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第三話 この異世界の魔法道具店はどこかおかしい

大幅修正しました(4/8)

 エイルの宿を出た俺は、真っ先に町の門へと向かった。


 グリモアの町に入る時に巻き上げられた金を奪還するためだ。

 と、言えば勇ましく聞こえるが、実際の所、預けていたお金を返してもらうだけである。しかも、その額は銅貨三枚。なんてことは無い。


 少し急いだためか、門には結構早く着いた。

 門にたどり着いた俺は、おっちゃんの姿を探した。

 すると――


「おう! 兄ちゃんじゃねぇか!」


 先に俺を見つけたらしいおっちゃんが、横から俺にこえをかける。


「さっきぶりだな!」

「えぇ、どうも」

「ギルドに行って来て、ギルドカードを作ってきたのか!」

 

 相変わらず、近くで喋っているのにやたらと大声なおっちゃん。

 ……あ、やべ。耳栓、買ってくるの忘れてた。

 そんな後悔を胸に抱きながら、俺はおっちゃんにさっき作ったばかりのギルドカードを見せる。


「おう! 確かに、ギルドカードだ! んじゃあ、この金は返すぜ!」

「ありがとうございます」


 俺は銅貨三枚をしっかりと受け取り、その場をあとにする。背中には、相手してくれた兵士のおっちゃんの威勢のいい「気ぃをつけろよー」という声が聞こえた。

 オッチャン、良い奴。プラス一点だな。………いや、何の点かは俺自身にもよく分からんのだが。


 とりあえず、一つの出会いを通して心がほっこりとした俺は、その足でギルドがあるメインストリート沿いにある魔法道具店へと足を運ぶ。そこはこの町で一番利用されている魔法道具店らしく、なんでも『ハイクオリティな品をリーズナブルに』というのが店のモットーなのだそうだ。どこの電気店の広告文句だよ。


 そんな魔法道具店、その名も「ミツバシ魔法道具」はギルドに近いという事もあり、すぐにたどり着いた。ちなみに、外見は至って普通の電気店のようである。


 いや待て。何で、異世界に電気店があるんだよっ!しかも、売ってるのは扇風機とかIHクッキングヒーターっぽいのとかだし。それに、よく考えたら「ミツバシ魔法道具」って「三○電機」のパクリじゃねぇかよ!


 俺は異世界に来て、初めて恐怖した。


 本来はボケの側のはずの俺が、こんな風に連続で突っ込まされる日が来るなんて………

 心底どうでもいいなとは思わないでいただきたい。人間、未知の領域に片足を突っ込んだときは、心底恐怖するものなのだ。それは勿論、俺にも適用される。

 じゃあ何故、異世界に来た時や、もっと言えば神様に遭遇した時に恐怖しなかったのかと聞かれるだろう。それは、俺自身が日ごろから積み重ねてきたイメージトレーニングの賜物だ。ボッチと言うのはとにかく暇だった。日常的にやることが勉強や読書を除けば妄想ぐらいしかない。そこで、俺は自分が異世界に転生した時のイメージを膨らませ続けた。その結果があの時の落ち着き様だったわけだ。厨二病万歳。


「だが、さすがの俺でも、自分が連続で突っ込まなくてはいけない場面に遭遇するとは思わなかったな………これからは気を抜かずにやってかないと、足元をすくわれるかもしれんな。気をつけよう」


 俺はどうでもいいところから、また一つ教訓を得た。


「それにしても、やっぱりでかい建物だよな………」


 俺は改めてミツバシ魔法道具店を前にして、そう呟く。


 魔法道具店と言うぐらいだから、某おジャ魔女が切り盛りしているような店を想像していたのだが、その幻想は見事に打ち砕かれた。


 外観は想像していたのと見事に正反対。ネオンが煌めき(おそらく、あのネオンも魔法道具の一種だと思われる)、ギルド以上にでかい図体をした建物がそこに鎮座していた。

 もう、チェーン展開している店だと言われていも納得のいくレベルだった。


「………まぁ、いつまでも異世界に圧倒されっぱなしじゃこれから生きていけねぇしな。とりあえず入るか」


 俺は一言呟き、店へと入る。気分は秋葉とかにある電気店にはいる時のそれだ。すると、出入り口付近に建物の売り場コーナー案内が貼られていたので一通り目を通す。


「なるほど。生産系の魔法道具は三階に売ってるのか………お、二階には時計販売コーナーがあるな。時間が分からないのは不便だし、ちょっと寄ってみるか」


 さて、目的のコーナーは見つけた。


 俺はまず、三階の生産系コーナーへと足を運んだ。ちなみに、移動は階段である。なんでだよ。こんだけ電気店っぽかったらエレベーターとか、エスカレーターぐらいあるんじゃないのかよ。中途半端だな!

