第三十三話 ダンジョン攻略1
ストックに余裕ができたので、久々の不定期更新枠(*´ω`*)
グリモアの町から少し離れた東の森の奥地。そこにそびえ立つ、地層が丸見えな崖にその口は開いていた。
「ここが……ダンジョン」
「あぁ、そうだ」
俺の口から漏れ出た感嘆にも似た呟きを聞き取ったノエルが俺の横を歩きながらそう言葉を返す。
ダンジョン――今も謎が多い地下迷宮の入り口。俺の目の前に開かれたその口には、多くの冒険者達が群がっていた。
「ふむ、今日も冒険者が多いのぉ」
隣を歩くノエルのその奥を俺たち二人を先導するような形で進んでいたダンも、俺たちの会話に混ざる。
「まぁ、ダンジョンが見つかって、まだ二日目だからな。……っと、俺たちも入るぞ」
そう言ってノエルはダンジョンの入り口をくぐった。俺とダンもそれに続く。
ダンジョンの中は、とても薄暗かった。壁に張り付いている光を発するコケや、所々の壁から頭をのぞかせている発光する鉱石が唯一といっても良い光源で、それらが点々と上下左右全てが岩盤のような構造のダンジョン内部を照らしている。仄かな明かりでは十五メートルほど先になると見えなくなり、その様はまるで何者かが大きく開けた口の中を連想させた。
さて、これで晴れてダンジョンデビューを果たした俺だが、ハッキリ言ってここの構造は全くと言ってもいいほど知らない。なんせ、昨日の今日見つかったばかりの場所なのだ。地図なんて便利な道具は未だに流通しておらず、その上、その一部で流通している地図も不完全な物が多かったため購入していない。
だが、それも仕方ないという物か。何故なら、このダンジョン、一階層ごとの面積が無茶苦茶広いのだ。その実、四平方キロメートル。これは、地球で最も小さい国のバチカン市国の二倍とほぼ同じ大きさで、その広大な面積の上、まるでアリの巣に迷ったかのような錯覚に陥る入り組んだ迷路でもある。これでは一日やそこいらでは一階層分とは言え正確な地図を作成することは不可能に等しい。ちなみに、他に六つ確認されている他のダンジョンの階層面積はだいたい四分の一である一平方キロメートルである点を考えると、いかにこのダンジョンが広大であるかがよく分かる。
確か、みーちゃんはこのダンジョンの事を「マンモスダンジョン」と表現してたっけ。言いえて妙だな。ほんと。
まぁそんな訳で、俺はパーティーの先頭をダンとノエルの二人に譲る。この二人は昨日は三階層まで降りていて、そこまでの地図なら自分たちで書いたのだという。なので、一々俺が出しゃばることは無い。二人についていって、二人が望むタイミングで後方支援したり、自主的にダンジョン内で採取をしていくだけの簡単なお仕事になりそうだ。
「で、今日はどの階層まで潜るんだ?」
「そうだな……昨日は俺とダンの二人では三階層の魔物を相手にするのが限界だったから、とりあえずそこまでは行こうと思ってる。それ以降は三人でどこまで行けるかの検証になるだろうな」
「なるほどな。了解」
そんな会話を挟みつつ、差し掛かった十字路を左に曲がる。他の冒険者達は右に曲がったり、まっすぐ突き進んで行ったり、俺たちと同じように左に曲がったりとてんでバラバラの進路を取っていた。そして、その後の分かれ道でも他の冒険者が俺たちとは別の進路を辿っていき、ついには周りに他のパーティーは見当たらなくなってしまう。
何故、こんなにも他の冒険者達が別の進路を取っていくのか。
疑問に思ったのでノエルに聞いてみると。
「あぁ、それはこのダンジョンには階層ごとに複数の階段があるからだな」
という事らしい。
俺が先日読んだ書物にはそんな事は記されておらず、『ダンジョンには一階層ごとに昇降それぞれ一つずつ階段が存在している』としか書かれていなかった。
――一階層ごとの面積が広い分、階段も多くなっているのではないか?――というのは、この事に対するノエルの考え。……まぁ、階段が多いという事は、それだけ上り下りするのが容易だという事だ。これが深い階層になればどうなっているのかは分からないが、今のところは特にデメリットも無いので特に考える必要も無いだろ。
――と、俺がそう結論付けたその時。
「ダン、ユート。お客さんのお出ましだ」
ノエルが俺とダンに接敵を告げる。
『ゴギャギャギャガアアアアアア!』
