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第二話 グリモアの町にたどり着いたから、生活基盤を確立する

アイテムの買い取り価格を一部変更いたしました(2/5)


大幅修正しました(4/8)

「あぁ、暇だ」


 のんびりと草原を町に向かて歩いてはいるものの、とにかくやることが無い。時々、魔物が襲ってくることもあるのだが、初めに戦った狼ほど強い敵が襲ってくることも無く、殆どがスライムや幼虫みたいな形をした魔物だった。そして、そいつらは総じて弱い。俺が剣を一振りしただけで奴らの一生はあっけなく終わる。

 まぁ、見てみれば他の冒険者も似たり寄ったりな感じなので、この辺りがそれだけレベルの低いエリアだという事なのだろうが。


 とりあえず、こういう事から導き出される思考はただ一つ。とりあえず暇。


 現代日本では俺は常にパソコンでネトゲをして遊んでいた。

 何時間も何時間もパソコンの前に居座り、単純なレベル上げ作業に俺は青春の大半を費やしていたのだ。………無駄だったとは思わない。おかげでネット友達もできたし。


 だが、この世界―――神様が言うからには「ユグドラシル」と言う所らしいが、ここには当然としてパソコンも無ければ、コンペイトーDSも無いし、サンカントーwiiも無い。つまり、ゲームの類が一切ない!

 全国の悩めるママさん達には理想的な子育て環境なのかもしれないが、俺からしてみればたまったものではない。あぁ、早いとこ調合とかしてぇ。


 そんな事を考えながらも、俺は横から襲い掛かってきたスライムを一体切り伏せる。

 俺に切り伏せられてあっけなく散るスライム……なんとも哀れな構図である。


 そして、最早単純作業と化した魔物狩りを続けながら俺が草原の道を進んでいると、ようやく町へとたどり着いた。


 町は遠くから見た通り城壁に囲まれているようで、門の所には幾人か兵士らしき人物が街に出入りする人々を確認していっているのが見えた。俺はとりあえず、その列に加わる。


 さらにそこから待っていると、いよいよ俺の番。


「おう、兄ちゃん! ここらじゃ見かけない顔だな!」

「………はぁ」

「どうしたどうした! 元気がねぇぞ、兄ちゃん!」


 俺の担当となった兵士さんは、何というか、むっちゃフレンドリーだった。別に「めんどくせー」なんて断じて思っていない。ただ、うるさいなぁとは思ったが。

 ちなみに、この兵士、それなりに年を取っているようだ。手はごついし、顔にもそれなりにしわができていた。


「兄ちゃん、一応、この町に入るには身分を証明するものが必要なんだが、何かあるか?」


 こんなことを聞かれるも、この世界に来て一日もたっていない俺がそんな物を持っているわけがない。今はアイテムボックスの中に入っている学校のカバンの中に生徒手帳は入っているが、勿論そんな物で身分を証明できるわけもなかろうしな。とりあえず、俺は兵士に「持ってない」とだけ言っておく。


「やっぱりそうか! 兄ちゃん、そういう顔してるもんな!」


 顔で分かるなら、無駄にテンション高めに聞くことは無かったと思う。てか、顔で身分証明書保持の有無が分かるとか、どんな目をしてるんだよ、この兵士。


「では、俺はどうしたら?」

「おう! それならな、一旦保険としてここに銅貨三枚を預けてもらえればそれでいいぞ! その後に何かしら身分を証明してくれる物を見せに来たら、預かってた銅貨も返してもらえるからな!」

「そうなんすね。分かりました」


 俺はそう言いながら、アイテムボックスから銅貨を三枚取り出し、兵士に渡した。


「おぉ、兄ちゃんはアイテムボックス持ちか! 珍しいな!」

「えぇ、まあ。アイテムボックス持ちって、珍しいんですか?」

「そりゃ、ほどほどにはな! 第一条件として、魔法の才能がなきゃアイテムボックスは使えないからな!」

「へぇ」

「まぁ、とりあえずそんな事は置いておいてだな、ようこそ、グリモアの町へ! 歓迎するぜ! 兄ちゃん!」


 そう言うと、兵士は懐から紙を一枚取り出すと、俺にそれを握らせた。


「それは、この町の簡単な地図だ! 主要な施設はここにかかれてるから、参考にしな! それと、身分を証明する何かが欲しいんなら、まずはギルドに行くと良いぞ! そこで冒険者登録をすれば、身分証明書にもなるギルドカードを貰えるからな!」

