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第二十四話 嵐直前のテンプレ的展開

 さて、どうしよう。


 今現在、「とある理由」から大人数分の晩飯を作っていた俺の目の前には、何故かどす黒いオーラを放ちながら佇んでいるみーちゃんと、真っ赤なオーラを放ちながら立ちはだかっているレティアがいた。


 かたや、静か。かたや、荒々しい。


 そんな正反対なオーラを放っている二人だが、どうやら、二人とも何かに怒っているようだ。……二人が怒っているらしいという事は分かる。だが、何故二人が怒っているのか。そして、何故二人が怒った状態で俺の所へとやって来たのか。それがさっぱり分からなかった。


「……ユウ君……?」

「ひゃ、ひゃい?!」


 あ、やっべ。あまりのみーちゃんの黒い迫力に、「はい」と答えるつもりが、思いっきり噛んでしまった。舌が痛い。


 俺が舌を噛んで少し涙目になっているが、そんな事はお構いなしに、みーちゃんとレティアは口を開く。


「……このエルフとユウ君はどういう関係なの?」

「そんな事はどうでもいいでしょ! それより、ユート君とこの子は一体どういう関係?」

「……そっちよりも、私の質問の方が百倍以上大事」

「むぅ……っ!」


 そのまま言い争いを始めてしまう二人。その姿はまるで虎と竜の様。そして、その迫力に呑まれて何も言い出せない俺。はたから見れば、まるで男女関係の修羅場だな。


 ……って、そんなこと考えて現実逃避してる暇はないか。


 とりあえず、いつまでたっても収まりそうにない言い争いを止めるため、勇気を振り絞って口を開く。


「あのー、二人とも?」

「「何!」」


 俺の言葉にハモって返事を返す二人。そんな二人の反応に――あれ、君たち、実は仲いいんじゃないの?――と、そんな事を考えつつ、俺は言葉を続ける。


「みーちゃん、レティアは隣にホームを構えているクラン、「紅蓮聖女アぺフチ・カムイ」のクランリーダーなんだ。そしてレティア。みーちゃんは俺の幼馴染。だから、二人とも特に変な関係じゃないから」

「……お隣さん……?」

「幼馴染……」


 俺の説明に、つかみ合いになりそうな二人が落ち着き、互いにそう呟きながら顔を見合わせる。


 そして、次の瞬間。


「うぅ……負けた」

「……ふっ。……勝った」


 レティアが地面に膝を突き、そんなレティアを見てみーちゃんが勝ち誇ったような表情を見せた。その構図はまるで、大一番の勝負の後の敗者と勝者。ちなみに、この場合の勝者はみーちゃんで、敗者はレティア。


 ――って、今の一瞬の間に何があった?! 目の前で突然起こった謎のやり取りに、俺は心の中で渾身のツッコミをかました。

 しかし、俺のそんな心の中のツッコミはお構いなく、二人の謎のやり取りは続く。


「くっ……でも、これだけで決着はつかないよ!」

「……その宣戦布告、受けて立つ。……でも、最後に笑うのは私」

「言ったわね……」

「……これが、幼馴染の余裕」


 再び、言い争いへと発展していく二人のやり取り。最早、二人が何を言ってるのかを理解しようとするのは諦めた。


 何か言いあっている二人は意識の外に追い出し、とりあえず、さっきまでやっていた料理へと意識を割くことにした。何てったって、今日は勇者三人だけでは無く、レティア達「紅蓮聖女アぺフチ・カムイ」の面々も一緒だ。……というか、ここ最近は晩飯を一緒に取る事になっている。

 勿論、その際にはある程度の食費を向こうに負担してもらっているから俺としてはあまり問題では無い。


 まぁそういう事で、今は急いで晩飯を作り終えなくてはいけない。紅蓮聖女の面々には、勿論孤児院の子供達も含まれるし、そのちびっ子達は腹を空かせて待っているだろうしな。待たせたら可哀想だ。。


