第二十九話 ポーションの量産は調合師のお仕事ですっ!
なろうコン、二次は落ちてしまいました。……まぁ、予想はできていたんですけどねっ(。-`ω-)
正直、今現在までの話だと、この物語はちょこちょこ感想でも言われてるとおり、ありふれた異世界転生物でしかありません。
ただ、もう少し先の展開……具体的に言うと、三章くらいになってくると、少しありふれた感じから外れてくるかな……と思います。多分。
そういう事で、今回の話をどうぞ!(どういう事だよ?!
◆◇◆◇◆
空間魔法「転移」のマーキングについて、修正を入れました。(5/6)
『――ダンジョン。
別名、「迷宮」とも呼ばれるそれは、その存在が確認され始めてから五百年以上経った今でも、かなり謎が多い。
分かっていることと言えば、その迷宮は「異空間」へと繋がっており、この世界とはまた別の「どこか」にその存在を有していること。その為、ダンジョンに侵入するためには正規の出入り口を使うほか無いということぐらいだろう。
無論、ダンジョン内に空間魔法で直接転移することも不可能である。
誰が、どんな目的で作ったのか。それどころか、人工物なのか自然に発生したものなのかさえも不明なそれら「巨大な迷路」は、今現在、世界で六つ確認されている。
何層にも渡って続く広大な迷路は、どれもが地上のよりも強力な魔物が徘徊し、そして、卑劣にもほどがあるような罠が仕掛けられている。その鬼畜さは、さながら「処刑場」だと称されることもしばしば。
しかし、そんなダンジョンだが、ここに挑戦していく冒険者達は後を絶たない。
その大きな理由が、「ダンジョン内ならば死んでも蘇生できる」という、夢のようなシステム。
ダンジョン内は、確かに危険を極める。気を抜いたらすぐに死んでしまう、正にハードモード。だが、このダンジョン内で死んでしまった――つまり、生物としての機能を停止させてしまった冒険者は、ダンジョンの入り口に転送され、そして、そこで蘇生する。
勿論、その際にいくらかのペナルティも発生する――』
「カチッカチッ……」という壁掛け時計の秒針の音だけが響く二階のリビングで、俺はソファに座りながら一冊の本を読み漁っていた。
ふと、部屋の壁掛け時計を確認すると、時刻はもう二十四時。今日が終わるまで、後一時間ほどしかない。俺は今日はここまでにするかと決め、本のページを閉じた。
閉じた本の表紙には「ダンジョン攻略の手ほどき(色々と)」という、今まで俺が呼んでいたこの本の題名が綴られている。
……「色々と」って、どういう事だよ。
「なるほど。ダンジョンねぇ……」
俺は手に持っていたその本を目の前のテーブルに置いた。そして、フカフカのソファの背もたれに体を預ける。
しばらくそうして目をつぶっていると、急激に睡魔が俺を襲ってきた。
この時間帯、いつもなら一階の工房に籠って明日の店で売り出すためのポーション類を調合して、それが丁度終わったぐらいのタイミングなのだが、幸いなことに、今は明日売り出すぐらいなら十分間に合うくらいのストックが出来上がっている。
――もう、このまま寝てしまおうか。
俺がそんな事を考えた時だった。
『~~~~♪』
突如、左中指に嵌めていた指輪型通信用魔法具(結局、あの後、みーちゃんによって魔法具を嵌める指は変えさせられた)から音楽が流れ出した。ちなみに、この音楽は結構なボリュームで流されているが、アリセルによると、これは、この指輪を装備している者にしか聞こえないようになっているらしい。
まぁ、それはともかくとして。
俺はいきなり聞こえてきた大きな音に少しビックリしながら、昼間にアリセルに教わったように、指輪に取り付けられている青い宝石――に擬態するように作られた「通話結晶」と呼ばれる魔法鉱石を台座に押し込むようにして、少し上から力を加えた。すると、指輪から発生していた音楽は終息し、代わりに指輪からアリセルの声が漏れ出してきた。
『やぁ、ユート』
「どうも」
深夜に近いにもかかわらず、お互いに気楽な挨拶を交わす。
「で、何の用ですか?」
そしてそのまま、アリセルに用件を尋ねる。
正直、結構眠いのでさっさと寝床に付きたいという気持ちが前面に出たがゆえの行動だ。
しかし、アリセルはそんなせっかちな俺の反応にも難色を示すことなく、用件を淡々と話し始めた。その内容を要約すると、以下のようになる。
『1、今日明らかとなった新しいダンジョンの事は、明日の朝一にギルドにてグリモアの町の冒険者に通達される。
2、ダンジョンはその特殊な性質の故、多くの冒険者がそこへ挑むことが予想される。
