第二十一話 嵐の前の安住の地
SSは別枠の新連載としましたので、削除しました。
SSを見たい方は僕のマイページから飛んでいただけるとありがたいです。ちなみに、SSの更新は不定期です。
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今回は二章のプロローグ的な感じなので、頭を空っぽにして読むことをお勧めいたします。
何やかんやあった討伐戦からしばらく経ち、グリモアの町は少しずつだがのんびりとしたような、陽気な暖かさが漂い始めてきた。
さて、今更だが、ここ、グリモアの町には日本と同じような四季が存在しているらしい。
そして、丁度今は日本の季節的には春に入り始めた頃。今まで少し肌寒かったが、これからは段々と暖かくなっていくだろう――とは、お隣のレティアの言葉。その言葉通り、気温は少しずつ上がってきているようだ。
そしてそんな中、俺は、窓から差し込んでくる春の早朝の日の光に照らされながら、つい先日開店させたばかりの店『ユートのマジカルショップ』で売るポーション類を一階の奥の工房で調合していた。
開店したばかりで、商品のレパートリーも少なく、調合しているのが俺一人と言う関係もあって、店の規模としてはあまり大きくはないが、ユートのマジカルショップは、俺が当初予想していたのを遥かに上回る売れ行きを見せていた。客の中には露店をやっていた頃からの常連と呼べるような者もいる。
また、最近では原材料の入荷のために街中を歩いていると、色んな人に声をかけられるまでに俺の顔と店が知られつつある。
日本にいた頃の俺からは想像もつかない光景だろう。何ってたって、あのころの俺は、そこにいたとしても空気扱いも同然だったからな。
人は変われるとはよく言ったものだ。と、俺は思いながら、目の前の作業に集中する。
まず、手慣れた手つきで薬草を乳棒と乳鉢ですり潰していく。調合ではこの作業が結構重要なので、丁寧に、丁寧に乳棒を両手で持って動かした。
今、すり潰している薬草の量は半端なく多い。そして、それだけ俺の腕には重さと言う負担がかかっている。
もし、転生する前のインドアまっしぐらな俺だったら、逆に俺の腕がすり潰されていたのではと思うほど。
だが、そこは流石のファンタジー世界。
この異世界には、個人個人で「ステータス」と呼ばれるものが存在している。そのステータスの影響で、俺は転生前ではありえないほどの腕力や俊敏さを得ていた。
マカダミアナッツ程度、片手で握り……つぶせない。まだ。
……まぁ、とりあえず、ステータスの恩栄を受け腕力が増強された俺は、何の苦も無く乳棒を動かしていく。
最早、この作業はこの世界に来てから何度も行い、慣れ親しんだ作業だ。両腕を動かし始めておよそ五分。薬草が丁度いい具合にすり潰されたことを確認し、俺はそれを工房に元から配備されていた調合用の鍋へと投入する。
さらに、そこに水魔法で生成した、何も不純物の入っていない純水――ここ最近生成できるようになった。これを使って調合すると、より良いものが調合できる――を投入し、鍋を大きなコンロの上へ。
そして、コンロに火を点けた。
「……ふぅ。これで、後は三分後に調合魔法をかけるだけ……いや、ちょっと待てよ?」
いつものように調合魔法をかけようとしていた所、俺の頭の中に一つの考えが浮かんだ。
それは、可能かどうかさえ分からないような不定形な物。もし、それが失敗すれば、目の前のポーションは間違いなく売り物にはならなくなるだろうという、賭けや博打のような不確定な挑戦。
「まぁ、それでもいいか。ストックは結構作ってあるし、何より面白そうだ」
一瞬の間、俺の頭の中にいろんな考えが浮かんだが、結局、俺はそれらの考えを払しょくした。
実際の所、失敗したなら失敗したで影響が出るのは、今現在調合しているポーションに対してだけだからだ。……それに、これはあくまでも予想だが、「これ」を成功させることが出来たら、今後の「調合」に大きなプラスになるかもしれない。
俺はそんな事を考えつつ、思いついた事を早速試してみることにする。
「んじゃあ、突発的な感じだけど……『魔法複合』!」
俺が発動させたのは、スキル「魔法複合」。
これは、その名の通り、「自分が持っている魔法スキルを『合成』させ、より強力な魔法スキルを生み出す」という、俺がこの異世界に転生する際に貰ったスキルの中でも一二を争うチートスキル。これで生み出された魔法スキルは周りの人達が誰も知らなかったことから、恐らくこのスキルは俺しか所持していないか、所持している者がいたとして、その数は極端に少ないと思われる。
『どの魔法を複合させますか』
スキルを使った俺の頭の中に直接響くように、無機質な声が俺に問いかけた。
俺はこの質問に「調合魔法」と、もう一つ、ある魔法スキルと答え、その完成系のイメージを膨らませていく。
ここ最近分かったことだが、異世界における魔法という技術、またはスキルは、「イメージ」という物が大きなカギを握っている。