俺たちの前方十メートル。曲がり角の奥から、俺の腰ほどしかない身長の人型の魔物――リトルゴブリンが二匹姿を現した。凶暴な性格であるゴブリンを小さくした――実際に、この魔物はゴブリンの幼生体に位置するのだが――容貌を持つその二匹の魔物は、どちらとも棍棒と言うには細くて短い棒を装備している。そして小さいながらもゴブリンの習性はしっかりと遺伝されているのか、どことなく異臭がその体からは漂っている。
「よっし! ウォーミングアップといくぞ!」
本日初の戦闘に、ダンがそう気分を高揚させながら、背中に背負った大きなハルバードを取り出す。道幅はそれなりに広いので、大きなハルバードでも取りまわすのに不自由は無い。
そして、そんなダンに続くかのように、ノエルも背中に吊るしていた槍と金属製の片手装備用の盾をそれぞれ右手左手で握る。
ちなみに、俺は二人の後ろで待機だ。まぁ一応、右手に短剣、左手には短杖を装備しておく。間違っても、俺自身が前線に出るようなことはしない。俺はあくまで「後方支援職」または「後方火力」である事を貫き通す所存である。
『ガァガァガァゴギャアアアアアアア!』
そしてたった今、二匹のリトルゴブリン達も俺たちの事を敵性だと認めたのだろう。先ほどまでのただ単に騒いでいるだけというような鳴き声は鳴りを潜め、明確に威嚇の意を感じられる唸り声のような鳴き声に変わった。
俺たち三人とリトルゴブリン二匹の間に、緊迫した空気が生み出される。
ブラックドラゴンの時とは比べるまでもないものの、未だに慣れていないこの緊張感は短剣や短杖を持った両掌から冷や汗を容易に噴出させた。
――そして。
「―――しっ‼」
真っ先に仕掛けたのは、ダンだった。
誰よりも早く地を蹴ったダンはステータスの影響か、一歩、二歩、三歩と地面を踏みしめて、即座に最高速度へと到達。ステータス値で勝っているであろうリトルゴブリン達が完全に反応する前に間合いを食い殺し、通路の真ん中で突っ立っていた二匹の内の右側の一体の首を掻き切った。
重量級であるはずのドワーフであるダンだが、そのスピードはかなり早い。
そんなダンを目の前にし、呆けた表情のまま掻き飛ぶリトルゴブリンの顔。それは綺麗な放物線を空中に描いて地面に転がった。切り口から噴き出た緑色の血が地面に同色の水たまりを作る。――そして、一瞬の静寂。
『――――――――――ッ⁉』
残されたリトルゴブリンからすれば、驚愕でしかないだろう。
普段はクランホームで鍛冶をしているらしいダンだが、その実力は恐らくCランクにも届く。それに、ギルドで冒険者登録をしている訳でもないのに、やけに戦い慣れしているようでもあった。つまり、ダンは普通に強い。
「はぁぁぁぁぁあああああ‼」
と、ここで今度は盾と槍を装備したノエルが咆哮を轟かせて、残ったリトルゴブリンに突撃していく。重い鎧等は装備していないノエルだが、その身長は百九十センチ以上にもなる。その巨体で咆哮を発しながら突進でもされれば、相手は平静ではいられないだろう。少なくとも、俺なら高い確率でちびる。
ちなみに、今現在ノエルが行っている咆哮とは、主に壁役と呼ばれる敵の攻撃や注意をひきつける役目の前衛組がよく行い、大きな声で敵を威圧、自分の方に敵の注意を集めるという行為を指している。これを継続的に壁役が行う事によって、他の前衛組達の負担を減らす事が可能だ。
『―――ッ! グ、グギャァァァァアアアア』
そんなノエルの咆哮に当てられたリトルゴブリンは少しおびえた様子をしつつも、ノエルのそれよりは格段に生易しい鳴き声を返す。だが、勿論ノエルはそれに応えた様子は無い。それを見たリトルゴブリンはいよいよ追い詰められた事を悟ったのか。
『ゴギャアアアアアアアア‼』
わめき声に近い鳴き声を発しながら、盾を前面にして突っ込んでくるノエルに向かって右手の棍棒を振り上げた。
だが、つい最近Dランクへと昇格し、「DEF」――防御力ならばCランク冒険者ともためを張れるとアリセルからも太鼓判を推されたらしいノエルが弱小魔物如きが放つお粗末な攻撃に苦戦するわけも無く。
ガギンッ‼
ノエルはリトルゴブリンが放った棍棒の一撃を左手に構えた丸い盾で後ろに受け流し、右手の槍で一突き。あっさりと魔物の体を貫いて見せた。
途端に魔物の背中から噴き出す緑色の血。そして、槍に貫かれた直後は「ビクンッ、ビクンッ」と体を痙攣させていたリトルゴブリンも次第に動かなくなっていく。それらは、ノエルがその魔物に止めを刺したことを証明していた。
ようやくダンジョンダンジョンできました。
少なくとも、後二、三話はダンジョン攻略に割くつもりです




