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二十九

 その頃、番屋内のお取り調べ部屋では――


「案外しぶといのねえ、おたくって」


「お役人様。そのように言われましても、身に覚えなきことですから」


「誰でもそう言うわよ、誰でも」

と吐きながら、その華奢な体を寄せてきた菖蒲殿


「でもね、泰さん」


「た、泰山ですよ、気色の悪い」


「フン、どっちでもいいでしょが。それよりね、賊の指先からおたくの匂いがしてきたってよ」


 意外な言葉に、大きく目を開いた男


「わ、私の匂いですと?」



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