「あぁ、分かりました。そうさせてもらいます」


 そう言って、俺は兵士と別れた。

 あの人、終始大声だったな。未だに耳がギンギンしている。次にあの兵士と会う事になった時には、耳栓を用意しておいた方がいいかもしれん。


 そんな事を考えながら、俺は兵士に貰った地図を参考にして町を歩く。


 まず向かうのはオッチャン兵士の勧めもあったのでギルドに決めた。とは言っても、ギルド自体は門からそう遠く離れていない。のんびり行こうと思う。


 俺は特に急ぐことも無かったので、町の様子を観察する事にした。

 町並みはレンガ造りの建物が多いという印象だ。道には、これまたレンガが敷き詰められているので彩りも鮮やか。道の端には露店が出されていて、食べ物、武器、アクセサリーなど、色々な物が売られている。町は活気にあふれ、俺の心も踊るようだった。


 で、何よりも印象的なのが街を行きかう人々だ。


 例えば、今すれ違った綺麗な女性。よく見てみると、耳がとがっているのが分かる。あれはよくファンタジー物で言うエルフと言う奴ではないだろうか。それにしても、エルフはみんな美形という常識はどの世界でも共通なのかな。


 そして、次はあそこの武器を売ってる店で客を相手にしているチビのオッチャン。あれはおそらく、ドワーフと言う種族だろう。ファンタジーで言うドワーフとは、総じて武器を作るのが上手かったり、気難しい性格をしていたりするのだが、それはこっちの世界でも通用するようだ。

 ほら、今も値段が折り合わなかったのか、客と口論になってるし。おぉ、怖い怖い。俺は巻き込まれないようにそそくさとその場を退散する。


 後は、時々だが頭の上に獣耳を生やしてしっぽが生えている人も見かける。恐らく、彼らは獣人なのだろう。

 物語の中では、彼らはみんな運動神経が高かったり、五感が鋭かったりする。

 こっちの世界ではどうなのだろう。オタクの血が騒ぎそうだ。つうか、バリバリ騒いでる。現在進行形。


 俺が夢の産物でしかなかった存在(亜人達)に思わず心を躍らせていると、ようやくギルドへとたどり着いた。のんびり歩いていたせいか、思ったよりも時間がかかったな。


「それにしても………中々でかい建物だな」


 俺は初めて見るギルドの建物に驚きを隠せない。


 流石に、現代日本の高層ビルに比べると蟻みたいな建物だが、それでも、こっちの世界の標準と照らし合わせると、十分でかい部類に入るのではないか。建物は三階建ての様だが、建物をそれ以上のでかさに見せかけているのが、圧倒的な人の出入りだ。


 今は時刻は分からないが、太陽の傾き加減的に言うと、丁度帰宅ラッシュに当たる時間帯なのだろう。装備を少し汚した冒険者達が各々の獲物を持ってギルドへと入っていったり、貰った報酬なのか、麻袋を持ち上げながら仲間同士で隣に建っている酒場らしき所に消えていくのが印象的だ。


 そして、俺はその波に乗るかのごとくギルドへと入った。

 辺りを見渡すと、ごつい剣を背中に吊るした厳つそうな男や、目のやり場に困る服を着た女性など多種多様な人が集まっている。


「うおい!まさに、ギルドって感じだなぁ。……で、ファンタジー小説ならこういう所で担当になった受付が大抵は綺麗なお姉さんなんだが、俺はどうだ?」


 俺はそんなどうでもいいことを呟きながら、冒険者登録をするために受付へと進む。すると、そこにはムッチャ綺麗なお姉さんが座っていた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 俺が来たのを見た受付のお姉さんがそう言いながら微笑んでくる。その本性は生粋の眼鏡美人。少し焼けた肌に金髪のショートカットの組み合わせは破壊力抜群だった。


「………俺と結婚してください」

「はい? 何か言われましたか?」

「………はっ!? いえ、何もありません!」


 やべぇ、今、営業スマイルで俺の心の城壁が陥落するところだった。いや、美人の笑顔ってすげぇわ。マクド○ルドのスマイル0円って、実はすげぇ得してんじゃねぇのかと思ったわ。一瞬。(ただし、美人に限る)


「すいません、俺、冒険者登録をしたいのですが?」

「はい。分かりました………それでは、この紙に必要事項を書いてください」


 そう言って、受付のお姉さんは一枚の紙を俺の前に差し出す。


 そういえば、ファンタジー物の小説では紙は高級品だったりすることが多いんだよな。この世界では比較的手に入りやすいんだろうか?気になった俺が受付のお姉さんに聞いたところ、「YES」とのことでした。

