第二十七話 指輪は状況説明の後で
血を吐きながら書き上げました。(嘘です。
とりあえず、二章の大事な部分に迫るまでは、これぐらいの頻度を維持していきたいなと思ってます。
晩御飯に使う他の食材を揃えつつ、十分ほどかけて俺は自宅へと戻ってきた。
と、その時、店の玄関から中に入ろうとした俺に、隣の孤児院から出てきたおチビ達数人が声をかけてきた。
「あっ! ゆーとおにいちゃんだぁ!」
「ほんとだぁ。ねぇねぇ、今日の晩御飯はなぁに?」
「ごはんっ♪ ごはんっ♪」
俺を見つけたチビ達は、俺を取り囲んで今日の晩飯の献立は何か、頻りに問いただしてくる。
「あー、分かった分かった。ちゃんと教えるから」
「「「ワクワク♪」」」
今、俺の目の前には好奇心100%といった目を向けてくるおチビ達。俺は、そんなおチビ達の目に急かされるような形で口を開いた。
「今日の献立はロールキャベツ――もどきだ」
「おー、何かはよく分からないけど、おいしそうだねぇ!」
「楽しみだよぉ」
「ごはんっ♪ ごはんっ♪」
俺から今日の献立を聞いたおチビ達は、未だに聞いた事のない料理に、期待で胸を膨らませているようだった。ぶっちゃけ、そう言う反応をしてくれるのはこちらとしても嬉しい。ここまで期待されると、作る側のこちらとしても、気分が高まらずにはいられないからな。
「はいはい。もう少し晩飯までは時間があるから、もう少し孤児院で遊んで、目一杯腹を空かせて来いよ。今日も、おかわりはいっぱい用意して待ってるからさ」
「うんっ! もどき、楽しみにしてるねぇ!」
「もどき、お腹減らして待ってる」
「ごはんっ♪ ごはんっ♪」
俺が孤児院に戻るよう促すと、おチビ達は歓声を上げつつ、スキップしながら孤児院へと戻っていった。
「――「もどき」じゃなくて、「ロールキャベツ」のほうが料理名なんだけどな……」
俺もちびっ子達にそんなツッコミを入れつつ、店へと入る。
店のカウンターの奥の扉を開け、そこにある調合用の工房を突っ切り、更に扉を開けた奥にある階段を上がった所が、俺の居住空間である二階だ。
二階には俺の寝室や四部屋もある客室の他、リビングやキッチン、更には異世界のクセに、トイレや風呂場なんかも完備されていたりする。……まぁ、ミツバシ魔法道具店みたいな、現代電気店顔負けの品揃えの店があるくらいだから、これぐらいは何も不思議はないのかもしれないけどな。
ちなみに、トイレにはウォッシュレット完備だ。……いや、これがあったのは助かったし、何気に嬉しかったんだけどさ。どこ行った、ファンタジー。
「……ま、そんな事を気にしててもどうにもならないんだけどな」
そう、ファンタジーらしからぬファンタジーにため息を吐きながら、俺は意識を晩飯の調理の方へと傾ける。
アイテムボックスから買ってきた食材を取り出し、調理台の上に並べた。
今日買ってきたのは、イザの葉。「ミノタンポーク」という、牛とも豚とも付かない容姿の魔物の小間切れ肉。後は、塩とかが切れかけていたから調味料を少しと、サラダに使う野菜をいくつか。
ここに、汁物である卵スープと白飯を加えたら栄養のバランスも丁度良いだろう。
そう献立を確定し、まずはミノタンポークの小間切れ肉を手に取る。
小間切れ肉とは、別名で「切り落とし」とも言われる。簡単に言えば、肉を切って加工する段階で出た、木材で言うと端材みたいな物だ。日本では、こま切れ肉は元々は捨てるような部分なので、かなり格安で購入することが出来た。大体、100gで100円以下といった所だっただろうか。
それは、この異世界でも同じだったらしく、お肉屋の特売コーナーで100gで銅貨二枚で売られていた。他のお肉が100gで銅貨三枚くらいだったことを考えると、それなりに安くなっていると言える。
俺はそんなミノタンポークの小間切れ肉を、キッチンに備え付けられているある機械へとぶち込んだ。そして、機械のスイッチをオン。
「ガガガガガ……」
そんな音を立てながら、機械が小間切れ肉をミンチへと処理していく。この機械は元からキッチンに備え付けられていたもので、現在の最新型なんだそうだ。
と、そんな最新型機の様子を見守りながら、イザの葉や卵スープに使う根菜類の下準備をして、更に白飯を洗浄、炊飯器にそれをセットした所――
「おーい、ユートはいるか?」