 ――つーか、それにしても。


「二人が何で言い争ってるのは分からないけど、物凄い背筋がゾクゾクするのは何でなんだろうな」


 俺はレティアとみーちゃんが言いあっている声をバックミュージックに、そう呟きながら、今日の献立を作っていった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 それからしばらくして。


 俺は、勇者三人や紅蓮聖女の面々と共に、雨が晴れた夜の庭に設置された大テーブルを囲んでいた。


 孤児院のちびっ子達三十人くらいは、俺たちと少し離れた所に折り畳み式のテーブルを幾つか設置して、そちらの方に幾つかのグループに分かれて座っている。そして、皆の前には、俺がさっき作り終えた晩飯の品々。それらが個別によそられていた。


「それじゃあ、みんな一緒に、いただきます!」

『いただきまーす!』


 皆の準備が整ったのを確認したレティアの合掌に続いて、ちびっ子達が手を合わせる。

 そして、挨拶もそこそこに、ちびっ子達は待ちきれないとばかりに目の前の料理にがっついた。皆、食べ盛りなので、その勢いはすさまじい。あっという間に皿によそられていた分が無くなり、お代りを要求していく。


 俺はそんなちびっ子達の様子を見て、苦笑する。


 俺の作った食事を食べて、ちびっ子達が皆、口々に「おいしい!」と言ってくれているのを見るのは、ここ最近の楽しみの一つだ。

 子供たちが何かを一生懸命している所はどこか微笑ましい。隣に座っているみーちゃんを見れば、普段は表情を表に出さない彼女も、子供たちの食事をしている様子を見て笑みを零していた。


 と、俺がそんなみーちゃんを見ていると、みーちゃんとは逆の方向からレティアに声をかけられた。


「ユート君、私たちもそろそろ食べよう? 私、もうお腹ペコペコだよぉ」


 レティアはそう言って、お腹を擦る。


「わしも同じくじゃな」


 ダンがレティアに賛同する。その手には既に、酒瓶が握られていた。


「ダンさんは、もう既にお酒を飲んでいらっしゃるでしょう……」


 そんなダンを見て、ヨミが呆れ気味に呟く。その足元には、何故かノエルがボロボロになった状態で転がっていて、ヨミに踏みつけられていた。……多分、そこには突っ込まない方がいいんだろうな。無視しとこ。


「リーリアも、お腹減ったぁ。ファニール、もう食べても良い?」

「ちゃんと挨拶するまで待っていてください」


 ヨミの横では、お腹を空かせたリーリアをファニールが冷静に宥めていた。


「たまには、こういう食事もいいよね」

「あぁ、そうだな」


 そして、みーちゃんの向こう隣。今はみーちゃんの魔法によって俺以外には偽りの外見に見えているはずの駿と雅が、個性豊かな紅蓮聖女の面々を見て、ほほえましそうに笑う。


 そういえば、あの二人って、いつも一緒にいるよな。二人は付き合ってるんだろうか。


 そんな事を考えつつ、皆の様子を見回し、俺は口を開く。


「それじゃあ、そろそろ俺たちも食べ始めるか。……いただきます」

『いただきます』


 俺に続いて皆が合掌し、食べ始めた。


 ――この後、みーちゃんとレティアが何故か競い合うようにして「あなたにこの料理は食べさせないっ!」とか、「……私の楽しみを取らないで」と言いつつ、大食い選手権並みに料理を胃に納めていったり。復活したノエルが、また幼女たちが晩飯を食べる姿を見て、興奮して、再びヨミにノックダウンさせられたり。色々とあったんだが、それはまた別の話。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 次の日、俺は胸の上にかかる不自然な重みで目を覚ました。

