第八話 魔剣
魔剣は男子の憧れ
初日の騒動から数日。アレンは放課後の訓練場に呼び出されていた。
待っていたのは、シルヴィア・フォン・ベルシュタイン。彼女の傍らには、いかにも「高価なオブジェクト」といったオーラを放つ、一振りの剣が置かれていた。
「……アレン。私は、どうしても納得できないわ。あなたが魔法を使わず、理屈の通じない力で学園をかき乱していることが」
「理屈なら通ってるだろ。ただ、君たちの持ってるマニュアルが古いだけだ」
「いいえ! 魔法とは研鑽、剣とは魂! それを見せてあげる。これは、ベルシュタイン公爵家に代々伝わる国宝級の魔剣『レヴァナント』よ。あらゆる防御魔法を無効化し、持ち主の魔力を百倍に増幅する。これこそが、完成された『仕様』よ!」
シルヴィアが剣を抜いた。その瞬間、訓練場の空気が凍りついた。
剣身から溢れ出す青い光が、空間を物理的に歪めている。アレンの視界には、その剣のパラメータが浮かび上がった。
Item: Magic_Sword_Revenant
Atk: 9999
Special: Ignore_Defense, Mana_Boost_x100
Durability: 2500 / 2500
「へぇ、いいステータスだ。さすがは国宝。パラメータの数値設定が、他の一般装備とは桁が違うな」
「分かったなら、その不遜な態度を改めなさい! この剣の前では、あなたの奇策も――」
「でもさ、これ。耐久度の参照先、弄りやすい場所に置いてあるね」
アレンはシルヴィアが突っ込んでくるよりも早く、指先で空間をシュッとスワイプした。
[Item.Durability = 1 / 2500]
「えい」
「受けてみなさ――えっ?」
シルヴィアが剣を振り下ろした瞬間。
アレンが突き出した人差し指に、魔剣の刃が触れた。
その刹那、パリンッ! という、ガラス細工が粉々に砕け散るような、乾いた音が響いた。
国宝級の魔剣「レヴァナント」は、アレンの指に触れただけで、数千の破片となって四散した。青い光は霧散し、シルヴィアの手元には柄だけが残された。
「……あ。……え? えええええええ!?」
「耐久度の最小化。どんな名剣も、一回使えば壊れる仕様(不具合)に変更した。ごめん、指に力を入れすぎたかな」
「わ、私の家の……代々の宝が……お父様が……死ぬ、私はお父様に殺されるわぁぁ!!」
シルヴィアはその場に崩れ落ち、砕け散った破片をかき集めて泣き叫んだ。
アレンは耳を塞ぎ、困ったように眉を下げた。
「おいおい、泣くなよ。公爵令嬢だろ。……仕様がねぇな。これだから、物理破壊系のバグは後味が悪いんだ。ほら、どいて。直してやるから」
「直す……? 何を言ってるの、粉々よ!? 元に戻るはずが――」
「壊れたなら、壊れる前のデータを読み直せばいいだけだ。時間は巻き戻せないけど、オブジェクトの状態は『ロールバック』できる」
アレンは散らばった破片に手をかざした。
彼の脳内で、数秒前のメモリデータが検索される。
[Target: Item_ID_001. State_Restore: Timestamp_T-10s]
シュゥゥゥン……という逆再生のような音と共に、四散していた破片が空中に舞い上がり、吸い込まれるようにシルヴィアの持つ柄へと結合していった。
数秒後、そこには傷一つない、完璧な状態の魔剣「レヴァナント」が握られていた。
「……なおった。……うそ。完全に、元通りに……」
「データの復元完了。これでもう泣くなよ。あと、次はもっと耐久度の高い剣を持ってきな。あ、そもそも俺に物理攻撃は当たらないんだけどね」
シルヴィアは、自分の手の中の剣と、欠伸をしながら去っていくアレンの背中を、交互に何度も見つめた。
彼女の中で、アレンへの敵対心は、底知れぬ恐怖と、それを上回るほどの「理解不能な存在への好奇心」に塗り替えられていった。
「……あなた、なんなの。神なの? それとも、この世界そのものを書き換えるバグ(不具合)なの……?」
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