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序章 少年の帰還と変わった世界

「やっと、帰ってきたんだ……」

『此処が、アキラの惑星?』

白く染め上げられたその小さな部屋。まるで大型船の艦橋のようなその一室には、しかしそんな立派な設備とは見合わない、中学生後半から高校生前半くらいの少年が一人立っていた。

「うん、地球って言ってね、綺麗な惑星だろ」

『エウルアは緑の星、地球は青いね』

そんな少年――暁の言葉に、何処からとも無く帰ってくる少女のような声。少女のような声の言葉は何処かイントネーションが可笑しかったが、然し暁はそんな事など気にすることも無く、その声に嬉しそうに微笑んでいた。

暁の視線の先。艦橋の『窓』に当る部分に備えられた大型スクリーン。其処からのぞくのは青空の風景――ではない。其処から見えているのは、青い地球。

そう、その暁が今いるのは、地球のはるか天上、宇宙と呼ばれる真空の世界だった。

「さて、それじゃ地上に降りたいんだけど――エクレール、ヘキサを海に隠してくれる?」

『うみ、何処?』

暁の呼びかけにこたえた少女のような声――エクレール。暁は艦橋の端末を呼び出し、其処に手を当ててデータを打ち込んでいく。そうして暁が打ち込んだデータ。表示される画像には、丁度日本の東側の辺りに赤いマーカーが記されている。

『移動記述、できた』

「よし、それじゃぼくたちはリンドブルムで移動するよ。おいでエクレール」

『うん』

と、そんな暁の言葉に答えるようにして、少女が頷く声と共に、艦橋の一番大きなスクリーンから小さな光が零れだした。

その光は次第に形を変え、10センチにも満たない小さな少女の姿を描き出す。もしそれを他人が見れば、物語りに出てくる『妖精』そのものだと言ったことだろう。

暁はその妖精の少女――エクレールを両手で受け止めると、エクレールを自らの肩に乗せ、そのまま艦橋を後にする。

そうして五分ほど暁が歩いてたどり着いたのは、中央に巨大な赤い鉄の塊が置かれた一室。ヘキサと呼ばれたこの艦――宇宙船における、格納庫に相当する部分だ。暁はそのまま中央の鉄の塊に近寄り、その一部をパカリと開く。中から現れたのは何等かの認証装置らしき端末で、暁はその端末にぽんと手をのせた。

途端プシュッという音と共に、赤い鉄の塊の一部が開く。

迷うことなくその中に脚を進めた暁。少し進んで、漸くたどり着いたその場所。球形の室内に椅子が一つぽつんと佇む空間。暁は躊躇い無くその中心の椅子に身を預けると、その手摺の位置に設置されたパネルに手を乗せる。

途端暁の身体が小さく光る。見えないラインが有るかのごとく、ソレに沿って奔る赤い光。その光は暁の手からその先のパネルに伝わり、果てにその部屋の球形の内面を奔り抜けた。

途端薄らと周囲、その室内の壁全体が光を放ち、暁とエクレールの二人を照らす。つい先ほどまで真っ暗だった室内は明るくなり、その周囲の球形の壁は格納庫内の360度の風景を映し出していた。

全天周囲モニター、と呼ばれるそれ。足元を見た暁は、まるで空中に吊り上げられたかのような気分になりつつ、ソレを苦笑と共に振り払って視線を前へ向ける。

「アキラ、ハッチ開くよ」

「頼むよ」

「ん。――左舷気密隔壁開放。でられる」

「よし、リンドブルム、出る」

全天周囲モニターに映る格納庫の中。その正面に映る壁が上方向へと移動し、正面には開けた宇宙がのぞきだす。ソレを確認した暁の言葉と共に、その赤い鉄の塊――リンドブルムは、ヘキサと呼ばれた宇宙船からとび立った。

赤い鉄の塊――リンドブルム。竜の名を冠するそれは、まるでSF映画に出てくる宇宙船のような姿をしていた。

そうしてヘキサの格納庫から飛び出したリンドブルムは、然しそのまま地球に下りず、一度ゆっくりとヘキサの周囲を巡る。六角形のUFOといった風体の宇宙船であるヘキサ。銀色の機体は、然しそんな暁たちの視線の先で、徐々に地球へ向けて加速していった。

「……これでヘキサともお別れか。短い間だったけど、お世話になりました」

「ばいばい」

地球に帰る為の脚となってくれたその宇宙船。それに別れを告げて見送る。実質半月程を過ごしただけとはいえ、それでもヘキサの存在は暁を大きく救ってくれた物だった。

「さて、それじゃ俺達も帰るか」

「楽しみ」

ヘキサが地球に下りていったのを確認した暁は、沸き上がる感傷を振り払うように、笑顔でそうエクレールに告げる。

そうして暁の意志に導かれるまま移動を開始したリンドブルム。大気圏の潜熱で赤く染まるモニターを見つつ、見えてきた日本列島。

漸く帰ってきたのだとこみ上げるものを胸に抱きながら、然しそうし日本列島を眺めていた暁はふと首をかしげた。

「アキラ、外が変」

「……エクレール、コネクトして周囲を探査」

「わかった』

言葉の途中でエクレールの姿は解けるようにして掻き消え、それに変わって全天周囲モニターにはソレまでには表示されていなかった多種の情報が表示され始める。

「エクレール、あの光、何の光かわかる?」

『多分、爆発』

「……なんで爆発してるかわかる?」

『おっきいの、居る』

全天周囲モニターに映し出される風景。其処には、爆炎を吹き上げる都心と、そこで暴れまわる巨大な怪物。全長30メートルはあろうかと言うその巨大な怪物。暁の知る限りにおいて、地球にはあんな巨大な生命体は存在しない。いや、過去においては別だが、少なくとも現在においては。

「もしかして別の惑星に来ちゃったとか? いやいや、でもアレ如何見ても日本だし……」

なんて事を考えている間にも、その怪獣はビルを壊し爆炎を撒き散らしながら都心で暴れ続けている。

『アキラ、あれ多分キューブ』

「キューブ(箱)?」

『やっつけないと、大変な事に成る』

リンドブルムに潜り込んだエクレールのその言葉に、暁は少しだけ驚いたような表情をする。普段からあまり感情を表に出さないエクレール。そんな彼女が、大変な事に成るとまで断言したのだ。それはつまり尋常な事態ではないという事なのだろう。

「……あー、もう。後でちゃんと聞くからな?」

『もち』

「おっけー……リンドブルム、ナイトモードに」

『変型』

暁の言葉とともに、上空から地上へと降下していたリンドブルムが、その装甲から光を迸らせる。

重ね合わせた装甲が開き、その機首がガチャリと形を変え、一瞬の後、其処にはソレまでの赤い宇宙船から姿を変えた、赤い巨大ロボットが一機、地上へ向って飛び出していったのだった。




この日人類は、初めての宇宙生命体との交戦と共に、初めての地球外知的生命体の建造物を確認した。

突如現れ暴虐を振るった怪獣と、同じく何処からとも無く現れ、その怪物を破壊した赤い巨大なロボット。

巨大な怪獣を中心から撃ち貫いたその巨大なロボットは、然し怪獣の一撃を受けて大地に沈んでしまった。

即座に現地の日本政府はそのロボットにコンタクトを取ろうとしたが反応は無く、そして後に彼らは、その赤いロボットのもぬけの殻となったコックピットらしき一室が覗くハッチへとたどり着いたのだった。




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