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三十

 衣と住は許せても、その間の食だけは絶対に譲れない女。

 早速仲居に向かって


「あのう、すみませぬが……」


「何ですかい? 忙しいのに」


「山里の味を満喫しようと、遠路はるばる参ったのですが……」


 これに近寄ってきた女、新香を指さし


「ほれ、この沢庵。ここで取れた大根でこしらえてるんだよ」


「ああ、ああ、左様でしたか……」

 そう頷きながら、いきなり相手の胸倉をつかんだ、すでに鬼


「われ、満喫っちゅう言葉知らんようやな?」


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