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第十話 やはり異世界の飯は間違っているので状態異常回復薬を調合する

 エイルの宿に戻ってきた俺は、まず食堂の厨房に向かった。


「ユリさん?いますか?」

「はーい!いるわよ!」


 俺が厨房の奥に呼びかけると、ユリさんがひょっこりと姿を現した。


「ユート君、何か用?」

「今日、魔物を狩りまして、シルバーウルフの肉が手に入ったので持って来たんですよ」

「本当?ありがとう!今日はメニューが決まっているけど、明日のメニューに使う材料が無くって、これから買いに行こうかなって思ってたんだけど、これで買いに行く手間が省けるわ!」

「血抜き処理とかはしてないんですけど、大丈夫ですかね?」

「うん、大丈夫だよ。一応、血抜きを自動でしてくれる魔法道具があるからね!」

「そうなんですか……はい、これが今日狩ってきたシルバーウルフ、十匹分です」


 俺は、アイテムボックスから今日狩ってきたシルバーウルフを取り出して、厨房の作業台の上にまとめて置いた。「でんっ!」という効果音が鳴りそうな感じで現れたシルバーウルフは、全部首が無くなっており、そういうのに耐性が無い人が見ると、軽く吐きそうな感じがある。…ちなみに、俺もその一人だ。オエッ!


「わぁ!こんなに…!これなら、明後日の朝の分もありそうだね。本当にありがとう」


 ユリさんは感謝の言葉を口にしながら、ポケットの中から何枚かの銀貨を取り出して、俺に握らせた。


「はい、これがシルバーウルフ十匹分の代金で、銀貨五枚ね!」

「ありがたく貰っておきます」

「うん!それじゃあ、後でね!今日の晩御飯のメニューは、フライングフィッシュのフライだから、楽しみにしておいてね!」

「はい、それじゃあ、俺は上に上がります」


 俺はユリさんとの話を切り上げ、自分の部屋に入った。


 それにしても、「フライングフィッシュのフライ」か……ものすごいややこしい名前だけど、どんな見た目してるんだ?朝みたいなヘッドラビッドみたいに見た目があれな奴だったら…いやだなぁ。まぁ、そうならない事を祈ろう。


 そして、部屋に鍵をかけ、俺は調合の作業に入る。今は一時間後に晩御飯を食べるつもりのため、効果の高い組み合わせを研究したりなどする時間は無いから、昨日の組み合わせでできるだけMPローポとローポを量産した。

 一回の調合作業には十分かかるため、合計で六回分。一回の調合で瓶三本分生成できるため、ローポを九本、MPローポも九本調合することが出来た。これで、もう少し調合すれば、明日紅蓮聖女が交換しにくる分くらいは用意できるだろう。


 とりあえず、晩飯の時間になったので、下の食堂に降りて食べることにする。


 さて…フライングフィッシュか。名前だけ聞いてみると、結構物騒だよな。イメージ的には古代エジプトのピラミッドの壁画とかに描かれてそうだな。まぁ、ピラミッドは砂漠地帯に建てられてるから、魚自体が描かれてるのかさえも分からないが。


 そんなどうでもいいことを考えつつ、食堂へと移動すると、唐突にこんがりとした、香ばしい匂いが俺の嗅覚をついた。これは…まさにフライのにおいだ。俺はその良い匂いにつられるようにして、空いている席に座った。まだ、晩飯の時間になったばかりだからか、周りにはほかの客は見当たらない。

 と、そこに、ブラウンの綺麗な髪のポニーテールを揺らして、ユリさんがやってきた。


「こんばんは、ユート君」

「こんばんは、ユリさん…とは言っても、ついさっき会ったばかりですけどね」

「あはは、そうだったね。…で、これ、どう?」


 そう言って、クルリと俺の目の前でクルリとまわって見せるユリさん。


 「どう?」とは、つまりはそういう事だろう。ユリさんは今、新品のエプロンを着ているのだ。柄はピンクを基調とした花柄で、それが快活なイメージのあるユリさんとマッチしていて、とてもきれいだった。


「えぇ、とても似合ってると思いますよ?それこそ、妖精みたいに綺麗ですね」

「……っ!…あ、ありがとぅ…」


 そう言ったきり、何故か赤い顔をして厨房の方へと引っ込んでしまったユリさん。


 あれー、どうしたのかな…?そんな事を考えながら、さっき、自分が言った言葉を頭の中で反芻してみる。


『えぇ、とても似合ってると思いますよ?それこそ、妖精みたいに綺麗ですね』


……あぁ?!何だ、このキザなセリフっ!


