第十一話 ポーションを売るため露店を始めました
次の日、俺は昨日と同じように腕時計の目覚ましの音で目を覚ました。勿論、流れてくる音楽は昨日の内に変えていたので、青狸ロボットや世界ミステリー番組の主題歌のように、無駄に聞き覚えのあるものではない。おかげで、今日は朝いちばんに突っ込むことはしないで済んだ。あれ、結構疲れるんだよな。主に、精神的に。
さて、そんなわけで異世界に来て初めての爽やかな起床を果たした俺は、手早くアイテムボックスから昨日買った服を取り出して着替え、朝食を食べるために一階へとおりた。
俺が降りてくると、すかさずユリさんが挨拶をしてきてくれたので、俺も挨拶をし返す。
相変わらず、眩しい笑顔です。ユリさんの笑顔を見るだけで今日一日の栄養を補給できた気分になる。…あくまで、気分だけの話だが。
今朝のメニューは、俺が昨日狩ってきたシルバーウルフ尽くしだ。
「シルバーウルフの串焼き定食」「シルバーウルフのモツ煮」「シルバーウルフ肉のスープ」
ついさっき知ったことなのだが、シルバーウルフは焼いてもおいしいのだが、煮込んだ場合、肉が格段にやわらかくなるため、煮込む方が一般的な食べ方なんだそうだ。
狼の肉が何故そんなにおいしいのかは疑問に思う事なんだが、まぁ、おいしければいいかと、俺は注文したシルバーウルフのモツ煮を平らげた。ものすごくうまかった。しかも、昨日の朝食や夕食のように見た目がグロくなかったのがものすごい嬉しい。人間、食べる物の評価というのは、大半が見た目などの視覚情報に頼っているらしいから、やっぱり見た目って大事だよな。
そんなこんなで朝食を食べ終わった俺は、そのまま宿を出て、その足でギルドへと向かう。
今日はクエストを受けるわけでは無い……というより、北の森でのキングゴブリンの出現に影響して、他の地域でも、本来はその地域には生息していないはずの魔物が出現している可能性があるという事で、俺のような低ランクの冒険者は周りの地域の安全が確認されるまで町の外に行かなくてはいけないクエストは受けられないことになっている。
そういう事もあってか、今日はギルドにいる人の数は極端に少なかった。
それに、少人数だけいる冒険者も、大半がランクD以上の中堅冒険者以上の実力を持っている者ばかりだ。
ちなみに、ギルドでは冒険者のランクごとに呼び方が変わっていて、F,Eランクだと「初心者冒険者」、D、Cランクでは「中堅冒険者」、B,Aランクは「上級冒険者」、Sランクの場合、認定されるためには国からの推奨を受けないといけないので、「国家冒険者」と呼ばれている。
俺は現在、Fランクなので初級冒険者というわけだ。
さて、そんな実力者に占領されている形のギルドの中は、独特の緊張感に包まれていた。軟なメンタルの持ち主だったら、この雰囲気に触れただけで漏らしてしまうんじゃないか?
そんな事を考えながらも、俺はギルドのカウンターへと向かう。勿論、アリッサさんが担当している受付に。
「アリッサさん、おはようございます」
「あら、ユートさん、おはようございます……それで、今日はどのような要件ですか?今日は町の外で活動するクエストはユートさんは受けられないですよ?」
「いえ、今日はクエストを受けに来たんじゃなくて、とあることの相談に来たんですよ」
「相談……ですか?」
「えぇ、実は、ポーションを売るために露店を出したいんですが、どこに露店を出せばいいのか分からなくて……」
「それなら、メインストリート沿いなら、どこでも出しても良いですよ。ですが、どこかの店の前で露店を出す時は、必ず、その店の許可を取ってください。許可を取らずに、店の前で露店を出した場合、銀貨30枚の罰金が発生するので、気を付けてくださいね?」
「あ、分かりました」
俺は、アリッサさんにそう返事を返すと、礼を言ってギルドから出た。
それにしても、露店を出すのって意外と簡単だったんだな。ネトゲとかじゃ、露店を出す時とかは色々と制限があったから、てっきりここでもそうなのかと思ってたんだが、拍子抜けだ。
そんな事を考えつつ、途中の雑貨屋で大きめの布を買って、俺はエイルの宿へと戻った。この店の前で露店を開こうと考えたからだ。
「あれ?ユート君、もう帰ってきたの?」
俺が宿に入るなり、テテッとユリさんが俺を発見して近寄ってきた。
首をかしげているユリさんも、むっちゃ可愛いです。
「いえ、今日は昨日のキングゴブリンの出現のせいでクエストが街中限定の物しか受けられないので、露店を開こうかなんて思いまして」
「あ、分かった! その露店を、内の宿の前で出したいから、許可を貰いに来たんでしょ?」
「はい、その通りです……いいですかね?」
「うん!いいよ!むしろ、出してくれた方が、お客さんも寄ってくるから大助かりだよ!」
「ありがとうございます!」
「うんうん! それじゃあ、露店、頑張ってねぇ!」
ユリさんは、そう言い残すと、自分の仕事へと戻っていった。
「さて……許可も取れた事だし、必要な物を揃えて、露店を出しますかね」
俺はそう呟きつつ、再び宿を出て、今度は「ミツバシ魔法道具店」へと向かった。
もはや、見慣れた現代日本の電気店さながらの外見の店に入ると、すぐに三階へと向かう。
すると、丁度三階に、この魔法道具店の店長であるミツバシがいた。
相変わらずのずんぐりむっくり体型のドワーフに似合わない商業スマイルを浮かべ、別の客の案内をしているようだ。こう見ると、やっぱりミツバシが、某テレビショッピングの名物会長のように見えてくるから不思議だ。やっぱり、「そういう」カリスマ的な物を持っているからだろうか?
