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犯人は猿で凶器は虹鱒。

作者: 一柳 紘哉

同じ映画を何回も見るのは雪が降ったらとりあえず雪だるまを作るのに似ている気がする。

絶望したくないんだね。

話を始めよう。

僕は家に帰る途中だった。

久しぶりに(といっても先月も借りたのだが)羊たちの沈黙とアダルトビデオ二本をレンタルビデオショップで借りた帰り道にあいつを久しぶりに見た。

あいつは地面に座りどこか気の抜けた顔をしていた。

どうしたんだろう?なんて考えなかった。

だって僕にはあいつが元気がなかろうが関係ない。久しぶりだし話がしたいなと思って、声をかけようとあいつの近くに走っていった。

あいつは僕に気がついて、ぎこちない笑顔を僕に向けてくれた。


「よう。久しぶり」


と、僕は声をかけた。

失敗だとすぐに気がついた。

あいつの尻尾がクルクルと釣り針のような形になっていた。こんな時のあいつは何するかわかったもんじゃない。以前こんな形の尻尾になっていた時にはコンビニの定員を刺したり万引きしたりピンポンダッシュをしたりとまあかなり常識はずれなことを耳に不快感が残る叫び声を狂ったようにわめき散らしながらやった。

それ以降、

「あいつが釣り針のような形の尻尾になったらどこかに閉じ込めましょう。」

という決まりができた。この町に住んでたら誰でも知っていることだ。

僕は急いで辺りを見回し、どこかに閉じ込めれないか探したが役にたたないものしか見当たらない。この町には何もない。見当たらないじゃないか。

どうする?確か僕の家の隣に住んでたやつは一目散に逃げて何とかなったって言っていた。

僕も逃げようと足に力を込めた。


「おいおいどうしたんだよもしかして僕から逃げるきかい?

僕の尻尾がこんなだから君まで逃げるのかい?

やめてくれよ!!僕はいたってまともさ!!

…ねえお願いがあるんだけど聞いてくれないかな?」


あいつの手がゆっくり僕のほうに伸びてくる。ただ単純な恐怖が僕に雨のようにに降り注ぐ。

僕はすぐにでも走り出せるように足に力を込める。

体をねじって方向を変えたら、あいつは信じられないくらいの力を込めて僕の足をつかんだ。

痛い。

痛さで僕の顔が豚の顔のようになっていくのがわかる。醜い。


「痛っはなせよ!!

 君も知ってるだろ?

君の尻尾が釣り針のような形になった時は何も言わないようにして、何も聞かないことにして、何も見なかった事にして問答無用に閉じ込めるように決まってるんだから」


あいつの口の両端が持ち上がっていき、僕を馬鹿にするように変化する。


「ハハハ!!でも君は優しいね。もう僕と会話しちゃってるもん

対外の人は本当に何も言わずに目をそむけて僕の悲痛な叫びを無視するのに

君は会話をしちゃってる。

そんなのあいつ以来だよ。

しがいないコンビニの定員以来だよ。

うれしいねえ」


「わかった。

わかったからとりあえずこの足を離してくれ!!」


あいつは僕を馬鹿にした顔のまま本当にゆっくり足から手を放した。

つかまれていた部分はあいつの手の形に青くなっていて、もう逃げられない。逃げても追いかけていき捕まえられると僕に語っていた。

僕は諦めたけど、なんていうのかな精神的に優位に立ちたくて声を強めて彼に尋ねる。


「お前のお願いって何なんだよ!!」


「簡単なことだよ。

バナナ持ってたら僕にくれないかな?

とりあえず落ち着きたいからさ」


「何だそんな事か!!そんな事で僕を引き止めたのかい?

でも悪いけど持ってない。

でも煙草ならあるからそれでもいいならあげるけど…」


我慢するよ。とあいつはお言った。

あいつは本当に我慢してそう言ったんだとと思う。

だってあいつは煙草のことが嫌いだから。

僕はポケッツから煙草を二本取り出して一本をあいつに渡し火をつけた。

もう一本の煙草は、もちろん僕の口に持っていき火をつけた。

ため息に煙を混じらせて吐き出したら幾分かは落ち着いた。

あいつは吸いずらそうに煙草を口にくわえたまま立ち上がり、ガードレールの後ろから虹鱒を持ってきた。


「ふーありがとう

お礼にこの虹鱒あげるよ。

たぶん鍋にしたら美味しいと思うよ」


僕は虹鱒を受け取り。あいつに尋ねる。


「どうしたのこの虹鱒?

なんか血がいっぱいこびりついてんだけど」


「洗えば取れるから気にするなよ。

それじゃあ煙草ありがとう僕はもう行くね」


さようなら。そう言って彼は行ってしまった。

何か腑に落ちない事がいっぱいありすぎて何がなんだかわからなかったけど、これで開放されたという気持ちでいっぱいになってた。

僕は家に着き、とりあえず虹鱒を水道水で洗って冷凍庫にしまった。

そして、借りてきたビデオを一通り見たあと早めに寝た。

次の日の朝、テレビを見たら熊が川で撲殺されていたとゆうニュースが流れていた。

犯人は多分あいつだ。それは皆も、もちろんすました顔でこのニュースを読んでるニュースキャスターもきずいているはずだ。

最後にニュースキャスターはハンニンノアシドリハイマダニツカメテオリマセンと言った。

鳥肌が立った。この町は腐ってる。誰もがそう思っている。そう誰もがそう思ってるんだ。

でも僕らにはこの町しか受け入れてくれるところがない。

現状で満足するしかないこの世界が気持ちが悪い。

ほかの皆は現状で満足しているのだろうか?皆に尋ねてみたい。

けど僕はもうこの町に住む事には限界だった。

だから僕は、冷凍庫で凍ってる虹鱒を担いで警察に行き


ボクガ、クマヲ、コロシマシタ。キョウキハ、コノ、ニジマスデス。


と言って自首した。警察はろくに事情も聞かずに逮捕してくれた。

刑務所はこの町には無い。海の向こうにあるって聞いたことがある。

そうして僕はこの町から脱出した。


でも、この町にすら限界を感じた僕は後で知ることになる。


限界なんてこんなもんじゃない。こんなんじゃない。


ってね。




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― 新着の感想 ―
[一言] えええええ!っと思いました。なんですかこの話!単純にすごいです!個人的には町田康と村上春樹のTVピープルを思い出しました。表現の仕方もユニークだし、一見型破りに見えて、そうでもない。才能が羨…
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