第七話 ソースコード
おもしろすぎるううううう
学院の初講義。アレンは「魔法理論基礎」の教室にいた。
教壇に立つのは、バルカス教授。白髪交じりの厳格そうな老魔導師で、この学院でも屈指の知識人として知られている。
彼は黒板に複雑な魔法陣の数式を書き込みながら、朗々と語り始めた。
「諸君、魔法とは『祈り』であり、世界との『対話』である。魔力を練り、詠唱を行うことで、我々は自然界の理に干渉する。だが忘れるな。魔力とは有限の資源だ。一滴の魔力を絞り出すために、魔導師は精神を研ぎ澄まさねばならぬ……」
周囲の学生たちが必死にメモを取る中、アレンは机に頬杖をつき、欠伸を噛み殺していた。
彼の視界には、バルカスが書き込んでいる魔法陣が、ひどく非効率な「無駄の多いソースコード」にしか見えなかった。
(あー……。その魔法陣、三行目の変数指定が冗長だな。そこを短縮して、ループ処理を最適化すれば、消費魔力は十分の一で済むのに。っていうか、そもそも詠唱なんて、ただの『コメント行』だろこれ)
アレンのデバッカーとしての本能が、我慢できずに疼き出した。
彼はスッと手を挙げた。
「はい、質問」
「なんだね、アレン君。特待生の君が、早速私の講義に興味を持ってくれたのは喜ばしいが」
「先生の話、根本的に間違ってますよ。魔力は有限なんかじゃない。ただの『管理不足によるメモリリーク』です」
教室中が凍り付いた。
バルカス教授は眼鏡を押し上げ、不快そうに目を細める。
「……メモリリーク? 何の話だね。魔力とは生命エネルギーであり、使えば減るのは世界の摂理だ」
「いや、違います。この世界の物理演算エンジン……あー、いや『魔導の理』ですね。それは、魔法を放った後に残る『魔力の残滓』を回収して再利用するプロセスがバグってるんです。だから使えば減るように見えるだけ。ほら、見ててください。今、この教室の魔力消費係数をゼロに書き換えます」
アレンは空中に指を走らせた。
[Global_Variable: MP_Consumption_Rate = 0.0]
彼がエンターキー(を模した空間)を叩いた瞬間、教室内の空気が一変した。目に見える変化はない。だが、魔導感応力のあるシルヴィアやリーゼロッテは、肌にピリピリとした違和感を感じた。
「先生、火の粉の魔法を撃ってみてください。いつも通りに」
「……ふん、いいだろう。私の理論が正しいことを証明してやろう」
バルカス教授が指先に小さな火を灯した。本来なら数秒で消える、灯火の魔法だ。
だが、その火は消えなかった。それどころか、バルカスの指先から魔力が一滴も減っていない。彼は驚愕して自分の手を見つめた。
「な……!? 魔力が……減っておらん? 魔法を維持しているのに、精神の疲弊が全くないだと!? それどころか、周囲から魔力が勝手に補充されている……!」
「無限MPモードです。先生、魔力は『有限の資源』じゃなくて、『循環させるべきデータ』なんですよ。無駄な詠唱を省いて、消費コストをゼロに固定すれば、誰でも神レベルの魔法を連打できます。あ、ついでにそこのクラスメイト、試しに何か撃ってみてよ」
言われた通り、一人の生徒が戸惑いながらも、小さな雷撃を放った。
バリバリッ! という轟音と共に、教室の壁に巨大な焦げ跡が作られる。だが、その生徒もまた、一向に疲れた様子がない。
「す、すごい! いくら撃っても魔力が湧いてくる!」
「うおー! 俺でも大魔法が連発できるぞ!」
教室中が魔法の乱射場と化した。火柱が上がり、氷の矢が飛び交い、風の刃が机を切り裂く。誰もが「無限の力」に酔いしれ、パニックに近い狂騒が巻き起こった。
「やめろ! やめるんだ諸君! これでは物理演算が……いや、学院が崩壊してしまう!」
バルカス教授が絶叫するが、一度「全開放」を味わった学生たちは止まらない。
アレンは満足げに頷きながら、ノートにペンを走らせた。
「よし、魔力消費フラグのグローバル書き換え成功。これで今後の実習も楽になるな。……あ、でもやりすぎるとサーバーが重くなるから、後で範囲制限かけておこう」
この日、「魔法理論」の講義は、学院史上初となる「教室の半壊」により中止となった。
そしてアレン・ロードライトの名は、「世界の理を嘲笑う狂気の天才」として、学院中に広まることになった。シルヴィアは頭を抱えて座り込み、「もう……私の知ってる魔法学が、音を立てて崩れていくわ……」と呟くことしかできなかった。
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