第百話 誓いの言葉は想いにのせて
百話到達!
今回が二章最後のゆったり回。
こっから二章ラストまでフルスロットで突っ走っていきます!
ちなみに、今日10月5日は私の誕生日。
でも、誰もプレゼントくれないんで、自分へのご褒美にゲーム買ってきます。(´・ω・)
テントの外に出れば、頭の上に広がるのは雲一つない青空。
それを視界に入れつつ、この休息の時をどのように過ごそうかと頭を悩ませる。
でも、どれだけ頭を絞っても何も思い浮かばない。まぁ、こっちの世界に来てから趣味のような物は殆ど無いし、やりたいと思うような事も特にない。
そんな面白みのない人間みたいな事に陥っている自分に苦笑を浮かべる。
「あーあ、これから一日も経たないうちに戦争が勃発するっていうのに、空模様は相変わらずマイペースだな……」
青一色に染まった空を見上げつつそんな事を呟くと、誰か寄ってくる気配があった。
その気配は俺のすぐ隣にやってきて、立ち止まる。その気配は紛れもなくみーちゃんのものだ。慣れ親しんだ彼女の気配はそうそう間違えることは無い。
「……ユウ君おつ」
「あぁ、みーちゃんもお疲れさま」
「……これからどうする?」
「それを今考えてるとこ。とりあえず、ポーションの配給受けて……それからどうしよっかなって感じ。まぁ最悪、いつもみたいにダンジョンの中で過そっかなとは思ってるけど――」
「ダメ」
「へ?」
少し頭を悩ませつつ今後の予定を語ると、途中でみーちゃんに言葉を遮られた。
「……今回はきっと厳しい戦いになる。だから、体はしっかり休めたほうがいい」
「いや、でも――」
『ジ―――――ッ』
みーちゃんから、こちらを咎める様な強い視線を感じる。
その視線に気圧されて、俺は咄嗟に出そうになった『何もしないのは落ち着かない』という言葉を飲み込んだ。
「―――――うん。分かった。今日はゆっくりするよ」
「……ん。それがいい」
返答を聞いたみーちゃんは満足げに笑った。
そして、そのまま言葉を続け――
「……差し当たって、用事を済ませたらお昼寝しよっか」
そう、如何にも眠そうな表情で提案してきた。
「……それってさ、ただみーちゃんが眠たいだけじゃない?」
「……違う」
「いや、でも眠そ――」
「違う」
「…………」
――結局、みーちゃんの圧力には勝てず、残った時間は眠って過すことにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数十分ぐらい後。
配給のポーションを受け取った俺とみーちゃんは、陣地から少し外れた人があまり通らない場所にやって来て、何をするでもなく唯々寝転がっていた。
寝転がって空を見ているせいで視界に映るのは青一色だ。数十分は同じ光景を見ている気がする。何も変わり映えが無い。でも、最近はこんな時間はそうそう取れなかったし……まぁ偶にはこういうのもいいのかなって思う。誰にも休息は必要だ。
(まぁ、そうだとしても……暇だ)
何もすることが無い。
その事実は思っていたよりも空虚で、せめて話し相手が欲しい所だけど……。
「……すぅすぅ」
「――本当に幸せそうに寝てるなぁ」
隣に寝転がるみーちゃんは規則正しい寝息を立て、フニャッとした表情で目を閉じていた。
こんなにも気持ちよさそうに寝ている人物を起こす気にはなれない。というか、早々起きなさそうな気がする。しばらく思う存分に寝かせるのが吉だろう。それにしても、みーちゃんはよっぽどに眠かったらしい。寝転んで一言二言言葉を交わしたすぐ後に夢の世界へ旅立っていた。
一方で俺は全くと言ってもいいほど眠くない。
どれだけ眠くなろうと思ってもダメだ。目が完全に冴えてしまっている。