 昨晩は後片付けとかで少し遅くまで起きていたので、心なしか眠気で意識がハッキリとしない。


「うぅん? 何だ、これ?」


 そんなはっきりとしていない意識の中、俺は自分の上に乗っかっている物の正体を確かめるために、それを触ったり、掴んだりしてみた。


 すると。


 ――フニュン。


 俺の腕の神経がそんな感触を脳に伝えた。まるで、マシュマロのような感触のそれは、どこか温かくて気持ちがいい。


 その感触に驚いた俺は思わず、「それ」をより強く「揉んだ」。


 ――フニュン。


 思わず、もう一回。


 ――フニュン。


 何だか病みつきになりそうなその感触。俺がはっきりしない意識の中で、その感触を楽しんでいると……唐突にうめき声が耳元で聞こえてきた。


「うぅ……あっ、あぅ」

「っ!?」


 刹那。俺の意識が完全に覚める。


 今までボヤケまくっていた視界はクリアになり、俺の上に乗っかって寝息を立てている少女を映した。


「え……み、みーちゃん?!」


 見慣れたその顔が誰かを理解した瞬間、俺の口から驚愕の声が漏れる。



 今、俺の目の前には、綺麗な寝顔を――安心しきったようなその表情を惜しげも無く見せつけるようにして眠っているみーちゃん(幼馴染)がいた。


 何故っ?! と、覚醒しきったばかりの意識で、俺は現状把握に努めようとする。


 ――だが、俺はそこで気が付いてしまった。


 ――起きたら、目の前にはみーちゃんがいて、俺は上に乗っかっている物が何なのかを調べるため、「何か」を手でつかんでいる。


 ――一体、それは何なんだ?


 そこまで考えた俺の視線は、自然と「何か」を掴んでいる左手へと吸い寄せられ……


「……あぁ?!」


 そして、自身の左手が、六年前とは比べ物にならない程に大きく成長していたみーちゃんの「それ」をがっしりと掴んでいるのを確認した俺の口からは、再び驚愕の声が漏れた。


 さらに不幸な事に、声が漏れると同時に、俺の腕に力が入る。すると、必然的に俺が手で包み込むようにして掴んでいる「それ」を俺の手のひらが揉んでしまうわけで……


 ――フニュン。


「ひゃうっ!」


 みーちゃんの口から、今までの俺の人生で聞いた中で一番艶めかしい吐息が吐き出される。


 その艶めかしすぎる幼馴染の声に、頭の後ろがゾクッとする感覚を覚えたが、それを意識的に無視して、俺は急いで自身の体をみーちゃんの下から引き抜いた。

 すると、その際の揺れで目を覚ましたのか、みーちゃんが眠りから覚めて「モソッ」と起き上がる。


「……あ、ユウ君。おひゃよう」


 起き上がり直後の為か、少し呂律が怪しいが、みーちゃんが朝の挨拶をする。


「……あ、あぁ。おはよう」


 内心、心臓をバクバクとさせて、挨拶を返す。


 ――バレテ……無いよな?


 そんな事を心の奥底で考える。「何が」とは言わない。

 もし、思い出してしまったら、即、顔を真っ赤にしてしまうこと請け負いだ。


「……? ユウ君、どうかした?」

「い、いやぁ。な、何でもないよ?」


 みーちゃんが不思議そうに質問してくるが、何とか平静を保って返す。……平静、保ててたよね?


 ……まぁ、とりあえず、みーちゃんはさっきの事に気が付いてないみたいだし、今回の事は俺の記憶の中で焼却処分にしておこう。流石に、みーちゃんに言ったとしても、絶交にはならないとは思うが、一時的に拗ねられるくらいはあるかもしれない。

 何より、俺自身が恥ずかしすぎる。こういう事は、早めに記憶の彼方へと押しやるのに限る。


「……ふぅん」

「あは、あははは……」


 俺の返事を聞いたみーちゃんは、まだ少し気になるような素振りを見せたが、一応、納得はしてくれた。


 ――みーちゃんが、基本的に一つの物事に執着しないような性格で良かった。


 俺はこの時、本心からそう思った。






よく考えたら、最後にユートが思った事って、結構外道(;´Д`)


誤字などありましたら、教えていただけると助かります。


次回から二章の物語が本格的に動き出します。

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