 日本にいた時、こんなセリフ、一回も言った事、無かったのにっ!!

 やべぇ、むっちゃ恥ずかし!恥ずかしすぎるっ!



 そして、およそ五分後。ようやくユリさんが戻ってきた。手には、今晩のメニューの「フライングフィッシュのフライ」であろう物体がトレーに乗せられている。


 それにしても、俺はすげー恥ずかしいんだが、ユリさんはすでにすました顔をしている。…やっぱり、「綺麗」とか言われ慣れてるんだろうなぁ。ユリさん、物凄い美人だしな。俺如きの言葉じゃ、安っぽく思えてしまうんだろうな。


「はーい、お待たせ」

「あ…どうも。ありがとうございます…」


 ユリさんが明るく言葉をかけてくれるが、どうしても俺の返事は小さくなってしまう。


 いや、もうこれ、しょうがないでしょ?! もはや、これは自然の摂理だと思う。


 そんな俺を見て、ユリさんはコロコロと笑う。


「ユート君って…天然の女たらし?」

「そんなわけないでしょ?! 俺自身、女の人と喋ったことでさえ数えるほどですよ?!」


 自分で言っていて悲しくなるが、これが現実なのだ。


「あはは…冗談だよ。それより、これからは女の子と話す時は気を付けてね?」

「は、はい…心にとどめておきます…」

「うん、それが分かったんなら、よし! それじゃあ、これが今日のメニュー『フライングフィッシュのフライ定食』だよ。背骨とかがあるから、気を付けてね」


 そう言いつつ、俺の目の前に「それ」は置かれた。


 コ…コレハ…?!


 俺の目の前に置かれた皿。そこには。

 体は魚、体の横から白い鳥の翼が一対生えていて、腹の下からは馬みたいな足が生えている、世にも奇妙な生物が「素揚げ」の状態で鎮座していた。


…って、だから、何でこんなにグロテスクな状態で提供してんだよっ!?


「あ、あの…ユリさん? この物体は?」

「あれ?ユート君、フライングフィッシュを見るのって初めてだった?」


 初めても何も、俺は昨日この世界にやってきたばかりなのだから、見たことが無くて当然である。もし、こんな生物が地球に存在していたら、人類の歴史は色々な意味で変な方向に進んでいたと思う。


「フライングフィッシュはね、平原と淡水、どっちも存在している所に住んでいて、泳ぐことも、飛ぶことも、走ることもできる魔物なんだよ」


 ス…スゲェ!


 空、陸、水を制覇してるとか、まるでオケラだな!…まぁ、見た目はオケラよりもグロイんだけどな!


「へ、へぇ…すごい魔物なんですね…」


 見た目もかなりすごいけどな。


 それよりも…これを食わなくちゃいけないのかよ…嫌だけど、ユリさんが横にいる手前、そんな事を言えるわけも無かろうしな。


 結局、俺はその後、意を決して出された料理を食べつくした。


 味は、魚の部分と、羽の部分と、足の部分でそれぞれ違う味がしたが、見た目を気にしなければ美味しくいただける物だった。それにしても、この世界、見た目と味が比例してない料理が多すぎる。…いや、俺が食べた物がたまたまそういう物だけだったのかもしれないが。とりあえず、これからはできるだけ、ヘッドラビッドとフライングフィッシュの使われている料理には気を付けようと心に決めた。