おかしいな。こうやってのんびりと寝転がったら、いつもならすぐに眠気に晒されるはずなのに……。今日の俺は少しおかしい。
「はぁ……」
地を駆ける風を頬で感じ、息を吐いた。
漏れ出た僅かばかりの声は大気中で霧散し、静かに消え失せた。
そして、静寂。ただ静寂。永遠に続きそうな静寂。
――その中で、誰かがこちらへと近づいてくる足音が聞こえた。
静寂の中でその音は地を伝わって容易に俺の耳に届く。
そのどこか特徴的なテンポの足音には聞き覚えがあった。
「…………………………駿か」
「正解。よく分かったね」
どうやら予想は当たっていたみたいで、駿は俺のすぐ横までやってくるとそこに腰を落とした。口にはいつもの微笑を湛え、駿は俺と同じようにして何もない空を眺め始める。
何をするわけでも無く。何もせず。
一体、駿は何をしに来たのだろうか。
まさか、ただ何となく来たわけでもあるまいし。
「――駿」
「ん? 何?」
「こっちまで一人で来て一体どうしたんだ?」
「んー。特に用事は無いかなぁ」
「おいおい……」
そのまさかだった。
俺が呆れる様な声を漏らす。駿は心外だという表情を見せた。
「んー? 僕が何の用も無くここに来ちゃダメなのかい?」
「いや、別にそんな訳じゃないけどさ」
「あ、もしかして……お楽しみの邪魔だったかい?」
「これがそういう桃色な光景に見えるか?」
だとしたら少し心配になるところだったが、駿は首を竦め、『まぁ、そんな感じではなさそうだね』と言ってたから、まぁ、目がおかしくなったわけじゃなさそうだ。
今度は駿の方から質問が投げかけられる。
「そっちこそ、こんなところで何してるんだい?」
「見ての通りだよ。みーちゃんと二人で絶賛お昼寝中……まぁ、俺は眠気がさっぱり来ないから、こうやって空眺めてるんだけど」
「ふぅん……何で眠気が来ないんだい? 僕なら、こんなに心地がいいとすぐに寝入ると思うんだけどな」
「なんでだろうな……分かんない、けど、とりあえず頭が冴えてるんだよな。いや、冴えてるってか……むしろゴチャゴチャしてる?」
何で、今、眠くならないのか。自分でもよく分からなかった。
そもそも駿に質問されるまで深く考えていなかったぐらいで。だからか、自分の口から出た回答はしっちゃかめっちゃかで、自分でも『それは無いわ―』とさえ思った。
「……悪い。何か変な答えになっちゃったな」
「いや。何となく分かるよ。――つまり、ユートは不安になって怯えてるんだね」
「は……? え、いや、怯えてる? 俺が? ……え、そう見える?」
「見えはしないよ。ただ、僕にも頭がごちゃごちゃして眠れなかった事があるってだけさ。そして、そういう時は大抵、恐怖や不安に押しつぶされそうになって眠れないんだ。……悪い夢を見てしまいそうだからね」
「そうなの……かな」
「まぁ、これはあくまでも僕の体験談に基づいた考えだから、絶対にそうとは言い切れないけどね」
駿は微笑を浮かべつつ、気にするなという感じでそう付け足した。
駿の言っている事は分からないでもない。
でも、俺には自分が怯えているという自覚が無い。
それがただ気づいていないだけなのか、はたまた元からそういう感情が胸の内には無かったのか……それすらも分からなかった。自分の事なのに。
ただ、確かに今の俺がこれから起こることに恐怖を感じていてもおかしくはないと思う。
これから起こるのは戦争だ。そこでは人が死ぬ。多分、俺なんかの想像もつかないぐらいに沢山。もしかすると、その中に俺が入るかもしれない。
勿論、そうならない為に師匠に訓練を付けて貰ったし、最大限の注意は払うつもりだ。でも、世の中に絶対なんて無い。どんな事で呆気なく死ぬか……そんな未来の事は誰にも分からないんだ。
