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第三十一話 僕の店は従業員が少ない

今回は閑話的な話。

文字数も3200ぐらいと、少し短めです。


 結局その日の午後、俺が店のカウンターに立って接客することは無かった。ヘルプとして入ってくれた二人――レティアとユリさんの接客能力が高かったことが理由だ。


 ユリさんは、流石、宿の受付をしているという事もあって、客を処理する能力が尋常じゃない。そして、その傍らで一緒に接客をしていたレティアもユリさん程じゃないが、かなりのスピードで客を捌けていたようだった。

 そんな二人が接客してくれていたおかげで、俺は客の冒険者達から買い取った、ダンジョン内で採取された素材の整理に専念することが出来、とても大助かり。今後も、二人には店を手伝ってもらう事となった。勿論、二人には手伝ってもらった分、お礼のお金を渡すことになる。


 そして今夜は、ユリさんとレティアが店を手伝ってくれたお礼と、これからもよろしくと言う意味合いも込めて、いつものメンツに加え、ユリさんも同席してもらって、少し豪勢な夕食を堪能する事に。勿論、それを作るのは俺なんだが。ちなみに、エイルの宿には、既にユリさんが家の手伝いを抜けてこっちで食べても良いという許可は貰ってある。


 と、いう事で、よーし、気合を入れて夕ご飯を作っちゃうぞ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 料理を作り始めて一時間後。時計の針は十九時を指していた。


 そんな中で料理を作り終えた俺は、庭に設置した二つのテーブルに料理を並べる。

 そして、俺はいつもの席に着いた。テーブルの席には、紅蓮聖女や孤児院の子供達といういつものメンバーの他に、ユリさん、そして――


「……ん。今日もおいしそう」


 ――何故か上機嫌のみーちゃんが俺の隣に座っていた。

 ……いや、家にマーキングを施されてた時点で、こんな事になるのは予測できてたんだけどな。ちなみに、他の勇者二人は来ていない。そんな気軽に一人で来ていいのか、勇者よ。


「……問題ない。置手紙をしてきたから」


 はい、そうですか。……置手紙って事は、黙って出て来たって事なんだろうけど……まぁいいか。


 と、俺とみーちゃんがそんな会話をしていると、みーちゃんとは反対側の隣の席に座ったレティアとユリさんが会話に混ざってきた。


「で、ユート君、何でその子がユート君の隣に居座っているのかな?」

「そうだよ、そもそもその子ってユート君の何?」

「あー、レティアは知ってるだろうけど――」

「……私はユウ君の……言葉では言い表せない仲」

「――何、メンドクサイ言い方をしちゃってるの?! 普通に幼馴染でいいだろ!?」


 相変わらず、俺をいじるのを止めようとしないみーちゃんにツッコミを入れる。

 しかし、みーちゃんは俺のツッコミに対して「何故」とでも言いたそうに首を傾げた。


「……だって、私達は六年前に生き別れて、そして、この地で運命的な再会をした。これを言葉で言い表せない仲以外、何て言うの?」

「普通に幼馴染だろ!」


 ノープロブレムで幼馴染だろ。逆に、幼馴染以外でどんな風に言えばいいのか、こっちが教えてほしいわ。


「まぁまぁ、二人とも」


 俺が再びみーちゃんにツッコミを入れた所で、ユリさんが場を落ち着かせるように、俺たちを制した。


「とりあえず、二人の関係は分かったから……後で、ユート君にはいろいろと教えてもらいたいことが山のようにあるんだけど……とりあえずは、食べ始めましょう?」


 そう言い、俺に合掌を促すユリさん。その視線がどこか恐ろしく感じるのは、空腹の為か。はたまた、別の理由か……。


 ――と、とりあえず、『いただきます』をするか。


「そ、それじゃあ、ちびっ子達も、席に着いたか?」

『はーい!』


 俺の質問に対し、別のテーブルに仲良く座っている孤児院のちびっ子達は元気な声で答える。


「んじゃあ、いただきます!」

『いただきまぁす!』


 次の瞬間、俺の合掌に合わせて声を揃えて挨拶をした孤児院のちびっ子達が、競い合うようにして自分の皿に取り分けられた、茶色の液体がかけられた白飯――世にいうカレーライスを興味津々な様子で口にかき込み始めた。


