第二十五話 ムムム……怪しい……
「もう、行くのか」
「……ん。でも、日帰りになる予定だから、夕方には戻ってくるよ?」
あの後、勇者三人と一緒に朝ごはんを食べた俺は、今こうして、みーちゃんたち三人が出かけるのを見送っていた。
「ふーん。じゃあ、今晩もこっちに泊まるのか?」
「……ん。今晩もユウ君の家に泊まる予定」
「って、やっぱり俺の意見はまるっきり無視なんだな……」
相変わらずのみーちゃんの自由奔放さに、俺は思わずため息を突く。
すると、みーちゃんは俺の元まで寄って来て――
「……だめ?」
――上目遣いと言う反則技を併用しながら、そう、俺に聞いてきた。
「――っ! ……わ、分かった分かった。今日もここに泊まってもいいから」
みーちゃんの反則攻撃に、俺は白旗を上げた。
――美少女の上目づかい。
それはある意味、男の憧れだ。
自分よりも小さな可愛い女の子が、弱弱しい様子で自分を見上げてくる。この光景を目の前にして、その少女の頼みを断れる男がいるだろうか。
――否だ。断じて否だっ!
もしいたら、そいつの心はきっとツンドラのように冷え切っているに違いない。
「……やった」
相変わらず表情がほとんど変わらないみーちゃんだが、そう言葉を漏らした彼女はどこか嬉しそうだ。
「でもな、今朝みたいに俺のベッドにこっそり入ってくるのは無しだからな?」
「……えー」
「はいはい、そこで不満を漏らさない。それを守れなかったら、今後一切俺の家に泊まるのは禁止にするからな」
「……ん。不満は多々あるけど、了解」
俺の言葉を聞いて、みーちゃんのテンションはダダ下がりとなる。
てか、何故そんなに夜這いをかけたがる。何か、そう言うブームでも来てるんだろうか。
日本でなら考えられないような流行だが……ここは、異世界。何が起こったりしているかは全く分からない。ほら、価値観とか全く違うだろうし。
まぁともあれ、みーちゃんは渋々ながらも承知してくれたようなので、一先ずは安心かな。主に、俺の性的な意味で。
もし、あの状態が二日連続で続いたら、童貞で彼女いない歴=年齢の俺の理性がどうなるか分かった物じゃない。ボッチであり、人に簡単に恋愛感情を持たない事には定評があった俺だが、流石にあそこまで過激な状態になると、それは怪しくなってくる。
とりあえずはそれは免れた、と、俺は心の中で胸を撫で下ろした。
と、その時。自分の左腕に付けていた時計を覗いたみーちゃんが口を開く。
「……そろそろ、行かなくちゃ」
「そっか……じゃあ、いってらっしゃい」
「……ん。行ってきます」
何気ないやり取り。それはまるで、六年前、日本に二人ともいた時のような、至って普通で、懐かしいあの感じ。
みーちゃんは俺の言葉に返事を返すと、店の扉に手をかけた。
他の勇者――駿と雅は数分前、先に出て行っている。急がないと、みーちゃんが彼らを待たせてしまう事になるだろう。
みーちゃんが扉を開け、外へと出ていく。
――と、その途中、唐突にみーちゃんの動きが止まった。そしてそのまま、みーちゃんの顔がこちらに振り返る。
「? どうした?」
「……『行ってらっしゃい』のキスは?」
「……いいから、さっさと行ってこい」
「……ん」
俺は、みーちゃんの不意打ち気味のセリフに面を打たれつつ、みーちゃんにさっさと出るように促す。
そして今度こそ、少し不満そうな顔をしながら、みーちゃんは俺の家を後にした。
つーか、行ってらっしゃいのキスって何だよ。夫婦かよ、俺たちは。
俺はみーちゃんが出ていった扉を見つめながら、そう心の中でツッコミを入れた。
……少しだけ顔が熱いのは気のせいだろうと、自分に言い聞かせながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
みーちゃんを見送ってから数分後、今日は店の定休日なので、俺は外をブラブラと歩いていた。
定休日は週に一日。この世界では、一週間は地球と同じ七日。それぞれの曜日に呼び方が決められていて、「太陽の日」「月の日」「山の日」「海の日」「空の日」「森の日」「無の日」と順にやってくる。
そして地球同様、この曜日を基準にして定休日を設けていたり、仕事のシフトを決めている所は結構多い。
ちなみに、俺の所の場合は「無の日」が定休日になっている。
これは単純に、他のポーション屋――まぁ、この町には露店ではなく、店頭で販売しているポーション屋は、俺の所以外には三軒しかないのだが――の定休日と重ならなかったためだ。
そんなわけで、今日は一日フリー。
みーちゃん達が返ってくるのは夕方頃だと言っていたし、それまでは特に予定はない。
