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臣民のエジンコート【完結】  作者: 狛犬えるす
第六章:1940 Forse H 《N.M.》
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西暦1941年5月 ジブラルタル『日陰への出港』

 2月末から5月にかけて戦艦『エジンコート』の稼動状態は、低調というしかない。

 甲板上に所狭しと配置された主砲により、対空砲ならびに対空機関銃の設置が容易ではなく、また長い船体によって旋回半径が広いと思われていたためだった。

 こうした特長は、執拗に爆撃を繰り返してくるイタリア空軍やドイツ空軍相手にはあまりよろしくないと判断されたのだった。


 実際、他主砲の爆風範囲外にある月曜日砲塔と金曜日砲塔上くらいが、大型機関砲を据え付ける場所として最適とされたくらいなのだ。

 最初は滑り止めと転落防止用の柵しかなかったのだが、演習の結果、ブラストシールドがなければ実用上問題ありとされ、現在の形に落ち着いている。

 とはいっても、ブラストシールドがあったところで、ないよりはたしかにマシだが、それでも爆風には悩まされるわけなのだが。


 この期間、英国海軍は地中海において様々な戦略上の危機に瀕していた。

 特に重きを置かれたのが、欧州においてもはや唯一の連合国陣営であるギリシャへの援護である。

 2月25日にはドデカネス諸島のカステロリゾ島占領を試み『アブステンション作戦』を決行したが、イタリア守備隊の抵抗にあって失敗した。

 

 3月から4月にかけて行われた『ラスター作戦』においては、エジプトよりイギリス軍とANZAC(オーストリア及びニュージーランド軍団)がギリシャへ輸送された。

 ギリシャが持ちさえすれば、連合国は地中海を介して戦力を展開することが出来、またドイツが生命線としているルーマニアのプロイェシュティ油田を爆撃圏内に収めることが出来た。

 しかしながら、これらは4月末までにすべてが失敗に終わった。


 3月27日、枢軸側であったユーゴスラビアにて反枢軸派によるクーデターが起きる。

 これによって国王ペータル2世の親政となり、ユーゴスラビアは枢軸側より離脱した。

 そして枢軸離脱より一週間後の4月6日に、ドイツ軍はユーゴスラビアへ侵攻し、これをたった11日で破ったのだった。


 またギリシャ戦線に於いては、ブルガリアよりドイツ軍が電撃的に侵攻を開始。

 4月9日早朝には、テッサロニキが占領され、ギリシャは二つに分断されてしまった。

 こうなってしまっては、ギリシャを保持するという戦略的目的の達成は不可能であった。


 4月21日、ギリシャからのイギリス連邦軍のクレタ島、及びエジプトへの撤退が最終決定される。

 欧州は、これによって完全に枢軸陣営の手に落ちたのである。


―――


 こうした事柄は3月末に行われた『マタパン岬沖海戦』における、イタリア重巡洋艦三隻撃沈の後にやって来た、暗闇であった。

 海軍力で圧倒していながら、陸戦において同盟国をむざむざとこう何度も目の前で押し潰され、英国を主軸とする連合国は劣勢に立たされていた。

 戦争それ自体を俯瞰して見るときに、いや連合国は未だに制海権を保持し、敵艦隊の二倍以上の戦力を持っているということもできた。


 しかし、それはあくまで海軍においての話であって、全軍において常に優勢というわけではないのである。

 陸軍はフランスで戦ってからこのかた、追い詰められ続けてきた。空軍は少なくとも劣勢ではなかったが、均衡状態といったところだろうか。 

 北アフリカ戦線においても、リビアに派遣されたドイツ軍によりイギリス陸軍は劣勢に立たされており、この曇り空がどこまで続くのか、予想が出来ない。


 いつか雨はあがるだろうと言ったところで、いつ晴れるか予想もたてられないのでは、それは希望とは言えない。

 暗闇の中を傘を頼りにして進む連合国の中にあって、戦艦『エジンコート』は本国でのオーバーホールが決定した。

 ジブラルタルにおいて念入りに修理を行ったとはいえ、根本的な部分において未だに持病を抱えており、またこの艦の性能ではイタリア艦隊との戦闘ならまだしも、空軍の傘の外へ出ることもある地中海での戦いにおいて、求められるだけの防空能力が足りず、航空機からの攻撃に対して脆弱であるため、というのが、海軍からの命令であり、意見だった。


 

 5月19日、戦艦『エジンコート』は4隻の旧式駆逐艦及び対潜トロール船2隻と共に、ジブラルタルを出港した。

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