3、その結果、明日は大量の消耗品(ポーション類や、非常食などの、手軽に食べられる食品等)が必要になる可能性が高い。
4、と言うわけなので、明日は商品の量を三倍ほどに増やしておいてほしい。
5、以上をギルドからの直接的な指名依頼として、俺に依頼する。』
「えっと……マジですか?」
いきなりの事に、困惑気味にアリセルに確認を取る。
『あぁ、マジだ』
「………………………」
アリセルの無慈悲な一言にダンマリとする俺。心境的には、ベッドに倒れ込んで、朝まで枕を涙で濡らしたい気持ちだった。
今現在、俺が調合し終えている在庫の数は、
『ローポ:回復レベル4~8の物をレベル別に五十本ずつ
MPローポ:ローポと同じ
解毒ポーション:回復レベル3~5の物をレベル別に三十本ずつ
解痺ポーション:解毒ポーションと同じ
覚醒ポーション:解毒ポーションと同じ
毒薬:付与レベル2~4の物をレベル別に十本ずつ
麻痺薬:毒薬と同じ
睡眠薬:毒薬と同じ』
と言う感じ。この数はいつも大体同じで、常にこれぐらいはストックしてある。
勿論、いつもならこれら全てを一日で売り切る事は殆どない。大抵の場合、三分の一くらいは売れ残って明日の分の在庫となる。
つまり、通常一日で売れる商品の数は。
『ローポ、MPローポ:回復レベル別に三十五本前後。
解毒、解痺、覚醒ポーション:回復レベル別に二十本前後。
毒薬、麻痺薬、睡眠薬:付与レベル別に七本前後。』
大体こんな結果になる。
よって、明日までに用意しないといけない商品の数は
『ローポ、MPローポ:回復レベル別に百本前後。
解毒、解痺、覚醒ポーション:回復レベル別に六十本前後。
毒薬、麻痺薬、睡眠薬:付与レベル別に二十本前後。』
となり、かなりの数の在庫を確保しなくてはいけない。単純に言うと、在庫を二倍にしなくてはいけないのだ。
ハッキリ言って、これはかなりキツイ。具体的には、俺が現在使っている最新型の調合用の魔法具をフルで使っても、三時間半はかかってしまう。
俺はそれらの事を頭の中で考えながら、再び壁の時計の針を確認。時計の針はさっき確認した時から少し進んで、二十四時半を指し示していた。
「あの……これからその数を調合しようと思ったら、徹夜になってしまうんですが……」
『そこを何とかお願いできないだろうか……』
俺がいかにも絶望的というような声で抵抗を試みてみるが、アリセルはそれでもと、俺に頼み込む。そんなアリセルの声色は、本心からすまないと思っているようなものだった。
――実際、アリセルはこのような形で俺に徹夜を強要するのが申し訳ないと思っているんだろう。だが、彼女は「ギルドマスター」という責任ある立場の人間だ。個人的な心情を挟み込む前に、ギルドとして、全体的な利益を考えて、こうして頼み込んでいるのだろう。
俺は、そのようなアリセルの心情をすぐに理解した。……いや、「理解してしまった」と言うべきだろうか。
何故なら――
「……分かりました。何とかやってみます」
『本当か?! そうしてくれると、こちらも助かる』
――俺がそんな葛藤を抱えた人の頼みを無下に出来るわけがないからだ。
今は、日本にいたときのボッチだった日常の中で身についてしまった、人の言葉の裏を読もうとする自分の癖が少しだけ忌々しく思えてしまう。
「それじゃあ、今から足りない分の在庫を調合してきます」
『あぁ、いつもすまない』
「あまり気にしないで下さい。俺だって、ギルドには結構お世話になってるので。……それでは」
俺はそう言って、魔法具の通信を切る。
途端、部屋の中が静かになった。……まぁ、アリセルの声は俺にしか聞こえないはずだから、元から静かだったんだろうけど。
俺はそんな事を考えながら、明日には再び王都に向けて旅立つという勇者三人を起こさないように注意しながら、一階の工房へと降りていった。
――マジで眠い。
そんな本音を絶え間なく出そうになるあくびと共に抑えつけながら……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、俺は工房の椅子に座った状態で目を覚ました。
どうやら、寝落ちしてしまう直前まで調合を繰り返していたらしく、工房に置かれている結構な面積を持つ大きなテーブルの上には、色とりどりの液体が入っている瓶が本来のテーブルの色が見えないぐらいに、敷き詰めるようにして置かれていた。
――その数、合計で七百本以上。
本来、昨晩の内に新たに調合しないといけなかったのは、全部合わせても三百七十本ほどだ。
――では何故、こんなに多く調合を行ったのか。
答えは至って簡単。
