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臣民のエジンコート【完結】  作者: 狛犬えるす
第六章:1940 Forse H 《N.M.》
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西暦1941年2月 地中海『グロッグ作戦IV』

 グロッグ作戦に参加した艦艇は、会敵することなく2月11日にジブラルタルへ帰還した。

 1時間半にも及ぶ艦砲射撃と、それに付随する他都市への爆撃という行為にも関わらず、損失はソードフィッシュ複葉機が1機のみという信じられない結果に終わった。

 1940年6月14日にフランス海軍地中海艦隊第3艦隊司令長官エミール・デュプラ中将率いる戦隊が、既にジェノヴァに殴り込みをかけ、損害は大型駆逐艦中破のみという前代未聞のことをやってのけてはいたが、それが二回も続くとなると英国海軍及び臣民海軍の将官、士官たちの幾つかは、本格的にこの地中海の長靴に対する見解を変える羽目になった。


 それまでイタリア海軍はムッソリーニ率いるファシストにより、増強されていると思われていた。

 特に1937年頃からは旧型戦艦の大改装に新型戦艦の建造開始など、イタリアの国家規模から考えれば大拡張といっても過言ではない出来事があった。これらの大改装と戦艦建造は不可解ながらもイタリア参戦には間に合わず、地中海における稼動中の戦艦がたったの2隻であったこともあったが、総数で見れば無視できないものだと思われていたのだ。


 イタリアは地中海の制海権を握ればよし、という考えを遂行する為なら、その軍備は整いつつあったのだろう。


 だが、これまでを通して見るイタリア海軍の方針というのは、どうも制海権の確保と維持にあるよりは、どういうわけか現存艦隊戦略に走っているようにも見えてくる。というよりも、これは先の大戦でオーストリア=ハンガリー海軍が連合国軍に封じ込められ、艦艇はあるのに行動できず、という図によく似ているように思えてしまう。


 仮説として、イタリア海軍がH部隊、並びに地中海艦隊の数的優性を鑑み過ぎ、消極的になっていることから、彼らはタラント空襲やいくつかの作戦によって、イタリア海軍の艦艇が損傷し、戦力差が今以上に開くことを恐れているのではないかと思われる。


 もちろん、他にもいくつかの要因がある事は確定的である。

 戦略物資の不足に加え、イタリアには損害を埋め合わせるだけの造船能力がないこと。

 地理的にイギリス軍優勢の状態を覆せず、情報的に劣位の状態での戦闘を強いられていること。

 複数の戦域を地中海でつなぎ合わせているため、戦略上の重点が定まらないこと。


 文字通り、イタリアは劣勢であった。

 ギリシャでは占領地であるアルバニアまで逆侵攻を許し、エジプトでは侵攻作戦発動前に、空軍の精神的支柱であると同時に空軍の父であるイタロ・バルボ元帥を友軍の誤射で失っていた上に、侵攻軍は準備不足で砂漠を進撃する度に貴重な物資が無為に失われていった。

 指揮官たちは熱病によって体力を蝕まれ、ギリシャ戦線に物資と人員を吸い上げられながらも戦わざるをえなかった。独裁者たるムッソリーニがそれを許さなかったのである。


 また、イタリアが唯一侵略し従属化においていた東アフリカ帝国からはケニアやスーダンに向けて攻勢が行われ、一時はイギリス領ソマリランドが占領されはしたが、彼らの勢いはそこまでであり、1941年初めから行われている連合国による反攻の前に現在進行形で敗北し、撤退し続けていた。


 この状態が続くのであれば、エチオピア帝国皇帝ハイレ・セラシエ1世が首都アディスアベバへ帰還する日も近いだろうというのが、情報を知る者たちの共通の認識だった。ここはナチス・ドイツが援軍に来るために必要な輸送路がなに一つなく、陸路は寸断され、制海権は英国海軍にあり、空の輸送能力ではそもそも必要とされる戦力と物資の補充が不可能である。


 もはや、イタリアの軍事上の優勢はありえなかった。

 彼らはエチオピア侵略とスペイン内戦への干渉で、蓄えるべき軍備力を既に消耗していたのだった。

 だがしかし、ナチス・ドイツがそれをただただ座視しているわけが、なかったのである。

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