第二十三話 嫌な予感がしまくってる
前回の続きからです。
少しストックに余裕があるので、早めに更新です。
日常回は(おそらく)次回で一端終了。
それ以降は二章の話が本格的に進んでいきます。
*第一部を大幅修正しました。物語の筋は全く変わっていませんが、細かいところがちょこちょこと変更されています。興味のある方は是非。
「で、その『魔力溜まり』の調査にはいつ行くんだ?」
「……ん。……予定では、明日」
俺のこの質問に、さっき俺が淹れた紅茶のような味がする飲み物を飲みながら、みーちゃんが答える。
「じゃあ、今日はこっちで泊まるのか?」
「……ん。……今日はこっちに泊まる」
「ふぅん、そっか」
何だか、みーちゃんの言ってる事のニュアンスが絶対的に俺の考えている事と違う気がするが、まぁいいか。
とりあえず、勇者三人はこの町に泊まるようだな。
それなら、泊まる場所が必要になってくる。
あ、そういえば、三人は勇者って事で、町の人たちにその事がばれると結構面倒なんじゃないか?
俺がこの世界に来た直後のユリさんが俺を見た時の反応からして、勇者ってなんか有名人っぽいし。って、そう考えると、この前勇者三人が街中にいた時、よく騒ぎにならなかったな。
俺がそんな事を口に出すと、あの時は闇魔法で幻影を創り、特定の人以外には別人に見えるようにしていたんだとみーちゃんが答えた。……はい、そうでしたか。
まぁ、みーちゃんがそんな魔法を使えるなら、顔ばれの心配とかは無いか。それだったら、普通に宿を使えそうだな。
「うーん、この町でいい宿と言えば、やっぱ『エイルの宿』だよな。飯旨いし」
「……いい宿? ……どういう事?」
俺がポツリとつぶやいた一言に、みーちゃんが反応した。
「いや、みーちゃん達が泊まるのに、丁度いい宿はどこかなぁって思ってさ」
みーちゃんの質問に俺が答える。
しかし、俺の言葉を聞いたみーちゃんは、いかにも不思議と言った感じで首を横に傾けた。
「……ん? 私、もう泊まる場所は決まってるよ?」
「えっ? そうだったの?」
まぁ、よく考えてみれば、それもそうか。
いくら一人一人が一騎当千の猛者とは言え、みーちゃん達勇者三人はストレア王国の重要人物だからな。それなりにいい宿を確保してるのも当たり前か。
まぁ、それなら、何の問題も――
「……今日は、ユウ君の家に泊まるんだよ?」
「何だとぉっ!?」
――ありまくりだった。
「……あれ? ……聞いてなかった?」
みーちゃんが俺の反応を見て、再び首をかしげるが、勿論、おれがそんな重要な事を聞いてるはずが無い。ていうか、俺が知っていて、許可を出していたと思っていたことに驚くわ。
つーか、そもそも、よく、王様が許可を出したなおい?!
俺が心の中で絶叫しまくっていると、その心境が表に出てしまっていたのか、俺の表情を伺った駿がみーちゃんに諭すように声をかける。
「いや、美弥。聞いてなかったも何も、それは馬車の中で自分たちの独断と偏見できめたことだろ?」
「うん。ユート君がその事を知らなくても、当たり前なんじゃないのかな?」
駿に続いて、雅もみーちゃんを諭す。
……って、それ、お前らの独断だったのかよっ?!
そりゃ、不味いんじゃないのか?