いつも定休日は紅蓮聖女のとこの孤児院を覗くか、ギルドの簡単な依頼を受けるか、調合の研究等に時間を費やすのが常だったが、今日はそれらをする気分では無く、それならあても無く町をブラブラしてみるのもいいかと思い立ち、貴重品などをアイテムボックスにぶち込んで、店に鍵をかけて出てきた次第だ。
ここ、グリモアの町はそれなりにデカい。
そのためか、この町には大通り以外にも、入り組んだ迷路のような小道が結構存在している。中には、一度迷ったら三日は迷い続けるとまで言われているような場所もある。
そして、この町にやって来てまだ日が浅い俺は、そんな小道や裏道に点在している店の事とかを良くは知らない。たまーに、店に来た冒険者達が立ち話ししているのを小耳にはさむ程度だ。
何でも、小道や裏通りには娼婦館やカジノっぽいのもあったり……ゲフンゲフン。
まぁとりあえず、色々とお店もあるみたいだ。
今回は、そんな小道を少し探索してみようと思う。
この辺りの小道はそこまで複雑じゃないし、大通りからそれ過ぎなければ迷うことは無いだろう。
俺はそう考えながら、店からほど近い所から小道へと入っていった。
すると、突然、肌で感じていた雰囲気がガラッと変わる。
今まで聞こえていた人々の喧騒は遠くなり、辺りは暗い印象の気配に包まれた。
……だが、不思議と不快な感じはしない。どちらかと言うと、落ち着いているといった感じだろうか。
一歩、足を踏み出す。
少しジメッとした、水分を少し含んだ土の感触が足を伝って感じられる。
「なんか、こういう雰囲気、好きだな」
俺が元ボッチだったからだろうか、こういう陰気な場所は何となく居心地がいい。
人の気配が一切しない……とまでは行かないが、大通りの喧騒から離れ、人の気配が少ないこの小道。俺がその雰囲気を楽しんでいると。
「……? 誰だ、あいつら?」
俺の行く手に、灰色のローブを着た、二人組が姿を現した。
奴らは、お互いに身を寄せ合うようにして何事かを相談しており、少し離れた所にいる俺は何を話しているのか、途切れ途切れにしか聞こえない。
――怪しい。
俺の勘が警鐘を鳴らす。
二人の顔立ちは羽織っているローブのせいで分からないが、その纏っている雰囲気……というか、オーラがどこか異質だ。まるで、この辺りの空気に溶け込み切れていないような、そんな感じ。
そして、この感覚。この感覚を俺はどこかで感じたことがある。
あれは……狂気……? どこか狂ったようなその感覚は、俺の記憶を抉るようにして、俺の体に緊張を纏わせていく。どうやら奴らは俺の事は気が付いていないみたいだが、筋肉が緊張していくのは止められそうもない。
一体、奴らは何なんだ?
俺が彼らに視線を送っていると――
「我を定められし場所へと誘え『転移』」
二人の内、左の人物の方からそんな声が発せられる。
すると、謎の二人組は少しばかりの光と共に、元からそこにいなかったかのように消え失せた。
「……っ?!」
突然、目の前で起こった出来事に、俺の口から驚愕の声が漏れ出る。
急いで奴らが元からいた場所に駆け寄るが、大きな穴が開いてるわけでもなく、どこかにおかしい箇所があるわけでもない。
――消えた。
あの、怪しい二人組は跡形も無く消えた。俺の目の前で。
「……なるほどな。あの言葉は魔法の詠唱文だったわけか」
だが、すぐに理由を察する。
姿が消える直前に左の人物が発したあの言葉。おそらく、あれが魔法の詠唱だったのだろう。
みーちゃんから聞いた事によると、魔法スキルの一つである「空間魔法」には、一瞬で術者を別の場所へと移動させることができる魔法も存在するという。恐らく、さっきの奴らはその類の魔法を使って移動したんだろう。そう考えると、二人が一瞬で消え失せた事にも説明が付く。
そう納得し、俺はとりあえず今来た道を引き返す。
色々と気になる事はあるが、今ここで悩んでいても何も始まらない。
「うーん……とりあえずは、みーちゃん達が返ってきたら相談するべきかな?」
俺は、このことをどう処理するか考えながら大通りへと戻っていった。
頭がしっかりと働いていなかったためか、文が滅茶苦茶……orz(いつもの事だったりする)
誤字報告していただけるとありがたいです。
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今週の日曜日は更新できそうにありません。
その代わりに今日更新と、来週の火曜か水曜に一話更新と言う形で補填させていただきます。
それ以降はいつものように日曜定期更新となります。ご了承くださいm(__)m
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現在、少しずつですが、改稿作業をしています。
今は第三部まで、大体は完了しました。
今後も更新と並行して進めていきますのでよろしくお願いします(*´ω`*)