 まぁ、そんなもんか。と俺も納得した。


 そんなこんなで、俺は必要事項を記入していく。書かなくてはいけないのは、主に名前、年齢、主武器、魔法が使えるかどうかと、任意で得意魔法。

 俺はそれらを全て書いて、受付のお姉さんに渡す。


「……はい。確認させていただきます。………名前は、ユートさん。年齢は17歳。主武器は短剣。魔法が使えて、得意魔法は火属性と水属性ですね。魔法が二種属以上使えるのですね! 他にはどんな魔法をお使いに?」

「えっと、一応、『魔法才能全』っていうスキルを持ってるので、全部の魔法が使えると思います」

「………!」


 俺の言葉を聞いた途端、驚愕の表情を浮かべて絶句する受付のお姉さん。……あ、しまった。これ、名前的に考えて、どう見てもチート能力だよな。完全に油断してたわ。


「………あの?」

「………っ?! し、失礼いたしました! まさか、魔導士がこんな所に来られているなど、思いもしなかったもので」

「魔導士………ですか?」

「………?」


 俺の反応を見て、首をかしげる受付嬢。


「あぁ、すいません。俺、田舎で育った者で、世間には疎いんですよ」

「なるほど、それなら仕方がありませんね。魔導士とは、すべての魔法を扱える才能を持った人の事で、今は世界に16人しかおりません。ユートさんのご様子ですと、今まで自分が魔導士であることは隠されていたようですので、あなた様が17人目の魔導士という事になります。そして、殆どの魔導士は王族に使えていますね。勿論、そうでない者もおりますが」

「へぇ………まぁ、平穏に暮らしたい俺にとっては邪魔な物だという事は分かりました。あの……」

「あ、私はアリッサと申します」

「分かりました。………アリッサさん、出来ればこのことは内密にお願いします。面倒事に巻き込まれるのは嫌なんで」

「了承しました。……ですが、このことは最低限、ギルドマスターには伝えなくてはいけません。そこはご了承くださいね?」

「それなら、まぁ構いません」


 そう言いながら、俺は内心胸をなでおろす。


 どうやら、俺は思ったよりもこの世界でチートな存在のようだ。これからは、できるだけ気を付けて行動した方がいいかもしれないな。って、その能力を選んだのは俺自身なのだが。

 そういえば、取ったスキルの中に隠蔽があったな。えっと、確か、神様の紙によると、効果が………「自身のステータスやスキルを隠すことが出来る」だったな。普段はこれを使って「魔法才能全」と、念のために「鑑定」を隠しておこう。


 それにしても、今は周りで俺の事を聞いてる素振りをしてるやつもいないし、それが幸いだな。


「とりあえず、これで冒険者登録は完了です。後はギルドカードの配布とギルドのルール、クランについての説明をしなくてはいけません………これがギルドカードです」


 そう言って、アリッサさんは俺に一枚の金属製のプレートを渡した。


「その金属製のプレートはギルドカードで、一種の魔法道具となっています。これにユートさんの血を垂らすことで所有者登録が出来ますよ」


 そして、アリッサさんから一本の針を受け取った俺は、それを使って指先を突っつき、ギルドカードに一滴の血を垂らす。すると、ギルドカードに「ユート  17歳」という文字が浮かんだ。

 やっぱりすげぇな、ファンタジー。何でもありだな!


「はい。ギルドカードの登録も完了しましたね?それでは、次はギルドのルールについて説明させていただきます」

「よろしくお願いします」

「はい………ギルドに登録している冒険者にはランクと言うのがあります。ランクは低い方から「F<E<D<C<B<A」となっており、この基準では測りきれないような実力を持っている冒険者には「S」のランクが与えられます。まず、どんな冒険者であれ、初めはFからスタートです。そして、ギルドでの依頼達成状況が良いと判断されたり、より上のランクの実力があると認められた冒険者は昇格試験を受けることが出来ます。試験に合格すると、ランクが上がって、より上の難易度の依頼を受けることも可能です」

「依頼を受けるのに、何か制限ってあるんですか?」

「そうですね………まず、依頼には難易度として適正ランクと言うのが設けられています。冒険者はこれを参考に自分の受ける依頼を決めるのですが、自分のランクよりも2以上上のランクの依頼を受けることはできません」

