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五十五
これに頷いている吟味方を見て、安堵する同心だったが――そこに
「なあ、菊やん? 四番目が抜けてるんちゃう?」
「四番目? ああ、行燈のことですね?」
「んだんだ。で、どう思うん?」
「実際に火をつけたのは、まぎれもないことかと。珠代さんも間近で見てますし」
「そやな。で?」
「最初に火打石を鳴らし、火口に火をつけ、それを付け木にて行燈に移し、そして灯した……ごく普通のやり方なんですが」
「そら、誰しもそうするわな」
※火口;火打石にて発火させた火を移す先の物で、炭やら乾燥させた植物やらに火薬を混ぜたもの
※付け木;上記の火を燃え上がらせるための、マッチの軸をデカくしたみたいなもの