 そんな文句を心の中で言いながら、俺は三階へと上がっていく。日本では階段を上がろうものなら、すぐに息を切らせていた俺だが、今回は息が切れることは無かった。これが、ステータスの補正による恩栄なのだろうか。まぁ、そんな事は心底どうでもいいのだが。


 およそ五十段に及ぶ階段を上ったその先が三階のフロアだ。

 所狭しと、地球上では見慣れないような魔法道具が鎮座しているのが一目で見渡せた。


「………改まってだが、ここって本当にすげぇな」

「そうでございましょう!そうでございましょう!」

「おわっ!?」

「おやおや、驚かせてしまった様で申し訳ございません。おっと、ここで咄嗟に攻撃するのは抑えてください。商品に傷がついてしまうので」


 そう言って、過敏に声に反応した俺を横から宥めたのは、小さなおっさんだった。しかも毛むくじゃら。


「………あなたは?」

「私でございますか?私は、このミツバシ魔法道具店社長のミツバシでございます。以後、お見知りおきを」


 そう言って、小さなおっさん、もといミツバシと名乗った社長は片足を半歩下げ、片腕を胸の前で折ながらキザっぽく一礼した。しかし悲しいかな、身長が低く、手足が短いのでその挨拶はどう見ても不恰好だった。


「ミツバシ社長………でいいか?」

「はい。何なりとお好きなようにお呼びください」

「じゃあ、ミツバシ社長。あなた、ドワーフ………ですよね?」

「えぇ、そうですが。それが、何か?」

「いや、ドワーフってもっと堅苦しいイメージがあったから、社長みたいなドワーフはちょっと意外………というか」


 そう、街中で見たドワーフ、特に男は例外なく、常に気難しい顔をしていた。だが、このミツバシは常にニコニコしてて、ザ・人畜無害といった感じが出ている。


「ふむ。私を初めて見た人達は必ずそう言いますね。ですが、それは街中のドワーフ達が昔にこだわって、今の時代の流れに乗ろうとしてない結果なのです。今は、自分にプライドを持つのではなく、商売人としてプライドを持つことが重要なのです!それを、あいつらは理解しようとせずに………頑固な奴らがッ!!………おっと、失礼いたしました。アハハ…」


 訂正。このミツバシ、根本的な所はそこらのドワーフよりもメンドクサイわ。

 だって、他のドワーフに愚痴を言ってるときの奴の顔、阿修羅みたいだったもん。久しぶりに背筋が凍ったぞ。まじで。


「そ、そうなんですね………アハハ」


 とりあえず、ここは調子を合わせておくのがベストだな。と判断した俺はミツバシと一緒に笑っておく。周りの客が何事かと俺たちの方を見てくるが、腹は背に代えられぬだ。


 しばらく二人で笑っていると、唐突にミツバシがその笑いを止めた。俺が何事かと思ってミツバシを見ると、奴は立派な商人の顔になっている。


「それで、お客様の名前をお伺いしても……?」

「ユートと言います」

「はい!ユート様ですね。それで、ユート様は本日は何をお求めに?」

「今日は調合用の道具が欲しくて――」

「調合用の道具ですね!それならこちらです」


 俺を先導してテクテクと店を歩くミツバシ。その姿はまるでピク○ンのようだった。頭の中で「種○歌」とかが流れそうである。


 俺は頭の中で種○歌を流しながら、ミツバシの後を付いていく。視界の端に映る魔法道具はどれも見た事のない形をしていて、厨二精神を大きく揺さぶってくる。あれは何に使うんだろ。あれはどうやって使うんだ。そんな事を考えながらも、ミツバシがある商品の前で止まったのを見て、俺も止まった。


「これが、初めての方にオススメする、我がミツバシ魔法道具店、一押しの調合セットでございます!」


 そう言いながらミツバシが見せてきたのは、ビーカーみたいな容器やその他もろもろが入った簡素な調合セットだった。そして、それを手に持ちながら、ミツバシのセールストークは続く。


「調合には欠かせない全ての用具が入っております。しかも、そのどれもが簡単な造りでして、初心者に扱いやすい!小さいから持ち運びにも便利!まさに調合初心者のためのセットなのです!それがなんと、我がミツバシ魔法道具店では銀貨4枚!お買い得ですよ!いかがですか?」


