第十八話 異世界転生しても思い出さえあれば関係ないよね!
突如、俺の目の前に顕現された風の盾は凶悪なまでの威力を誇っているブラックドラゴンの爪の斬撃にも耐えて見せ、そして霧散させた。
「助かった」という思いと「一体誰が?」という驚愕が同時に俺の思考を染める。
そしてその時、再びどこからか先ほどと同じ声で魔法の詠唱が俺の耳に届いた。
「炎よ、すべてを貫く槍と成し、無慈悲な一撃を!『フレイムランス』!」
詠唱が終わると同時に後ろから物凄い轟音。
数秒後には、俺の頭上を一メートルはあろうかと言う巨大な炎の槍が通過していき、それはブラックドラゴンに直撃した。
「グオオオオオオオオオ!?」
突然の中級魔法に戸惑いの声を上げるブラックドラゴン。その双眸は先ほどのように深い憎悪に満ちているようだった。
だが、ドラゴンが睨みつけていたのは俺では無い。その双眸は俺の遥か後方を射抜いている。
俺が「何だ?」とブラックドラゴンの視線を追って後ろを振り向こうとしたその時、俺の横を二つの人影が通過していった。一つは、眩しいほどキラキラしている鎧に身を固めた男。もう一つはポニテに着物と言うこちらの世界に来てからはお目にかかっていなかった撫子姿の女だ。
一見、着ている物が違い過ぎて並んでいると大きな違和感を覚えるが、彼らには大きな共通点が一つある。
彼らの髪の色がどちらも黒なのだ。
こちらの世界に来てたくさんの人物を見てきたが、これまでに俺以外に黒髪だったのは皆無であり、俺は咄嗟にブラックドラゴンへと突撃していく二人に鑑定を使って見た。
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鞍馬 駿
ヒューマン
Lv69
MP:915/1830
STR:1191(限界突破1786)
DEF:1065(限界突破1597)
AGI:1153(限界突破1719)
INT:941(限界突破1411)
スキル
「光属性魔法:Lv63」「限界突破」「隠蔽」「鑑定」「勇者」
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更月 雅
ヒューマン
Lv60
MP:1383/1383
STR:831
DEF:765
AGI:1654
INT:803
スキル
「闇属性魔法:Lv71」「AGI鋭化」「隠蔽」「鑑定」「勇者」
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「なっ?!」
鑑定を使い、視界に表示された二人のステータスを見て、俺の口から驚愕の声が漏れる。
何と、突如として現れ、ドラゴンへと特攻していった二人の少年少女。彼らの名前は漢字が使われていた。……つまり、彼らは紛れも無く日本人。
神様が言っていた俺以外の転生者と言う奴か……?
いや、冷静に考えれば違うと判断できる。
何故なら、俺自身、転生した直後からステータス画面に表示されている名前は「ユート」であり、日本にいた頃の「戸神裕翔」という名では無い。他の転生者がどうなのかは知らないが、他の連中も同様に名前が変わっていると考えた方が自然だろう。
ということは、彼らは―――
俺がそこまで考えていた時、俺の体に影が差した。咄嗟に顔を上げる。
そこには、修道服を着たショートカットのこれまた黒髪の少女が俺の前に立ちはだかるかのようにして立っていた。
「大丈夫…だよ…? ……君は私が守るから」
そう、少女は俺に語り掛ける。
気のせいだろうか。その少女らしい小さな背中はどこか見覚えがあるような気がする。
だが、どうしても思い出せない。なんだか無性にモヤモヤとする。何て言うか、とてつもなく大事なことがすっぽりと抜けているというか。そんな感じが俺の記憶の底から湧き上がってくる。
少女の事が気になった俺は、少女に鑑定を使ってステータスを覗いた。
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篠咲 美弥
ヒューマン
Lv61
MP:2296/2355
STR:681
DEF:854
AGI:769
INT:1857
スキル
「魔法才能全」「リジェネレイト:Lv31」「MP自然回復:Lv61」「魔力障壁:Lv68」「火属性魔法:Lv61」「水属性魔法:Lv59」「風属性魔法:Lv72」「地属性魔法:Lv48」「闇属性魔法:Lv35」「光属性魔法:Lv44」「調合魔法:Lv12」「付与魔法:Lv44」「召喚魔法:Lv10」「回復魔法:Lv57」「契約魔法:Lv9」「接続魔法:Lv5」「空間魔法:Lv49」「隠蔽」「鑑定」「勇者」
