第三十二話 俺のロリコン隣人がダンジョン探索を全力で邪魔している
登場人物の名前を間違えていたので修正しました(2017/3/11)
次の日、俺は朝早くから準備に追われていた。その準備とは、勿論ダンジョンに潜るための物である。
「よし、ポーションやMPポーションは持ったな。昼飯は昨晩の内に軽く食べられる奴を作ってあるし、護身用の短剣も装備した……うん。準備完了っと」
俺はアイテムボックスの中身を確認しつつ、自分の身なりを整えて一階へと降りる。
その一階の店部分ではいつの間に用意したのやら、柄はお揃いで色が違うエプロンを身に着けたみーちゃん、レティア、ユリさんが開店の準備を済ませて一息ついている所だった。ちなみに、エプロンの色はみーちゃんが青、レティアが赤、ユリさんが緑。……うん。皆かわうぃよ!
と、そんな自分でも気持ち悪いと感じるようなことを考えつつ、三人に声をかける。
「それじゃあ皆、今日は頼んだ」
「……ん。まかせなさい」
「ノエルの事、頼むわね」
「頑張ってね!」
俺の言葉に対して、三者三様の言葉が返される。
「あぁ、行ってくる」
「「「いってらっしゃい」」」
俺はそんな三人の言葉を背に受けながら店を後にした……何か、後ろから剣呑な雰囲気を感じるんだけど、まぁ無視しとこ。
そして、俺はノエルやダンとの集合場所であるギルドへと歩き始めた。
グリモアの町は今日も平和だ。いつもと違う所と言えば、ダンジョンが見つかった事によって近辺の他の町や村の冒険者がこちらにやって来て、それで歩いている人が増えているということぐらいか。それでも、今の時間だともうダンジョンへ行っている人が多いからあまりそういう事は感じない。精々、いつもよりも賑やかだなぁと感じるくらいだ。
俺の店からこの町のギルドまではそう遠くない。五分ほど歩いたところで、左奥に周りよりも高いギルドの建物が見えてきた。そして、その前にはいつもより多くの冒険者による大規模な人波が発生していて、その人波から抜け出した準備を終えたらしい冒険者達が東の門の方へと向かってパーティーごとにひと塊となって進んでいるのが分かる。
「店の切り盛りしてた時の客の数も中々だったが、こうしてみると、今までとは桁違いの冒険者の多さだな……」
その迫力に、思わず口から賞賛にも似た呟きがこぼれ出る。まるで大型の大蛇のようにのたれ打ちまわる人波は一度飲み込まれたら中々抜け出せないような勢いがあった。……つーか、人ごみが苦手な俺からすると、それは正に地獄以外の何物でもなかった。
「そうじゃろ?」
「――っ! ……なんだ、ダンか」
突如、真横から聞こえてきた声に視線を向けると、そこにはダンディーなおひげを生やしたドワーフのダンが。
「悪い、少し遅れた?」
「いんや、わしもさっきここに着いたとこだ」
「……そういえば、ノエルが見当たらないんだけど」
同じクランの仲間であるはずのノエルとダンは俺よりも一足先に同じタイミングでクランホームを出たはずだ。
俺の疑問を聞いて、ダンは「あちゃー」と言った表情を浮かべ、視線を横へと向けた。俺もそんなダンにつられるようにして首を横に回す。
「………………………………なるほど」
そして、一瞬で理由を理解してしまった。
何故なら、俺とダンが向けた視線の先に、その端整な顔をヨミに踏みつけられ完全に意識がどこかへと飛んで行っているノエルがいたから。
あれだ。いつもみたく、幼女に反応してそれでヨミにぶっ飛ばされたんだと思う。もしくはヨミに反応して、ヨミにぶっ飛ばされたか。って、これどちらにしろ幼女に反応してるな。
とりあえず、状況が十分理解できたので、視線をダンへと戻す。
「……まぁ、いつものか」
「あぁ、いつものじゃな」
俺とダンは、相変わらずぶれないノエルに一つため息を吐きながら苦笑し合った。
ちなみに、世間ではこの苦笑を諦めとも言う。
まぁともあれ、これで一応今回のパーティーメンバーは全員そろった。(ヨミは違うが)
俺たち二人は、未だにヨミに踏みつけられて意識がぶっ飛んでいるノエルの方へと近づく。その周りの人々はどこか汚物を見るような目をノエルへと向け、それでいて特に剣呑な雰囲気は出さずに普通に横を通り過ぎていた。
これも日ごろ、ノエルが紅蓮聖女の一員として町に貢献している証なのだろう。いつもは残念ロリコンイケメンなノエルだが、以外にもこのヒューマンは「やる時には真剣にやる」という男だ。自分がここは真剣に、慎重に、そして真面目にやると決めた時は例え幼女に話しかけられても反応しないし、それを最後までやり遂げて見せる。……その分、日常では過剰と言ってもいいほど幼女に反応してしまうのだが。
とりあえず、そういう事もあってノエルは思いの外、町の人々からの信頼は厚いのだ。