きっと、だからこそ俺は怯えている……可能性があるのかもしれない。人を手に掛ける覚悟は出来た……かもしれないけど、逆は全然だから。
まぁ最も、師匠が言うからには――
『死ぬ覚悟を固める時はマジで死にそうな時だけだ。それ以外はそんな覚悟は固めるなよ。そんな覚悟、糞くらえだ。馬鹿馬鹿しい。そんな覚悟決める暇があるなら、どうやれば生き残れるかを考えやがれ』
――だそうだから、今後もそんな覚悟を決めるつもりは無いけど。
「……ビビってんのかな、俺」
頭の中で微妙に逸れたことを考えつつ、俺は呟いた。考えれば考えるほど、自分がビビっている気がしてくる。
俺の内心を知ってか知らずか、駿はこちらを励ます様に言う。
「さぁ。さっきも言ったけれども、あくまで僕の体験談だからさ。指摘した本人が言うのもなんだけど、あまり気にし過ぎない方が良いと思うよ」
「そうなのかなぁ……」
「自覚してないなら、深く考えてもしょうがない。寧ろ、そこにとらわれ過ぎるのは良くないんじゃないかな?」
「あー、それは確かにそうかも」
駿の言葉に相槌を打ち、とりあえずはそれで一旦納得することにした。
「確かに、うじうじしてても時間の無駄だしな……」
「そうだね。……まぁ、とりあえず、今は体を休めててよ」
「分かってる。……って、何だか眠くなってきたな……ふぁぁ」
ようやく、というか。今更、というか。寝転がって数十分経った今、眠気が唐突にやって来た。盛大な欠伸が口を割って出る。
そんな中で駿が立ち上がった。
「それじゃあ、僕は戻るとするかな」
「何だ、ここで昼寝しないのか?」
「さすがの僕でも、二人きりの時間は邪魔できないよ。それに、僕はまだ少しやることがあるからね。早く行かないと、待ち人の機嫌を損ねてしまいそうだ」
「……色々とそっちは大変なんだな」
「ユートもポーションを調合してた時は結構大変そうだったけどね」
「あれはもう趣味みたいなものだからな……まぁ、大変でも苦痛は感じないし――って、こんな話はどうでもいいんだ。それより、待ってるやつがいるんだろ? 早く行ったほうが良くないか?」
「……それも……そうだね。じゃあ、僕は行くよ」
「あぁ……まぁ、行ってらっしゃい」
軽く手を振り、駿は去って行く。
それを見送り、その背中が見えづらくなった所で視線を外した。
「……くぅ」
「――良い寝顔だよ。ほんと」
相変わらず、隣ではみーちゃんが寝息を立てている。何も心配ない――そんな気持ちの良さそうな寝顔をしていた。
それを見るだけで、胸が熱くなる。何が何でもこの表情を守ろうって思える。
だから、今度こそ失わないようにしよう。
何もわからないまま諦めるしかなかった六年前とは違うのだから。
そんな決意を抱きながら――
「……あぁ、眠……もう………ダメ。無理」
襲い来る睡魔に身を委ね、俺は眠りに入った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
何か、しっとりした物が頬に触れたような気がした。
意識が一気に浮上していく。
――目を開けて、周りを見渡した。視界は薄暗く、目が慣れるまで少し見えづらかったけど、すぐ隣に未だに寝息を立てているみーちゃんがいる事は確認した。
そして空を見上げれば、青一色だったそこには数えきれないほどの星が瞬いている。
辺りは完全に夜だ。どうも、相当な時間を寝てしまっていたらしい。
「―――んんッ……はぁ……そろそろいい加減に起きないとな……」
伸びを一つして、その場に座り込んだ。寝起き直後特有の気だるさが体を重く感じさせるが、このまま再び寝入る訳にもいかない。
戦いがすぐそこに迫っている。
それに、体の調子は悪くない。寧ろ良いんじゃないかって思う。久々に気持ちよく寝れた気がするし、だから、ここからさらに寝る必要性も無いだろう。