「なるほど、分かりました」

「それでは、最後にクランについての説明ですね………クランと言うのは、所謂、組合の事です。これに入ると、そのクランで決められた奉納対価を定期的に支払う代わりに、クランから強力なバックアップを受けることが可能です。例えば、クラン専属の生産職が魔物の素材を高く買い取ってくれたり、武器を安く作ってくれたりなどです」


 俺は相槌を打ちながらアリッサさんの話を聞いていく。


 だが、今のところはクランと言うのは俺には関係が無いだろう。だって、自由にやりたいし。俺自身がクランを作るんだったらまだしも、他のクランに入って縛られるという選択肢は、俺の中には今のところは無いな。

 アリッサさんはどこかのクランに入る事を強く勧めてくれたけど、今はパスだな。


 クランについての説明が終わった。どうやら、もう説明することは無いらしい。


「それでは、これでギルドについての説明は終わりです。………何か、試しに簡単な依頼でも受けますか?」

「いえ、今日はもうすぐ暗くなるので止めておきます。………それよりも、ここに来るまでに幾つか採集をしたんですが、それらを買い取ってくれるところって、どこですかね?」

「それなら、あそこの買取りカウンターにそれを見せてください。同種ならば均一価格になってしまいますが、あらゆるものを買い取っていますので」

「はい。分かりました。ありがとうございます!」

「いえ、これが仕事ですから。これからも、何かありましたら私に聞いてください!」

「そうさせてもらいますよ」


 俺はそうアリッサさんに返事を返すと、買取りカウンターの方へと向かった。買取りカウンターには依頼帰りなのか、結構な数の冒険者達が並んでおり、かなりの賑わいを見せている。


 俺がしばらく並んでいると、ようやく俺の番が回ってきた。


 そして、俺がアイテムボックスから取り出したのは「毒草」「麻痺草」「コウタケ」の三種類。「薬草」「霊草」は後に使うかもしれないので取っておくことにした。

 買取りの結果は、全部で銀貨5枚。まぁ、全部近隣の森で取れるものだからな。こんな感じが妥当だろう。ちなみに、依頼の報酬はFランクの物を一回成功で大体、銀貨1枚。神様の紙にはこの世界の貨幣の価値が書かれていなかったので、お金についてはよく分からんが、街中で売っていたパンは手のひらサイズの物一つで銅貨一枚だった。


 うーん。やっぱりよく分からん。

 ふと疑問に思った俺は、ちょうど視線の横の方にあった買取り金額表へと目を向ける。


============

「薬草」………10本:銅貨5枚

「霊草」………10本:銅貨5枚

「毒草」………10本:銅貨2枚

「麻痺草」………10本:銅貨2枚

「眠り草」………10本:銅貨2枚

「混乱草」………10本:銅貨2枚

「ローポーション」………1本:銅貨5枚

「ポーション」………1本:銀貨10枚

「MPローポーション」………1本:銅貨5枚

「MPポーション」………1本:銀貨10枚

「コウタケ」………30個:銅貨1枚

     ・

     ・

     ・

============


 へぇ、やっぱり薬草とか、霊草って需要があるから高めに買い取ってくれるのか。まぁ、俺は今後は薬草をポーションにするつもりだから、ここに売りに来る気はさらさら無いが。


 それにしても、やっぱりお金の基準が分からん。


 この表記の感じからして、「銅貨10枚=銀貨1枚」らしいという事は分かったんだが、どうも銅貨一枚の価値がよく分からん。

 さっきも言った通り、パン一個で銅貨一枚だったから、日本円に換算すると「銅貨一枚=100円」ぐらいと考えてもいいのだろうか?でもなぁ、こっちの物価が必ずしも日本の物と同じとは言えないしな………。

 まぁ、もうこの際どうでもいいか。そういう事はこれから少しずつ知っていけばいい。


 俺はすぐさま思考を切り替え、次の行動に移る……元ボッチの切り替えの早さ、なめんな。 


 さて、これでギルドでの今日の目的はすべて達成したわけだ。あとは、どうすっかな。

 うーん、俺の中では、今日することは「寝床の確保」。「食い物の調達」。「調合キットの入手」の三つに絞られてる。まぁ、最後のに関しては、最悪明日以降でも構わない。ただ、後になった分だけ俺の後衛職としての安心安全ライフが遠ざかるというだけの事だ。………いや、結構重要な問題なんだがな。