「よっ、ヨミは相変わらずお疲れさんだな」
「あ、ユートさん、おはようございます。……まぁ、この人を押さえつけるのが今の私の役目みたいなものですので」
そう言ったヨミの顔には苦笑が浮かんでいた。
ちなみに、世間では以下略。
「おーい、ノエル。起きるんじゃ」
俺とヨミが会話している横では、ダンがヨミに踏んづけられて気絶しているノエルの目を覚ましにかかっていた。だが。
「Zzz………」
よっぽどヨミに徹底的に痛めつけられて気絶したのか、ノエルがダンの声に答えて目を覚ます様子は無い。……いや、ノエルに外傷は目に見える範囲では一切見られないんですけどね。一体、どんな事をノエルはされたのだろう。やべぇ、何かヨミが怖くなってきた。
「無駄ですよ、ダンさん。このノエルは名前を呼ばれたり、体を揺すられたり、腹の上にヒップドロップをぶちかまされる程度じゃ起きませんよ」
「いや、前二つはともかく、最後のヒップドロップ云々で起きないのは結構異常だと思うんだけど?! 何、ヨミはいかにも普通ですよみたいな風に言ってるの」
俺が思わずそう突っ込むと、ヨミは「あれ?」と言った表情を作る。
「ロリコンの皆様って、そう言うもんじゃないんですか?」
「全世界のロリコンに謝りなさい」
ノエルがそうだからって、ロリコン皆がそうだっていう事はあり得ねぇだろ。みんな違ってみんないいとか、十人十色っていう言葉を知らないのかよ……って、少し意味が違うか。
「……まぁ、それはともあれですね」
絶対今、話を逸らしたよな。しかも分かりやすく。
「この状態ノエルは、普通の起こし方ではまず起きません」
「ほう……じゃあ、『普通じゃない』方法なら起きるのか?」
「えぇ、正にその通りです。ユートさん」
「……で、その方法っていうのは?」
そう、俺が質問をぶつけるとヨミはノエルへと自身の体の向きを変えた。ノエルは相変わらずレンガが敷き詰められた地面の上でくたばっており、一向に目を覚ます兆しが無い。……今更だけど、ノエル死んでないよね?
俺が心の中でそんな心配をしていると、ヨミはノエルの耳元に自身の口を近づけていき。
「……幼女」
そう、ぽつりと呟く。すると。
「――――――――っ!」
突如、ガバッ――とノエルがその身を自発的に起こした。グワッ! という表現がしっくりくるほどに見開かれたノエルの双眸はつい先ほどまで気絶していたとは思えない程に生気が漏れ出ている。……それにしても「幼女」に反応して飛び起きるとか、ノエルらしいと感心するべきか、呆れるべきか。
「幼女……幼女はどこだ! ――ガフッ?!」
目を覚ますなり、幼女を求めて辺りに危険な感じがしまくっている視線を飛ばすノエルの脳天に、ヨミが手刀を落とした。そして、勢いよく地面におでこをごっつんこさせるノエル。そんなノエルの姿を見て、俺たち三人は再びため息をついた。
「はいはい、ノエル。ユートさんとダンさんが待ってますよ。さっさと起き上がってください」
「――ウグッ……おい、ヨミ……お前が殴り飛ばしたのに、その催促は酷いんじゃねぇのか? あー、頭が割れそうなぐらい痛てぇ」
そう言いつつも、目を完全に覚ましたノエルは頭を押さえつつ立ち上がる。そして、俺とダンに向き直った。
「あー、何か待たせたみたいだな……」
「気にするでない」
「ダンの言うとおりだ。俺たちはちゃんとお前を理解してるから、今更謝んなよ」
「何でだ。二人とも俺の事を励ましているはずなのに、どこかバカにするような感じがあるのは……」
「まぁ、そうやって頭を悩ませるのはまた今度にしよう。それよりも、さっさとダンジョンに出発しないと、他の冒険者達に遅れるぞ?」
「まぁ、人ごみは苦手だからそれでも別にかまわないんだけどな」と、心の中で付け足す。勿論、そんな事はおくびにも出さないけどな。
「そうじゃ! さっさと行くぞ、お前たち! ダンジョンでたっぷりと汗を流した後の酒がわしらを待っておるっ」
ダンのテンションがどこか高い。というか、ダンの狙いは酒かよ!
そっちがメインじゃないからね?!
……まぁ、とは言え。
「そ……そうだな!」
そのテンションの高さがどこかパーティーの雰囲気を良くしている事も確かだ。
ダンの檄を受けてノエルもテンションを戻したようで、握り拳を作ったノエルは気合を入れて返事を返した。
「それじゃあ、ノエル、ダンさん、ユートさん。気を付けて行って来てくださいね」
そして、ヨミの言葉を受けた俺たち三人はその足で東の森の奥――ダンジョンへと向かうため、グリモアの町の東の門へと向かう。
何故だ……今回でダンジョンに突入する予定だったのに……。
……本当に申し訳ありません。
次回こそ、次回こそダンジョンに突入するので、それでお許しください(土下座