 というより、俺自身が料理がそれなりに得意なので、自分でどうにかして自炊する方がいいのかもしれない。


 まぁ、そう言う所は追々考えることにしよう。


 その後、十分ほどかけて、フライングフィッシュ定食を食べつくした俺は、ユリさんに一言お礼を言って、自分の部屋へと戻った。


 さて、ここからは、ようやく調合の研究の時間だ。


 ローポとMPローポの調合の組み合わせは昨日の内に殆ど試したので、これ以上良い物が作れる可能性は低いと思う。今のよりも回復レベルが高い物を作ろうと思ったら、よりグレードの高い調合セットが必要だと思われるので、明日あたりに、再びミツバシで新しい調合セットを買おうと頭の中にメモしておく。


「んじゃあ、今日は解毒ポーションとかを調合するか……」


 そういうわけで、今日は新しいアイテムに挑戦してみようと思う。


 まず、作ってみるのは解毒ポーションだ。


 解毒ポーションの材料は、毒草、薬草、水の三つ。

 解毒の効果は、今まで作ったローポのように様々な要因で変化していくので、再び手探りでベストな調合方法を模索していくことになる。


 まずは「水:薬草:毒草=1:1:1」の割合で配合して、薬草と毒草は徹底的にすり潰し、火にかけてから五分ほど経ったときに調合魔法をかけるという方法で調合してみた…すると、壺の中には、何やら毒々しい紫色をした液体が出来上がっていた。


 何やら嫌な予感しかしないが、とりあえず鑑定。


==========

「毒薬」:体内に取り込まれた場合、毒状態を引き起こす

毒付与効果レベル:3

==========


 なんと、「解毒ポーション」を作っていたのに、逆の性質の「毒薬」を作ってしまっていた。どうやら、毒草の配合割合が大きすぎたため、毒性が強くなってしまったようだ。


「ってことは……毒草の配合割合を減らした方がいいのか?」


 とりあえず、今回は失敗という事で、作られた毒薬は捨てずに、瓶詰にしてアイテムボックスの中に放り込んでおく。まぁ、失敗したものとはいえ、どんな事に使えるかは分からないからな。


 次は、毒草の配合割合を減らし、「水:薬草:毒草=2:2:1」の割合で調合していく。ちなみに、他の要素は一回目と同じにしておいた。

 毒草と薬草をすり鉢と乳棒ですり潰し、それと水を混ぜて火にかける。五分ほど経って調合魔法をかけたら、後は待つだけだ。


 で、そうやって出来上がった壺の中身は、今度は薄い紫色をしていた。即座に鑑定。


==============

「解毒ポーション」:毒状態を回復させる

回復レベル:3

==============


 よかった。今度は、しっかり解毒ポーションに調合できたようだ。


「やっぱり、毒薬を多く入れすぎると、毒性が強くなってしまうらしいな…じゃあ、もっと薬草の割合を増やすとどうなるんだ?」


 疑問に思った俺は、次に「水:薬草:毒草=2:3:1」という割合で調合してみる。

すると、出来上がったのは「解毒ポーション」だったが、回復レベルが「1」しかない物で、俺の頭を悩ませることになった。


 その後も、色々と配合割合を変えて調合してみると、毒草の配合率が高いとある一定の割合までは回復レベルは大きくなりやすくなるが、薬草と配合割合が一緒、または多くなると、出来上がるのは解毒ポーションではなく、毒薬となるという事が分かった。

 つまり、薬草が毒草の効果を程よく抑える、ストッパーの役割を果たしている、という事なんだろう。


 という事は、この法則は、他の状態異常回復薬にも当てはまるのかもしれない。


 そんな事を考えて夜中まで調合を続けていると、「解毒ポーション」「解痺ポーション」「覚醒ポーション」が、それぞれ、回復レベル5の状態で調合することが出来た。

 それぞれ、「水:薬草:それぞれに対応する状態異常草=2:3:2」という割合。これが一番効果がでかかった。ちなみに、配合割合以外の方法はローポを作った時と全く一緒だ。


 今回、試した方法は全てノートにまとめて置く。

 ノートに全て写し終わったら、明日に備えて、少しだけローポとMPローポを調合した。


 今回は、少し多めにローポとかを調合したから、明日に試しで露店で売ってみるのもいいかもしれない。


 そんな事を考えて、色々な期待にホクホク顔になりながら、俺は寝た。







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