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そのステータスを覗いた次の瞬間、俺の視線は彼女の名前の所に釘付けとなる。
「み……や……?!」
俺はその名前に心当たりがある。
―――その名前は、かつて幼いころ、俺に一番近い所にいた女の子の物。
―――俺の幼馴染として一緒に育った少女の物。
―――そして、六年前のあの日、突如として俺の目の前から姿を消してしまった彼女の物。
そういえば、彼女の見覚えのあるその背中には、どこか、あの幼馴染の面影があるような気がする。
そう感じた瞬間、俺の中に少女に「君はあの幼馴染なのか?」と確かめたいという欲求が湧き上がってきた。
「き、君は―――」
「……ごめん。今は黙ってて。……他の行動に意識を割く余裕がない」
「―――はい。すいません」
ドラゴンの方を向いたまま放たれた少女の言葉に、俺は口を塞ぐ。
確かに今、彼女は魔法を連続で行使して、俺やアリセル、更には傍で気絶しているレティアをドラゴンの攻撃から守ってくれている。その表情は真剣で俺の質問に答えている余裕はなさそうだ。
そして、ドラゴンの傍では黄金に輝く片手直剣を携えた黒髪の少年―――駿と、銀色に光る刀を振る黒髪の少女―――雅がドラゴンの凶悪な一撃一撃を交わし、逆にドラゴンの巨大な体に確実に攻撃を加えていた。
ドラゴンが右腕を振るい飛ぶ爪の斬撃を駿に向かって放つ。
しかし、駿はそれをバックステップで後ろに回避。斬撃はそのまま地面を抉り、地面に斬撃痕を付けた。
そして、ドラゴンの意識が駿の方へと向かっているのを確認した雅は、その高いAGIを生かし、ドラゴンの懐に一瞬の内に接近。ドラゴンの踵を鋭い刀の抜刀術で深く斬りつける。
「グルゥウウウウウウウウウ!?」
この攻撃にドラゴンがたまらず悲鳴のような雄たけびを上げつつ片膝をついた。
上手く立ち上がれないようで、どうやら、さっきの雅の斬撃はドラゴンのアキレス腱を深く傷つけていたらしい。
「美弥! 付与を頼む!」
それを好機と見たのか、駿から俺の目の前に立っている少女―――美弥へと指示が飛ぶ。
「……ん。空間付与『AGI・STR』」
駿の支持を受け、美弥が魔法を行使する。すると、駿と雅の体が突然発光を始め、突然動きが素早くなった。
駿と雅はその動きを維持したままドラゴンへと突撃する。
「ゴォオオオオオオオ!!」
しかし、ドラゴンもそれを指をくわえて見ているわけでは無い。
ドラゴンの足につけられた傷が急速に回復して行く。これが、スキル「超回復」の効果なのだろうか。だが、それでも完全回復には至っていないらしく、ドラゴンは巨大な羽を広げると、それを力強く羽ばたかせ、宙へとその巨体を浮かせた。足が役に立たないのなら羽で移動しようという事なんだろう。
だが、そこに無慈悲な詠唱が響き渡る。
「風よ、無慈悲なるその脅威を持って、すべての存在を引き裂き、数多の敵を打ち破る、その刃を我の前に!『ウィンドブレード』!」
風属性帝級魔法、「ウィンドブレード」
それが美弥の伸ばされた腕の先から詠唱の完了と共に発射される。
それは風でできた緑色の長剣のような形をしていて、その大きさは軽く俺の身長の二倍はある。
顕現された長剣(もはや、超剣とかでもいいような気がする)は風魔法らしく、物凄いスピードでドラゴンへと迫ると、奴の強大な翼を切り裂こうとした。
しかし、それを悟ったのであろうドラゴンは、その攻撃に反応して紙一重でその斬撃を交わす。
そして、そのまま交差するドラゴンと長剣(またの名を超剣)。だが、次の瞬間、急激に方向展開した風の長剣がドラゴンの巨大な翼を豆腐のように易々と引き裂いた。
風の長剣は次々とドラゴンの翼を引き裂いていく。
そして、ついに、ドラゴンは空中に留まる事が出来ずに地面へと墜落して行った。
「雅! やるぞ!」
「分かったわ! 駿!」
雅と駿の二人が墜落したドラゴンへと即座に駆け寄って行く。
「………二人とも、これで決めて。空間付与『STR』」
美弥からの付与魔法による支援を受け、さらに強く光りだす二人。
「はあああああああああああああ!」
「やあああああああああああああ!」
そして、二人は立ち上がろうともがいているドラゴンに己の獲物を叩きつけた。
「……驚いたか?」
ドラゴンへと獲物を叩きつけた後、更にドラゴンを切り結んでいく二人を見つめていると、今まで口を開けなかったアリセルが唐突に喋りだした。
「……ギルマス。彼らは一体何者なんですか?」
「彼らは六年前、異世界から召喚された、勇者だよ」
「……勇者?」
「あぁ、君は世間に疎いようだから知らないかもしれないが……な?」
そう言って、俺の方を見てどこか悟ったような表情で「フフフ」と笑うアリセル。