その最たる例が、無詠唱というスキルだろう。
これは、本来、詠唱という行動が必要な魔法の発動を詠唱無しでできるというスキルで、魔法スキルを持っている者の中でもこのスキルも所持している者も多い。
だが、その者達の殆どは、このスキルを使うようになることはできないらしい。
何故かと言うと、このスキルを使うには、頑固たる「イメージ」が必要だから。
そして、このイメージというのが、異世界人にとってはかなり難しい。
例えば、火属性魔法の初級魔法、「ファイヤーボール」を無詠唱で使おうとする。
ここで必要となってくるイメージは、「火が発生する」というイメージと、「火が球体となり、飛んでいく」という、大きく分けて二つのイメージだ。
この内、後者の方は誰でもイメージがしやすい。何故なら、その現象は詠唱有でファイヤーボールを行使する際に何度も見ているため。だが、前者はそうもいかない。
その点、俺は高校の時に習った「酸化」という現象を元にして、「燃える」という現象が発生するプロセスをイメージすることが容易にできる。――とは、この前再会した幼馴染のみーちゃんの言葉。
あいにくと、みーちゃんは無詠唱のスキルは所持していなかったが、それでも、そういうイメージは魔法を行使する際に役立つことは多いという。
――おっと、少し話がそれた。
つまり何が言いたいかと言うと、「魔法に関するスキルは全般的に、行使者の『イメージ』に深くかかわっている」という事。
そして、俺のスキル「魔法複合」は、特にその傾向が強い。
感覚的には、俺がイメージしたような魔法に、指定された二つ以上の魔法でできる範囲で、効果を近づけていく……と言う感じだろうか。つまり、この魔法で創られる魔法は無限大に近い。
ただ、俺がイメージした魔法の効果が、俺が指定した二つ以上の魔法で起こせる現象とかけ離れすぎていた場合、その複合は「失敗」となって新しい魔法は創られないし、例え魔法複合が成功しても、創られた魔法の初級魔法の詠唱文は分かるが、その効果と言うのは正確には分からない等、結構制約も多い。
そう言う所が、俺がさっき、考え付いた事を「賭けや博打のような不確定な挑戦」だと比喩した理由だ。
――と、俺がそんな事を考えつつも頭の中で新しい魔法のイメージを膨らませていたのだが、それがどうやら成功したようだ。
俺の頭の中で、無機質な声が魔法複合に成功した事を教えてくる。
『――回復特化調合魔法を取得しました』
その声が頭の中に響くと同時に「――よしっ!」俺は無意識に拳を握り、一人、ガッツポーズを作る。
俺が今回思いついた事。それは、回復レベルをさらに上げることが出来る調合魔法だった。効果がどんな物かは正確には分からないが、そのスキル名を見れば、思い通りのスキルを創る事が出来た事は想像に難くないだろう。
ちなみに、複合させたスキルは「調合魔法」と「回復魔法」の二つ。
俺は早速、目の前で、丁度調合魔法をかけなくてはいけないタイミングになっているローポに、新しい調合魔法をかけてみることにした。
頭の中に流れ込んできた、たった一つの詠唱文。俺はそれを間違えないように唱える。
「『我は癒しを増幅する者なり』」
たった一言。
俺がその一言を口に出した途端、鍋の中で沸騰していた薄緑の液体が、突如として、通常の調合魔法をかけた時よりも強く発光を始めた。
「うっ?!」
それを直視してしまった俺は、あまりの眩しさに、思わずうめき声をもらした。
そして、始まりが唐突なら、終わりもまた唐突だ。しばらくして、その異常な発光現象は終わりを見せる。
まるで、何もなかったかのように発光が収束した事を薄目を開けながら確認した俺は、恐る恐る鍋の中身を覗きこんで見た。
すると、そこに残されていたのは、ローポとは比べ物にならない程に濃い緑色となった液体。
俺は鑑定をその液体に使う。
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「ポーション」:体の傷の治療速度を速め、更に体力も回復させる。
回復レベル:3
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「……マジか……!?」
思った以上の成果に、俺の口からため息にも似た驚愕の声が漏れ出した。
いや……まさか、ローポがポーションになるとは思わなかった。元々は「ローポの回復レベルが上がったらいいなぁ」という軽い気持ちでやってみただけだったんだが……。
しかも、ポーションは本来、薬草の上位互換である「癒草」を使わないといけないはず。癒草は自生している所が限られているため、かなり高値で取引されていたはずだ。そんなポーションを薬草のみで作れたとなると、とんでもない事を俺はしてしまったのかもしれない……
俺は改めて、自分のチートさを思い知った。
つーか、もし、俺がこのポーションを売ったとして、それによって急激な価格変動とか起こらないよね?! そして、改めてこの国とかの王様から目を付けられたりなんてしないよね?!
