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臣民のエジンコート【完結】  作者: 狛犬えるす
第六章:1940 Forse H 《N.M.》
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幕間I 1940年~1941年 地中海 『暗雲を前にして、傘を片手に』

 地中海方面における戦艦『エジンコート』の役目は、他の戦艦と同じく主に護衛と囮に終始している。

 凪いだ海原を明るい灰色の戦艦が、艦首に白い波を立てながら進む様はそれこそ壮観であるが、やはり目立つのだ。

 故に、英国のマルタ島向け油槽船団の護衛は規模に合わせて主に巡洋艦と戦艦の二つから選択される。

 戦艦『エジンコート』と戦列を共にした主力艦は、歴戦の戦艦『ウォースパイト』を含め、いずれもがなにかしらの戦闘経験のある艦ばかりになりつつあった。


 それに反するように、イタリア海軍の動きは相変わらず低調なものに終始していた。


 戦艦『エジンコート』及びその乗員たちは、七月の終わりから翌年の春まで船団の護衛、支援、囮任務をこなした。

 この任務の主な作戦行動圏はジブラルタルに駐留するH部隊の受け持つ、地中海西部でのものになっている。

 地中海東部は、エジプトのアレキサンドリアに駐留する地中海艦隊が受け持ち、前述した戦艦『ウォースパイト』はここに籍を置いていた。


 マルタ島への輸送船団護衛作戦において、戦艦『エジンコート』は比較的小さな損傷を受けつつも任務に従事した。

 負傷者もその度に出はしたものの、乗員たちは負傷者の扱いにも慣れたもので死に至るものは少なかった。

 しかしながら、負傷が原因で戦艦『エジンコート』を去ったものたちもいた。


 大抵は空襲時に防空戦闘に参加していた、ポムポム砲やエリコン銃座の要員たちだ。

 他にも戦闘糧食のせいで下痢が止まらなくなりそのまま後送された者や、数々の諸トラブルで後送された者が何名かいる。

 特に温暖な気候に身体のバランスを崩してしまった者などは転属となり、北海や大西洋勤務になった者さえいた。


 けれども、戦艦『エジンコート』の将校たちのほとんどは開戦より変更はなく、またその予定もなかった。

 マリア・ヴィクスはその激務故に以前ほど艦橋に張り付くようなことはなくなり、陸に上がった時の行動も少なくなった。

 ニーナ・マクミランは任務中によく出会うイタリア空軍との邂逅で、その考えを改めるようになり、ヴィクスの負担を軽くすべく奮闘している。

 マーガレット・ボランは、ポムポム砲についての思いつく限りの悪態と罵り文句を述べ、それは英語だけではなく仏語や独語にまで及ぶようになった。


 そうした中で、戦況はさらに暗雲が立ち込める者となりつつあった。

 1940年の末、地中海でのイタリア軍の消極的軍事行動により、地中海が完全にイギリスのものとなることを阻止すべく、ドイツ空軍がシチリア島に派遣されたのだ。

 1941年の1月にはH部隊及び地中海艦隊合同で行われた、マルタ島への輸送船団護衛任務『エクセス作戦』が行われ、地中海艦隊のタウン級軽巡洋艦『サウサンプトン』が大破、雷撃処分となり、さらには同型の軽巡洋艦『グロスター』にも爆弾が直撃したが、こちらは運良く不発だった。他には触雷によってG級駆逐艦『ギャラント』が大破し、マルタ島に曳航されたが座礁させられた。

 さらにはイラストリアス級装甲空母『イラストリアス』が数発の爆弾を被弾したが、機関に損害はなくマルタ島で応急修理を受けていたが、そこでもさらに空襲を受け被弾。

 1月23日に駆逐艦四隻に護衛されながらアレクサンドリアへ帰港し、今現在、本格的な修理を行っている最中だった。


 良いニュースといえば、1940年の9月に制定されたアメリカ合衆国との『駆逐艦・基地協定』のつながりで、ルーズベルト大統領が炉辺談話で『民主主義の兵器廠』と発言し、これによって英国がアメリカ合衆国の後ろ盾を得ることが出来たと確信するに至ったくらいだろうか。

 『駆逐艦・基地協定』によって英国ならびに臣民海軍、そしてカナダ海軍に合計五十隻ほどの平甲板型駆逐艦が供与された。 

 この発言は、英国に対する支援がそれだけに留まらず、さらに強力な支援を送ると発言したに近い。


 グレート・ブリテン島という、資源とはほぼ無縁な島になくてはならないものを、大西洋を挟んだアメリカ合衆国が担ってくれることは朗報でしかない。

 たしかに前大戦と同じく、新大陸の彼らに縋るような真似をするのは少々癪ではあるものの、国家の滅亡と比べれば一時の不快感など無いようなものだ。

 英国が屈しどこかの国家に従属し、占領地として管理されるよりは、いつか過ぎ去る不快な感情くらいどうということはない。


 問題は自由に不快感を露にできる社会と国家が、未来においても存続しているか否かなのである。

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