魔女狂い 黒の断章
真実を埋葬するためにはその真実を正しく認識せねばならぬ。あまりに多くの真実を埋葬した故に、”失敗した物語”に触れたためにこの本の繰り手に、”埋葬され行く真実”の所有者に、その物語の断片が浮き上がる。
「…痛んでいるのか、痛んでいるのか、私は、ビィッグ・マウス…」
「そうか、痛むのか、我が愛しい娘」
「まだ、痛むだけの私があったか、まだそれを感じるだけの私があったか、Big Mouse」
「そうだ、だから、だから」
「そうか、私はまだまだやれるのだな、私の願望器、私が何人目の娘かは聞かぬ、私自身の次が今そこに居るのかも聞かぬ、私自身の欠片があとどのくらいなのかも問わぬ」
「見せよう、これが成れの果てだ」
言って、彼女は、自身の身体に食い込むファスナーに手をかけ、拡げる。そこには、わだかまる闇が、その中でわさわさわさわさと蠢く昏い昏い闇が…
彼女の独白は続く
「そう、文字通り喰われているのさ、記憶、感覚、その全てを捧げている。そう、こうなってしまったら、もうヒトではなく、ヒトすら捨てて、遺志に引きずられるだけになる、私は、もう自分がどうしてそれを欲したのかすら、もう空虚なんだよ」
「そう、この悠久の時間の中で変わらぬと言う為には、どれほどのものを犠牲にせねばならなかったのか、その為にどれほどの執念を必要とし、そうして、それが、どれほどの偉業か、貴様にわかるまい」
「思ってた以上に世界の表層は脆かった。そう 一人が発した意志の連なりの伝播で、重なりあった認識の多重構造の、その認識の一枚をずらして、容易に変容するほどにはな」
「その反応は不可逆的で、決して戻り得ない道だった。そうして私の世界は変容した、それが私の”世界”」