俺が途轍もなく恐ろしい事に、調合している途中で気が付いてしまったからだ。
それは、「消耗品が明日以降もしばらく、多く必要になるのではないか」、という事。アリセルに魔法具を使ってこの事を聞いてみると、「YES」との回答が返ってきた。
――さて、それからはまるで地獄の様だった。
今日の分の確保はまだいい。十分に間に合う。
だが、明後日の分はそうもいかない。時間が圧倒的に足りなかった。
今日、いつものように十六時ごろには閉店したとしよう。そこから、明日必要になる在庫を調合するのにかかる時間は、およそ七時間。さらに調合に使う素材や、今晩の飯の材料を町で買うのに一時間。晩飯を作って、食べて、後片付けするのに二時間。風呂や、他の家事をこなすのに一時間。これだけで、およそ十四時間は消費してしまう。そうなると、全てが終わるのが、次の日の二時。
もし、今の俺が日本にいた頃の生粋のゲーマーだった時の俺だったのなら、二、三日の徹夜ぐらい、どうと言うことは無かっただろう。しかし、俺はこの世界に転生してからは、結構健康的な生活を送ってきている。朝は六時に起きて、夜は二十四時に寝ることが常だった。
……つまり、今の俺にとって、連続しての徹夜はかなりキツイ。そんな事をした日には、昼間に眠気に負けて寝てしまう事は確実だ。
――という事で、今晩に調合によって徹夜をしてしまう事を防ぐため、できるだけ昨晩の内に調合をしたのだが、どうやら相当数を調合できていたらしい。……途中から眠気の為に記憶が抜けているのだが、俺は目の前の成果に、胸を撫で下ろした。
その後、俺は未だに寝ているであろう勇者三人を起こしに二階へと上がっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝飯を食べ終えてしばらくして。
勇者三人は王都へと帰還するための準備を終え、俺の家のリビングへと集まっていた。
今回は、前回来た時のように馬車は使わず、みーちゃんの空間魔法で転移して王都に戻るのだという。
――ここで空間魔法の転移について説明しておくと。
空間魔法によって使う事ができる魔法「転移」は、使用するのにちょっとした制限がある。
それが「マーキング」と呼ばれるもので、転移を行うには、あらかじめ転移を行いたい行き先に「マーキング」をしておく必要がある。
単純な話、一度行った場所にしか転移を行う事は出来ないという事だ。
そして、空間魔法のスキルレベルによって、同時に「マーキング」できる数に制限がある事も忘れてはいけない。
ちなみに、みーちゃんの空間魔法のスキルレベルは現在で50。「マーキング」できる場所は始めは三か所。その後はスキルレベルが5上がるごとに一か所ずつ増えていくので、現在は十三か所を「マーキング」できるらしい。
閑話休題。
「それじゃあな」
「……ん」
みーちゃんと、短い挨拶を交わす。
またしばらく会えなくなるであろう幼馴染の顔を見て、急にどこか寂しい気持ちがこみ上げてくるが、それを抑え込んで俺は笑顔を作った。俺のそんな笑顔に答えるかのように、みーちゃんはゆっくりと頷いた。
俺はそのまま、視線をみーちゃんの少し後ろで待機している駿と雅へと向けた。そして短く、「みーちゃんの事、頼む」とだけ伝えると、駿は大きくうなずき、雅は「勿論だよ」と小さく手を振る。
勇者三人はそのままリビングの中心に固まる。俺は転移に巻き込まれないよう、少し離れた位置に退いた。
そして、みーちゃんの口から詠唱が紡がれる。
「我を定められし場所へ誘え『転移』」
刹那。勇者三人の体が少しばかりの光に包まれる。
一度、町の裏道で見た事のあるその光。あの時と違う事と言えば、あの時の光は少し禍々しかったのに対し、みーちゃんのそれは、清らか……というか、どこか清涼感を感じることだろうか。
そんな光りに包まれ、みーちゃん達の存在がここから消失していく。そして、その存在が王都へと転移していく――その直前、みーちゃんの口が唐突に開かれた。
「……ユウ君の家に「マーキング」しておいたから、よろしく」
「何だとっ?!」
俺は咄嗟に、みーちゃんの発言についてツッコミを入れるも、その時にはみーちゃん達勇者三人は俺の家のリビングから消失していた。……リビングには、俺のツッコミだけが虚しく響き渡る。
――まさか、週三に留まらず、毎日晩飯を食べに来るなんてこと、無いよな……?!
俺は、これから増えるかもしれない苦労を思い浮かべ、「はぁ……」とため息を吐くのだった。
今回の総括。
みーちゃんがユートの家に自由に進撃できるようになりました。
(*´ω`*)
誤字報告、していただけると幸いですm(__)m