「とはいえ、やっぱり一番は寝床だよな。さすがに、異世界に来てそうそう町の中でホームレスっぽい事をするのは不安があるし。それに、何気に食い物が無いと色々と困る。という事は、優先順位で言えば「寝床の確保」=「食い物の調達」>「調合キットの入手」か。まぁ、寝床に関しては門で兵士のおっちゃんに貰った紙があるからそれを見れば大丈夫だろ」


 そんな事を呟きながら、俺はおっちゃんから貰った紙を開く。


 えっと……あったあった。この町で安くてオススメな宿が端っこの所に書かれている。

 この辺りでオススメなのは……「エイルの宿」ってところか。なんか、RPGゲームにありそうな名前の宿だな。とりあえず、ここに行ってみよう。他に行く当てなんかないしな。


 俺はそんな事を考えながら、エイルの宿があるという所に向かう。そして、すぐにエイルの宿にたどり着いた。ギルドから直線距離にして100メートル、それが俺が歩いた距離だった。


 エイルの宿と異世界の言葉で大きく書かれた看板が目印となっているこの宿は、さすがオススメと書かれているだけあって、なかなか清潔そうな宿だった。外見が気に入った俺は、すぐにここに泊まる事を決め、中に入った。


「いらっしゃいませ!」


 俺が宿に入った途端、元気な挨拶が飛んでくる。挨拶が飛んできた方へと顔を向けると、そこにはいかにも看板娘と言う感じの、笑顔が眩しい美少女がいた。


 笑顔がステキな受付さん、その二の登場である。ちなみに、その一はギルド受付のアリッサさん。


「この度は、エイルの宿にお越しいただき、ありがとうございます!今回は、お食事ですか?それとも、お泊りですか?」


 受付の美少女がそう聞いてきたので、とりあえず泊まりだと答えておく。

 「それとも、私?」と聞いてくれなかったのが微妙に残念だ。ちなみに、「それとも、わ・た・し?」と私の部分をゆっくりにすると、俺的にはエロさが10倍になると思う。


「分かりました!泊りだと、朝と夜の二食付、体をふくためのお湯も込みで、一泊、銀貨1枚です!」

「それじゃあ、とりあえず五泊分頼みます」


 そう言って、俺は銀貨5枚をアイテムボックスから取り出す。俺のそんな動作を見て微妙に受付美少女が驚いた顔をしたが、気づかないふりをしておく。


 それにしても、飯込みで一泊銀貨1枚というのは、銀貨1枚=1000円という等式が成り立つとしたら、それなりにリーズナブルな価格設定だと思う。受付は美少女だし、建物も綺麗だったら尚更だ。なんだったら、ずっとここに住んでもいいかもしれん。まぁ、将来的には自分の家を持つつもりなので、それは冗談なんだが。


「それでは、これが部屋の鍵になります!外に出る時は、カギはこの受付に渡していってください!あと、朝ごはんの時間は6~9時。夕ご飯の時間は18~21時となってますので気を付けてくださいね!」

「分かりました。では、今から部屋に行っても?」

「えぇ、勿論……あ、一応名前だけ聞いておいても良い?」

「ユートです」

「そうかぁ、ユート君か………私の名前は、ユリ。これからしばらくの間、よろしく!」

「えぇ、よろしくお願いします」


 俺は、受付の笑顔がステキな美少女改め、ユリさんと挨拶を交わして自分の部屋へと引っ込んだ。


 俺の部屋は二階にあり、ふかふかのベッドに机といすという、オーソドックスな造りだった。そして、以外に部屋が広い。異世界の宿という事で、一人部屋で狭いんだろうなと思っていたが、そんなことはなさそうだ。


「よし、これで、宿とついでに飯の問題は解決か。まだ、日が沈むまでに時間はあるし、門に預けた金の回収と、調合キットがどれだけの値段で売ってるのかだけ確認しに行こう」


 俺は次の行動をすぐに決めると、部屋をでた。

 特においていく荷物は無い。とりあえず、荷物はアイテムボックスに詰め込めばいいからだ。


 部屋の鍵を閉め、宿の階段を降りる。そこには先ほどと同じく、ユリさんがいたので、部屋の鍵だけ預けて「行ってきます」と挨拶だけしとく。「行ってらっしゃい」という言葉を背に受けながら、俺はエイルの宿を出た。


 それにしても、今のやり取り、新婚さんっぽかったな。


 そんな事を考えながら、ホクホク顔で俺は町を歩いていく。




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