まぁ、そんな事は置いておいて。
今回、俺が買い求めているのは、調合によって作り出されたアイテムに限って、詳細な情報を表示できるという、魔法道具、「メイド・イン・ウェア」だ。……って、なんで名前が英語?!それに、文法も滅茶苦茶だし!
……はぁ、もういい。疲れた。
俺はかなりの数がある商品棚の中から、それを見つけ出し、同じものを四つ買った。これで、四つで銀貨8枚なのだから、中々良心的な値段と言えるのではないか。
そして、俺は他にも、今持っている初心者調合セットよりもワンランク上の調合セットを購入する。これは、お値段は銀貨10枚。ちなみに、これよりさらに上の調合セットもいくつかあって、それらも値段的には余裕で買えるのだが、それらを扱うには俺の調合魔法のスキルレベルというのが心許なかったので、結局そっちは買わなかった。
さて、これで必要な物は全部そろえることが出来た。
俺は、それらを全て買って、再びエイルの宿の前に戻ってきた。
そして、宿の入り口の少し横に、雑貨屋で購入した大きめの布を敷いて、その上に余分に作っておいた、ローポーション、MPローポーション、解毒ポーション等を並べていき、その商品の前に先ほど買った「メイド・イン・ウェア」を置いて、発動させた。
すると、四角くて黒い液晶のような外見のメイドインウェアの表面に、それぞれのポーションのデーターが表示された。
ちなみに、メイド・イン・ウェアは初心者調合セットにも付属されていたので、これで全種類のポーションのデーターを表示させることが出来る。
これで、露店の準備は良し。
ポーション類は紅蓮聖女が交換しにくることを想定して、それぞれ十本ずつストックしたのを除いて、30本ずつ売りに出す。それぞれの値段は以下の通り。
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ローポーション 一本 銀貨一枚
MPローポーション 一本 銀貨一枚
解毒ポーション 一本 銅貨八枚
解痺ポーション 一本 銅貨八枚
覚醒ポーション 一本 銅貨八枚
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ちなみに、この値段設定は、他のポーションを売っている露店の値段を参考にしたものだ。安過ぎず高すぎず。妥当な値段だと思う。まぁ、値段は大体同じでも、その効果は他の露店の物とは明確な違いがあるので、他の露店に販売競争で負けるという事はまずないと思っている。
ほら、そう考えている間にも、俺の露店を発見して近づいてくる冒険者のパーティーがチラホラ。彼らは、商品の前に置かれているメイド・イン・ウェアに表示されているポーションの回復レベルを見て、驚きの表情を作って、そして四、五本ずつぐらいポーションを買っていく。
その後、一時間ほどで商品を全て売りさばくことに成功した俺は、ポーションを買えなくて残念そうにしているお客に「明日もこの場所で露店を開く」という旨を伝えながら、店じまいをした。
さて、これで今日の目的は半分は達成できたな。
思ったよりも早くポーションを売り切ることが出来たから、まだ昼食の時間には早いか…とすると、これまた早いけど、もう一つの目的を進めておいた方がいいか。
俺はそう考え、目的の達成のため、再びギルドへと向かう。
今回の話、結構あっさりした文章になってるような気がするのですが、どうですかね?
今までよりもギャグ部分が極端に少なかったのでそう感じるのかもしれないですが。
とりあえず、ようやくユート君はポーションを売るようになりました。さて、今後、彼がどのように「調合師」として成長していくのか…期待しておいてください!
そして、次回は魔法についての回ですね。
次回、いよいよ「あのスキル」の本領が発揮されますっ!