるが、そんな事はお構いなしに話は進んでいく。
「だって、ユートさんはいい人ですかりゃ!」
「あ、そういう事ね……」
何か、残念なような、安心したような……複雑だな。
そして、また地味にニーナが噛んだが、もう無視しよう。
というか、それよりも大切な事をニーナに伝えておかなくちゃいけない。
俺はニーナの目を真剣な表情でのぞき込んだ。
「うん、確かに、俺が良い人だという事は否定しない」
なんなら、日本にいた頃は「歩く人畜無害」だと言われたまであるぐらいだ。
「だけど、俺と初めて出会って数分でその結論を出しちゃうのは、少し早いかな……と思うんだよな。人って、騙したり、騙されたりする生き物だし」
だが、ニーナのように、人の本質をすぐに見極めたつもりになるのは、少し危ういように思う。
そんな意味を込めて、諭すようにしてニーナに指摘する。
すると、ニーナは何故か「ニコッ」と天使のような笑みを浮かべた。
「その事なら、大丈夫です。私のスキル「直感」は、何となーくですけど、その人がいい人なのか、悪い人なのか、本質が分かるんです」
つまりは、第六感とか、そう言う感じに近いのだろうか?
それが本当なら、確かに悪人に自分の身分やステータスを明かすことも無いだろうな。
「……そうか、それなら安心だな」
「はい!」
俺の言葉に嬉しそうに頷くニーナ。
そんなニーナをほほえましく思いながら、俺は、まだ聞いていなかった一番肝心な部分を質問する。
「よし、これで、ニーナの事――ニーナが魔王の娘でダンジョンマスターだという事はよく分かった。で、ここからが俺が本当に気になっている事、本当に聞きたいことなんだけど」
俺がそう言うと、俺の真剣な雰囲気が伝わったんだろうか。ニーナの表情が少しだけ硬くなったような気がした。
「まず一つ。ここは一体どこなんだ? そして、もう一つ。何で、ニーナは俺をここに呼んだんだ? ――この二つに、出来る範囲でいいから答えてくれないか?」
俺は、二本の右の指を立てて、ニーナに問う。
その質問を受けたニーナは、その表情をより硬くさせるのだった。
――今思えば、これがこの騒動の全ての始まりだったように思う。
それは。
バカらしくて。
楽しくて。
ギリギリで。
痛くて。
切ない。
――そんな出来事に、俺は知らぬ間に一歩踏み出していた。
次回も来週の日曜18:00に更新予定です。
読んでいただき、ありがとうございました(*´ω`*)