陣地の方を見れば、焚火の明かりが僅かながらに見えた。そろそろ晩飯時ぐらいかもしれない。今、俺は時計を持ってないから時間はよく分からないが……
「もう、戻った方がいい……よな」
お腹も減ったし。
でも、みーちゃんをどう起こそうか。
これだけ気持ちよく寝てたら、何だか起こしにくいんだよ……どうしよう。
右手がみーちゃんを起こすか起さないかで葛藤して右往左往する。
「……もう少し待ってるか」
結局、先送りすることにした。
本当にもう少しだけ待って、それで起きてこなかったら今度こそ起こそう――そう自分に言い聞かせて、迷っていた右手はみーちゃんの頭の上に乗せた。
サラサラと引っかかりのないみーちゃんの髪を撫で、夜空を見上げた。
呼吸のせいか、みーちゃんの頭が僅かに微動し、そんな感触を楽しみながら、俺の視線は一つの星に吸い寄せられていた。
赤い星。ちょっと前にも見ていた真っ赤な星だ。気のせいかもしれないが、この前よりも少し大きくなっているように見える。……そういえば、地球にいた頃、赤い星に付いて何か聞いたことがあるような……何だっけ。思い出せない。
「……まぁ、思い出せないなら仕方ない……か」
深く考えてもしょうがない。寧ろ気にし過ぎて、そこに捕らわれる方が不味い――それに、思い出せないならあまり重要な事じゃないんだろう。だから、頭の引っ掛かりは放棄することにした。
それに――思い出せない事なんかよりも、もっと大事な事がある。
何よりも、誰よりも、大事だから――
「絶対に……君を守って見せるから」
右手から伝わる温もりを感じつつ、俺は一人誓った。
この温もりを失わない為に。俺と言う存在に誓いを刻みつけるように。
――湧き上がる想いを胸に抱いて。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後は、出来るだけ優しくみーちゃんの頭を撫で続け、みーちゃんが起きるのを待っていた。
頭だけを撫でるのではなく、時折ほっぺをつついてみたり、鼻をちゅんと摘まんでみたり。
十分ぐらいそうしていると、みーちゃんが眠りから覚めた。
すぐさまもそりと体を起こした彼女は、その純粋なる瞳でこちらを見つめてくる。
何だか、悪戯をしていたのを責められている気分だ。
そして――寝起きであるからか、みーちゃんの顔が少しだけ赤いような気がした。
まぁ、どちらも気のせいだろうが。
「みーちゃん、おはよう」
「……おはよう」
「じゃあ、そろそろ夕食だし」
「……ん。陣地に戻る」
立ち上がったみーちゃんが俺の服の裾を引っ張る。
俺はそんなみーちゃんに頷き、彼女の横に並んで陣地に戻った。
陣地に付くと、二人そろって夕飯を食べ、再び仮眠を取る。
勿論、互いに違うテントでの仮眠だ。
流石にテントで男女一緒に寝るのはマズいと思う。
寝袋に入ると、思っていたよりも早く睡魔がやって来た。
さっきまで寝てたのに。それだけ疲れていたのかもしれない。
ともかく、俺は睡魔に身を任せた。
すると、漂うように。浸透するように。
意識が薄れていき……
次、気が付けば、もう戦いの刻はすぐ目の前まで迫っていた。
さて、今回でいよいよ百話到達です。
いやぁ、ここまで長かった。
それにしても、ここでようやく二章の終盤に入ったところか……二章長すぎんだろ。
まぁ、それもこれも、甘々なプロットを作ってしまった僕が悪いんですけど。
……まぁ、それは横に置いておいて。
ここまで書き続けられたのは今までこの作品を読んでくださった皆様のおかげです。
ありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします!
次回は来週中に更新します。