やべ、何か勘付かれたんだろうか。……まぁ、俺が転生者だとばれようがアリセルなら特に問題は起きなさそうだし、あまり心配はしてないんだがな。
「ギャァアアアアアアアアアアアア………―――」
その時、悲痛なドラゴンの叫び声が上がり、そして段々とその声は収束していった。
「おや、もうドラゴンの息の根を止めたみたいだな」
そんなアリセルの声につられてさっきまで勇者達とドラゴンが戦っていたところに視線を向けると、駿がドラゴンの脳天に己の剣を突き刺しており、それを引き抜くところだった。ドラゴンの瞳からは光が消え失せ、剣を引き抜いた後からは真っ赤な血がブシュッという擬音語がしそうな勢いで吹きだしている。
正直、かなりグロイ……そんな血を被りながら、雅に爽やかな笑みを浮かべてる駿とか得に。
そして、雅に笑いかけた駿の視線は自ずとこちら側へ向けられる。
「おーい! 美弥、そっちは大丈夫かぁ?」
「……ん。問題なし。怪我一つない」
「そっちの人たちも大丈夫? 気絶してる人もいるみたいだけど」
「あぁ、一応大丈夫だと思う」
次に雅の方から俺に質問されたが、無難に返しておく。
レティアは相変わらず気絶したままだが、当て身を食らわされてるだけだし、問題は無いと思う。
―――とりあえず、今はそんな事よりもだ。
俺は傍らにそっとアリセルを座らせる。
何かその時にアリセルが少しだけ残念そうな顔で俺の方を見つめていた。疲れているんだろうか?
まぁ、今はそんな事はどうでもいい……
「……ちょっと君」
「……ん。何?」
俺は美弥へと声をかけ、彼女をこちらの方へと向かせる。
―――そして、俺は再び息を呑んだ。
ついさっきまでは美弥自身が俺たちの盾になるようにして立ちはだかっていたため、彼女の顔を見ることはなかった。
そのため、真正面から彼女の顔を見るのはこれが初めてなんだが、やはり俺は彼女を知っている。
ずっと近くで見てきた少女の顔だ。忘れるわけがない。
その証拠に、美弥も前世から変わっていない俺の顔にデジャヴを感じるのか、少し目を見開いて俺の顔を見つめている。
その瞳に映っているのはどんな感情何だろうか。
困惑? 歓喜? 疑惑?
どんな物かは今の俺には分からない。
何故なら、彼女の瞳は涙で濡れているから。
普段、感情を表に出さない彼女には珍しい事だ。そんな反応を今は愛おしく感じる。
そして、俺はこの六年間を空白を埋めるように。彼女との間に開いてしまっていた溝を埋めるかのように。
言葉を丁寧に紡ぎ出した。
「……みーちゃん?」
俺のこの一言が決定打となったのだろうか。美弥―――大切な幼馴染のみーちゃんはその透き通るような双眸に溜め込んだ涙を溢れさせると、上ずりかけの声でこう聞き返してきた。
「……ユウ君?」
俺はこの問いに大きくうなずく。
「……ユウ君!」
みーちゃんは、もう我慢できないとばかりに俺に抱き付いてくる。
「……う……うぅ――」
そして、みーちゃんは俺の胸の中で泣きじゃぐり始めた。
突然のみーちゃんの反応に俺は大きく動揺しつつも、昔やっていたように頭をゆっくりと、優しく撫でてやる。
周りは時が止まったように誰も動かない。
皆、みーちゃんの反応に戸惑っているのだろうか。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
俺はやっと大切な幼馴染と再会することが出来た。今は、腕の中の暖かさが何よりも恋しい。
俺は腕の中の温もりを逃がさないように、みーちゃんが落ち着くまでその触り心地の良い髪を撫で続けた。
―――俺の行方不明だった幼馴染は、異世界で勇者になっていた。
今回の展開はどうだったでしょうか。
何の脈絡も無く勇者とか、幼馴染とかを出してしまいましたが、これで良かったのかと未だに悩んでます(ノД`)・゜・。
まぁ、こうしないと今後の話に繋がらなくなってくるので、どちらにせよこの章で出さないといけなかったんですが……
とりあえず、次回はこの章のエピローグ的な所になると思います。
そこで質問なんですが、この章が終わった後、何か別の話を挟んで二章に入るか、直で二章に入るか。どっちがいいと思いますか?
もし、別の話を入れるのであれば、一応勇者たちの今まで的なのを五話くらいに分けて書こうかなと思ってるのですが……感想欄などに意見を書いていただけると幸いです(>_<)
それと、今回ので完全にストックが切れてしまいましたので、これからの投稿は遅くなると思います。おそらく週一とかになるかと……という事で、次回からは日曜18時に確定更新で、ストックに余裕がある時は気分次第で更新。という形にしたいと思います。
本当に申し訳ないです……
とりあえず、次回もよろしくお願いします!