 ちなみに、この世界には「カレーのルー」などと言う便利調味料どころか、カレーライスという料理の存在自体が無かったので、このカレーライスは俺がスパイスから作った完全お手製の品だったりする。つまり、料理でのオーダーメイド品といっても良いぐらい。何それ。マジかっけー。


「……ユウ君。私、お腹すいた」

「あぁ、それじゃあ、俺たちも食うか」


 みーちゃんに促され、大人達(この世界では十五歳以上は大人とみなされるらしい)もいそいそと食べ始める。


「ふむ……仄かに香る……これは、香辛料か?」


 ずんぐりドーワーフのダンはカレーライスをスプーンですくって匂いを嗅ぎ。


「何だか、少し色が美味しそうじゃないのぉ」


 狐獣人族のリーリアは見慣れない色の料理に少し、難色を示す。


「リーリア、それでは作ってくださったユートさんに失礼ですよ」


 そして、そんなリーリアを眼鏡美人エルフのファニールが宥めた。


「! この辛さがちょうどいいですね!」


 そのファニールたちの横では、カレーを食べたらしいヨミが、珍しく目を輝かせている。


「……ん。ユウ君の料理がおいしいのは当たり前」


 何故か、そんなヨミの感想を聞いたみーちゃんは誇らしげに胸を張ってるし……いや、眼福ではあるんだけど、何でみーちゃんが誇らしげにしてるんだよ。おかしいだろ。


「……幼馴染だから?」

「みーちゃんは『幼馴染』というのを、免罪符か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうかねぇ?!」


 ――その後、昨日の晩御飯の時同様に、本当に色んな事――ユリさん、レティア、みーちゃんの三人が競い合うようにしてカレーを食べていたとか。ノエルがヨミに「ロリコン」として成敗されたとか。リーリアが見た目に反して旨いカレーに興奮して、ユリさん、レティア、みーちゃんの大食い選手権に途中乱入したり――があったんだが、それはまた別の話。


 ……あれ。この流れ、昨日もやったような気がする。



◆◇◆◇◆◇◆



「おい、ユートよ」

「何だ、ノエル」


 晩御飯をみんなで食べ終わってすぐ。少し休憩を入れて、皿などの後片付けをしようと席から立ち上がった俺を、ノエルの呼び声が止めた。


「明日、一緒にダンジョンに潜りにいかないか? 一応、俺とダンの二人で潜る予定なんだが、後衛職がいなくてな」


 そう、ノエルは俺に提案してくる。……そんなノエルの顔はヨミに成敗されたためか、所々青く腫れているのだが。まぁ、そんな事は横に置いておいて。


「あー、悪い。俺、しばらくは店の切り盛りで忙しくなりそうなんだわ」


 戦闘時は後衛職で、前衛としての火力が心配な俺としては、ノエルの提案は魅力的ではある。だが、どうしてもしばらくは店の方に掛かりっきりにならざる負えない。

 そう言う理由から、俺がノエルの提案を断ろうとすると、今日から店の方を手伝ってくれることになったユリさんが横槍を入れる形で口を開いた。


「ユート君、そんなこと言わずに行ってくればいいじゃん。ダンジョンに」

「で、でも、ユリさんたちを手伝わせている手前、俺だけが抜けるわけにはいきませんよ!」


 そう、俺がユリさんの提案を拒絶しようとするが、今度はユリさんと同じく俺の店を手伝ってくれることになったレティアが話に混ざる。


「もう、そんなこと言わずに! 店の方は私達でなんとかするからさ!」

「いや、そうは言ってもなぁ……午後からの買取りはともかく、午前のポーション販売の時の忙しさは流石に二人だけじゃきついと思うぞ?」


 そう言った俺の脳裏に、今朝の地獄のような忙しさがフラッシュバックする……うん。あれは生半可な物では無かった。


「せめて、あと一人手伝ってくれればいいんだけどな……」


 ポツリ。と、俺は呟いた。その言葉に特に深い意味は無く、本当に何となく、心の中で思った事を言葉にしただけなのだが――


「……それじゃあ、私がお手伝いする?」


 ――それに反応したのは、隣に座っていたみーちゃんだった。


「……は?」


 思いがけない人物からの申し出に、俺は思わず気の抜けた声を返した。





次回から、ようやくダンジョンに潜ります。(多分

……ですが、野郎成分100%なので、そこはご注意を。(*´ω`*)

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