……マジでめんどくさい事は勘弁したい。
俺は頭の片隅でそんな事を考えつつ、手先では、また新しく薬草をすり潰していた。
まぁ確かに、めんどくさい事に巻き込まれるのは勘弁したい。でも、目の前に新しい可能性がある。それを追求しないで、何が調合師だろう。そんな薄っぺらい調合師としての意地が無意識領域下で俺の腕を動かす。
「――えっと……それじゃあ、薬草と水の最適な割合から調べてみるか……あとは、この回復特化調合魔法が他のポーション作成時にも有効なのかとか……結構色々とやってみたいことが出来たな」
そう呟き、しばらく調合を繰り返す。
そして、新たな調合魔法について、大体のこと分かってきた頃。
「おーい! 今日の開店はまだかよ!」
店の外から開店を待ちわびているのだろう客の呼び声が聞こえてきた。
慌てて腕時計を確認すると、既に時計の針は8時半を指している。いつもの開店時間が8時だという事を考えると、明らかに遅れてしまっている。もう町の住民は殆どが起きているだろうし、ポーションを必要としている冒険者達に至っては、今日受ける依頼を決め、ポーションの補充をしようとしている時間帯だ。
「すいません! 今開店します」
俺は今やっている作業を一時中断させると、工房から出た。
工房から出ると、すぐそこはすでに店舗のスペース。
店舗のスペース自体はちょっとした駄菓子屋ほどにはあるのだが、如何せん売っている商品の種類が少ないためか、売り方はカウンター式になっている。
ちなみに、今現在、俺の店で取り扱っているのは、回復レベル別に値段が調整されているローポ、そして、MPローポ、解毒ポーションに解痺ポーション、覚醒ポーションの五種類だ。あと、対モンスター用の毒薬や麻痺薬、睡眠薬なども取り扱っている。
そんな、少し小さくて、吹けば飛ぶような俺の店。
だが、こここそが、俺がこの異世界で見つけた安住の地。
俺はそんな自分の城の戸を開け放ち、戸の外側にかかっている札を裏返した。
今日も変わらず、平和なグリモアの町の空気を吸い込む。
平穏な日常。満たされる自分。唯々、そんな事を感じながら、俺は店の前で待っていた客を店の中に招き入れた。
……だがこの時、俺は知らなかった。この後、あれよあれよという間に、俺自身がとてつもなくめんどくさい事の中心へと巻き込まれてしまうなんて事を。
――つうか、あんな事、誰も予想できないだろ。
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ユート
ヒューマン
Lv13
MP:202/202
STR:60
DEF:56
AGI:146
INT:69
スキル
「アイテムボックス」「剣術:Lv7」「隠蔽」「鑑定」「全状態異常耐性:Lv1」
魔法スキル
「無詠唱」「魔法才能全」「魔力効率上昇(大)」「魔法複合」「火属性魔法:Lv9」「水属性魔法:Lv13」「闇属性魔法:Lv13」「調合魔法:Lv21」「風属性魔法:Lv3」「地属性魔法:Lv2」「回復魔法:Lv8」「光属性魔法:Lv1」「蒸気魔法:Lv3」「地盤魔法:Lv3」「回復特化調合魔法:Lv2」
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