同年 イギリス連合王国 スカパフロー 『休日の戦い II 』
車に揺られながら、マクミラン少佐はスカパフローの景色を眺め、極寒の海原よりは遥かにましだとため息を吐いた。
WRNSの女性たちは臣民海軍の女性士官に対してかなり好意的であったが、やはり銃後の雑務が主な職であるためか、はたまた、愛国心などと言う精神主義的なもので志願した若い女であるからか、彼女たちと長く話したいと言う士官は皆無だった。必然的に車の中は紫煙で満たされるか、士官たちの今後の懸念に対する議論で満たされることになり、送迎を終えたWRNSたちは事務的に敬礼すると足早に車に乗り込み、そそくさと、まるで逃げるかのように去っていった。
「……いけ好かん連中だ。あれが海の男たちを待つ清楚な妻などになれると思うか? 我々が潮気に当てられている間、あいつらはデスクで紙と髪を同時に気にしながら、スカパフローにまた新たな軍艦が帰港し、その半舷上陸で解き放たれる男どもを待っているんだぞ。そんな女がまともであるわけがない」
「ボラン少佐、それ以上愚痴を言うのは止めてくれませんか。私はヴィクス大佐のような女じゃないんですよ」
結局、半舷上陸で陸へと上がった士官の内の四分の一がボラン少佐に率いられパブの前に固まることになり、そこには無論、諦めきっているマクミラン少佐の姿もあった。
怯えきっている士官候補生の中に混じってしきりにメモ帳に何事かを書き込んでいるのは、先の遭遇戦で多くの予想とは裏腹に堅実な補佐を全うしたシルヴィア・ローレンス少佐で、今こそ必要であるというのに、ルージュも香水もつけず、髪は帽子で押さえ込んでいるから良いものの、ここ数日間の忙しさのせいか寝癖がついたままになっている。どういうわけか、今まで余所余所しかった彼女が、今では愛想笑いもなにも浮かべない、無表情を保つようになっていた。
「副長、君がもし艦長の様な人物なら、私はここに君を呼ぶこともなかったのだ。まあ、やっと陸に上がれたのだ。スコッチでも飲もう。私の奢りだ。お前たちも飲め」
「ええ、そうでしょうね。砲術長が艦長の様な人物なら、私はここには来なかったでしょう」
引き攣った笑みを浮かべながらマクミラン少佐はボラン少佐に言った。自分で言ったからにはとここまで着いてきたが、先任であるからにはそれ相応の面子を保たなければならない。とはいえ、マクミラン少佐がここ数年同じ艦で過ごし、ボラン少佐が出世できるような人物だとは思えなかった。このような振る舞いは彼女の評価に傷をつけるばかりだったが、そんなことでこの頑固な大砲屋が性格を変えるわけがない。
「……ま、良いでしょう。皆、海軍将校たる者、酔いに酔われてはいけません。アルコールの摂取は自重するように」
「各自、適量のアルコールを摂取せよ。自由な議論に酒は付き物だ。――航空機と戦艦、どちらが未来を制するか、終わらない議論をしよう」
不敵な笑みを浮かべながら、ボラン少佐は怯える士官候補生たちを引き連れてパブの中へと威風堂々と行進していった。
その背中を見つめ、この先どんなことが起こるのかと想像し、マクミラン少佐は溜息を吐き、いつまでもぼうっとしていたシルビア少佐を引き連れ、ボラン少佐の後を追った。