 しきりに商品の良さについて語るミツバシは、日本の某テレビショッピングの名物会長さんに酷似するものがある。そして、俺はそんなミツバシの勢いに負けた。


「あ、はい。……じゃあ、それにさせてもらいます」

「まいど、ありがとうございます!」


 にかっと満足そうな笑みを浮かべるミツバシ。どこか憎めない笑みだ。


 そして、俺は三階にあるレジで会計を済ませる。俺のアイテムボックスから銀貨四枚が飛んだ。ちなみに、支払いは試しに金貨でやってみた。すると、お釣りは銀貨96枚。

 どうやら、金貨1枚=銀貨100枚ということらしい。ってことは、金貨1枚=日本円で言うと、100000………10万円ってことか。日本では昔、10万円硬貨ってやつが何かの記念で少量製造されたらしいが、それと同じ価値を持ってんのかよ。すげぇな、金貨。


 買った調合セットをアイテムボックスにしまっていると、再びミツバシがすり寄ってきた。


「それで、他にお求めの品などはありますか?」

「出来れば、時計の方も」

「それでしたら、二階ですね。それでは行きましょう」


 そう言って、ミツバシは階段をテクテクとおりていく。その後ろ姿を見ながら、俺の頭の中に再び種○歌が流れていたのは言うまでもあるまい。


 階段を下りて二階に降りると、そこにはアクセサリー類が所狭しと並べられていた。

 ミツバシ魔法道具店の二階は、魔法の効果が付与されているアクセサリーや時計なんかが主に売られている。

 ちなみに、さっきまで俺たちがいた三階には商業用の魔法道具、一階には日常生活用の魔法道具が売られていて、自分の目的に遭った物だけをじっくりと吟味できるようになっている。てか、本当にそういう所は日本の電気店とそっくりだな。


「それで、ユート様はどのような時計をお探しで?」

「できれば、いつでも時間が分かるように腕時計タイプのが欲しいんですけど」

「なるほど。それでしたら、こちらです」


 そう言って、再びミツバシは俺を先導して歩き出す。



 あ、ちなみに、同じピクミ○の歌に、愛○歌というのがあるが、種○歌は「ピ○ミン2」の主題歌で、愛○歌は「○クミン(1)」の主題歌だ。これ、テストに出るぞ。………いや、出ないと思うけど。そういえば、愛○歌って人間社会を忠実に再現していると思う。特に、「食べられる」なんてフレーズ。まさに上司に食い物にされている下っ端の心境のようだ………いや、この話はここまでにしておこう。異世界に来てまで、むなしい現実社会を語る道理はない。


「我が魔法道具店では、多種多様の腕時計を取り揃えております。よければ、手に取ってご覧ください!」


 ミツバシに勧められるままに、一つの腕時計を手に取ってみてみるが


「………だめだ。よく分からん」


 俺は日本にいた時は腕時計なんてしたことが無かった。何故なら、時計なら常に持ち歩いているゲーム機の時計機能だけで事足りたからだ。だが、この世界にはPSvintaは存在しない。という事で急きょ腕時計を調達しようとしたのだが、どんなデザインが良いのかさっぱり分からなかった。


「まぁいいか。とりあえず、安い奴にしとこ」


 結局、俺は腕時計コーナーで一番安い、簡素なデザインのを選んだ。とはいえ、そこは魔法道具。一番安い物でも銀貨5枚はした。


「とりあえず、これを」

「はい、毎度あり!銀貨5枚です!」

「はい」

「………はい!確かに受け取りました!」


 支払いを済ませ、俺は腕に時計を巻き付ける。ちなみに、この世界の一日の長さは25時間。一か月は25日で一年は12か月という構成になっている。これらは全て神様から貰った紙から得たものだ。


 さて、調合セットと時計も買った事だし、これで用事は全部済ませた。後は、特に買う物もないので、早々にここを立ち去る事にする。そうしないと、ミツバシに色々と余計な物を買わされそうだからな。


「おや、もうお帰りですか?」

「えぇ、目的の物は全部買えましたから」

「そうですか、それなら良かったです」


 そう言いながら、ミツバシは「これからもミツバシ魔法道具店をご贔屓に」と頭を下げて俺を見送った。

 無理に商品を押し付けず、帰る時には頭を下げて見送る。そんな真摯な対応に俺は好感を持った。これからも、ここはちょくちょく利用させてもらうか。


「また、来させてもらいます」

「はい。お気をつけて」


 そんなミツバシの言葉を背に受けながら、俺はエイルの宿へと戻る。


 さっき買ったばかりの腕時計は、すでに19時を指している。


 神様から貰った紙から得た情報によると、この世界の住人は大体23時に就寝し、朝は7時くらいに起きるのが普通らしい。睡眠時間9時間とは、健康的な生活なことで。

 とはいえ、俺にはそんな事は関係ない。日本にいた時にだてにゲーム廃人をやっていたわけでは無い。日本にいた時の俺の睡眠時間は毎晩3時間程度だった。


「てことで、今日は夜更かしして調合に励むかな。ゲーマー魂、見せてやろうじゃねぇか」


 俺は気合を入れると、エイルの宿へと戻っていった。






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