家の外から、誰かが俺の名前を呼ぶ声がした。
「はい!」
とりあえず、その言葉に返事を返し、階段を二階から一階へとおりていく。そして、店を突っ切って外へと出ると……
「やぁ、お久しぶりかな?」
やたらとボーイッシュな格好(ジーパンぽい素材の半ズボンに、レッドのフード付きパーカー)をしたアリセルが俺を待ち構えていた。
……うん、もう何かね。容姿はロリな美幼女そのままなのに、仕草や言動は一々男っぽいんだよなぁ、この人。これがアニメキャラだったら、一体どういったキャラ志向なんだろうって話になりそうだな。ネットのスレとか覗いたら、「幼女ギルマスのアリセルのキャラがどの範囲を狙っているのかがいまいち不明な件www」というスレが立ってそうなぐらいだ。
「……む。ユート、君、今何か失礼な事を考えていなかったか?」
「……イエソンナコトカンガエテイルワケナイジャナイデスカ。ヤダナー」
「……まぁ、今は不問にしておくか」
ふぅ、あぶねぇ。
女性って、勘が鋭いとかよく言うけど、この人もこんなキャラだけど、ちゃんと女性だったんだな。
「今は君が私の事を『ちゃんと女性だったんだな』とか考えているのは横に置いておくとして」
「………。」
アハハ……。女性って、本当に怖いよね。
あれだな。今も、地味にこっちを睨んでいるアリセルとか、その典型例。これ以上怒らせたら、文字通りにミンチにされそう。……もう、この思考は放棄しよう。今日の晩飯の材料に何てなりたくない。――つうか、何で俺の考えてる事が分かった?!
俺は、蛇に睨まれた蛙の気分になりながら、何とか話の方向を別の方へと持っていこうと、アリセルに話しかける。
「えっと、そんな事よりも、俺の所に来たって事は、アリッサさんから話は一通り聞いて来たって事でいいんですね?」
「……まぁ、そんな所だな。一応、君からも直接聞いておきたかったから来てみたんだが」
「えぇ、分かりました。二階のリビングでお話ししましょう」
俺はそう言って、アリセルを二階のリビングへと案内した。
アリセルをリビングにあるダイニングテーブルの一席へと座らせた俺は、その目前に淹れたての紅茶を置く。
そして、俺は今朝あった出来事を包み隠さず、全て話した。とはいえ、アリセルは既にアリッサさんから事は全て伝えられているはずだ。話を聞き終わったアリセルは「フムフム……」と、目を閉ざしながら何か考え込んで、そして口を開いた。
「なるほど。話を聞けば聞くほど怪しい奴らだな。……よしっ、そいつらの事は、ギルドから調査員を選抜して調査させよう。君の方も、何か目撃したり、気が付いた事があったら私の方に通達してくれると助かる」
「了解です」
「後、もしかしたら向こう側は君に目撃されたことに気が付いているかもしれない。もし、君が目撃したのが、向こう側にとって都合の悪い事だったら文字通り『消される』事もあり得るかもしれない。……精々、気を付けてくれよ?」
「いつの間にか命が危機に晒されているだとっ?!」
ヤバい、何それ。
文字通りミンチにされるのは嫌だけど、文字通り消されるのも御免こうむりたい。てか、このままじゃ命が何個あっても天寿を全うできないような気がしてくる。流石ファンタジー。一筋縄ではいかないという事か……!
――と、そんな馬鹿な事を考えている俺は、実は心の奥底では、結構楽観視していたりする。
何たって、あの時の二人組は俺の事にまるで気が付いていないようだったからな。恐らくだけど、俺にそう危害が加えられることは無いだろう。そもそも、あいつらがどんな奴なのかさえも分からないしな。すべての判断は、ギルドの方の調査結果を待つしかないだろう。
俺がそんな事を思っていると、唐突にアリセルが懐をまさぐり始めた。
「どうしたんですか?」
「……あ、あぁ。君に渡しておきたいものがあってな。……こ、これだ」
そう言って、アリセルがおずおずと懐から取り出したのは――
「これは……指輪……?」
――少し、小さな宝石のような石が取り付けられた指輪だった。
――何故に?!
いきなりの、指輪……一体どんな理由があるのか!
それは、次回に明かされます。
それから、今回は3000文字くらいだったのですが、今後は3000文字~6000文字くらいが多くなりそうですね。
量を書き上げるのは、結構きつい……orz