9話
1987年、東南アジア沖
原子力巡洋艦扶桑は某国で発生した反政府軍と政府軍の衝突で危険に晒されていた日本国民を救助する作戦で、邦人を収容する客船を護衛すべく南シナ海を25ktで航行していた。
戦闘指揮所
「空中、水中、水上、異常なし!!」
砲術員の若手の3等軍曹がそう言うと副長で砲雷長の宮本中佐が呟いた。
「そうか・・・・・・だが油断は禁物だ、この辺は海賊も出るし、何が起きるかわからない、駆逐艦旗風、海霧、浜霧にもそう警告しておけ!」
「はっ!」
3等軍曹が敬礼をすると宮本はモニターを睨む。
(扶桑、俺はお前の副長として重大な責務を与えた、だからお前も俺の責務を果たす為に協力してくれ、そして北村はお前の指揮を執っているからな)
宮本は胸の内でそう呟くと微かに脳内で扶桑の声が聞こえてきた。
「ご期待に添いますよ、宮本中佐殿!」
確かに彼女は宮本と北村の期待に添う活躍をする事となった。
「対空レーダーに反応!目標はMig-21戦闘機です!」
「Mig-21か・・・・・・つまりソ連の支援を受けた反政府軍の主力戦闘機か・・・・・・」「対空戦闘用意!」
北村がMig-21と聞くと宮本が対空戦闘を命じた。
「まさか、もう戦闘に入るとはねぇ~やっぱり戦艦の時の記憶が蘇ってくるわ・・・・・・・あの時も対空戦で爆撃機を16機落としたわねぇ~」
扶桑は首まである長い髪を揺らしつつ早速、リボルバーを空へ向けた。
1944年11月、セレベス海に展開していた戦艦扶桑は空母飛鷹の護衛中にB-17及びB-24爆撃機合わせて16機と遭遇。
だが、飛鷹は被弾によって巡洋艦五十鈴に曳航されており飛ばしたくても艦上戦闘機を飛ばす事が不可能であった為、そこで扶桑に乗艦する第6航空艦隊司令は扶桑の主砲3式弾で対空戦闘を行う決断を下した。
「追跡番号1021~24に照準設定!」
「5、4、3・・・・・撃てぇえええー!!」
宮本がそう叫ぶと砲術員は発射装置の、扶桑はリボルバーのトリガーを引き対空ミサイルが目標へ向けて垂直に飛翔する。
この当時の扶桑は連装式の発射機を既に取り払い、史実のこんごう型護衛艦に近い艦橋と射撃指揮装置を有しており、更には前後の甲板に61セルずつのMk-41VLSを備えており、後部にはヘリ甲板があるものの、前は有していた格納庫は無くなっていた。
閑話休題、Mig-21はキング・オーシャン以下日本船団襲撃を狙った某国反政府軍が送り込んだもので、何と国際法違反の政府軍のマーキングが書かれており、更に密輸で入手したIFF応答装置を載せていた事もあったが、扶桑のイージスシステムはそれを即座に見破り、それを撃墜した。
それから数か月、その国で発生した政府軍の大規模攻勢で反政府軍は崩壊。
因みに私たちは客船をシンガポールまで護衛し、邦人保護に成功した。
その後も宮本と北村は国防艦隊の司令官と主席幕僚として私と関わり続けたが、二人とも少将で定年退職を迎えた。
私も2005年の中期軍事予算策定で老朽化故に引退が決まった。
だけど、私は戦艦としても巡洋艦としても、そして次はどんな軍艦に生まれ変わるか知らないけど、国を護る決意は変わらない。
扶桑、その名は日本の古来の名であり、美名でもある。