俺がそう指摘すると。
「……ん。……問題ない。……脅してでも認めさせる」
「やっぱり、国王が不憫すぎるっ!?」
何だろう。こんなにしょっちゅう脅される国王……一回でもいいから会ってみたくなってきたな。何だか、国王とは気が合うような気がする。
そして、何気に高頻度で国王を脅せるみーちゃんが地味に怖い。
……って、今はそんな事が重要なんじゃなくて。
「……えっ、てことは、もしかして……」
俺は今までの会話からある事を察してしまった。
そんな俺の反応を見て、駿が頷く。
「あぁ。今の僕たちは泊まる場所が無いんだよ」
「……マジか」
俺は、思わずため息を突く。
「……ユウ君……ダメ?」
そして、俺を見上げるような形で目をウルウルさせながら「泊まっても良い?」と、涙ながらに聞いてくるみーちゃん。
何だよ、それ……みーちゃんのそんな顔しながらのお願い、断れるわけ無いじゃないか……。
「……分かったよ。今日はここで泊まっていってもいいから」
「……んっ! ……ありがとう、ユウ君!」
俺のため息交じりの答えに、いつもは無表情のみーちゃんが眩しいほどの笑顔を作る。
そんなみーちゃんの笑顔を見ながら、俺は「あぁ、さっきも言われたけど、過保護なのかな」なんて思ってしまう。
なんて言うのかな。みーちゃんとは昔からの幼馴染で、結局、まともに喧嘩をしたことなんて、みーちゃんが行方不明になったあの日しかないような気がする。
それほどまでに、俺の中でのみーちゃんの存在と言うのは大きい。
……いや、「恋人」としてとか、そう言うのじゃなくて。どっちかと言えば、「家族」とか、そう言うのに近い。いつも隣にいるとか、そう言う感じで。
そして、そんなみーちゃんが笑顔だと、俺まで嬉しくなってくるのだ。そう言う思いが、「過保護」って言われる所以なのかもしれないな。俺はそんな事を考えた。
……って、だからそこ! 何で、駿と雅は俺をそんなにほほえましいものを見るような目で見つめるんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、この日は朝から降り続いていた雨が降り止むことは無く、店に来た客も十人前後で終わった。
その部分だけ見れば、この世界に来てからは珍しい暇な日だったのだが、現状はそうでは無かった。
突然の勇者達の訪問。みーちゃん達との会話。何よりも、勇者達が突然、俺の家に泊まることになったのがその大きな理由である。
まぁ、実際、みーちゃん達が泊まることになったこと自体はそこまで問題じゃない。
店の二階に作られている居住空間だが、その床面積は二階丸ごとなので結構広く、その分部屋数も結構多い。そんな住居に対して、ここに住んでいるのは俺一人と言うのだから空き部屋も結構あるのだ。勇者達はそこで個別に寝てもらえればいい。
……え? お部屋の広さは勇者達的に満足なのかって?
そんなのは知らない。だって、今日突然決まったことだしな。流石のみーちゃんの頼みとは言え、そこまではカバーしきれない。……まぁ、勇者三人も、元々は日本に住んでいた庶民だからな。たぶん大丈夫だと思う。
ちなみに、みーちゃんは部屋が皆別々だと聞いて、俺の部屋で一緒に寝かせてくれと言ってきた。……流石にそれは、雅と駿に止められたが。
とりあえず、そんなこんなあって、俺は今、今日の晩御飯を絶賛調理中だ。
今から作る献立は、エイルの宿にいた時もちょこちょこ食べていた「シルバーウルフ」の肉を使った肉じゃが風の煮物に、サラダ、コウタケを使った炊き込みごはんである。
俺は早速調理に取り掛かった。
まず、時間のかかる炊き込みご飯からだ。
この前、まとめて大量に北の森で収穫してきておいたコウタケをアイテムボックスから取り出す。アイテムボックスの中に入れておいた(この表現が適切なのかはよく分からないが、まぁいいだろう)物は時間が経過しても入れた時と同じ状態を保っているので、かなり新鮮な状態を維持して保存できる。ぶっちゃけ、アイテムボックスの容量に余裕がある限りは、冷蔵庫とか冷凍庫は必要ない。
アイテムボックスから取り出したコウタケは、収穫の時に付いた泥とか、その他もろもろがへばりついているので、水魔法で生成した純水を使ってよく洗っておく。
コウタケ同様、炊き込みご飯に使う人参のような根菜も同様に潅ぎ洗いをしておいた。
そして、次は米の登場。
――つい最近気が付いた事なんだが、この世界にも「米」は存在していた。
それは、ここから遥か東の島国――イーヤンという国から伝わった食物で、この国ではパンや麺の次に親しまれている主食の一つなんだそうだ。
その食物は「キメ」と呼ばれ、見た目も調理方法も俺が知る「米」と全く一緒。
唯一の相違点と言えば、水が比較的乏しい地域でも発育可能であるという、その生命力ぐらいだろうか。日本の米は水が豊富じゃないと発育できないしな。米には、キメのもみ殻を煎じて飲ませたいものだ。
……まぁ、そんな俺の個人的な意見は横に置いておいて。
俺はアイテムボックスから取り出した米もどき――キメを大きめの鍋に入れて、先ほどのコウタケや人参のような根菜と同じように、純水で表面の汚れを洗っていく。
洗って、白く濁った水を捨てて、また水を入れて洗って……という作業を、四、五回程繰り返して、キメの下準備は完了だ。
と、そこで「――パタパタ……」と、一階から誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。
俺が咄嗟に後ろを向くと、そこにいたのは――
「……ユウ君、いったいどういう事?」
元々表情の変化が乏しい顔を、更に無表情にしながらも声に何か禍々しい何かが帯びているような気がするみーちゃんと、
「ユート君、いったいどういう事?!」
赤い長髪を振り乱しながら、声に怒気が含まれているような気がするレティアの二人だった。
――あ、何か嫌な予感。




